• 著者: Rina Kim, Ayumi Hashimoto, Nune Markosyan, Vladimir A. Tyurin, Yulia Y. Tyurina, Dmitry I. Gabrilovich 他
  • Corresponding author: Dmitry I. Gabrilovich (Early Oncology R&D, AstraZeneca, Gaithersburg, MD, USA)
  • 雑誌: Nature
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2022-11-16
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 36385526

背景

多形核骨髄由来抑制細胞 (PMN-MDSC) は、腫瘍微小環境 (TME) において強力な免疫抑制機能を発揮し、がん患者の予後不良や免疫療法への抵抗性と密接に関連することが知られている。腫瘍内に存在するPMN-MDSCは、骨髄 (BM) や脾臓のPMN-MDSCと比較して、その免疫抑制活性が著しく高いことが報告されているが、この活性増強の分子基盤はこれまで未解明であった。フェロプトーシスは、鉄依存的な脂質過酸化によって引き起こされる、アポトーシスとは異なる細胞死の形態である。このプロセスは、グルタチオンペルオキシダーゼ4 (GPX4) /グルタチオン (GSH) 系の機能不全、アシルCoAシンテターゼ長鎖ファミリーメンバー4 (ACSL4) による多価不飽和脂肪酸 (PUFA) リン脂質のエステル化、そしてリポキシゲナーゼ (ALOX) によるフェロプトーシス関連脂質シグナル (FALIS) の蓄積によって駆動される。

これまでの研究では、RSL3やIKEといったフェロプトーシス誘導薬が免疫不全マウスの腫瘍モデルにおいて抗腫瘍効果を示すことが示されていたが (Dierge et al. 2021 Cell Metab., Zou et al. 2020 Nature)、免疫能が正常なマウスにおけるその効果は不明瞭であった。ヒト大腸がん肝転移由来PMN-MDSCの単細胞RNAシーケンス (scRNA-seq) 解析では、フェロプトーシス経路関連遺伝子の発現が濃縮されていることが示され、PMN-MDSCがフェロプトーシスを起こしやすい細胞である可能性が示唆されていた (Zhang et al. 2020 Cancer Lett.)。また、脂肪酸輸送タンパク質2 (FATP2) がPMN-MDSCにおいてアラキドン酸 (AA) の取り込みを促進することは、先行研究である Veglia et al. Nature 2019 で報告されていたが、AA-PEとしての酸化リン脂質形成との具体的な関連性は未解明なまま残されていた。これらの背景から、腫瘍PMN-MDSCにおけるフェロプトーシスの役割と、それが免疫抑制にどのように寄与するのかという知識ギャップが存在しており、その分子メカニズムの解明が不足していた。

目的

本研究の目的は、腫瘍微小環境に存在するPMN-MDSCが自発的にフェロプトーシスを起こすかどうかを検証することである。さらに、フェロプトーシスがPMN-MDSCの免疫抑制能を誘導する分子メカニズム、特にFATP2-ALOX12/15-AA-PEox軸とプロスタグランジンE2 (PGE2) の役割を詳細に解明することを目指した。最終的に、フェロプトーシス阻害薬の抗腫瘍効果を評価し、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) との併用による相乗効果を検証することで、新たな治療戦略の可能性を探ることを目的とした。

結果

腫瘍PMN-MDSCにおける自発的フェロプトーシス活性化: 腫瘍PMN-MDSCは、骨髄 (BM) および脾臓由来PMN-MDSCと比較して、AA-PEox (PE-36:4-OOH、PE-36:4-OH-OOH) の著明な蓄積を示した (EL-4モデル n=5 mice、LLCモデル n=4 mice、CT26モデル n=5 mice; ANOVA、p < 0.0001)。オキシリピドミクス解析により、腫瘍PMN-MDSCではフェロプトーシスシグナルであるPE(36:4)-2[O]およびPE(36:4)-3[O]が支配的に検出され、ネクロプトーシスシグナル (PC(40:4)-2[O]) やアポトーシスシグナル (CL(72:9)-1[O]) の上昇は認められなかった (Fig 1d)。フェロプトーシスマーカーであるCD71 (トランスフェリン受容体) は、腫瘍PMN-MDSCで脾臓PMN-MDSCよりも有意に高発現していた。RSL3処理に対する感受性も腫瘍PMN-MDSCが最も高く (16時間生存率、EL-4モデル n=7 replicates、LLCモデル n=5 replicates、CT26モデル n=3 replicates)、腫瘍PMN-MDSCが自発的にフェロプトーシス経路に傾斜していることが確認された (Fig 1b)。フェロプトーシス阻害薬であるFerrostatin-1のみが腫瘍PMN-MDSCの生存を改善し、ネクロプトーシス/アポトーシス阻害薬には効果がなかった (n=3-4 replicates)。

ALOX12/15、FATP2、MPOがフェロプトーシス依存的免疫抑制を担う: Alox12/15欠損 (Alox12/15 fl cre+) PMN-MDSCの培養上清は、RSL3誘導後のT細胞増殖抑制活性を著明に消失させた (EL-4モデル n=4 mice、LLCモデル n=6 mice; unpaired t-test、p < 0.0001) (Fig 2f, g)。ACSL4欠損 (Acsl4 fl cre+) でも腫瘍PMN-MDSC由来上清の免疫抑制活性が低下した。FATP2欠損 (Slc27a2 fl cre+) PMN-MDSCではAA-PEoxが有意に減少し (n=3 mice、p < 0.0001)、PGE2産生も減少したが、遊離AAの量に変化はなかった (Fig 3e, f)。RSL3誘導下でFATP2欠損PMN-MDSCではPEox種の蓄積が消失した (n=4 replicates) (Fig 3g)。MPO欠損では腫瘍PMN-MDSC内のAA含有PE・LPE種とPGE2形が減少し、MPOもフェロプトーシス関連酸化リン脂質生成に寄与することが示された。ALOX12/15欠損PMN-MDSCのRNA-seq解析では、PMN-MDSC特異的抑制遺伝子193遺伝子 (FDR < 5%、5倍以上) の発現パターンがリバースされ、補体活性化、好中球免疫、抗原提示関連遺伝子が上昇した (Extended Data Fig. 5a, b)。

PGE2と酸化AA-PEが独立した二重免疫抑制機構を提供: Alox12/15 fl cre+またはAcsl4 fl cre+ PMN-MDSCでは、腫瘍由来PGE2が有意に減少した (n=3 replicates、p < 0.0001) (Fig 3a)。COX-1/2阻害薬 (ケトロラク+ロフェコキシブ 20 nM) の添加は、フェロプトーシス誘導T細胞抑制を著明に軽減したが、完全には消失させなかった (n=3 replicates) (Fig 3c)。EP2/EP4ブロッカー (ONO-AE3-208/PF-04418948 各100 nM) も同様に部分的な軽減にとどまった (Fig 3d)。合成酸化PE (1-stearoyl-2-15(S)-HpETE-sn-glycero-3-PE 5 µM) はマウスT細胞増殖を有意に抑制し、非酸化PEには効果がなかった。10 µMの酸化PEはヒトT細胞増殖も抑制した (Fig 3h)。RSL3処置BM PMNからの脂質抽出物も10 µMでPMEL splenocyteを有意に抑制した (n=3 replicates、p < 0.0001) (Fig 3i)。これらの結果から、PGE2と酸化AA-PEが独立した免疫抑制経路を構成することが示された。

Liproxstatin-1が腫瘍増殖を抑制し抗PD-1と相乗効果: 腫瘍辺縁期からの14日間投与により、LLC (n=6 mice) およびCT26 (n=10 mice) の腫瘍増殖が有意に抑制された (二元配置ANOVA、p < 0.0001) (Fig 4a)。Rag2-/-Il2rg-/-二重KO CT26マウスではLiproxstatin-1の効果が消失し、免疫系依存性が証明された (n=10 mice/群) (Fig 4b)。KPCモデル (n=10 mice/群) において、Liproxstatin-1と抗PD-1抗体の併用療法により、腫瘍の50%が完全拒絶された (Fisher’s exact test、p = 0.0325)。腫瘍体積が200%を超える急速増悪は、Liproxstatin-1+抗PD-1群で1/10匹のみに観察され、コントロール群の8/10匹と比較して顕著に少なかった (p = 0.006) (Fig 4e)。Ly6G抗体とLiproxstatin-1の併用は単独治療と比較して追加効果を示さず、PMN-MDSCがLiproxstatin-1の主要標的であることを示唆した。逆に、IKE (10 mg/kg) 投与はCT26腫瘍増殖をわずかに促進し (n=9 mice)、抗PD-1の効果を拮抗した (Fig 4d)。

ヒトがんでのフェロプトーシス遺伝子シグネチャーと予後: 膵臓腺癌 (PAAD、TCGA、n=177 patients) において、PMN-MDSCシグネチャーとフェロプトーシスシグネチャーに正の相関が認められた (Spearman相関) (Fig 4f)。フェロプトーシス遺伝子発現上位1/3の患者は、下位1/3と比較して全生存率が有意に低下した (ログランク検定) (Fig 4g)。肺腺癌 (LUAD、Tempusデータセット、n=689 patients) でも同様の相関と予後不良が確認された (Fig 4h, i)。免疫療法 (atezolizumab、durvalumab、nivolumab、pembrolizumab) を受けた患者サブセットでは、フェロプトーシスシグネチャーと生存との逆相関がより強く示された (Fig 4j)。腎細胞癌、ぶどう膜メラノーマ、胸腺腫、低悪性度神経膠腫でも同様の関連がTCGAデータで確認された。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、腫瘍PMN-MDSCが自発的にフェロプトーシスを起こし、これが免疫抑制活性獲得の主要メカニズムであるという逆説的な発見を提示した点で、これまでの知見と大きく異なる。これまでフェロプトーシスは「腫瘍細胞を死滅させる抗がん的細胞死」として注目されてきたが (Viswanathan et al. 2017 Nature, Hangauer et al. 2017 Nature)、PMN-MDSCでは免疫系細胞の機能変容を介してがんを促進するという真逆の役割を示した。

新規性: 本研究で初めて、先行研究である Veglia et al. Nature 2019 が示したFATP2によるAA取り込みとPGE2産生経路に加えて、AA-PEの酸化産物 (AA-PEox) がPGE2とは独立してT細胞を直接抑制するという新しい二重免疫抑制機構を新規に解明した。FATP2→ALOX12/15→AA-PEox→T細胞抑制という経路は、脂質代謝、酸化ストレス、免疫抑制を統合する新規回路であり、フェロプトーシス阻害が免疫活性化を誘導することの分子的説明を提供する。

臨床応用: 臨床的観点から最も重要な知見は、KPCモデル (抗PD-1耐性の膵癌) でLiproxstatin-1と抗PD-1の組み合わせが50%完全拒絶を誘導したことである。膵癌は免疫療法が最も効きにくいがん腫の一つであり、このデータは難治性がんへのフェロプトーシス阻害薬応用という新たな治療戦略の臨床応用の可能性を示す。一方で、IKE投与が免疫能正常マウスで腫瘍増殖を促進し、抗PD-1効果を拮抗したことは、がん患者へのフェロプトーシス誘導療法の安易な適用に警鐘を鳴らす。フェロプトーシスはCD8+ T細胞においても腫瘍促進的細胞死として機能することが最近示されており (Ma et al. 2021 Cell Metab.)、TME内の細胞種特異的フェロプトーシス制御の重要性が改めて確認される。

残された課題: 今後の検討課題としては、(1) Liproxstatin-1の臨床開発 (用量、投与期間、製剤化)、(2) 腫瘍PMN-MDSCでのフェロプトーシス誘導の上流トリガー (腫瘍由来因子、低酸素によるGPX4下方制御機序) の同定、(3) フェロプトーシス阻害薬と他の免疫療法 (CTLA-4抗体、LAG-3抗体等) との組み合わせ戦略の検討、(4) 肺癌、乳癌等の他のがん腫でのPMN-MDSCフェロプトーシス軸の検証、(5) ヒト臨床検体でのフェロプトーシスマーカーと免疫療法応答の前向き相関検討が挙げられる。

方法

本研究では、EL-4リンパ腫、CT26大腸癌、Lewis肺癌 (LLC)、およびKrasG12D Trp53R172H Pdx1-cre (KPC) 膵癌トランスジェニックマウスモデルを用いた。フェロプトーシスマーカーであるAA-PEox、CD71、およびPEoxオキシリピドミクスを質量分析法 (MSおよびLC-MS) で定量し、骨髄 (BM)、脾臓、腫瘍由来PMN-MDSC間で比較した。遺伝的ノックアウトモデルとして、PMN/単球特異的ALOX12/15欠損マウス (Alox12/15 fl S100A8-cre)、FATP2欠損マウス (Slc27a2 fl cre)、ACSL4欠損マウス (Acsl4 fl S100A8cre)、およびMPO欠損マウス (Mpo KO) を使用した。

T細胞増殖抑制アッセイ (PMEL CD8+ T細胞と抗原ペプチド刺激系) を用いて、PMN-MDSCの免疫抑制活性を定量的に評価した。フェロプトーシス阻害薬であるLiproxstatin-1 (15 mg/kgを14日間腹腔内投与) の腫瘍増殖への影響をLLC、CT26、KPCモデルで評価した。治療効果の免疫系依存性を確認するため、Rag2-/-Il2rg-/-二重KOマウスを用いた実験も実施した。Liproxstatin-1と抗PD-1抗体との併用効果はKPCモデルで検証され (n=10 mice/群)、腫瘍体積の変化を主要評価項目とした。また、フェロプトーシス誘導薬であるIKE (10 mg/kg) の腫瘍増殖および免疫療法への影響も評価した。

ヒト臨床データ解析として、膵臓腺癌 (PAAD、TCGAデータセット、n=177 patients) および肺腺癌 (LUAD、Tempusデータセット、n=689 patients) 患者におけるフェロプトーシス遺伝子シグネチャーと全生存率の相関を解析した。さらに、ヒト頭頸部がんおよび子宮がん患者由来の腫瘍PMN-MDSCを用いて、Liproxstatin-1が免疫抑制活性に与える影響をin vitroで検証した。統計解析には、GraphPad Prism (v.8.3.1) を用い、2群比較にはStudent’s t検定、多群比較には一元配置ANOVAとTukeyのHSD多重比較検定、腫瘍増殖曲線には二元配置ANOVA、生存曲線にはログランク (Mantel-Cox) 検定を適用した。RNA-seqデータ解析には、Bowtie2 (Langmead et al. NatMethods 2012)、RSEM (Li et al. BMCBioinformatics 2011)、DESeq2 (Love et al. GenomeBiol 2014) を使用し、scRNA-seqデータ解析にはScanpy (Wolf et al. GenomeBiol 2018) およびSeurat (Hao et al. Cell 2021) を用いた。