• 著者: Filippo Veglia, Ewelina Tyurina, Ornella Sorokina, Dmitry I. Gabrilovich
  • Corresponding author: Dmitry I. Gabrilovich (Immunology, Microenvironment and Metastasis Program, The Wistar Institute, Philadelphia, PA, USA)
  • 雑誌: Nature
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-04-17
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30996346

背景

多形核骨髄由来抑制細胞 (PMN-MDSC) は、腫瘍微小環境において病的に活性化された好中球であり、T細胞免疫抑制を介して腫瘍進展・転移を促進し、免疫チェックポイント阻害薬への耐性に寄与することが報告されている Zhou et al. Semin. Immunol. 2018。PMN-MDSCは通常の循環好中球 (PMN) と同じ起源を持つが、遺伝子発現プロファイルおよび生化学的特徴が大きく異なり、選択的な分子標的が未解明であった Veglia et al. Nat. Immunol. 2018。脂質代謝が免疫細胞機能の調節に重要であることは樹状細胞やマクロファージで示されており Moore et al. Nat. Rev. Immunol. 2013、PMN-MDSCにおいても脂質蓄積が観察されていたが Al-Khami et al. OncoImmunology 2017、好中球の免疫抑制活性を規定する特定の脂質輸送経路は同定されていなかった。脂肪酸輸送タンパク (FATP) ファミリーはFATP1〜FATP6の6種が知られており、長鎖脂肪酸の輸送とアシル-CoA合成酵素活性を担うが、免疫細胞における役割は未解明であった。特に、PMN-MDSCの病的活性化を制御するメカニズムは十分に定義されておらず、これらの細胞を選択的に標的とすることを制限する知識のギャップが残されていた。本研究は、この知識の不足を埋めることを目的とした。

目的

PMN-MDSCの免疫抑制活性を規定する特異的脂肪酸輸送分子を同定し、その発現調節機構と機能的メカニズムを解明すること。さらに、選択的薬理阻害による治療可能性を前臨床モデルで検証し、がん治療における新たな標的を確立すること。

結果

FATP2 (SLC27A2) はPMN-MDSCに特異的に発現: EL4腫瘍担がんマウスの脾臓PMN-MDSCにおいて、遺伝子発現アレイ解析でSlc27a2が正常PMNと比較して最も顕著に上昇していた。qPCR・ウェスタンブロットで発現増強を確認した (Fig. 1a)。同じ腫瘍担がんマウスのM-MDSC (CD11b+Ly6ChighLy6G-) ではSlc27a2がほぼ検出されず (Fig. 1b)、樹状細胞・脾臓マクロファージ・腫瘍関連マクロファージ (TAM) でも検出限界以下、CD8+ T細胞は非常に低発現であった (Fig. 1c)。EL4・LLC・CT26・KPC各モデルのPMN-MDSCで同様の脂質蓄積増加が確認され、腫瘍explant上清はin vitroでの骨髄造血前駆細胞 (HPC) 由来PMNへの脂質蓄積を誘導した。CD204 (スカベンジャー受容体) 欠損 (Msr1-/-) マウスでは樹状細胞の脂質蓄積が阻害されたが、PMN-MDSCの脂質蓄積は影響を受けなかった。脂質蓄積はFATP4欠損 (Slc27a4-/-) では変化しなかった。

Slc27a2-/-マウスで腫瘍増殖が顕著に抑制 — CD8+ T細胞依存性: Slc27a2-/-マウス (n=4〜5 mice) ではLLC腫瘍およびEL4腫瘍の増殖が野生型と比較して著明に抑制された (Fig. 1d)。Slc27a2-/-骨髄キメラ再構築マウスでも同様に腫瘍増殖が抑制され (n=4〜5 mice、p<0.001、Fig. 1e)、抑制が造血系細胞由来であることが確認された。LLC・EL4腫瘍担がんSlc27a2-/-マウスにCD8+ T細胞除去抗体を投与すると腫瘍増殖抑制効果が完全に消失した (n=4〜5 mice、Fig. 1f)。PMN特異的コンディショナルKO (Slc27a2fl/fl × S100a8-Cre) マウス (n=4 mice) でもLLC腫瘍が野生型より著明に遅く増殖し (Fig. 1g)、FATP2の効果がPMN限定であることが証明された。FATP2欠損によるCD8+ T細胞の機能変化はなかった。SV129背景のSlc27a2-/-マウスではF244肉腫が自然消退した。FATP4欠損 (Slc27a4-/-) マウスでは腫瘍増殖に差がなく、FATP4は寄与しなかった。

FATP2欠損PMN-MDSCはT細胞抑制能を喪失: 脾臓・腫瘍からのPMN-MDSCをin vitroでOT-1・PMEL TCRトランスジェニックマウス脾細胞と共培養し [3H]チミジン取り込みで増殖を測定すると、Slc27a2-/-PMN-MDSCは野生型PMN-MDSCと比較してT細胞増殖抑制能を大幅に喪失した (4実験で再現、Fig. 1h)。M-MDSCおよびTAMの免疫抑制活性はFATP2欠損の影響を受けなかった。

FATP2はアラキドン酸 (AA) 取り込みとPGE2合成を制御: LC-MSリピドミクスでSlc27a2-/-PMN-MDSCは野生型に比べAA含有トリグリセリド (TG20:4) が選択的に減少し (Fig. 2a、n=6〜7 samples)、遊離アラキドン酸が減少した (Fig. 2b、n=11〜12 samples)。AA含有フォスファチジルエタノールアミン・フォスファチジルコリンの多数の分子種も著明に減少した (Fig. 2c、n=10〜12 samples)。コレステロールエステル・総フォスファチジルコリン量は変化しなかった。AA-d11安定同位体トレーサー実験では、Slc27a2-/-PMN-MDSCでd11標識AA (AA-d11) の取り込みとd11-PGE2産生が有意に低下し (n=5 samples、p<0.001、Fig. 2d)、FATP2依存的なAA取り込みが証明された。AA-d11含有フォスファチジルエタノールアミン・フォスファチジルコリンも有意に減少した (n=4〜5 samples、Fig. 2e)。アンラベルのPGE2もSlc27a2-/-PMN-MDSCで著明に低下した (n=11〜12 samples、p<0.001、Fig. 2f)。FATP2欠損PMN-MDSCでPtgs2 (COX2) およびPtgesの発現が低下し、Arg1・Nos2の発現変動は認めなかった。FATP2過剰発現HPCから分化したGFP+Ly6G+細胞はGFP-細胞に比べPGE2産生が約2.5倍増加した (n=4 replicates、Fig. 2g, h)。HPCをGM-CSF + アラキドン酸 (10 μM) で培養するとPMN-MDSCが増殖しT細胞を抑制したが (Fig. 2i)、Ptgs2-/- HPCではアラキドン酸存在下でもPGE2産生が低下し (n=4 replicates、p<0.001、Fig. 2k)、T細胞抑制能も失われた (Fig. 2l)。FATP2欠損はPMN-MDSCの酸化的リン酸化・解糖・脂肪酸酸化に影響を与えなかった。

GM-CSF→pSTAT5→FATP2という発現調節経路: 腫瘍非担がんマウス骨髄PMNをGM-CSFで刺激すると、STAT5リン酸化とともにFATP2発現が用量依存的に誘導された (Fig. 3a)。ChIP実験でリン酸化STAT5がSlc27a2プロモーターに直接結合することが確認された (Fig. 3b)。STAT5欠損 (Stat5fl/fl × S100a8-Cre) PMNではGM-CSF刺激後もFATP2発現が誘導されなかった (Fig. 3c)。PMN特異的STAT5欠損マウスでは腫瘍増殖が緩徐となり、SlC27a2発現低下が確認された。RNA-seq解析ではFATP2欠損PMN-MDSCで1,119遺伝子に有意な変化 (FDR <5%、2倍以上) があり、そのうち37遺伝子が5倍以上変化し、下方制御遺伝子が優勢で炎症性遺伝子のダウンレギュレーションが顕著であった。

ヒトPMN-MDSCでのSLC27A2高発現と脂質増加: がん患者PMN-MDSCは健常ドナーPMNに比べ脂質蓄積が増加し (頭頸部癌 n=11 patients・肺癌 n=6 patients・乳癌 n=5 patients vs 健常 n=9 donors、BODIPY MFIで定量、p<0.0001、Fig. 3d)、腫瘍浸潤PMN-MDSCは末梢血PMN-MDSCよりさらに高い脂質量を示した (n=4 NSCLC pairs、p<0.001、Fig. 3e)。患者PMN-MDSCではSLC27A2 mRNA (RT-qPCR、n=6 patients、p<0.01、Fig. 3f) およびFATP2タンパク (ウェスタンブロット、Fig. 3g) が健常ドナーに比べ高発現であった。LOX1+ PMN-MDSC (n=8 samples) はLOX1-PMNと比較してSLC27A2発現がさらに高く (p<0.001、Fig. 3h)、PTGESも高発現であった。LC-MSリピドミクスでがん患者PMN-MDSCは健常PMNに比べ総トリグリセリド (n=4 samples、p<0.01、Fig. 3i)・遊離AA・リノール酸・DHA (n=4 samples、p<0.01、Fig. 3j)・PGE2 (n=4 samples、p<0.001、Fig. 3k) が有意に増加していた。M-MDSCでも末梢血での脂質蓄積は増加したが、腫瘍内でのさらなる増加はなく、M-MDSCのSLC27A2は単球より低発現であった。

Lipofermataの抗腫瘍効果とチェックポイント阻害との相乗効果: 脂肪酸輸送タンパク2 (FATP2) 阻害薬Lipofermata (2 mg/kg BID 皮下投与) はin vitroでEL4・LLC腫瘍細胞の増殖に影響を与えなかった (直接の細胞毒性なし)。4腫瘍モデル (LLC・EL4・CT26・TC-1) いずれでも腫瘍増殖を有意に遅延させた (n=4〜5 mice、p<0.001、Fig. 4a)。NOD/SCIDマウスではこの効果が消失し (n=5 mice、Fig. 4b)、CD8+ T細胞除去でも効果が消失し (n=5 mice、Fig. 4c)、作用が免疫依存的・CD8+ T細胞依存的であることが確認された。TC-1モデルでLipofermata投与により所属リンパ節の抗原特異的CD8+ T細胞の割合と絶対数が増加した。抗CTLA4抗体単独またはLipofermata単独では腫瘍増殖を完全には阻止できなかったが、両者の組み合わせでは5匹中4匹 (80%) がLLC腫瘍を拒絶した (Fig. 4d)。TC-1モデルでも同様の相乗効果が確認された。抗PD1+Lipofermata (TC-1モデル) でも腫瘍増殖の有意な抑制を示したが効果はCTLA4組み合わせより弱かった。CSF1R阻害単独ではLLC腫瘍に効果がなかったが、CSF1R阻害+Lipofermata組み合わせでは有意な腫瘍増殖抑制が認められた (Fig. 4e)。

考察/結論

本研究は、腫瘍由来GM-CSFがpSTAT5を介してSlc27a2 (FATP2) を転写活性化し、PMN-MDSCが選択的にアラキドン酸 (AA) を取り込んでPGE2を産生し、CD8+ T細胞を免疫抑制するという新規の分子経路を解明した。

先行研究との違い: 脂肪酸輸送タンパク (FATP) 2がPMN-MDSCに選択的に発現しM-MDSCやマクロファージには発現しない点は、従来の汎MDSCアプローチと異なりPMN-MDSC特異的な標的化を可能にする重要な特徴である。PGE2はMDSCの免疫抑制に関与することが先行研究で示されていたが (COX2阻害薬を含む)、長期COX2阻害は血液・心血管・消化管毒性が問題であった。本研究のFATP2選択的阻害は腫瘍局所で病的活性化した好中球に限定してPGE2産生を抑制できることを示した点で治療上の重要な利点がある。

新規性: 本研究で初めて、FATP2がPMN-MDSCの免疫抑制能を制御する中心的な分子であることを同定した。GM-CSF/STAT5経路によるFATP2の発現誘導、FATP2を介したAA取り込みとPGE2産生、そしてその結果としてのT細胞抑制という一連のメカニズムは、これまで報告されていない新規の知見である。

臨床応用: LLC腫瘍モデルでの抗CTLA4+Lipofermataによる80% (5例中4例) の腫瘍拒絶は、免疫療法感受性が低い腫瘍種での臨床応用の可能性を示唆する。ヒト頭頸部癌・非小細胞肺癌・乳癌患者のPMN-MDSCでSLC27A2の過剰発現と脂質代謝異常が再現されたこと、特にLOX1+ PMN-MDSC (ヒトPMN-MDSCの確立されたマーカー Condamine et al. SciImmunol 2016) での高発現確認は、臨床開発の根拠を強化する。本知見は、FATP2阻害が、がん患者の免疫抑制を解除し、既存の免疫チェックポイント阻害剤の効果を増強する新たな治療戦略となる臨床的意義を持つ。

残された課題: 今後の検討課題として、Lipofermataの薬物動態・安全性プロファイルのヒトへの外挿、PMN-MDSC以外の細胞でのFATP2阻害の影響、抗PD1との組み合わせ効果の最適化、PMN-MDSC/M-MDSC比率の腫瘍種依存性と適応患者選択基準の確立などが挙げられる。また、FATP2阻害が腫瘍微小環境の他の免疫細胞に与える影響の詳細な解析も今後の研究で必要である。

方法

マウス腫瘍モデルとして移植性腫瘍 (EL4リンパ腫、LLC肺癌、CT26大腸癌、TC-1) および遺伝子操作型膵癌モデル (KPC) を使用した。脾臓および腫瘍から単離したPMN-MDSC (CD11b+Ly6ClowLy6G+) と正常PMN (腫瘍非担がん脾臓) の遺伝子発現アレイを比較し、Slc27a2 (FATP2) の選択的発現を確認した後、定量PCR (qPCR) ・ウェスタンブロット・RNA-seqで検証した。RNA-seqデータはBowtie2 Langmead et al. NatMethods 2012 でアラインメントし、RSEM Li et al. BMCBioinformatics 2011 でリードカウントを推定、DESeq2 Love et al. GenomeBiol 2014 で差次的発現の有意性を評価した。機能解析にはSlc27a2-/-マウス (SV129背景からC57BL/6に10世代戻し交配) およびS100a8-Cre; Slc27a2fl/flコンディショナルKOマウスを使用した。STAT5→FATP2経路の検証にはChIP (クロマチン免疫沈降) アッセイおよびS100a8-Cre; Stat5fl/flマウスを用いた。LC-MS (液体クロマトグラフィー質量分析) リピドミクスにより、アラキドン酸 (AA) 含有トリグリセリド・フォスファチジルエタノールアミン (PE)・フォスファチジルコリン (PC)、およびPGE2量を定量した (単位: pmol/mgタンパク質)。安定同位体ラベリング法 (AA-d11) によるトレーサー実験でFATP2依存的なAA取り込みとPGE2合成を直接追跡した。COX2欠損 (Ptgs2-/-) HPCからのPMN分化実験でPGE2経路の必須性を確認した。FATP2阻害薬Lipofermata (5-bromo-5’-phenylspiro[3H-1,3,4-thiadiazole-2,3’-indoline]-2-one; 2 mg/kg BID 皮下投与、腫瘍移植8〜10日後から開始) を4腫瘍モデルで評価した。免疫チェックポイント阻害薬 (抗CTLA4 200 μg/マウス腹腔内、day 7・11; 抗PD1 200 μg/マウス週2回) との併用効果も検討した。ヒト検体は頭頸部癌 (n=11 patients、StageIII-IV)・非小細胞肺癌 (n=6 patients、StageII-IV)・乳癌 (n=5 patients、StageIII-IV) 患者から採取した末梢血PMN-MDSCおよび腫瘍浸潤PMN-MDSCと、健常ドナー (n=9 donors) のPMNを比較した。LOX1+集団 (n=8 samples) でSLC27A2発現を解析した。統計解析は、特に指定のない限り、両側不対t検定または二元配置分散分析 (ANOVA) を使用し、p<0.05を有意とした。