• 著者: Shuying Xu, Asya Smirnov, Rachel L. Kinsella, Ananda Rankin, Ashley D. WiseMitchell, Jessica M. Alexander, et al.
  • Corresponding author: Shuying Xu, Christina L. Stallings (Washington University School of Medicine, St. Louis, MO)
  • 雑誌: bioRxiv (preprint; Cancer Research への投稿を念頭に置いた基礎研究)
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-05-21
  • Article種別: Original Article (preprint)
  • PMID: 42239389

背景

IFN-I (type I interferon; IFNβおよびIFNα13サブタイプで構成) は抗ウイルス防御の中核をなすが、過剰なIFN-Iシグナリングは全身性エリテマトーデスや結核などで重篤な炎症病理を引き起こす。Ivashkiv et al. (2014) は、IFN-Iは全細胞型においてDAMP (damage-associated molecular pattern) を感知した後にde novo転写・翻訳によって産生されるという「誘導合成パラダイム」を確立していた。IFN-IはIFNAR (interferon-alpha/beta receptor) を介してJAK-STATシグナルを活性化し、ISG (interferon-stimulated gene) の発現を誘導する。好中球はこれらの疾患における支配的な浸潤細胞として知られ、従来はIFN-Iの「応答者」として位置付けられ、マクロファージやpDC (plasmacytoid dendritic cell) から分泌されるIFN-Iに応答してNETを放出することが知られていた (Boeltz et al., Nat Immunol 2019)。しかし、精製好中球培養において好中球自身がIFNAR依存的なNET放出を駆動するという観察から、好中球がIFN-Iの産生源である可能性が浮上していた (Xu et al., Public Library of Science Pathogens 2022)。さらに、Manzanillo et al. (2013) はMtb (Mycobacterium tuberculosis) 感染マウスモデルにおいてIFNAR依存的な好中球機能の亢進を報告しており、好中球-IFN-I軸の生物学的意義は明らかになりつつあった。加えて、Westermann et al. (2019) の単一細胞RNA解析では好中球サブセットが炎症性サイトカインを貯蔵・放出する機能的異質性を示すことが示唆されていた。それにもかかわらず、好中球がIFN-Iをいつ・どこで・どのように産生・分泌するのかという分子メカニズムは未解明のままであり、特に核小体 (nucleolus) という非典型的な細胞内区画がサイトカイン貯蔵に関与するという可能性は全く検討されておらず、何が足りなかったかと言えば「好中球に特有のIFN-I産生・貯蔵機構」に関する知識の欠如であった。このギャップが本研究の出発点となった。

目的

本研究は、(1) 好中球がde novo合成非依存的にIFN-Iを急速分泌するメカニズムを解明すること、(2) 事前合成済みIFNαが核小体に局在する分子機構を明らかにすること、(3) 細菌感染によるTLRシグナルが核小体ストレスを介してIFNαを分泌させる経路 (「核小体外輸出」) を特定することを目的とした。

結果

IFN-I放出の速度論と合成非依存性: Mtb感染したマウス骨髄好中球 (n=3以上の独立実験、C57BL/6J) およびヒト末梢血好中球 (n=複数名ドナー、生存率>90%) から放出されるIFN-Iは感染後30分以内にピークに達し、recombinant IFNα/IFNβを10 pg添加した場合と同程度のISRE (interferon-stimulated response element) ルシフェラーゼ活性を示した (Figure 1C-D)。これに対して、肺胞マクロファージのIFN-I分泌は30 mpiでは好中球の約4分の1に留まり (4-fold差)、120 mpiでようやく好中球と同程度に達した (Figure 1G)。熱死菌Mtb (250 µg/ml) でも同程度の急速IFN-I放出が再現され、live bacteriaが不要であることが示された。Spn (MOI=2) 感染・UPEC (MOI=5) 感染でも熱死菌使用の有無によらず感染後30分以内に同様の急速IFN-I放出が観察された (Figure 1E-F)。遺伝子欠損マウスを用いた実験 (n=各遺伝子型で独立実験実施) では、好中球からのIFN-I分泌はSTINGおよびIRF3を必要とせず (Figure 1H)、シクロヘキシミド (10 µg/ml) によるタンパク合成阻害下でもIFN-I放出量・速度に変化を認めなかった (Figure 1I)。一方、poly(I:C) で誘導されるIFN-I産生はIRF3依存的かつde novo合成依存的であり (Supplemental Figure 1F-G)、両経路の明確な区別が示された (Figure 1B, ISGsはIFNAR依存的発現: Irf9, Oasl2, Irgm2がIfnar1[-/-]では発現低下)。

核小体へのIFNαタンパクの事前蓄積: 静止状態のマウス骨髄好中球および人末梢血好中球のウエスタンブロット解析でIFNαタンパクが検出されたが、静止肺胞マクロファージでは検出されなかった (Figure 2A)。蛍光免疫染色では、n=複数の実験でIFNαが核内のfibrillarin (核小体マーカー) と共局在することが確認された (Figure 2B-C、共局在係数定量)。ER-HoxB8分化モデルを用いた解析では、未分化前駆細胞にはIFNα発現がなく、4日分化後の細胞の10-20%でIFNα発現が認められ、MPO高発現成熟好中球ではMPO低発現細胞と比較してIFNα発現量が有意に高かった (Figure 2D-E、フローサイトメトリー)。核小体占有率の定量では、macroph核面積の約10%に対し好中球では50%超の核面積を核小体 (fibrillarin陽性) が占めていた (Figure 2I、p<有意)。45S pre-rRNA量の定量RT-PCR解析では好中球がマクロファージより有意に高いレベルを示し (Figure 2J)、HoxB8分化後にも45S pre-rRNAが有意に増加した (Figure 2K)。APEX2近傍標識法 (GFP-APEX2-NIK3コンストラクト使用) でビオチン化IFNαが4日分化後HoxB8好中球から回収され、未分化前駆細胞では検出されず、核小体局在が生化学的に確認された。さらに、imaging flow cytometryでIFNα[+] 細胞の70%超がIFNαシグナルの70%以上を核小体マスク内に保有していることが定量された (Supplemental Figure 2F-G)。

TLR/MyD88シグナルによる核小体からのIFNα急速放出: Mtb感染後30 mpiで、核小体内IFNαシグナルの核内局在が定量的に有意に低下し (Figure 3C-D、核内IFNα強度/核面積の統計的有意差)、60 mpiには細胞内IFNαがほぼ消失した (Figure 3A-B)。シクロヘキシミド (10 µg/ml) 処理下でもIFNαの核小体から細胞質への転位と細胞外分泌は抑制されず (Figure 3D-E)、新規合成タンパクではなく事前貯蔵IFNαの放出であることが確認された。これに対し、IFNα陰性の静止マクロファージでは感染60分後にはじめて細胞質にIFNαが出現し、シクロヘキシミドはこの出現を完全に阻止した (Figure 3F)。Myd88[-/-] 好中球 (n=独立実験複数回) では熱死菌Mtb暴露後も核小体IFNαが60分間保持され (Figure 3G-H)、120分間の累積IFN-I分泌量が野生型と比較して有意に低下した (Figure 3I)。Imaging flow cytometryでは、熱死菌Mtb暴露30分後に細胞の大多数 (>50%) でIFNαシグナルの60%超が細胞質マスク内に移行し、核内残存は40%未満となった (Supplemental Figure 3A-C)。

核小体ストレスの誘導と「核小体外輸出」メカニズム: 熱死菌Mtb暴露後に好中球内45S pre-rRNA量が定量RT-PCRで有意に減少したが、肺胞マクロファージでは変化を認めなかった (Figure 4A)。50 nMアクチノマイシンD処理では好中球・マクロファージ両者で45S pre-rRNAが有意に減少した (Figure 4B)。核小体ストレスマーカーDDX21はRNA helicase で正常時に核小体に局在するが、熱死菌Mtb暴露30分後にfibrillarin・IFNαとともに細胞質へ移行した (Figure 4C-D)。アクチノマイシンD (50 nM) でも30分以内に同様の核小体コンテンツ (DDX21・fibrillarin・IFNα) が細胞質へ移行し (Figure 4E)、培養上清中にIFN-Iが検出された (Figure 4F、マウス・ヒト好中球)。TLR2/4/9などのTLR-MyD88経路が核小体ストレスを誘導し、「核小体外輸出 (nucleolar extrusion)」と呼ぶ新たな分泌プロセスを介してIFNαを急速放出するモデルが提唱された (Figure 4G)。

考察/結論

本研究は、好中球が核小体をサイトカイン貯蔵・分泌オルガネラとして流用するという全く新規の細胞生物学的機構を解明した。これまでIFN-Iは全ての細胞型においてde novo転写・翻訳によって産生されると考えられていたが、これと対照的に、好中球は成熟過程でIFNαを核小体内に蓄積し、細菌感染時には合成非依存的に30分以内でIFNαを放出するという、脱顆粒に概念的に類似した非定型的分泌経路を持つことが明らかになった。先行研究 (Ivashkiv et al. 2014) がIFN-I産生のde novoパラダイムを確立していたのと異なり、本研究は好中球に特異的な事前蓄積・即時放出のサイトカイン分泌様式を初めて解明した。本研究で新規に、免疫調節因子が生理的状態で核小体に貯蔵されるという前例のない現象が示され、核小体ストレスが自然免疫エフェクター機能として機能する生理的役割が初めて特定された。核小体ストレスは従来リボソーム産生障害の有害な結果として捉えられていたが、本研究はその自然免疫における機能的役割という全く新しい側面を明らかにした。

臨床的意義として、病理的IFN-I応答と好中球増多を特徴とする疾患 (全身性エリテマトーデス、皮膚筋炎、結核感受性) において、好中球が最初期のIFN-Iスパーク源となる可能性が示唆される。臨床応用の観点では、核小体外輸出経路の選択的阻害 (TLR-MyD88シグナルあるいは核小体アーキテクチャの標的化) が過剰IFN-Iを伴う炎症性疾患の治療戦略として期待される。Benguigui et al. CancerCell 2024 が示すように、IFN刺激好中球が免疫療法応答の予測因子となることを考えると、本研究の核小体IFNα放出経路は腫瘍免疫においても重要な役割を担う可能性がある。新たに骨髄から動員された成熟好中球が持続的にIFNαを補充しうることから、慢性炎症時の持続的IFN-I高値に好中球が寄与するモデルが提示される。さらに、好中球由来IFN-IがNET放出を促進し、そのNETsが周辺マクロファージやpDCの核酸センサーを活性化してさらなるIFN-I産生を誘導するというフィードフォワードループの始点として好中球核小体外輸出経路が機能することが示唆される (Teijeira et al. ClinCancerRes 2021)。Engblom et al. Science 2017 が示すように骨髄由来好中球が腫瘍へ大量供給されるという知見と本研究を統合すると、腫瘍浸潤好中球が核小体外輸出経路を介してIFN-Iを分泌し、腫瘍微小環境の免疫状態を制御する可能性も考えられる。

今後の課題として、(1) IFNαが核小体に選択的に局在・保持される分子メカニズム (リーダー配列、相互作用タンパク、相分離への寄与)、(2) 核小体外輸出においてIFNαが細胞膜を越えて細胞外へ放出される分泌経路の詳細 (小胞輸送か直接膜融合か)、(3) 核小体外輸出される他のサイトカイン・生理活性分子の同定、(4) ヒト疾患 (特に結核・全身性エリテマトーデス) における核小体IFNα貯蔵量の個人差と疾患感受性の関連、が残された課題として挙げられる。本知見は、核小体ストレス誘導に関わるシグナルを標的とした新たな抗炎症アプローチの開発に向けた基礎的根拠を提供する。好中球が免疫応答の最初の30分以内に決定的なIFN-Iシグナルを放出するという本所見は、自然免疫タイミングの理解を根本的に刷新するものである。

方法

実験系と細胞: C57BL/6J野生型マウス (Jackson Laboratory #000664)、Ifnar1[-/-] (C57BL/6J congenic)、Myd88[-/-]、Irf3[-/-]、StingGT (#017537) マウス (6-15週齢、両性) から骨髄好中球を単離 (EasySep Mouse Neutrophil Enrichment Kit、Stemcell Technologies、純度>90%・残存単球<10%)。健康人ドナーの末梢血から人好中球を単離 (EasySep Direct Human Neutrophil Isolation Kit、純度>95%、n=複数名ドナー、IRB承認)。好中球分化モデルはER-HoxB8コンディショナルシステムを用い、4日分化で>80%がGR-1陽性、約20%がMPO高発現成熟好中球。肺胞マクロファージはC57BL/6マウスの気管支肺胞洗浄 (BAL) より採取し比較対照とした。

感染モデル: Mtb Erdman-GFP株 (MOI=5)、Spn (Streptococcus pneumoniae) TIGR4株 (MOI=2)、UPEC (uropathogenic Escherichia coli) UTI89株 (MOI=5) を用いたex vivo感染実験。熱死菌 (95°C 30-45分 → 凍結乾燥) も使用し、live bacteriaの必要性を検討した。感染は5% CO2、37°Cで実施し、感染中の細胞生存率は90%以上を確認。統計解析は独立実験n≥3を対象としたStudent’s t検定および一元配置分散分析 (ANOVA) を使用し、p<0.05を有意差とした。

IFN-I定量: IFNAR依存的ルシフェラーゼ報告系 (11×ISRE-Gaussia Luciferase HeLa細胞株、n=96ウェルプレート各条件1×10^5細胞) を用い、感染後15、30、60、120分の培養上清中IFN-I活性を測定。α-IFNAR1遮断抗体 (10 µg/ml) の存在下・非存在下で比較しIFNAR依存的シグナルを特定した。

画像解析: Nikon AXR共焦点顕微鏡 (20x 広視野・60x 油浸Z-スタック) によるIFNα (Invitrogen PA5-119649、1:200)・fibrillarin (Invitrogen PA5-143565、1:500、核小体マーカー)・DDX21 (Novus Biologicals NB100-1718、2 µg/ml、核小体ストレス応答タンパク) の免疫蛍光染色。Imaging flow cytometry (ImageStream) でfibrillarin/Hoechst/明視野を用いた核小体・核質・細胞質マスクを生成し定量化。IFNαシグナルの核内局在は核マスク内の統合蛍光強度/核面積として定量した。

分子解析: RNA-seq (GEO: GSE330411)、定量RT-PCR (45S pre-rRNA定量)、ウエスタンブロット (pan-IFNα抗体)、GFP-APEX2-NIK3核小体近傍標識法によるIFNα核小体局在確認。統計解析はImageJ FIJIで定量化後、各群n≥3の独立実験で比較検定を実施。

阻害実験: シクロヘキシミド (タンパク合成阻害、10 µg/ml、感染前30分プレインキュベート後除去、またはMicroscopy実験では感染開始と同時添加)、アクチノマイシンD (転写阻害・核小体ストレス誘導、50 nM)、抗IFNAR1抗体 (10 µg/ml、IFNAR遮断)、Cl-アミジン (PAD4阻害、50 µM) を使用。