- 著者: Madeleine Benguigui, Tim J. Cooper, Prajakta Kalkar, Sagie Schif-Zuck, et al.
- Corresponding author: Tim J. Cooper / Yuval Shaked (Rappaport Faculty of Medicine, Technion - Israel Institute of Technology)
- 雑誌: Cancer Cell
- 発行年: 2024
- Epub日: 2024-01-04
- Article種別: Original Article
- PMID: 38181798
背景
免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) は転移性癌に対する5年生存率を劇的に改善したが、奏効患者は全体の一部に限られる。既存の予測バイオマーカーであるPD-L1免疫組織化学 (IHC) や腫瘍変異量 (TMB) は、いずれも組織生検を要する腫瘍内在性指標であり、予測精度が限られている (AUC ≈ 0.6-0.75)。例えば、Rittmeyer et al. Lancet 2017 のOAK試験では、PD-L1 IHCのAUCは0.63に留まっている。ICI奏効は腫瘍と宿主免疫の複雑な相互作用に依存するため、腫瘍と宿主の両方の情報を統合したバイオマーカーが理論的に優れると考えられてきたが、そのような候補は未解明であった。
好中球は腫瘍免疫において主に免疫抑制的役割が注目されてきたが、IFNシグナルを受けた特殊な好中球サブセットの存在と機能は不明であった。例えば、Gabrilovich et al. NatRevImmunol 2009 は骨髄由来抑制細胞 (MDSC) としての好中球の免疫抑制的役割を報告している。しかし、好中球の多様な機能や、特定の条件下での抗腫瘍活性を持つサブセットの存在については、さらなる研究が不足していた。本研究は好中球系列に着目し、ICI奏効と相関する血液バイオマーカーを探索するとともに、その機能的意義と臨床翻訳可能性を解明することを目指した。特に、腫瘍と宿主の相互作用を反映する、非侵襲的な血液バイオマーカーの同定が喫緊の課題であり、この分野には知識ギャップが残されている。従来のバイオマーカーは腫瘍内在性因子に偏り、宿主免疫応答を包括的に捉える視点が不足していた。
目的
腫瘍免疫応答を反映する宿主側の血液バイオマーカーとして、IFN刺激好中球サブポピュレーションを同定し、その誘導機序と抗PD-1治療奏効との関連を明らかにすることを目的とする。具体的には、マウス前臨床モデルで同定されたバイオマーカーをヒト患者 (非小細胞肺癌 (NSCLC)、黒色腫) に翻訳し、既存バイオマーカーと比較した予測精度を検証する。さらに、同定された好中球サブポピュレーションの機能的役割を解明し、その抗腫瘍免疫におけるメカニズムを明らかにすることも目的とした。最終的に、このバイオマーカーが複数癌種にわたる「パン癌」バイオマーカーとして機能するかどうかを評価する。
結果
scRNA-seqによるLy6E^hi IFN刺激好中球の同定: 4T1M (ICI奏効) 腫瘍では4T1P (非奏効) に比べてGR1+好中球の組成が著明に異なり、奏効腫瘍特異的なサブポピュレーションが同定された。RNA velocity解析により、好中球は2つのリネージが分岐した後に最終的にIFN応答/NFκB-TNFαシグナル特徴を持つ末端状態に収束することが判明した (Figure 3B)。この末端集団の指標として、インターフェロン刺激遺伝子 (ISG) かつ細胞表面マーカーであるLy6Eを同定した。Ly6E^hi好中球の腫瘍内頻度 (4T1M vs 4T1P, p < 0.0001) と血中頻度 (同様に有意差) いずれもICI奏効と強く相関し、治療前の予測バイオマーカーとなりうることが示された (Figure 3F, G)。このサブポピュレーションは、非奏効マウスの好中球が前駆細胞様の状態から進行しないのに対し、奏効マウスの好中球はIFN-α/γおよびNFκB/TNF-αシグナルに応答する末端状態まで分化することを示唆した (Figure 3C)。
Ly6E^hi好中球の機能的役割の解明: IFNγ/αで処理したGR1+細胞 (人工Ly6E^hi好中球) を4T1P腫瘍担癌マウスに養子移入すると、ICI単独では無効であった非奏効腫瘍が有意な増殖抑制を示した (p < 0.0001) (Figure 4D)。この実験では、n=6 mice/groupで実施され、Ly6E^hi好中球の養子移入により腫瘍サイズが約50%減少した。腫瘍内の活性化CD8+T細胞 (CD25+またはCD107+) がLy6E^hi好中球+ICI併用群で著明に増加した。in vitroでLy6E^hi好中球はCD8+T細胞の増殖・活性化を促進し、GR1+細胞は逆に抑制した。サイトカイン解析でLy6E^hi好中球はIL-12b (IL-12のp40サブユニット)、IL-1α、IL-23aを高発現しており、IL-12b中和抗体によりCD8+T細胞活性化が消失した (p < 0.001) (Figure 5F)。Ly6E自体のノックダウンでは効果に変化がなく、Ly6Eは機能分子ではなくバイオマーカーとして機能することが確認された。
腫瘍内在性STINGシグナルによる誘導機序: 奏効型4T1M細胞は4T1Pに比べ細胞質二本鎖DNA (dsDNA) が高く (dsDNA^hi細胞比率: 4T1M 81.1% vs 4T1P 9.42%)、STING・IRF3・NFκBの発現が著明に高かった (Figure 5A, B)。4T1M腫瘍の条件培地はGR1+細胞にLy6E^hiフェノタイプを誘導したが、STING阻害薬H151またはIFN受容体遮断 (anti-IFNRα/γ) でこの誘導は消失した (Figure 5C)。この誘導実験はn=6 biological repeats/groupで実施された。In vivoでもIFNRα/γ遮断により4T1M腫瘍でのLy6E^hi好中球が減少し、ICI奏効が喪失した。逆にLy6E^hi好中球の養子移入でIFNR遮断下でもICI奏効が回復したことから、STINGシグナル → IFN分泌 → Ly6E^hiフェノタイプ誘導 → CD8+T細胞活性化という明確な連鎖が確立された (Figure 5G)。SCIDマウスを用いた実験では、適応免疫系が欠損していても血中Ly6E^hi好中球の予測性が維持された (Figure S7F, G)。
複数前臨床モデルでのクロスバリデーション: LLC (C57BL/6マウス)、RENCA (BALB/cマウス)、EMT6 (BALB/cマウス)、さらに異なるマウス背景 (C57BL/6×CBA) での混合モデルを含む複数系で、血中Ly6E^hi好中球頻度はいずれもICI奏効を有意に予測した (各モデルでp < 0.01) (Figure S9A-D)。この結果は、Ly6E^hi好中球がパン機序的バイオマーカーである可能性を示唆した。これらの実験はn=5-10 mice/groupで実施され、一貫してLy6E^hi好中球の予測能が確認された。
ヒトコホートでの検証とNeutIFN-15シグネチャ開発: NSCLC患者 (n=50 patients) での血中Ly6E^hi好中球頻度はICI奏効 (PR+CR vs PD) を強力に予測し、AUC = 0.91 (95% CI: 0.855-0.9705) を達成した (Figure 6D)。黒色腫患者 (n=59 patients) でも同様の予測性が示された (AUC = 0.87, 95% CI: 0.7913-0.9606) (Figure 6E)。同一NSCLC患者のPD-L1 IHC (AUC ≈ 0.6) および絶対好中球数 (AUC ≈ 0.75) はいずれも大幅に下回った (Figure 6F)。さらに15遺伝子シグネチャ (NeutIFN-15: IFIT1, MX1, HERC5, IFI6, ISG15, IFIT3, RSAD2, GBP1, IFIT2, XAF1, PARP9, UBE2L6, IRF7, PARP14, APOL6) を開発し、1,440例の公開バルクRNA-seqデータ (膀胱癌、膠芽腫、NSCLC、腎細胞癌、黒色腫、胃癌) でのメタ解析では6データセット中5つで有意な奏効予測性を示し、平均AUC > 0.9を達成した (Figure 7A)。OAKデータセットでは既存バイオマーカー (tTMB AUC 0.58, PD-L1 IHC AUC 0.63, IFNγ-6シグネチャ AUC 0.71) を上回る AUC 0.85 (95% CI: 0.7714-0.9105) を示した (Figure 7B)。
考察/結論
本研究は腫瘍内在性STING活性化 → IFN分泌 → Ly6E^hi好中球誘導 → IL-12b依存性CD8+T細胞活性化という新規の免疫応答カスケードを解明した。好中球が免疫療法奏効の「上流」で機能する積極的エフェクターであるという発見は、好中球を主に免疫抑制的存在として捉えてきた従来のパラダイムを塗り替えるものである。
新規性: 本研究で初めて、IFN刺激Ly6E^hi好中球が抗PD-1免疫療法奏効の血液バイオマーカーとして機能し、その誘導が腫瘍内在性STINGシグナルに依存することを明らかにした。この好中球サブセットは、IL-12bを介して細胞傷害性T細胞を活性化し、非応答性腫瘍を抗PD-1療法に感作させるという新規の機能を持つ。
先行研究との違い: これまで、IFNγ応答シグネチャ (IFNγ-6) などが免疫療法奏効予測に用いられてきたが、その予測精度は平均AUC 0.62に留まっていた Ayers et al. JClinInvest 2017。本研究で開発された好中球特異的なNeutIFN-15シグネチャは、平均AUC > 0.9という卓越した性能を示し、既存のバイオマーカーを大幅に上回る予測能を持つ点で対照的である。また、Sharma et al. Cell 2017 が指摘するように、免疫療法抵抗性のメカニズムは複雑であり、本研究は好中球が抵抗性克服に寄与する新たな側面を提示した。
臨床応用: Ly6E^hi好中球は血液で測定可能であり (非侵襲的)、既存バイオマーカーを大幅に上回る予測精度を示した。NeutIFN-15シグネチャは複数癌種でAUC > 0.9という卓越した性能を持ち、液体生検による治療前奏効層別化ツールとして有望である。これにより、患者選択の最適化と不必要な治療の回避が可能となり、臨床現場での意思決定に大きな影響を与える可能性がある。
残された課題: 今後の検討課題として、① Ly6Eのフローサイトメトリーによる定量は連続分布を示し、明確な陽性・陰性の区切りが難しい点、②患者コホートの一部がICI単独以外の治療を含む混在コホートである点、③骨髄中好中球は通常PBMC分画に含まれないが低密度好中球として検出される点、が挙げられる。特に、Ly6E^hi好中球の同定における絶対的な閾値の設定や、大規模前向き試験でのバリデーション、治療アーム別の解析が必要である。また、STING活性化がLy6E^hiフェノタイプの誘導における普遍的な駆動因子であるかどうかも、さらなる研究で確認すべきlimitationである。
方法
研究は段階的多モデルアプローチを採用した。まずBALB/cマウスにおいて、突然変異誘発処理により高免疫原性クローン (4T1M、ICI奏効) と親株 (4T1P、非奏効) からなる乳癌モデルを確立した。GR1+細胞のscRNA-seq (n=3 mice/group、計2,886 cells) とRNA velocity解析により、奏効と相関する好中球サブポピュレーションを同定した。scRNA-seqデータの前処理には、Hafemeister et al. GenomeBiol 2019 の手法を用いたSCTransformパッケージが使用された。その後、Lewis lung carcinoma (LLC)、RENCA腎細胞癌、EMT6乳癌など複数のマウス腫瘍モデルでクロスバリデーションを実施した。
ヒト翻訳では、NSCLC患者 (n=50) および黒色腫患者 (n=59) の前治療血液サンプルからPBMCを採取し、フローサイトメトリー (CD11b+CD33+CD14-CD15+LY6E^hi ゲーティング) でLy6E^hi好中球頻度を定量した。CD14は単球マーカー、CD15は好中球マーカーである。Ly6E (Lymphocyte antigen 6 complex locus E) はインターフェロン刺激遺伝子 (ISG) であり、細胞表面マーカーとして機能する。さらに公開バルクRNA-seqデータ (1,440例、6癌種) を用いたNeutIFN-15シグネチャの検証を行った。この解析には、Hanzelmann et al. BMCBioinformatics 2013 のGSVAパッケージが用いられた。STING (stimulator of interferon genes) 経路の役割はSTING阻害薬H151、IFN受容体遮断、養子移入実験で検討した。統計解析には、Mann-Whitney U検定や二標本Kolmogorov-Smirnov検定が用いられ、ROC曲線下の面積 (AUC) で予測精度を評価した。