- 著者: Camilla Engblom, Christina Pfirschke, Rapolas Zilionis, Janaina Da Silva Martins, Stijn A. Bos, Gabriel Courties, et al.
- Corresponding author: Mikael J. Pittet (Massachusetts General Hospital, Harvard Medical School)
- 雑誌: Science
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-12-01
- Article種別: Original Article
- PMID: 29191879
背景
腫瘍浸潤骨髄系細胞は癌の成長を促進することが広く知られており、その多くは遠隔組織で産生される循環前駆細胞から補充される。Fridlender et al. (2009) は腫瘍関連好中球 (TAN) がTGF-β依存的な腫瘍促進性表現型 (N2) を取りうることを示し、好中球の機能的異質性が注目され始めていた。また、Granot et al. (2011) は腫瘍entrained好中球が前転移巣形成を阻害することも報告されており、好中球の腫瘍内外での多様な役割が明らかになりつつあった。一方、骨髄は成体における全血液系細胞の主要産生部位であり、骨芽細胞がその造血調節に関与することが示されていたが (Calvi et al. 2003)、遠隔腫瘍が骨基質に与える影響と、それが腫瘍関連免疫応答を調節するメカニズムは未解明のままであった。特に、骨芽細胞が腫瘍局所の特定の好中球サブセットを遠隔供給するというような腫瘍-骨のシステミックなクロストークの存在は全く知られておらず、何が足りなかったかと言えば「腫瘍誘発性骨リモデリングが造血・免疫浸潤細胞を制御する」という概念の検証であった。このギャップが本研究の核心的な問いを形成した。
目的
本研究は、(1) 肺腺癌が遠隔部位の骨組織活性 (骨芽細胞) に与える影響をマウスおよびヒトで明らかにすること、(2) 骨芽細胞が腫瘍局所の特定の好中球サブセット (SiglecF高発現細胞) を供給するメカニズムを解明すること、(3) SiglecF高発現好中球の腫瘍促進的機能特性と予後的意義を評価すること、(4) 骨芽細胞活性化に関わる腫瘍由来シグナル因子 (sRAGE) を同定することを目的とした。
結果
肺腺癌は骨密度・骨芽細胞活性を遠隔増大させる: KPおよびLLC腫瘍担癌マウスでは、骨転移の非存在下においてもOsteoSense活性が大腿脛骨関節で有意に上昇し (n=10-12関節/群、P<0.01)、mCTで大腿遠位骨幹端のトラベキュラー骨量分率 (BV/TV) が有意に増加した (n=4マウス/群、Fig. 1E)。組織学的解析ではKP腫瘍担癌マウスの骨芽細胞数が骨表面あたり有意に増加し (n=4マウス/群、P<0.01)、骨形成速度 (mineral apposition rate) も亢進していた (Fig. 2B-E)。フローサイトメトリーでは骨髄中Ocn-YFP+細胞がKP腫瘍担癌マウスで有意に増加した (n=6マウス/群、Fig. 2C)。バルクRNA-seq解析ではOcn+細胞で腫瘍依存的に101遺伝子が上昇・207遺伝子が低下していた。ヒトコホート (n=35 KRAS+NSCLC対n=35年齢・性別・BMI・喫煙マッチ対照) でも胸椎トラベキュラー骨密度がKRAS+患者で有意に高く (Hounsfield unit定量、P<0.001)、KRAS変異非保有患者でも同様の増加を認めた (n=35/群、Fig. 1F-G)。
Ocn+骨芽細胞は腫瘍成長を遠隔促進し、好中球応答を制御する: DT処理によるOcn+細胞除去は腫瘍担癌OcnCre;Dtrマウスで確立されたKP腫瘍の進展を有意に抑制した (n=13マウス/群、P<0.01、Fig. 3A-B)。逆にCre陰性またはDTR陰性対照マウスへのDT投与では腫瘍抑制は生じず、Ocn+細胞を経由したDT作用であることが確認された。抗Gr-1抗体を用いた好中球除去実験でもKP腫瘍進展が有意に抑制された (mCT縦断監視、Fig. 3D)。Ocn+細胞除去マウスの腫瘍浸潤CD11b+Ly-6G+好中球数は対照と比較して約2-fold低下し (n=14-25マウス/群、P<0.05)、循環好中球の腫瘍関連増加もOcn+細胞依存的であった (Fig. 3E)。パラビオーシス実験では、Ocn+細胞除去マウスをOcn+細胞十分マウスに連結すると腫瘍浸潤好中球数と腫瘍重量が対照レベルに回復した (n=4-6マウス/群、Fig. 3F)。これらの結果はOcn+骨芽細胞が循環系を介して腫瘍浸潤好中球を遠隔供給することを示す。
SiglecFhigh好中球の腫瘍特異的蓄積と癌促進的機能: 腫瘍担癌肺でSiglecFhigh (Ly-6G+SiglecFhigh) 好中球サブセットは健常肺比で約70-fold増加したが、SiglecFlow好中球は僅かな増加にとどまった (n=6マウス/群、P<0.0001、Fig. 4B)。SiglecFhigh/低比率はKP腫瘍量と正相関した。Kaplan-Meier生存解析 (Cox比例ハザードモデル) ではSiglecFhigh好中球遺伝子シグネチャーが肺腺癌患者の予後不良と有意に関連した (P=0.0017、Fig. 5G)。単一細胞RNA-seq (T-SiglecFhigh n=1502細胞、T-SiglecFlow n=273細胞) では腫瘍促進性遺伝子 (Vegfa/Hif1a: 血管新生、Csf1/Ccl3: 骨髄系細胞動員、Cd274/PD-L1: T細胞抑制) を含む1769遺伝子がSiglecFhigh細胞で有意に高発現していた (FDR<5%、FC>2、Fig. 5A-B)。SiglecFhigh好中球はSiglecFlow好中球比でROS産生が有意に増加し (n=4-5マウス/群、P<0.01、Fig. 5C)、in vitro培養でF4/80+マクロファージ分化を有意に促進 (n=4-5レプリケート、P<0.001、Fig. 5D-E)。in vivoでSiglecFhigh好中球との共注射でKP腫瘍増殖が有意に促進された (n=4-5マウス/群、P<0.01、Fig. 5F)。Ocn+細胞除去マウスではSiglecFhigh好中球割合が有意に低下し (n=7-9/群)、野生型c-Kit+ドナー細胞のSiglecFhigh産生もOcn+細胞依存的であることが確認された (Fig. 4D-E)。
sRAGEが骨芽細胞活性化を介した好中球応答を媒介する: 腫瘍担癌マウスの血清は無腫瘍マウス血清と比較してALP+ (alkaline phosphatase陽性) 骨芽細胞コロニー形成を有意に増加させた (n=4レプリケート/条件、Fig. 6A)。111種類のサイトカイン・増殖因子プロテインアレイ解析では、sRAGE (soluble receptor for advanced glycation end products) が腫瘍担癌マウス血液中で約2-fold上昇していた (Fig. 6B)。sRAGE単独添加でもin vitroで骨芽細胞コロニー形成が有意に増加し (n=6レプリケート)、ST2骨髄間質細胞との共培養系でsRAGEが発達中好中球のCXCR2発現を用量依存的に増加させた (n=3レプリケート/条件、Fig. 6D)。これらのデータはsRAGEが骨芽細胞活性化と好中球成熟促進を介して腫瘍-骨クロストークを媒介することを示す。
考察/結論
本研究は、肺腺癌が骨芽細胞を遠隔的に活性化し、SiglecFhigh好中球サブセットの産生・腫瘍供給を通じて癌進展を促進するという全く新規の全身性腫瘍-骨クロストーク機構を解明した。これまで骨転移のない固形腫瘍患者において骨芽細胞活性が亢進することは知られておらず、これと異なり、本研究は骨転移の非存在下でも肺腺癌が骨基質の造血機能を遠隔制御することを初めて示した。この発見は、腫瘍成長の理解において「腫瘍局所の免疫」だけでなく「宿主全身環境」を考慮する必要性を示唆し、骨髄造血調節を腫瘍免疫研究の新たなフロンティアとして位置付けた。SiglecFhigh好中球という腫瘍促進性サブセットの発見は、本研究で新規に示されたものであり、骨髄系細胞の腫瘍内異質性の理解を大きく前進させた。先行研究のCancerCell-2009-Fridlender (N1/N2 TAN分極) が分類枠を提示していたが、骨芽細胞によって供給される特定サブセットという観点は全く新しかった。
臨床的意義として、Ocn+骨芽細胞・SiglecFhigh好中球・sRAGEの3者が潜在的な抗癌療法のターゲットとして位置付けられる。臨床応用の観点では、SiglecFhighシグネチャーは肺腺癌の予後バイオマーカーとなる可能性があり (Cox回帰でP=0.0017)、sRAGE中和やOcn+細胞除去に類似した介入が腫瘍微小環境の好中球組成を変えて抗腫瘍効果をもたらす可能性がある。好中球-対-リンパ球比 (NLR) が多くの固形腫瘍で予後不良因子となることはすでに知られており (Giese et al. Blood 2019)、本研究はその機構的根拠の一部を提供する。腫瘍関連好中球が免疫療法応答を予測しうることも Benguigui et al. CancerCell 2024 で示されており、SiglecFhigh好中球サブセット比率と免疫療法応答の関連を検証することは今後の重要な課題である。
今後の課題として、(1) 肺腺癌が骨芽細胞を遠隔活性化する具体的な分子機構の全容解明 (sRAGE以外の腫瘍由来因子の同定)、(2) SiglecFhigh好中球のヒト等価サブセット (ヒトではSiglecFよりSiglecE/SiglecH相当の探索が必要) の同定と臨床的妥当性検証、(3) 他の固形癌 (例: 乳癌・膵癌) でも類似の腫瘍-骨クロストークが存在するかの検討、(4) Ocn+骨芽細胞とSiglecFhigh好中球を標的とする治療戦略の開発、が残された課題として挙げられる。Granot et al. CancerCell 2011 が示す前転移肺における好中球の腫瘍抑制的役割と本研究の腫瘍促進的機能を統合すると、好中球の腫瘍内外での役割が転移ステージや組織環境によって大きく異なることが示唆され、腫瘍ステージ依存的な好中球靶向療法の設計が必要となろう。
方法
マウスモデル: 肺腺癌モデルとして、KrasG12D/Trp53欠失 (KP) マウス (Kras^LSL-G12D/+; Trp53^fl/fl、AdCre気管内投与でOncogeneを活性化したautochthonousモデル)、KP1.9腫瘍細胞株 (KP腫瘍由来同系細胞株)、Lewis Lung Carcinoma (LLC) 細胞株の3モデルを使用。骨芽細胞トレースおよび除去のため、オステオカルシン (Ocn) プロモーター駆動CreマウスとYFP (yellow fluorescent protein) 導入マウスを組み合わせたOcnCre;Yfpマウス、およびDT (diphtheria toxin) 受容体 (DTR; diphtheria toxin receptor) 発現OcnCre;Dtrマウスを作製。DT処理によるOcn+細胞選択的除去を行い、Ocn-YFP (yellow fluorescent protein) 発現で骨芽細胞を可視化・定量化した。
ヒト患者コホート: KRAS+非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者35名、KRAS非変異NSCLC患者35名、および年齢・性別・BMI・喫煙状態マッチの健常対照者各35名 (計n=70) を対象に、非造影胸部CT (computed tomography) で骨密度を評価。骨転移のない患者のみを対象とした。
骨活性評価: OsteoSense-750EX (ハイドロキシアパタイト結合性蛍光ビスホスホネート誘導体) を用いた蛍光分子断層撮影法 (FMT)、マイクロCT (mCT) によるトラベキュラー骨量・骨密度測定、動的骨形態計測法 (カルセイン・デメクロサイクリン逐次注射)、Goldnerのtrichrome染色、von Kossa染色を実施。
免疫浸潤解析: フローサイトメトリー (CD11b+Ly-6G+好中球、SiglecF高/低サブセット)、単一細胞RNA-seq (KP腫瘍内好中球、T-SiglecFhigh n=1502細胞、T-SiglecFlow n=273細胞、H-SiglecFlow n=4245細胞)、バルクRNA-seq (Ocn+骨芽細胞)。パラビオーシス実験で循環骨髄由来細胞の役割を検証。
機能実験: SiglecFhigh/low好中球のROS産生 (Dihydrorhodamine 123蛍光プローブ)、マクロファージ分化促進能 (CD11b+F4/80+細胞比率)、in vivo腫瘍促進能 (好中球+KP腫瘍細胞の共同皮内注射実験) を評価。sRAGE (soluble receptor for advanced glycation end products) の骨芽細胞活性化・好中球成熟促進能はin vitroコロニー形成アッセイとCXCR2発現解析で検討。統計解析はStudents t検定、一元または二元配置ANOVA (Tukey多重比較) で実施し、p<0.05を有意とした。