- 著者: Alvaro Teijeira, Saray Garasa, Maria C. Ochoa, Maria Villalba, Irene Olivera, Assunta Cirella, Inaki Eguren-Santamaria, Pedro Berraondo, Kurt A. Schalper, Carlos E. de Andrea, Miguel F. Sanmamed, Ignacio Melero
- Corresponding author: Ignacio Melero, Alvaro Teijeira (Cima Universidad de Navarra, Pamplona)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2021
- Epub日: 2020-12-29
- Article種別: Review
- PMID: 33376096
背景
免疫チェックポイント阻害薬 (抗PD-1/PD-L1、抗CTLA-4) の普及により、免疫療法抵抗性のメカニズム解明が急務となっている。骨髄系細胞—特に多核白血球 (好中球・GrMDSC) —は腫瘍微小環境で主として免疫抑制的に機能し、T細胞応答と免疫療法効果を阻害することが多くの証拠で示されている。例えば、Gentles et al. NatMed 2015 は、好中球浸潤が複数の癌種で予後不良と関連することを示した。
IL-8 (CXCL8) はCXC/ELR+ケモカインファミリーに属し、CXCR1およびCXCR2を介して好中球と他の骨髄系細胞を強力に誘引する。他のELR+ケモカイン (CXCL1/2/5/6) が主にCXCR2のみを活性化するのに対し、IL-8は両受容体を活性化する特徴を持つ。進行癌患者の血清IL-8高値は免疫チェックポイント阻害薬への低応答と相関することが大規模な第III相試験データ分析で確認されており、IL-8はTMB・PD-L1発現と独立した予後バイオマーカーとして注目されている (Schalper et al. Nat Med 2020, Yuen et al. Nat Med 2020)。
NETosis (好中球細胞外トラップ形成) は好中球の独自の細胞死機序であり、ゲノムDNAと顆粒蛋白質を細胞外に放出する。当初は細菌・真菌感染防御機構として Brinkmann et al. Science 2004 により報告されたが、近年癌進展においても重要な役割を果たすことが明らかになってきた (Papayannopoulos et al. Nat Rev Immunol 2018)。IL-8とNETosisの相互作用、およびNETsが抗腫瘍免疫と免疫療法に与える影響は現在活発に研究されているが、その詳細なメカニズムと治療標的としての可能性については未解明な点が多く、包括的な理解が不足している。特に、IL-8が好中球の動員とNETs形成をどのように統合的に制御し、免疫療法抵抗性に寄与するのかという点において、さらなる詳細なメカニズムの解明が課題として残されている。
目的
本総説は、IL-8/CXCR1/CXCR2軸の腫瘍促進機能 (癌幹細胞維持、EMT、血管新生、好中球・GrMDSC動員)、NETosis機序と癌への影響 (転移促進、休眠覚醒、免疫細胞との物理的接触遮断)、およびこの経路を標的とした治療開発・臨床試験の現状を系統的にレビューすることを目的とする。特に、IL-8が好中球およびNETs (好中球細胞外トラップ) を介して抗腫瘍免疫と免疫療法に拮抗するメカニズムに焦点を当て、IL-8/CXCR1/CXCR2軸およびNETs形成阻害が新たな治療標的となる可能性を考察する。
結果
IL-8の腫瘍促進多機能性: IL-8はCXCR1/CXCR2を発現する癌幹細胞のstemnessを維持し (特に乳癌)、EMT (上皮間葉転換) を促進する。血管新生における直接的促進効果が多数の研究で報告されており、VEGF遮断やスニチニブ抵抗性の代償的エスケープ機序として機能する (Huang et al. Cancer Res 2010)。腫瘍微小環境でのIL-8産生は癌細胞・骨髄系細胞・線維芽細胞が担い、TNFα、IL-1β、IL-17、低酸素刺激がNFκB/AP-1依存的にIL-8発現を転写誘導する (Wysoczynski et al. Int J Cancer 2010)。IL-8は好中球および骨髄由来抑制細胞 (MDSC) の強力な誘引因子であり、これらの細胞の腫瘍内浸潤を促進することで免疫抑制環境を形成する (Alfaro et al. Clin Cancer Res 2016)。IL-8は腫瘍細胞 (CK陽性) とMPO (ミエロペルオキシダーゼ) 陽性細胞 (好中球) から発現し、腫瘍微小環境における多岐にわたる腫瘍促進機能を発揮することが示されている (Figure 1)。
IL-8の免疫療法抵抗性バイオマーカーとしての重要性: Schalper et al. (Nat Med 2020) による大規模解析で、血清IL-8高値が腫瘍内好中球増加・T細胞浸潤減少・免疫チェックポイント阻害薬への臨床的無益と強く相関した。ベースラインIL-8高値の患者は、免疫チェックポイント阻害薬治療においてOSが有意に短縮される傾向にあり、HR 0.41 (95% CI 0.27-0.62, p=0.001) であった。Yuen et al. (Nat Med 2020) の別の大規模研究でも、高IL-8がアテゾリズマブ治療でのOS/PFS短縮を独立予測した。Sanmamed et al. (Ann Oncol 2017) は抗PD-1治療中のIL-8変化がNSCLC・メラノーマの奏効を反映・予測することを示した。これらのデータはIL-8がTMBやPD-L1発現と独立した予測バイオマーカーとしての価値を持つことを示唆する。
NETosis機序と癌への影響: NETosisはTLR4リガンド (HMGB1)、C5a (補体活性化因子)、IL-8/CXCR1/CXCR2活性化などの刺激でROS (活性酸素種) 産生・ERKシグナルを介して誘導される。好中球顆粒プロテアーゼが細胞質に放出されて細胞骨格・核膜を分解し、PAD4 (peptidyl arginine deiminase 4) がH3ヒストンをcitrullination (シトルリン化) してクロマチンを脱凝縮させ、細胞膜破裂によりNETsが放出される (Thiam et al. PNAS 2020)。NETs上にはMPO、MMP9、好中球エラスターゼ (NE) などの活性型酵素が吸着し、機能を保持する (Papayannopoulos et al. J Cell Biol 2010)。IL-8とHMGB1が腫瘍関連NETosisの主要誘因として同定されている (Alfaro et al. Clin Cancer Res 2016)。NE-KO (NEノックアウト) およびPad4-KO (PAD4ノックアウト) マウスはin vivoでNETosis欠損を示す。NETosisを評価する方法論は、循環MPO-dsDNAヌクレオソームやCitH3の検出、組織免疫染色、フローサイトメトリーなどが含まれる (Figure 3)。
NETsの転移促進メカニズム: 肝臓pre-metastatic nicheのNETsは実験的敗血症誘導モデルで増加し、血中循環腫瘍細胞 (CTC) の捕捉を促進して転移を増加させる (Rayes et al. JCI Insight 2019)。腫瘍細胞はCCDC25 (coiled-coil domain containing 25) 受容体を介してNET-DNAと直接相互作用し、走化性・接着を増強する Yang et al. Nature 2020。Albrengues et al. Science 2018 は、煙草煙誘発性肺炎症によるNETosisが休眠中の転移細胞を覚醒させることを示した。卵巣癌大網播種においてNETsが癌細胞接着を促進する (Lee et al. J Exp Med 2019)。膵癌モデルではNETsが癌関連線維芽細胞の増殖を促進し肝転移を増加させる (Takesue et al. Int J Oncol 2020)。NETsは癌の様々な段階でプロ癌性役割を果たすことが示されている (Figure 2)。
NETsによる免疫細胞との接触遮断: 著者ら (Teijeira et al. Immunity 2020) により、肝類洞内のNETsがT細胞・NK細胞と腫瘍細胞との物理的接触を遮断することが生体内タイムラプスイメージングで直接示された。Pad4 (peptidyl arginine deiminase 4) 阻害による4T1乳癌でのNETosis抑制が抗PD-1/抗CTLA-4の組み合わせに対する腫瘍感受性を増強し、腫瘍体積が約50%減少した (p < 0.05)。KPC膵癌でのPad4-KO (PAD4ノックアウト) 腫瘍ではCD8+ T細胞浸潤増加と抗PD-1感受性増強が示された (Zhang et al. J Exp Med 2020)。DNAseI (デオキシリボヌクレアーゼI) 産生AAVベクターを用いた結腸癌転移モデルでNETs分解によりCD8+ T細胞浸潤が増加した (Xia et al. Mol Oncol 2020)。
臨床試験における治療標的化: CXCR1/CXCR2両方を阻害するアプローチ (Navarixin, SX-682, Reparixin) が進行中である。Navarixin+pembrolizumabの進行固形癌phase II試験 (NCT03473925) が実施されており、SX-682はメラノーマ phase I + pembrolizumab (NCT03161431) および骨髄異形成症候群 (NCT04245397) で試験中である。ReparixinはHER2陰性転移性乳癌 phase Ibで忍容性が確認され (Schott et al. Clin Cancer Res 2017)、三重陰性乳癌phase II (NCT02370238) に進んでいる。CXCR2選択的阻害薬AZD5069はエンザルタミドとの併用で去勢抵抗性前立腺癌 (NCT03177187) で評価中である。抗IL-8抗体HuMax-IL8はニボルマブとの併用でphase II (NCT02536469、IL-8 > 10 pg/mL患者選択) が進行中である。NETosis阻害薬として、NE阻害薬・PAD4阻害薬の前臨床でのNETosis遮断が示されており、臨床応用が検討されている。DNAseI微粒子化製剤 (半減期延長) の動物実験での有効性も示されている (Park et al. Sci Transl Med 2016)。これらの治療戦略は、IL-8/CXCR1/CXCR2軸およびNETsのプロ癌性役割を標的とすることで、免疫療法抵抗性克服に貢献する可能性を秘めている。
考察/結論
本総説は、IL-8を中心とした骨髄系細胞 (特に好中球) とNETsが形成する免疫抑制回路を整理し、その治療的破壊が免疫療法感受性を高める根拠を示している。
先行研究との違い: これまでの研究ではIL-8、好中球、NETsがそれぞれ癌進展に関与することが個別に報告されてきたが、本総説はこれらの要素がIL-8/CXCR1/CXCR2軸を介して協調的に抗腫瘍免疫を抑制し、免疫療法抵抗性を引き起こすという包括的なメカニズムを提示した点で、先行研究と異なる。特に、Gentles et al. NatMed 2015 が好中球浸潤と予後不良の関連を示したのに対し、本総説はさらにその下流のNETs形成が免疫抑制に果たす役割を強調している。
新規性: 本研究で初めて、IL-8が好中球の動員だけでなく、NETs形成を直接的に誘導し、これらのNETsが物理的バリアとしてT細胞と腫瘍細胞の接触を阻害するという新規メカニズムを統合的に提示した。また、IL-8高値がTMBやPD-L1発現と独立した免疫療法抵抗性の予測バイオマーカーであるという大規模臨床試験データ (Schalper et al. Nat Med 2020, Yuen et al. Nat Med 2020) を強調し、その臨床的意義を明確にした。
臨床応用: 本知見は、IL-8/CXCR1/CXCR2軸阻害薬やNETs形成阻害薬 (PAD4阻害薬など) といった新規治療戦略の臨床応用に直結する。特に、IL-8高値の患者群を対象としたCXCR1/CXCR2阻害薬と免疫チェックポイント阻害薬の併用療法は、免疫療法単独では効果が得られにくい患者に対する有効な治療選択肢となる臨床的意義を持つ。NETsはバイオマーカーとしての活用も期待されるが、定量法の標準化が課題である。
残された課題: 今後の検討課題として、IL-8以外のNETosis誘発因子のがん種別への寄与、CXCR1/CXCR2遮断時の代償的シグナル経路の同定、NETsの免疫原性側面 (T細胞プライミングへの貢献) とその癌種依存的役割のバランス、NE/PAD4阻害の臨床試験データの待機、治療関連NETs誘発 (化学療法・放射線) が免疫療法に与える影響の解明が挙げられる。Limitationとして、マウスモデルにおけるIL-8の欠如が、ヒトIL-8/CXCR経路のin vivoでの詳細な解析を困難にしている点が挙げられる。また、循環NETsの定量法の標準化と、その動態が組織内のNETosisを正確に反映するかどうかの検証も重要な残された課題である。
方法
本論文はレビュー記事であるため、特定の実験方法論は適用されない。本総説の作成にあたり、PubMed、Embase、Web of Science などの主要な医学文献データベースを用いて、2020年12月までの関連文献を広範に検索した。検索キーワードには、「IL-8」「CXCL8」「CXCR1」「CXCR2」「neutrophils」「NETs」「NETosis」「cancer immunity」「immunotherapy resistance」などを含めた。文献の選択基準は、IL-8、好中球、NETsが癌免疫および免疫療法に与える影響に関する前臨床マウスモデル (同系・異種移植)、ヒト癌患者コホート、バイオマーカー研究の既報論文とした。特に、IL-8がマウスゲノムには存在しないため、マウスCXCR1/CXCR2とヒトIL-8の相互作用、ヒトIL-8トランスジェニックマウスを用いた研究の限界についても議論した。文献の質は、系統的レビューの原則に従い、専門家による評価に基づいて判断した。本レビューでは、エビデンスレベルのグレーディングは行わず、既存の知見を統合・整理することに重点を置いた。具体的には、IL-8の腫瘍促進多機能性、免疫療法抵抗性バイオマーカーとしての重要性、NETosisの分子機序、NETsの癌における転移促進メカニズム、免疫細胞との接触遮断、および臨床試験における治療標的化の現状について、関連する研究結果を収集・分析した。