• 著者: Abbie S. Ireland, Alexi M. Micinski, David W. Kastner, Bingqian Guo, Sarah J. Wait, Kyle B. Spainhower, Christopher C. Conley, Opal S. Chen, Matthew R. Guthrie, Danny Soltero, Yi Qiao, Xiaomeng Huang, Szabolcs Tarapcsák, Siddhartha Devarakonda, Milind D. Chalishazar, Jason Gertz, Justin C. Moser, Gabor Marth, Sonam Puri, Benjamin L. Witt, Benjamin T. Spike, Trudy G. Oliver
  • Corresponding author: Trudy G. Oliver (University of Utah)
  • 雑誌: Cancer Cell
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-05-30
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 32473656

背景

小細胞肺がん (SCLC) は、臨床的に単一の疾患として扱われてきた神経内分泌腫瘍であるが、極めて予後不良である。近年の大規模な遺伝子発現解析により、SCLCは系統決定転写因子である ASCL1 (SCLC-A)、NEUROD1 (SCLC-N)、POU2F3 (SCLC-P)、または YAP1 (SCLC-Y) の発現に基づいた 4 つの異なる分子サブタイプに分類されることが示されている Zhang et al. TranslLungCancerRes 2018。これらのサブタイプはそれぞれ独自の治療的脆弱性を有することが示唆されており、精密医療における層別化の重要性が増している。

SCLC-A サブタイプはヒトSCLCの約 70% を占め、ASCL1 は肺神経内分泌細胞 (PNEC) の発生に必須のマスターレギュレーターである。多くの Rb1/Trp53 (RP) 欠損遺伝子改変マウスモデル (GEMM) において、成人 PNEC が ASCL1 [+] 腫瘍の細胞起源となることが報告されており Sutherland et al. CancerCell 2011、MYCL の増幅や高発現が SCLC-A の発生に必要であることが知られている。対照的に、SCLC-N, SCLC-P, SCLC-Y の 3 サブタイプ(全体の約 30%)は MYC の増幅または過剰発現を伴う傾向があり、低神経内分泌 (non-NE) の細胞運命を示す。

Notch シグナルは PNEC の運命決定と SCLC の腫瘍形成において二面的な機能を持ち、約 25% の腫瘍で Notch 受容体の機能喪失変異が認められる George et al. Nature 2015。Notch 機能の喪失は細胞を自己複製能を持つ NE [stem] 様の状態に固定し、SCLC への寄与が想定されている。一方で、一部のヒト SCLC では Notch が活性化しており、non-NE への分化を促進することが報告されている。しかし、MYC と NOTCH の機能的な関係性や、これらが SCLC の各分子サブタイプの起源および相互関係にどのように関与しているかは未解明であり、その進化的軌跡に関する知識が不足している。

目的

本研究の目的は、SCLC における分子サブタイプの起源と、それらの間の相互関係における MYC の機能を明らかにすることである。特に、MYC がどのようにして神経内分泌 (NE) 表現型から non-NE 表現型への転換を駆動し、ASCL1 [+] から NEUROD1 [+]、そして YAP1 [+] という異なるサブタイプへの時系列的な進化を誘導するのかを、マウスおよびヒトのモデルを用いて検証することを目的とした。

結果

MYC による複数の SCLC 分子サブタイプの誘導: Myc 駆動型 (RPM) および Mycl 駆動型 (RPR2) の SCLC GEMM を用いて解析した。Ad-Cgrp-Cre を用いて PNEC を特異的に形質転換させたところ、RPM および RPR2 モデルの初期 in situ 病変では ASCL1, SYP, CGRP, UCHL1, DLL3 などの NE マーカーが高発現していた。浸潤期において、RPR2 腫瘍は NE-high の特性を維持したが、RPM 腫瘍では NE マーカーの発現が有意に減少していた (Fig 1A, 1B)。RPM 腫瘍では NEUROD1, YAP1, HES1, ZEB1, CD44 などの non-NE マーカーの発現を獲得していた (Fig 1C, 1D)。一方、POU2F3 は PNEC 由来の RPM 腫瘍ではほとんど検出されなかったが、一般プロモーター (Ad-CMV-Cre) を用いた RPM マウスでは POU2F3 発現が濃縮されていた (Fig 1E, 1F)。POU2F3 [+] 腫瘍の解析では、約 44% が他のサブタイプマーカーを発現せず、残りの多くは POU2F3 と NEUROD1 を共発現していた (Fig 1G, 1H)。

in vitro における SCLC サブタイプの時系列進化: RPM マウスから単離した初期腫瘍細胞を培養したところ、約 20 日間で形態的な転換が観察された。初期は典型的な NE-high の球状凝集塊を形成していたが、次第に non-NE の variant 様の「チェーンリンク」形態へと変化した (Fig 2B, 2C)。マーカー解析では、5 日目に ASCL1 と NE マーカーが高発現し、5 日から 12 日にかけて NEUROD1 が一過性に発現し、その後 10 日から 24 日にかけて REST, YAP1, NOTCH2, N2ICD, HES1 などの non-NE マーカーが発現した (Fig 2D)。対照的に RPR2 細胞は ASCL1 を維持し non-NE マーカーを誘導しなかった。また、ヒト SCLC 細胞株 (H889, H1963) に Myc [T58A] を異所的に発現させると、形態が variant 様に変化し non-NE マーカーが誘導された (Fig 2E, 2F)。この際、細胞の円形度 (circularity) は H889 で 0.59 ± 0.06 から 0.27 ± 0.03 (p<0.0001) へと低下し、クラスターサイズは 79.4 ± 35.3 μm から 17.0 ± 3.5 μm (p<0.009) へと減少した。

単一細胞 RNA-seq による進化的軌跡の同定: RPM 腫瘍細胞の培養過程(4 日から 21 日)を scRNA-seq で解析した (n=31,519 total cells)。tSNE クラスタリングにより、4-7 日の ASCL1-high クラスターから、11 日、14-21 日の non-NE クラスターへと遷移する様子が示された (Fig 4B, 4C)。擬時間 (pseudotime) 解析および拡散マップ (diffusion mapping) により、腫瘍細胞が NE-high から non-NE 状態へと単一の線形軌跡を辿ることが判明した (Fig 4D, 4F)。この軌跡は Ascl1 → Neurod1 → Yap1 の順で発現が推移しており、RPM 腫瘍内でも同様の軌跡が確認された。RPM1 腫瘍では 88% の細胞が初期段階に留まっていたが、RPM4 腫瘍では 62% の細胞が後期段階 (YAP1-high) に達していた (Fig 4D)。

Notch シグナルによる NE 脱分化の駆動: MYC がどのように NE 表現型を転換するかを解析したところ、MYC は Notch2, Hes1, Hes6, Jag2 などの Notch シグナル構成因子の直接的な標的として結合していた (Fig 6F)。NE スコアを用いた解析では、7 日から 11 日にかけて NE アイデンティティが劇的に減少した (Fig 6D)。MYC-ChIP スコアは 11 日目以降に有意に上昇し、この時期が NE 脱分化の鍵となる遷移状態であることが示された (Fig 6E)。また、ヒト SCLC のデータ解析において、MYC 高発現サンプル (n=30) はすべて NOTCH 野生型 (WT) またはサイレント変異であり、NOTCH 機能喪失変異を持つサンプルでは MYC 発現が有意に低く、すべて NE-high であった (p<0.01) (Fig 7G)。

Notch 阻害による腫瘍進行の抑制: γ-セクレターゼ阻害剤 (GSI-IX) である DAPT を用いて Notch シグナルを遮断した。in vitro では、DAPT 処理により variant 形態への転換が 10 日目から 20 日目へと遅延し、ASCL1, INSM1, EPCAM, NEUROD1 の発現が延長した (Fig 7A, 7B)。in vivo では、DAPT (20 mg/kg) を 10 日間投与した RPM マウスにおいて、コントロール群と比較して腫瘍負荷が有意に減少した (p<0.004) (Fig 7C, 7D)。DAPT 処理群の腫瘍では ASCL1 および DLL3 の発現レベルが有意に上昇し (p<0.0001, p<0.03)、NEUROD1 および YAP1 の発現が減少していた (Fig 7E, 7F)。

ヒト SCLC における腫瘍内不均一性: CIBERSORT 解析により、多くのヒト SCLC 腫瘍が MYC 駆動型進行の複数の段階にある細胞を保持していることが予測された (Fig 8A, 8B)。実際に 21 例の化学療法未治療ヒト SCLC 生検組織を IHC で解析したところ、多くの腫瘍が複数のサブタイプを保持しており、特に MYC 陽性例 (n=3/21, 14%) では単一サブタイプのみの例はなく、67% が 2 サブタイプ、33% が 3 サブタイプを保持していた (Fig 8D)。また、化学療法再発後のヒト SCLC 肝生検の scRNA-seq 解析では、ASCL1 [+] と NEUROD1 [+] の個別の集団が認められ、MYC の高発現は特に NEUROD1-high 集団と重複していた (Fig 8F, 8G)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究の結果は、SCLC の各分子サブタイプを独立した別個の疾患単位として捉える従来の視点とは異なり、これらが MYC 駆動の単一の進化的軌跡上の異なる段階であることを示した。特に、SCLC-A から SCLC-N を経て SCLC-Y へと至る時系列的な遷移を機能的に実証した点は、静的な解析に留まっていたこれまでの報告と対照的である。

新規性: 本研究で初めて、MYC が Notch シグナルを直接活性化することで神経内分泌運命を再プログラミングし、NE-high 状態から non-NE 状態への脱分化を誘導することを新規に同定した。また、SCLC-P サブタイプが PNEC とは異なる細胞起源から MYC によって誘導される可能性を提示したことも重要な知見である。

臨床応用: 本知見は、SCLC の治療戦略における臨床的意義が極めて高い。腫瘍が進行に伴いサブタイプを変化させる「動く治療標的 (moving therapeutic target)」であるため、単一のサブタイプを標的とした治療では不十分である可能性が示唆される。化学療法が依然として有効である理由は、進化する複数のサブタイプに対して非特異的な細胞毒性を発揮できるためと考えられ、今後はサブタイプの不均一性と進化を予測した組み合わせ治療の開発が translational な課題となる。

残された課題: 今後の検討課題として、SCLC-A から SCLC-Y への移行において NEUROD1 が必須であるのか、あるいはバイパス経路が存在するのかを解明する必要がある。また、Hippo/YAP1 シグナルや EMT の詳細な機能的役割についてもさらなる研究が求められる。Limitation として、Notch 阻害の有効性は薬理学的評価に基づいているため、今後は遺伝的な Notch ノックアウトモデルを用いた厳密な検証が必要である。

方法

動物モデルおよび腫瘍誘導: Rb1 [fl/fl]; Trp53 [fl/fl]; MycT58A [LSL/LSL] (RPM) および Rb1 [fl/fl]; Trp53 [fl/fl]; Rbl2 [fl/fl] (RPR2) マウスを使用した。Ad5-CGRP-Cre, Ad5-CMV-Cre, Ad5-CCSP-Cre, Ad5-SPC-Cre などのアデノウイルスを経鼻投与し、特異的な細胞群を形質転換させた。

細胞培養および形態解析: RPM マウスの肺から単離した初期腫瘍細胞を suspension 文化し、21 日間にわたる形態変化を観察した。形態定量には円形度 (circularity) やクラスターサイズなどの指標を用いた。ヒト SCLC 細胞株として H889, H1963, H1092, GLC1 等を用い、Myc [T58A]-Ires-Gfp の導入により運命転換を誘導した。

シングルセルおよびバルク RNA-seq: RPM 腫瘍細胞の時系列サンプル (n=31,519 cells) に対して 10X Genomics による scRNA-seq を実施した。バルク RNA-seq データは、SCLC-subtype-specific gene signatures の構築および GSEA (Gene Set Enrichment Analysis) に利用した。擬時間解析には Monocle 2 を、拡散マップ解析には destiny を使用した。

ChIP-seq およびエピゲノム解析: 浸潤期 RPM 腫瘍 (n=4) を用いて MYC の ChIP-seq を行い、H3K27Ac の結合状態と照合して標的遺伝子を同定した。

薬物投与および画像解析: RPM マウスに DAPT (20 mg/kg) または DBZ (14 mg/kg) を腹腔内投与した。腫瘍負荷の定量には Quantum GX2 microCT を用い、Analyze 11.0 ソフトウェアで体積解析を行った。

統計解析: 2 群間の比較には Student’s two-tailed unpaired t test を用い、多群比較や相関解析には Pearson 相関などを適用した。p 値は p<0.05 を有意とした。