- 著者: C. Johnson, D.L. Burkhart, K.M. Haigis
- Corresponding author: K.M. Haigis (Dana-Farber Cancer Institute, Boston, MA)
- 雑誌: Cancer Discovery
- 発行年: 2022
- Epub日: 2022-03-15
- Article種別: Review
- PMID: 35373279
背景
KRASを含むRASファミリー原癌遺伝子は約40年前にマウスの軟部組織腫瘍を引き起こすレトロウイルスから単離され、最初期に発見された癌遺伝子の一つである。HRAS・NRAS・KRASの3メンバーのうち、KRASはヒト癌で最も高頻度に変異が検出される。膵臓腺癌・肺腺癌・大腸腺癌・多発性骨髄腫で変異頻度が>20%に達し、特に膵臓腺癌ではKRAS変異が実質的に全例で検出される。
正常KRAS蛋白はGDP/GTP二元スイッチとして機能し、細胞表面受容体からの下流シグナル伝達を制御する。不活性GDP結合状態からGEF (guanine nucleotide exchange factor) — 代表的にはSOS1 — によるGDP放出・GTP装填を経て活性状態へ移行し、GAP (GTPase-activating protein) — NF1やp120GAP — によってGTP加水分解が促進され不活性状態に戻る。この精巧なサイクルにより下流エフェクター (RAF/MEK/ERK MAPKカスケード、PI3K-AKT経路、RALGDS (RAL guanine nucleotide dissociation stimulator) 等) の活性化が厳密に制御されている (Wittinghofer & Vetter, Annu Rev Biochem 2011)。
KRAS変異はこのGTP加水分解サイクルを障害することで持続的な活性型KRAS-GTPを蓄積し、RAS下流シグナルを恒常的に活性化させることが過去40年の構造機能研究で明らかにされてきた (Grand & Owen 1991; Haigis, Trends Cancer 2017)。しかし多様なKRAS変異アレルを単一の「KRAS変異」として扱う従来の枠組みでは、各変異体が持つ異なる生化学的特性 — GTP加水分解速度の差異、ヌクレオチド交換速度の差異、各エフェクターへの結合親和性の差異 — を反映した治療戦略の立案が困難であった。特に、KRAS直接阻害薬が長年「不可能」とみなされGDP状態への共有結合という戦略が注目されるまで、変異特異的な薬物設計の概念的枠組みが手薄な状態が続いた。
BRAFの発癌性変異が機能的クラスに分類されたことで (Yaeger & Corcoran, Cancer Discov 2019)、クラス別の治療戦略が有効であることが示された。2021〜2022年にかけてKRAS G12C特異的共有結合阻害薬のsotorasib (FDA承認) とadagrasib (ブレークスルー指定) が臨床で有効性を示したことで、KRASが「druggable」であることが証明された (Skoulidis et al. NEnglJMed 2021)。KRASアレルが組織によって異なる生物学的特性と協調変異パターンを示すことも明らかになりつつあったが (Cook et al. NatCommun 2021)、G12C以外の変異型には直接阻害薬が存在せず、各変異の生化学的特性と治療感受性を体系的に関連付ける分類枠組みが根本的に欠如しており、変異特異的な治療設計を困難にしていた点が当該分野における主要な未解決課題として残されていた。本論文はその gap in knowledge に応え、過去の知見を統合した機能的分類体系と、各クラスへの治療含意を提示する。
目的
KRAS活性化変異アレルをGTP加水分解速度・ヌクレオチド交換速度・エフェクター結合親和性という3つの生化学的軸に基づき機能的クラスに分類する体系を構築する。G12C阻害薬の成功から導かれる原則を他変異型への治療戦略拡張に応用するための枠組みを提示し、生殖細胞系列KRAS変異 (RASopathy: RAS pathway germline syndrome) との生物学的連関を整理することで、変異クラス特異的治療法開発への含意を示す。
結果
KRASの変異頻度と癌種別アレル分布:KRASは膵臓腺癌・肺腺癌・大腸腺癌・多発性骨髄腫において変異頻度>20%を示す最頻変異癌遺伝子であり、米国における推定新規発症数との積で見ると膵臓癌・肺癌・大腸癌でそれぞれ年間100,000〜250,000例規模の患者がKRAS変異を持つ (Fig. 2A)。AACR Project GENIEの解析では、変異アレルの分布が癌腫によって著しく異なることが明らかになった (Fig. 2B)。膵臓腺癌 (n=3,816) ではGly12変異が全KRAS変異の97%超を占め、アレル多様性が極めて低い。一方、非小細胞肺癌 (n=5,041) ではGly12変異が主体ながらGly13・Ala59・Gln61等が混在し、大腸腺癌 (n=5,247) ではさらに多様性が高く、多発性骨髄腫 (n=1,262) ではGly12・Gly13・Gln61・Lys117・Ala146の分布がほぼ均等に近い。Gln61変異は黒色腫 (melanoma) で特徴的に高頻度であり、膵臓腺癌や肺腺癌ではほとんど観察されない組織特異的パターンを示す。この組織特異的なアレル分布は、各変異アレルが特定の組織背景でより効率的な発癌を引き起こすことを示唆し、治療戦略の組織別・アレル別設計の必要性を意味する。
Class 1 (Gly12 [Glycine 12]: GAP阻害型) — 最頻度クラスの生化学と治療:Gly12残基での任意のアミノ酸置換 (G12C・G12D・G12V・G12A・G12S・G12R等) は、GAP (NF1・p120GAP) によるGTP加水分解促進を強く阻害する (Scheffzek et al. Science 1997)。多くのGly12変異体では固有GTP加水分解活性も低下し、GTP結合型 (活性型) KRASの定常状態レベルが上昇する。これにより下流エフェクターへの持続的な結合と活性化が生じる。ただし各アミノ酸置換によって機能特性には差異があり、例えばG12Rは膵臓腺癌において他のGly12変異と比較してp110α (PI3K触媒サブユニット) への結合とmacropinocytosisの駆動が著しく低下することがマウスモデルで示され、MAPKシグナルへの依存性の観点からPI3K非依存的MAPK阻害薬感受性の可能性が提唱されている (Hobbs et al. Cancer Discov 2020) (Fig. 2B)。G12Dは膵臓癌と肺腺癌で異なる下流シグナルパターンを誘導することが示されており、同一変異でも組織背景によって治療戦略が異なる可能性を示す (Brubaker et al. Cell Syst 2019)。G12C変異は唯一Cys12のチオール基を共有結合の標的として活用できる変異型であり、GDP結合型 (不活性コンフォメーション) のCys12への共有結合でKRASを不活性状態に固定するsotorasibとadagrasibが開発された。重要なのは、KRAS G12CがGAP促進加水分解には抵抗性を持ちながら固有GTPase活性と非典型的GAP (RGS3等) による加水分解感受性を保持しており、これがGDP結合プールの維持を可能にし共有結合阻害薬の作用機序を成立させる前提条件となっている (Li et al. Science 2021) (Fig. 1A)。
Class 2 (Gly13/Lys117/Ala146等: 超高速ヌクレオチド交換型) — 新たな治療機会と課題:Class 2変異はGTPのγリン酸基から離れた位置に存在し、ヌクレオチド自体への親和性低下と活性部位閉鎖の障害により、GEFに依存せずにヌクレオチド交換速度が著しく亢進する (hyper-exchange) 特性を持つ (Poulin et al. Cancer Discov 2019; Johnson et al. Cell Rep 2019)。細胞内GTP濃度はGDPより高いため、交換が速くなるほど自律的にGTP結合状態を維持しやすく、持続的なKRAS活性化をもたらす。さらに、Class 2変異はGEFとの協働により超高速交換が誘導され、GEFが機能的に不要になるほど交換が速い場合にはSOS1阻害薬への内因性抵抗性が生じる可能性がある。Gly13Dは固有GTP加水分解とNF1特異的GAP促進加水分解を保持しており (p120GAPへの感受性は低下)、これが転移性大腸癌患者においてKRAS G13D腫瘍がGly12変異腫瘍と異なりEGFR阻害薬 (cetuximab等) に部分的感受性を示す機序として提唱されている (De Roock et al. JAMA 2010; McFall et al. Sci Signal 2019)。G13Dはマウス大腸上皮でのG12D比で減弱した過増殖表現型を示し、RAFキナーゼへの親和性低下がその一因とされる。Class 2はGly13・Lys117・Ala146に加え、Ala18・Leu19・Thr20・Gln22・Leu23・Phe28・Asp57・Asn116・Asp119・Lys147等の変異も同クラスに分類される予測があり (Fig. 2D)、全体としては癌体細胞変異の中で無視できない割合を占める。各Class 2変異の詳細な生化学的特性の違いや組織特異的影響については、既存研究よりも体系的な解析が不足している状態である。
Class 3 (Ala59/Gln61等: GTP加水分解阻害と超高速交換の複合型) — 変異間の機能的多様性:Switch II領域の活性部位に位置するAla59とGln61の変異は、GTPのγリン酸基への近接性からGTP加水分解を阻害すると同時に活性部位の閉鎖を障害することでヌクレオチド交換も亢進させるというハイブリッドな特性を持つ (Class 3; Fig. 2C, D)。同一残基Gln61でもアミノ酸置換によって機能が大きく異なる点が重要である。Q61Kは固有およびGAP促進GTP加水分解の両方を阻害し中等度のヌクレオチド交換亢進を示す一方で、SOSとKRASの相乗的交換反応を阻害し、RAF kinaseへの結合親和性を増強しながらPI3K結合を低下させる。その結果、Q61K発現の非小細胞肺癌細胞はRAF二量体依存的MAPK経路への依存性が非常に高く (Zhou et al. Cancer Res 2020)、かつSHP2 (Src homology phosphatase 2) 阻害薬への抵抗性も示す (Gebregiworgis et al. Nat Commun 2021)。一方Q61LはGEF機能への感受性を保持しており、同一残基での異なる置換が機能的に全く異なる表現型をもたらすことを示す代表例である。Class 3変異はGln61を中心に黒色腫で高頻度に観察されるが、膵臓腺癌ではほとんど観察されず組織特異的なアレル選択圧の存在を示唆する (Fig. 2B)。
Class 4 (表面/コア位置変異) とRASopathy生殖細胞系列変異の生物学:グアニンヌクレオチドと直接相互作用しない表面または核心残基の変異 (Class 4; Fig. 2D) は生化学的特性の多くが未解明であり (TBD)、癌体細胞変異としては非常に稀である (n=18,399 解析でごく少数)。代わりにこれらの変異はNoonan症候群 (NS)・心顔皮膚症候群 (cardiofaciocutaneous syndrome: CFCS)・Costello症候群 (CS) 等のRASopathyにおける生殖細胞系列変異として多く観察される (Rauen, Annu Rev Genomics Hum Genet 2013) (Fig. 3B)。Noonan症候群で最多のKRAS変異はK5N・V14I・T58I・P34R・D153Vであり、これらは体細胞変異としては極めて稀である。V14Iはマウスモデルで小体格・顔面奇形・心臓過形成・骨髄増殖性疾患等Noonan症候群の臨床像を忠実に再現し、炎症またはp53欠失と協調して膵管内上皮腫瘍 (pancreatic intraepithelial neoplasia: PanIN) を誘導可能である。生殖細胞系列変異の多くは高速ヌクレオチド交換活性を持ちながらRAFや他のエフェクターへの親和性が低下しており、完全な癌遺伝子としての機能を持たない理由と考えられる。K5NとD153Vは野生型と同等の加水分解・交換活性を持ちながら血漿膜上でのKRASの配向を変化させてエフェクターの活性化効率を高める機序が提唱されているという点で独特であり、KRAS活性化の多様な機序を示す。Mosaic型RASopathy (Schimmelpenning-Feuerstein-Mims症候群・cutaneous skeletal hypophosphatemia syndrome等) では、癌で観察されるG12D・G12V・Q61H・G13D・A146T等の高発癌性変異が体の一部の細胞にモザイク状に存在して局所的な発育異常を来す。これは同一変異が全身発現 (生殖細胞系列) では致死的 (G12Dは胚致死) であっても、部分的発現 (モザイク) では限局した表現型を示すという文脈依存的な機能の典型例である。
G12C阻害薬の作用機序・耐性機構と臨床応用:sotorasibとadagrasibはGDP結合型KRAS G12CのCys12への共有結合により不活性コンフォメーションを固定するという革新的な機序を持つ (Skoulidis et al. NEnglJMed 2021)。CodeBreaK 100試験 (肺腺癌、n=97) ではsotorasibがORR 37.1%・PFS中央値6.8か月 (95% CI 5.1–8.2か月) を達成し (p<0.001 vs. 歴史的対照)、KRYSTAL-1試験 (n=112) ではadagrasibがORR 42.9%を示した。臨床で観察される耐性機序は多様であり、(1) 変異アレルの増幅、(2) MAPK経路下流構成要素への変異獲得によるシグナル再活性化、(3) oncogenic fusion獲得 (例: ALK・RET融合等)、(4) cellular state transition (transdifferentiation)、(5) KRAS自体への二次変異 — の5カテゴリに整理される (Awad et al. NEnglJMed 2021; Koga et al. J Thorac Oncol 2021)。二次KRAS変異は特に興味深く、G12C変異と同一アレル (cis) では超高速ヌクレオチド交換を誘導するClass 2型変異が付加されてGDP固定を回避し、または結合ポケット内のHis95・Tyr96変異が阻害薬の共有結合を立体的に阻害する。His95変異はadagrasib特異的耐性でsotorasib感受性を保持する一方、Tyr96変異は両薬剤に影響する。とりわけH95NはgnomAD (Genome Aggregation Database) 解析でSNP (rs1309399018) として人口の約1/30,000人 (対立遺伝子頻度 3.3×10⁻⁵) に存在することが示されており、このSNPをG12C変異と同一アレルに持つ患者はadagrasibへの内因性耐性が予測される — 臨床前ゲノタイピングの重要性を示す知見である。SHP2阻害薬との組み合わせは、RTK (receptor tyrosine kinase) シグナルからGEF活性化へのノードであるSHP2を遮断することでGDP結合KRAS G12Cプールを増大させ、G12C阻害薬の作用機序を増強する合理的な戦略として位置づけられる (Fedele et al. J Exp Med 2021) (Cook et al. NatCommun 2021)。
下流標的化アプローチの限界:KRAS直接阻害薬開発以前の主要な戦略であったMEK阻害薬 (cobimetinib・trametinib等のFDA承認薬) はKRAS変異癌では不十分な効果に終わった。その主要機序として、MEK阻害によるERKの負のフィードバック遮断が逆説的にMEKの再活性化 (feedback reactivation) を引き起こすことが挙げられる。PI3K・AKT・mTOR経路との組み合わせは過大な毒性が問題となった。これらの失敗は、変異KRASの下流エフェクターを標的とする戦略が、各癌腫の組織特異的シグナリングパターン・協調変異の複雑性・フィードバックループによって予測困難になるという本質的な限界を示しており、変異KRASの直接標的化の重要性を裏付ける。
考察/結論
これまでの研究との違いと本分類体系の独自性:KRASの発癌機序については過去40年にわたり多数の構造・生化学・遺伝学的研究が蓄積されてきたが、既報の多くは個別の変異アレル (特にGly12) の特性に焦点を当てており、多様なKRAS変異を生化学的機能グループとして統一的に整理する体系的枠組みは確立されていなかった。これまでの研究では、全KRASの変異を「KRAS変異陽性」として一括して扱うか、せいぜいG12D・G12C等の特定変異を個別に取り扱う水準に留まっており、治療戦略に直結する分類システムが存在しなかった点が本論文と対照的である。本論文の新規の貢献は、BRAFの発癌性変異クラス分類 (Yaeger & Corcoran 2019) をKRASに拡張適用し、GTP加水分解・ヌクレオチド交換・エフェクター結合の3軸による4クラス分類体系を構築したことにある。これにより「KRAS変異陽性」という単一カテゴリを超えて、各変異の薬物標的化可能性を論理的に予測・設計できる枠組みが初めて確立された。
新規の概念的枠組みとその意義:本論文が新規に提示する概念は、KRAS変異の多様性を「生化学的機能グループ」として扱う新規のパラダイムシフトである。G12C阻害薬が成功した理由がCys12固有の化学的特性 (チオール基への共有結合) にあることを踏まえると、各変異型は固有の薬物標的化可能な特性を持つという原則が成立する。本分類はこの原則を他変異型に拡張するための枠組みを提供し、例えばClass 2超高速交換型への戦略としてのSOS1/SHP2阻害薬、G12DへのAsp12依存性非共有結合型阻害薬 (MRTX1133: non-covalent KRAS G12D inhibitor等) 開発の概念実証が既に進行していることを文脈づける。G12C耐性機序の解析から得られた知見 — 特にClass 2型cis変異の付加による超高速交換を介した耐性、His95/Tyr96等の結合ポケット変異 — は、将来の変異クラス特異的阻害薬設計において耐性予測モデル構築の基盤としても機能する。
臨床応用への含意:本分類体系の最も直接的な臨床応用は、KRAS変異癌患者に対する治療選択の合理化である。Class 2変異 (特にG13D) 大腸癌患者でのEGFR阻害薬感受性 (cetuximab等) は、部分的NF1感受性保持という分類体系に基づく機序仮説から予測可能であり、Lys117・Ala146等の他のClass 2変異への適応拡大可能性を示す。G12R変異膵臓癌でのPI3K経路非依存性とMAPK依存性の高さは、PI3K阻害薬を除外しMAPK選択的治療を優先する根拠となる。さらに、G12C阻害薬前にゲノタイピングでH95N SNPの同定を行うことで、adagrasib内因性耐性患者へのsotorasib選択、または両薬剤に影響しないTyr96変異耐性への組み合わせ戦略の設計が可能になるという臨床的意義を持つ。
残された課題と今後の検討:本分類体系の構築は多くの point を整理したが、複数の重要な残された課題が存在する。第一に、Class 4変異の生化学的特性の解明は現時点で不完全であり (多くが未解明)、これらの変異が癌やRASopathyにどのような影響を与えるかの体系的解析が不足している。第二に、各クラス内でもアレル間の機能的多様性が大きく (例: Q61KとQ61Lの差異)、クラス単位の治療戦略がクラス内の全変異に均一に有効かは未検証である。第三に、組織特異的な協調変異パターンや細胞種特異的なGAP/GEF発現・フィードバックループが各クラスの治療戦略に与える影響の定量化が今後の検討として残されている。第四に、G12C阻害薬で明らかになった二次耐性変異機序を踏まえた先制的耐性対策の組み込み (例: SHP2阻害薬の初期からの併用) が実証的に検証されていない。これらの限界は本分類体系をより精緻に発展させ、KRAS変異の生物学的文脈 (tissue, co-mutation, clonal architecture) を統合した個別化治療設計モデルの構築という future research の方向性を指し示している。
方法
本論文はPubMed・MEDLINE・Embaseを主要な文献データベースとして過去40年間のKRAS生化学・細胞生物学・構造生物学・臨床研究の文献を包括的にレビューし、KRAS変異の機能的分類に関する知見を統合した。分類体系の構築には、Protein Data Bank (PDB) に収載された複数のKRAS結晶構造 (GDP結合型: PDB 6MBT、GTP結合型open: PDB 4EFL、GTP結合型closed/active: PDB 6XI7等) を用いた構造的解析を基盤とした。
変異アレルの癌種別頻度と分布の解析には、AACR Project GENIEデータベースを用いた。膵臓腺癌 (n=3,816)・非小細胞肺癌 (n=5,041)・大腸腺癌 (n=5,247)・多発性骨髄腫 (n=1,262) の4癌腫と、体細胞変異全体 (n=18,399) のデータセットから変異アレル分布を解析した (Fig. 2B, D)。生殖細胞系列変異はNSEuroNet (European Network for Neurofibromatosis Research, NSEuroNet) データベース (RASopathy症例, n=80) から、ヒトゲノム中の一塩基多型はgnomADデータベース (SNP, n=37) から取得した (Fig. 3B)。G12C阻害薬の臨床データおよび耐性機序の解析には、sotorasib (CodeBreaKLung試験: CodeBreaK Lung sotorasib phase III study) およびadagrasib (KRYSTAL-1試験: KRAS G12C-specific phase I/II clinical trial) の公表データを参照した。アレル特異的生物学的特性に関するマウスモデルデータは既発表の遺伝子改変マウス研究を引用・統合した。変異クラスの分類基準には、(1) GAP促進GTP加水分解への感受性、(2) 固有GTP加水分解速度、(3) ヌクレオチド解離・交換速度、(4) RAF・PI3K等の主要エフェクターへの結合親和性、の4軸を用いた。引用された臨床研究では Kaplan-Meier 生存分析・log-rank 検定・Cox 比例ハザードモデルによる生存解析が主要統計手法として用いられており、ORR・無増悪生存期間 (PFS) を主要評価指標として参照した。