• 著者: Kyle J. Seamon, Yongxian Zhuang, Yu Chi Yang, Sujata Chakraborty, James Cregg, Aidan C.A. Tomlinson, Andrea Gould, Ethan Ahler, Benjamin J. Maldonato, Jessica N. Spradlin, Kristof Pota, Caroline Weller, Abby Marquez, Zhican Wang, Elena S. Koltun, John E. Knox, Adrian L. Gill, Jaqueline A.M. Smith, Mallika Singh, Jingjing Jiang, David Wildes, Matthew Holderfield
  • Corresponding author: Matthew Holderfield (Revolution Medicines, Inc.)
  • 雑誌: Cancers
  • 発行年: 2026
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • DOI: N/A

背景

RASファミリー遺伝子 (KRAS、NRAS、HRAS) はヒトがんで最も頻繁に変異するがん遺伝子の一つである。RASタンパク質はGDP結合の不活性状態 (OFF) とGTP結合の活性状態 (ON) を行き来するGTPaseであり、RTKによって活性化されたGEFが促進するヌクレオチド交換により活性化、GAP (NF1など) が促進するGTP加水分解により不活性化される。がん関連変異の大半はコドン12 (G12X)、13 (G13X)、61 (Q61X) の変異であり、すべて定常状態のRAS(ON)レベルを上昇させてがん細胞増殖を促進する。しかしコドン間・コドン内で生化学的・構造的・細胞生物学的特性が大きく異なることが示されており、変異体特異的治療戦略が必要である可能性が指摘されていた (Johnson et al. Cancer Discov 2022、(Johnson et al. CancerDiscov 2022))。

これまでFDA承認のKRAS標的薬はKRAS G12C変異を標的とする共有結合阻害薬 (sotorasib、adagrasib) に限られ、多数のKRAS変異型に対応する薬剤は存在しなかった (Hong et al. NEnglJMed 2020)。Revolution Medicinesが開発したRAS(ON)三元複合体阻害薬プラットフォームは細胞内シャペロンCypAとRAS(ON)を架橋して阻害する機序を用い、G12C選択的 (elironrasib)、G12D選択的 (zoldonrasib)、マルチ選択的 (RMC-7977/daraxonrasib) 阻害薬を生み出してきた (Molina-Arcas et al. CancerDiscov 2026)。しかし、コドン13変異 (特にKRAS G13C) に特化した共有結合阻害薬は報告されておらず、G13X変異の独自の生化学的特性と治療標的としての可能性は未解明であった。本研究はこの知識上のギャップを埋めるため、KRAS G13C選択的RAS(ON)阻害薬RMC-8839を設計・開発し、コドン13 RAS変異の生物学的特性と野生型RAS依存性を包括的に解明することを目的とした。

目的

コドン13 RAS変異タンパク質の独自の生化学的特性 (安定性・ヌクレオチド交換・GTP加水分解) を体系的に解明するとともに、KRAS G13C選択的RAS(ON)共有結合三元複合体阻害薬RMC-8839を開発し、KRAS G13C変異腫瘍における単剤および併用療法の前臨床効果を評価すること。

結果

G13X変異タンパク質の独自の生化学的特性: 野生型KRASおよびコドン12・13・61の18種類のKRAS変異体を体系的に生化学解析した。尿素変性とパルスプロテオリシスによる構造安定性測定では、G12X変異体は野生型と同等または若干安定であったが、G13X変異体 (特にG13V) はKRASの折り畳み状態を大幅に不安定化した。ヌクレオチド交換速度定数の測定では、G13X変異体全般が野生型より高い自発的ヌクレオチド交換速度を示し、特にG13Cはコドン12変異体 (G12XはすべてほぼWT同等) と明確に異なった (Fig. 1F)。GTP内因性加水分解速度については、G12X変異体が多様な程度で低下していたのに対しG13X変異体は野生型と同等の速度を保持していた。RASA1 GAP刺激GTP加水分解では、G13Cは野生型より120倍、G13Aは10-20倍感受性が低下していたが、G12X・Q61X変異体 (>400倍以上の感受性低下) に比べはるかに感受性を保持していた (Fig. 2A-B)。NF1 GAP刺激では、G13X変異体が最も感受性を維持し (野生型比10-40倍低下)、G12Rが最も鈍感であった。これらのデータは、G13X変異はG12Xとは根本的に異なる生化学的クラスを形成することを示す。

コドン13 RAS変異における野生型RAS共変異濃縮とin vivoでの低腫瘍原性: NSCLC患者データからKRAS G13C変異とG12C変異の共変異プロファイルを比較したところ、NF1機能喪失変異およびBRAF クラスII/III変異がG13C腫瘍で有意に濃縮されていた (オッズ比>2、p<0.05) (Fig. 2D)。同様の傾向がCRCのG13D vs. G12D比較でも確認された。同一遺伝的背景を持つ同質遺伝子MIA PaCa-2細胞株でG12C/G12D vs. G13C/G13D変異体を比較したところ、G13X株はG12X株より細胞スフェロイド増殖が遅かった (Fig. 2E)。また、G13C MIA PaCa-2を免疫不全マウスに皮下移植すると、G12C移植と異なり24日以内に腫瘍増殖を維持できなかったが、NF1ノックアウトを導入したG13C細胞株では力強い腫瘍増殖を示した (ただしG12C株より遅い) (Fig. 2G)。これはG13X変異が低発がん能を有し、追加の経路活性化機構 (NF1喪失やBRAFクラスII/III) との協調によって初めて腫瘍形成を駆動することを示唆する ((Yao et al. Nature 2017))。

経口RAS(ON) G13C選択的共有結合阻害薬RMC-8839の創製: Crystal structure guided drug designにより、G12C選択的化合物のリンカーをピロリジンからスピロ環に変換することでG13C部位への共有結合形成効率を大幅に改善し、RMC-8839を同定した (Fig. 3)。KRAS G13C(ON)/CypA/RMC-8839三元複合体のX線結晶構造はRAS-CypA結合面の接触を確認した。インビトロ生化学アッセイでのRMC-8839のKRAS G13Cに対する_kinact_は2.83 ± 0.46 × 10^-3 s^-1、_KI_は28.3 ± 19.7 nMで、kinact/_KI_は約10^5 M^-1 s^-1であった (Fig. 3H)。RMC-8839はKRAS G13Cに対して野生型RASより22〜311倍(アッセイ依存)の選択性を示した (Fig. 3L)。NCI-H1734 (KRAS G13C変異NSCLC) 異種移植腫瘍モデル (n=8匹/群) では、RMC-8839 100 mg/kg単回経口投与で3時間以内に>90%の標的関与を達成し、24時間にわたり>75%を維持した。腫瘍DUSP6 mRNA(RAS-MAPKシグナルの代替指標)は>95%抑制が24時間維持された (Fig. 4B)。28日間連続投与 (100 mg/kg QD) では腫瘍増殖が停止 (tumor stasis) し、NSCLC PDXモデルでも腫瘍退縮が確認された。

KRAS G13C変異細胞株でのRMC-8839への不均一な応答と野生型RAS依存性の解明: KRAS G13C変異6細胞株 (n=6細胞株) のパネルで4時間RMC-8839処置後のpERKを評価したところ、4/6株では完全なpERK抑制を示したが、NCI-H1355とTOV-21G (tumor-derived ovarian variant) の2株ではKRAS G13Cの85-95%共有結合修飾にもかかわらずpERKの有意な抑制が得られなかった (Fig. 5A)。一方、マルチ選択的阻害薬RMC-7977はこれら2株のpERKを完全に抑制したことから、残存シグナルが野生型RAS依存性であることが示された。WT-RAS (KRAS、NRAS、HRAS) ノックアウト細胞株を作製したところ、野生型RAS欠失NCI-H1355・TOV-21GではRMC-8839単剤でpERKが完全消失し (Fig. 5B)、非応答細胞株の抵抗性が野生型RASのシグナルによることが確定した。バーサルレベルの活性型GTP結合RASを測定したところ、部分応答株では野生型NRAS/HRASの活性化レベルが有意に高かった (Fig. S15)。これらはコドン13 RAS変異腫瘍が変異型KRASと野生型RASの協調的シグナルに依存することを示す。

RAS(ON)ダブレット併用療法による深部・持続的腫瘍退縮: RMC-8839とdaraxonrasib (RAS(ON)マルチ選択的阻害薬) の併用を検討した。単剤投与ではNCI-H1734腫瘍のDUSP6 mRNAが単回投与24時間後に再活性化されたが、両剤の組み合わせでは24時間超にわたる持続的RASシグナル抑制が達成された (Fig. S18A)。28日間腫瘍増殖試験では、RMC-8839もdaraxonrasibも腫瘍増殖を抑制したが、深部・持続的な腫瘍退縮は併用でのみ達成された (Fig. 6D)。NSCLCのPDXモデルでも同様の組み合わせが86日間にわたる持続的腫瘍退縮を達成し、体重低下なく良好な忍容性が確認された (Fig. S18C)。これはKRAS G13C変異腫瘍に対してRAS(ON)ダブレット戦略が必要であることを前臨床で実証する (Molina-Arcas et al. CancerDiscov 2026)。

考察/結論

本研究は、コドン13 RAS変異がコドン12変異と根本的に異なる生化学的クラスを形成し、その低腫瘍原性を野生型RAS活性化で補完することを包括的に示した最初の研究であり、G13C変異を標的とした初の経口RAS(ON)選択的共有結合阻害薬RMC-8839を提示した。

① 先行研究との違い:先行研究ではKRAS G13DがNF1 GAPに対してG12D変異より感受性が高いことが報告されていたが、本研究はG13X変異クラス全体にわたって体系的な生化学解析を行い、GAP感受性保持・GTP加水分解能維持・安定性低下・ヌクレオチド交換増加が共通して見られることをG13C、G13D、G13V、G13Aを含む複数変異体で確立した点でこれまでと異なる。また、G12Cに対する既存のOFF状態共有結合阻害薬 (sotorasib/adagrasib) はG13Cに利用できず、RAS(ON)三元複合体プラットフォームが必要であることを構造生物学的に説明した。

② 新規性:KRAS G13C変異腫瘍が変異型と野生型RASの両シグナルに依存するという概念を生化学・ゲノミクス・等質遺伝子細胞株・WT-RAS KOモデルの多角的証拠で本研究で初めて体系的に確立した。さらにRMC-8839という最初のKRAS G13C選択的RAS(ON)共有結合阻害薬の創製と、RAS(ON)ダブレット (G13C選択的+マルチ選択的) という新規組み合わせ戦略により、変異型・野生型両RASを同時標的とすることで深部腫瘍退縮が達成できることを示した点が新規である。

③ 臨床応用:本研究の臨床的含意は、KRAS G13C変異NSCLC/CRC患者に対する単剤RMC-8839と、より深奏功が期待されるRAS(ON)ダブレット (RMC-8839+daraxonrasib) 療法の臨床開発に直接つながる点にある。患者の共変異プロファイル (NF1/BRAF共変異の有無) が単剤感受性の予測因子となりうるが、単剤抵抗性に明確なゲノムマーカーが同定できなかった知見は、コドン13変異患者全般に対してRAS(ON)ダブレット戦略を検討すべきことを示唆する。KRAS G13D変異CRC患者でのcetuximab有効性(KRAS G12D患者では無効)は、コドン13変異がRTK/野生型RAS軸に依存しやすいという本研究知見と整合する。

④ 残された課題:RMC-8839単剤に対する部分応答株 (NCI-H1355、TOV-21G) での野生型RAS活性化機序 (既知のNF1/BRAF共変異では説明できなかった) の解明が今後の検討課題である。また、RAS(ON)ダブレット長期投与時の耐性機序の同定、最適な患者層別化バイオマーカーの開発、G13C以外のG13X変異(G13D、G13V)への本戦略の適用可能性検証が必要である。コドン13変異の独自生物学を踏まえた抗腫瘍免疫との連携についても探索が期待される (Molina-Arcas et al. CancerDiscov 2026)。

方法

  • 試験デザイン: Revolution Medicines社主導前臨床研究。生化学・細胞・異種移植モデル。
  • タンパク質: His6-TEV-KRASイソフォーム4B (残基1-169) およびHis6-TEV-CypAをpET28ベクター/BL21(DE3) E. coli から発現。ニッケルアフィニティークロマトグラフィー+サイズ排除クロマトグラフィーで精製。KRASは非加水分解性GTPアナログ (アルカリホスファターゼ存在下でGDP交換) でロード。
  • X線結晶解析: APS (Advanced Photon Source、Lemont, IL) ビームライン 100K。XDS、Phaser (分子置換)、AceDRG (リガンド制約)、Coot/REFMAC5/phenix.refineで構造精密化。
  • 生化学アッセイ: 尿素変性+パルスプロテオリシス(安定性)、mantGDP蛍光消光(ヌクレオチド交換速度)、薄層クロマトグラフィー(内因性GTP加水分解)、EC50によるGAP感受性評価 (NF1のGAP触媒ドメイン、RASA1)。nanoBRET による RBD (receptor-binding domain) 相互作用のリアルタイム測定。
  • 共有結合修飾速度論: 過剰CypA存在下でRMC-8839濃度依存的にKRAS G13C(ON)への共有結合を追跡、kinact/KI 算出。
  • 細胞株: NCI-H1734 (KRAS G13C、NSCLC)、NCI-H1355 (KRAS G13C、NSCLC)、TOV-21G (tumor-derived ovarian variant, KRAS G13C)、NCI-H1975 (EGFR変異・野生型RAS)、MIA PaCa-2 (G12C/G12D/G13C/G13D同質遺伝子株)、A375 (BRAF V600E)。野生型RASノックアウト株はCRISPRにより KRAS/NRAS/HRAS を同時ノックアウト。
  • 共変異解析: 公開変異プロファイル (COSMIC等) を用いてKRAS G12X vs. G13X NSCLC/CRCの共変異 (機能的影響が既知または推定される変異) を比較。オッズ比/p値算出(Fisher検定)。
  • 異種移植モデル: 免疫不全マウス、NCI-H1734 CDXおよびNSCLC PDXモデル、経口投与。DUSP6 mRNA(腫瘍)とpERK IHCによる薬力学評価(n=5-8匹/群)。
  • 統計: 平均値±SD/95% CI。共変異オッズ比はFisher’s exact検定、多群比較はANOVA + Dunnett post-hoc。GraphPad Prismで解析。