- 著者: Keith T. Flaherty, Robert J. Gray, Alice P. Chen, Shuli Li, Lisa M. McShane, David Patton, Stanley R. Hamilton, P. Mickey Williams, A. John Iafrate, Jeffrey Sklar, Edith P. Mitchell, Lyndsay N. Harris, Naoko Takebe, David J. Sims, Brent Coffey, Tony Fu, Mark Routbort, James A. Zwiebel, Larry V. Rubinstein, Richard F. Little, Carlos L. Arteaga, Robert Comis, Jeffrey S. Abrams, Peter J. O’Dwyer, Barbara A. Conley (NCI-MATCHチーム)
- Corresponding author: Keith T. Flaherty (Massachusetts General Hospital Cancer Center, Boston)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-10-13
- Article種別: Original Article
- PMID: 33048619
背景
がんゲノミクスの進展は、特定の分子異常を標的とした治療が、個別のがん種に依存せず有効性を示す可能性を示唆してきた。例えば、慢性骨髄性白血病におけるBCR-ABL転座、乳癌におけるERBB2増幅、黒色腫におけるBRAF変異、肺腺癌におけるEGFR変異やALK転座など、がん種特異的な標的治療の成功例が多数報告されている。Paez et al. Science 2004、Kwak et al. NEnglJMed 2010。しかし、BRAF阻害薬が大腸癌では期待外れに終わった事例のように、前臨床エビデンスが必ずしも臨床結果と一致しないことも明らかになった。
近年、ミスマッチ修復欠損 (MMR欠損) やNTRK融合のような稀な腫瘍横断的バイオマーカーに対するペムブロリズマブやラロトレクチニブのFDA承認は、がん種に縛られない「tissue-agnostic」アプローチの実現可能性を明確に示した。Cocco et al. NatRevClinOncol 2018。しかし、より頻度の高いアクショナブル変異について、全米規模で地理的に分散した多数の施設が参加するゲノムガイド型バスケット試験が実現可能であるか、またその際の分子プロファイリングの成功率や治療アームへの割付率はどの程度になるのかは、依然として未解明な点が多かった。特に、大規模な多施設共同研究において、中央集約的な次世代シーケンシング (NGS) の技術的実現可能性、迅速な結果返却、および治療アームへの効率的な患者割付の課題が残されていた。
NCI-MATCH (Molecular Analysis for Therapy Choice; NCT02465060) 試験は、このような背景のもと、NCI/ECOG-ACRINが設計した米国初の全国規模ゲノムガイド型バスケット試験として、多様な難治性がん患者を対象に分子標的治療の腫瘍横断的有効性を検討することを目的とした。この試験は、大規模な患者コホートにおけるゲノムスクリーニングの実現可能性を評価し、アクショナブル変異の頻度と種類、そして治療アームへの実際の割付率を明らかにすることで、精密医療の普及に向けた重要な知識ギャップを埋めることを目指した。特に、進行再発がん患者におけるゲノムランドスケープの特性、および治療耐性をもたらす可能性のある併存変異の頻度に関する詳細なデータが不足しており、本試験はその解明に貢献することが期待された。
目的
本研究の目的は、1,000施設以上が参加する大規模多施設共同試験において、中央集約的な次世代シーケンシング (NGS) による腫瘍分子プロファイリングの技術的実現可能性を評価することである。具体的には、難治性進行がん患者集団におけるアクショナブル変異の頻度、種類、および治療アームへの割付率を明らかにすることを目的とした。また、本試験は、治療標的変異を有する患者における併存する耐性関連変異の頻度を調査し、単剤標的治療の限界と併用療法の必要性に関する知見を得ることも目指した。さらに、NCI-MATCHコホートのゲノムランドスケープを、未治療原発腫瘍のデータセットであるThe Cancer Genome Atlas (TCGA) と比較し、進行再発がんにおける遺伝子変異の特徴を記述的に評価することも目的とした。これにより、全国規模のゲノムガイド型バスケット試験が、多様な癌種と治療歴を持つ患者集団に対して、精密医療アプローチをどの程度適用できるかを包括的に評価することを目指した。
結果
NGSの高い技術的成功率: 5,954例の提出検体のうち、5,540例 (93.0%) でNGSが成功した。これは、全国規模の中央集約的NGSの技術的実現可能性を実証するものであった。NGS失敗の主な原因は、検体中の腫瘍量不足や壊死のみの組織であった。検体受領から結果返却までの中央値は16日、75パーセンタイルは23日と迅速であった。
アクショナブル変異の検出率は37.6%: NGSが成功した5,540例中、37.6%の患者でアクショナブル変異が検出された。最も多く検出されたアクショナブル変異はPIK3CA (11.8%) であり、次いでPTEN (6.3%) であった。その他の個別アクショナブル変異はいずれも3%以下であった。TP53変異が47.4%、KRAS変異が21.2%、APC変異が12.4%と高頻度に認められた。最も頻繁な変異共存はKRASとTP53の12.1%であった (Figure 1)。
実際の治療アーム割付率は17.8% (95% CI 16.8-18.8): 分子的・臨床的除外基準適用後の割付率は26.4%であったが、アームのスロット制限や完全同時利用不可を加味した実際の治療アーム割付率は17.8% (985/5,540例) であった。割付された患者の70%が実際に治療サブプロトコルを受け、30のアームのうち11アームが登録目標 (各31例以上) を達成した。目標変異頻度1.5%未満のアームは18サブプロトコルが登録目標未達であった。
癌種別のアクショナビリティの著明な差: 治療アームへの割付率が25%を超えた癌種は、CNS癌 (37.2%)、尿路上皮癌 (36.0%)、肛門癌 (25.5%)、子宮頸癌 (28.4%)、胃食道癌 (27.8%)、黒色腫 (26.3%)、子宮体癌 (26.2%)、胆道膵臓癌 (25.9%) であった (Table 2)。一方、膵癌では5.8%、小細胞肺癌では5.1%、リンパ腫では5.0%と著しく低率であった。非小細胞肺癌 (NSCLC) は17.4%、大腸癌は13.7%、乳癌は17.8%、前立腺癌は23.0%であった。
高頻度の共存耐性変異 (71.3%): アクショナブル変異陽性例の71.3%に、標的治療に対する一次耐性を付与しうる変異が共存していた。アクショナブル変異陽性例のうち37.6% (723/2,083例) は、共存耐性変異のため治療アームから除外された。例えば、PIK3CA変異陽性例の31.3%にRASまたはPTENの耐性変異が共存し、除外対象となった。複数のアクショナブル変異は11.9%に認められた。さらに、アームに割付された患者の54.0%に、TP53 (45.0%)、KRAS (13.8%)、APC (12.5%) などの腫瘍抑制遺伝子機能喪失変異が共存していたが、これらは除外基準には該当しなかった。
NCI-MATCHとTCGAの比較: NCI-MATCHコホートとTCGAの未治療原発腫瘍コホートにおける上位10遺伝子の変異頻度は概ね類似していた (NCI-MATCH 52.8% vs TCGA 44.1%が共存SNV) (Figure 2)。しかし、前立腺癌での低アンドロゲン療法後のアンドロゲン受容体変異 (46%)、乳癌でのエストロゲン受容体変異 (25%)、EGFR変異NSCLC患者でのEGFR T790M変異 (前EGFR阻害薬治療後の約50%) など、選択的治療圧による特定の進化パターンが確認された (Figure 3)。胆道膵臓癌では、TCGA (n=23) と比較してNCI-MATCH (n=153) の方がサンプルサイズが大きく、より正確なアクショナビリティ評価が可能であった。胆管細胞癌ではIDH1変異 (17%)、CDKN2A変異 (10%)、BRAF変異 (7%)、ERBB2変異 (6%)、NRAS変異 (6%)、IDH2変異 (5%)、FGFR2変異 (3%) が検出され、肝内胆管癌での割付率は29.1% (12の異なるアームに割付) と高率であった。
考察/結論
NCI-MATCH試験は、米国の1,117施設が参加した全国規模の複雑なゲノムガイド型試験として、大規模多施設共同試験の実現可能性を史上初めて実証した。93.0%という高いNGS技術的成功率と37.6%のアクショナブル変異検出率は、精密医療アプローチが地理的に多様な難治性がん患者に広く適用可能であることを示した。
先行研究との違い: 本試験で観察されたアクショナブル変異検出率37.6%は、Zehir et al. NatMed 2017が報告したMSKCC単施設での大規模シーケンシングコホート (10,000例) の結果と概ね一致しており、NCI-MATCHが国民代表性の高い集団を反映していることを示唆する。しかし、NCI-MATCHは単一施設ではなく全国規模で実施された点で、これまでの研究とは対照的である。実際の治療アーム割付率が17.8%にとどまった主な理由は、アームのスロット制限と臨床基準による除外であり、もし30アームが常時同時利用可能であれば26.4%まで改善できたとの推計は、今後のプラットフォーム試験設計への重要な示唆を与える。
新規性: 本研究で初めて、進行再発がん患者集団において、アクショナブル変異陽性例の71.3%という高頻度で標的治療に対する一次耐性を付与しうる併存変異が認められることを新規に同定した。これは、単剤標的治療の限界を明確に示し、併用療法レジメンの必要性を強く示唆する新規の知見である。また、TP53・KRAS・APC変異が62%の患者に認められた事実は、これらの腫瘍抑制機構の喪失を間接的に標的とする治療戦略の必要性を強調する。
臨床応用: 本知見は、精密医療の臨床応用において、単一の分子標的のみに注目するのではなく、共存する耐性変異や複数のアクショナブル変異を考慮した治療戦略の重要性を示唆する。特に、高い共存耐性変異率は、単剤標的治療の限界を明確にし、併用療法レジメンの臨床的有用性を示唆する。また、全国規模での安全な腫瘍生検の実施可能性と迅速なNGS結果返却は、精密医療を臨床現場に広く導入するための基盤となる。
残された課題: 今後の検討課題として、各治療アームにおける有効性の正式報告、アームを超えた比較解析、および免疫チェックポイント阻害剤との組み合わせ戦略の検討が挙げられる。また、本研究では限られた遺伝子パネルを使用しており、より広範なゲノムプロファイリング (例: 全エクソームシーケンシング) が、オフターゲット経路や新たな耐性メカニズムの特定にどのような情報をもたらすかについても、今後の研究で明らかにする必要がある。Limitationとして、本研究のNGSアッセイは既知の融合遺伝子のみを検出し、新規の融合遺伝子を検出する能力は限定的であった点が挙げられる。
方法
NCI-MATCH試験は、2015年8月12日から2017年5月22日の期間に、米国内の1,117施設で合計6,391例の患者を登録した。対象患者は、標準治療後に進行した、または治癒的治療法が存在しない固形腫瘍、リンパ腫、骨髄腫の成人患者であった。腫瘍検体は、中央施設であるMD Anderson Cancer Center (MDACC) のTissue Qualification Laboratoryに送付された。腫瘍生検は、NCI-MATCHスクリーニング専用に実施されたもの (n=4,629) または6か月以内のアーカイブ検体 (n=1,211) が使用された。スクリーニング生検に関連する有害事象は、生検後30日以内に評価され、Grade 3有害事象が26例 (0.6%)、Grade 4有害事象が7例 (0.2%) であり、生検関連死亡は0例であった。
次世代シーケンシング (NGS) は、Oncomine AmpliSeqパネル (ThermoFisher Scientific) を用いて、中央適合した4施設で実施された。このアッセイは、143遺伝子、4,000以上の注釈付きバリアント (一塩基置換、挿入・欠失、増幅、選択的転座を含む) を、最小リード深度500×で解析した。一部のアームでは、PTEN発現、MLH1/MSH2核発現、Rb発現の免疫組織化学 (IHC) も追加で実施された。検体受領から結果返却までの中央値は16日、75パーセンタイルは23日であった。
アクショナブル変異の定義は、事前に設定された基準に基づき、有望な治験薬が存在する分子異常とされた。患者は、分子的・臨床的除外基準を適用した後、利用可能な30の並行単群第II相サブプロトコル (治療アーム) のいずれかに割付された。本報告では、5,954例の分子スクリーニング結果と、治療アームへの割付状況を解析した。NCI-MATCHコホートのゲノム変異プロファイルは、The Cancer Genome Atlas (TCGA) のデータと比較され、7種類のがん種におけるSNV (single nucleotide variant) の頻度と種類が記述的に評価された。統計解析には、共起変異の頻度、癌種別のアクショナブル変異検出率、および治療アーム割付率の算出が含まれた。