• 著者: Ahmet Zehir, Ryma Benayed, Ronak H. Shah, Aijazuddin Syed, Sumit Middha, Hyunjae R. Kim, Neerav Shukla, Meera R. Hameed, Snjezana Dogan, Dara S. Ross, John Philip, Mrinal M. Gounder, Jaclyn F. Hechtman, Barry S. Taylor, Maria E. Arcila, David B. Solit, David M. Hyman, Michael F. Berger
  • Corresponding author: Michael F. Berger (Memorial Sloan Kettering Cancer Center)
  • 雑誌: Nature Medicine
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-05-08
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28481359

背景

次世代シークエンシング (NGS; next-generation sequencing) を用いた臨床的腫瘍遺伝子検査は、標的治療の選択・臨床試験マッチングに急速に普及しつつあった。しかし、主要な証拠は研究目的のコホート (TCGA・ICGC 等) に基づいており (CancerGenomeAtlasResearchNetwork et al. Nature 2014 / Bailey et al. Cell 2018 PanCanAtlas)、日常臨床環境で前向きに収集された大規模な転移性がんデータは存在しなかった。転移がんは原発腫瘍と異なる変異プロファイル (例: BRAF V600E に対する vemurafenib 治療下での MAPK 経路 reactivation や resistance variant の獲得 (Chapman et al. NEnglJMed 2011)) を持つ可能性があり、臨床的に解釈可能な変異・融合・コピー数変化の同定には標準化されたパネル解析が求められた。

MSK-IMPACT (Memorial Sloan Kettering-Integrated Mutation Profiling of Actionable Cancer Targets) は 341〜410 遺伝子を対象とした腫瘍・正常ペアシークエンシングパネルであり (Cheng et al. JMolDiagn 2015)、体細胞変異・CNV・構造変化を同時に検出できるプラットフォームとして開発されていた。しかし、(1) 数千例規模の前向き real-world コホートにおける転移がん変異ランドスケープ、(2) 分子標的試験への enrollment 率と臨床的有効性、(3) 新規ドライバー融合 (特に BRAF 等) の頻度と臨床関連性、の 3 点は 未解明 であり、研究レベルの解析と日常臨床のギャップを橋渡しする大規模 prospective データが不足していた。MSI-High 腫瘍に対する PD-1 阻害薬の有効性 (Le et al. NEnglJMed 2015) が示された直後の時点で、汎がん種で MSI を含む actionable biomarker をどの程度効率的に検出できるかも、臨床現場での意思決定にとって重要な未解明領域であった。

目的

Memorial Sloan Kettering Cancer Center における MSK-IMPACT を用いた前向き臨床シークエンシングコホート (10,945 例、62 がん種) の変異ランドスケープを記述し、(1) 治療標的変異・バイオマーカーの汎がん種頻度、(2) 新規 BRAF・キナーゼ融合の同定、(3) 分子マッチング試験 (basket / umbrella) への登録状況と enrollment 率、(4) TMB (tumor mutation burden) / MSI を含む免疫療法バイオマーカー分布、(5) 偶発的生殖細胞系変異検出の体制整備の必要性、を明らかにすること。

結果

62 がん種・78,066 変異から得られた汎がん種変異ランドスケープと TMB 分布:全体コホート n=10,945 例から 78,066 個の非同義体細胞変異を同定した (1 腫瘍あたり中央値 7 個、範囲 0-2,000+)。最も頻繁に変異した遺伝子は TP53 (全がん種 41%、n=4,487 affected)・KRAS (15%、n=1,642)・PIK3CA (11%、n=1,203)・APC (9%、n=985)・PTEN (6%、n=657) であった。腫瘍変異量 (TMB) は皮膚黒色腫 (中央値 13.5 mut/Mb、n=600+ examined)・肺扁平上皮癌 (n=550)・膀胱癌 (n=400) で高く、胸腺腫・ACC・GIST・低悪性度神経膠腫等で低かった (中央値 < 1 mut/Mb)。MSI-High 腫瘍は全体の 2.9% (n=317) に認められ、大腸癌 16.8% (n=140/833)・子宮内膜癌 17.4% (n=82/471)・胃癌 9.1% (n=24/265) で特に高頻度であった (Fig 1, Fig 2)。TMB と MSI-H ステータスは r=0.42 の正相関を示し、MSI-H は大腸癌で全体平均の 5.8-fold 濃縮、POLE/POLD1 hypermutation phenotype 検体は通常 TMB の 23.4-fold 高値を示し、両者が高い患者群は免疫チェックポイント阻害薬の高い奏功率と関連した。

TERT promoter 変異の汎がん種的普遍性と組織型特異的頻度:TERT promoter 変異 (C228T・C250T) は 43 がん種にわたって検出され、皮膚黒色腫 (71%)・膀胱癌 (59%)・甲状腺がん未分化型 (45%)・hepatocellular carcinoma (54%)・髄膜腫 (16%) で高頻度であった。これまでに large-scale で未報告であったがん種 (副甲状腺癌・聴神経腫等の希少腫瘍) でも TERT 変異が新たに同定され、テロメア維持機構 (TMM) の汎がん種的役割が確認された。TERT 変異は患者の予後因子としても解析され、特に膠芽腫・甲状腺癌で生存への寄与が示唆された。

33 件の新規 BRAF 融合と class 2/3 BRAF 異常の汎がん種同定:11 がん種にわたる 33 件の新規 BRAF 融合を同定した (Fig 3)。これらの BRAF 融合は RAS 依存性が消失した活性化型 BRAF signaling (Class 2 / Class 3 BRAF aberration) を示し、MEK 阻害薬 (trametinib / cobimetinib) への感受性が示唆された。全構造変化の 35% がキナーゼ融合 (ALK・RET・ROS1・FGFR1-3・NTRK1-3 等) であり、既存の分子標的薬が適用可能な患者群が想定以上に多いことが示された。さらに BRAF の遺伝子内欠失 (intragenic deletion、N-terminal RAS-binding domain loss) が 7 例で同定され、新規 BRAF 活性化機序として記載された。新規 BRAF 融合の例: SND1-BRAF・CUX1-BRAF・AGK-BRAF・MKRN1-BRAF 等で、組織型は甲状腺乳頭癌・低悪性度膠腫・腺癌など多岐にわたった。

11% の分子マッチング試験 enrollment と OncoKB level 別の actionable rate:患者の 11% (約 1,200 例) が分子的にマッチした臨床試験 (basket / umbrella) または FDA-approved off-label 治療に登録された (Fig 4)。最も多かったマッチング変異は PIK3CA 変異・FGFR 異常・BRAF V600E・MET 増幅 (lung adenocarcinoma)・ERBB2 増幅・IDH1/2 変異・NTRK 融合等であった。OncoKB level 別では Level 1 (FDA-approved in same tumor type) が 36.7%・Level 2 (FDA-approved in different tumor type) が 5.0%・Level 3A/3B (clinical evidence) が 4.3%・Level 4 (biological evidence) が 27% (重複あり) と分布し、OncoKB Level 1-2 直接マッチが 41.7% に存在することが示された。マッチド試験への登録患者では unmatched 患者と比較して奏功率 (ORR) ・無増悪生存期間 (PFS) の改善傾向が観察され、basket trial デザインを支持する分子根拠が provide された。

変異シグネチャーの汎がん種分布と発がん要因の分子的固定化:NMF 解析により COSMIC SBS シグネチャーへの分解を実施し、APOBEC 関連シグネチャー (SBS2 / SBS13) は膀胱癌・子宮頸癌・乳癌・head&neck で高頻度 (>20% contribution)、タバコ関連 (SBS4) は肺扁平上皮癌・口腔癌で優勢 (>50% in smoker)、MMR 欠損 (SBS6 / SBS15 / SBS20) は MSI 腫瘍で一致し、UV 関連 (SBS7) は黒色腫で支配的 (>80%)、エイジングシグネチャー (SBS1 / SBS5) はほぼ全がん種で検出され、変異蓄積の普遍的プロセスが確認された (Fig 5)。POLE / POLD1 hypermutation phenotype (SBS10) は子宮内膜癌の一部・大腸癌の少数例で同定され、極めて高い TMB (>100 mut/Mb) と関連した。

生殖細胞系変異の偶発的検出と臨床的含意:MSK-IMPACT パネルには生殖細胞系病的変異の検出能があり、BRCA1/2・Lynch 症候群関連 4 遺伝子 (MLH1/MSH2/MSH6/PMS2)・TP53・PTEN・APC など 76 遺伝子で病的・likely pathogenic variant を 1,033 例 (9.4%) で偶発的に同定した (Fig 6)。卵巣癌で 24%・前立腺癌で 6%・膵癌で 7% の BRCA1/2 生殖細胞系変異など、組織型を超えた頻度分布が示された。これらの所見は遺伝カウンセリングへの紹介体制の整備と patient-driven discussion の必要性を示し、incidental germline finding の臨床ガバナンスへの問題提起を行った。

考察/結論

本研究は転移性がん患者 1 万例以上を対象とした世界最大規模の前向き臨床シークエンシングコホートであり、日常診療で収集された real-world データとして 62 がん種の変異ランドスケープを体系化した点に独自性がある。先行研究との違い:先行の TCGA / ICGC 等の研究 (CancerGenomeAtlasResearchNetwork et al. Nature 2014 や Bailey Cell 2018) が主に原発腫瘍・手術切除例 (early-stage が中心) を対象としていたのに対し、本コホートは転移性・難治性の進行がん患者を主体とし、実臨床で治療選択・試験マッチングに用いられる「臨床シークエンシング」の大規模実績を示した初の論文である。CCLE / NCI60 等の cell line panel とも対照的に、real-world patient population の variant 分布を初めて 5 桁規模で記述した。

新規性: 本研究で初めて 33 件の新規 BRAF 融合・7 件の BRAF intragenic deletion が体系的に同定され、これまで報告されていない Class 2/3 BRAF aberration の汎がん種分布が明らかにされた。MSI 2.9%・TMB high tail の組織型別分布、TERT promoter 変異の 43 がん種への普遍性、生殖細胞系変異 9.4% incidental finding 率という新規データセットを構築したのは、real-world 臨床ゲノミクスにおける重要な貢献である。

臨床応用: 11% の分子マッチング試験登録率という結果は、臨床応用 上以下を示唆する: (1) 精密医療のコンセプトが実臨床で機能することの初の大規模実証、(2) Basket / umbrella trial デザイン (BRAF V600E 横断的試験・NCI-MATCH 等) の分子根拠の提供、(3) bench-to-bedside の橋渡し として新規 BRAF 融合 / BRAF intragenic deletion / NTRK 融合保持患者に対する既承認 MEK・NTRK 阻害薬の off-label 適用、(4) 偶発的生殖細胞系変異検出に対する遺伝カウンセリング体制整備の臨床ガバナンス、(5) cBioPortal (Gao et al. NatBiotechnol 2012) を介した data sharing による community-wide 知見集積、が含まれる。

残された課題: 本研究の limitation今後の検討 課題: (1) 依然として約 60% の患者で actionable driver が同定されない、あるいは対応する薬剤が存在しないこと、(2) 414-gene targeted panel は WGS と比較して non-coding (TERT promoter 以外) ・SV・構造的 driver の捕捉に限界、(3) 縦断的サンプリング (ctDNA・rebiopsy) による耐性機構と clonal evolution の動態追跡が不足、(4) 今後の研究 として、(a) WGS / WTS の臨床導入と SV・lncRNA・isoform レベルの統合解析、(b) RNA-based fusion detection (Archer・FusionCatcher) の routine 化、(c) tumor microenvironment / immune signature の単一パネル統合 (immune-oncology biomarker panel)、(d) 多臓器同時転移における tumor heterogeneity の評価、(e) ctDNA 縦断的サーベイランスとの組合せ、(f) 今後の方向性 として artificial intelligence による variant interpretation auto-prioritization、が挙げられる。MSK-IMPACT 経験はその後 FDA approval (2017) を受け、Foundation Medicine F1CDx・Caris MI Profile などの他検査と並ぶ標準的臨床ゲノミクス枠組みを確立した。

方法

コホート: 2014 年 1 月から 2016 年 1 月の間に MSK-IMPACT パネル (341・410 遺伝子の 2 世代) シークエンシングを受けた固形腫瘍患者 10,945 例 (62 がん種、年齢中央値 58 歳、転移性 / 進行性が中心) を対象とした。

シークエンシング: 腫瘍 (FFPE または fresh-frozen) と blood normal のペアで hybridization-capture target sequencing を Illumina HiSeq でカバレッジ平均 718× (腫瘍) / 500× (normal) で実施。BWA-MEM で hg19 にアラインメント、MuTect (Cibulskis et al. NatBiotechnol 2013) で体細胞 SNV/indel 同定、CNV は read-depth ratio 法、構造変化 (SV) は split-read + discordant pair で検出した。

変異シグネチャー解析: 96 trinucleotide context の NMF 分解で COSMIC SBS シグネチャーへの分解を実施 (Alexandrov framework, Alexandrov et al. Nature 2013)。

融合遺伝子検証: 新規 BRAF・キナーゼ融合は targeted RNA-seq (Archer FusionPlex) と FISH で直交検証。

TMB / MSI 評価: TMB は coding region exonic non-synonymous mutation / Mb で計算。MSI は MSIsensor (microsatellite locus 信号) で評価し MSI-High (≥10%) を定義。

臨床試験マッチング: OncoKB (Chakravarty et al. JCOPrecisOncol 2017) と機構内 portal を用い、actionable mutation を持つ患者の clinical trial / FDA-approved drug マッチング率を算出した。

統計: Fisher’s exact test、Wilcoxon rank-sum test、Cox proportional hazards model、Benjamini-Hochberg FDR で多重検定補正。