• 著者: Emiliano Cocco, Maurizio Scaltriti, Alexander Drilon
  • Corresponding author: Alexander Drilon (Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY)
  • 雑誌: Nature Reviews Clinical Oncology
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-11-12
  • Article種別: Review
  • PMID: 30333516

背景

NTRK1、NTRK2、NTRK3は、それぞれ神経成長因子である NGF (nerve growth factor)、脳由来神経栄養因子である BDNF (brain-derived neurotrophic factor) またはニューロトロフィン4である NT-4 (neurotrophin 4)、およびニューロトロフィン3である NT-3 (neurotrophin 3) を特異的リガンドとする受容体型チロシンキナーゼ(TRKA、TRKB、TRKC)をコードするプロトオンコジーンである。これらのTRK受容体は、細胞外のリガンド結合ドメイン、単回膜貫通ドメイン、および細胞内のチロシンキナーゼドメインから構成され、正常な神経系の発生、分化、および機能維持において必須の役割を果たす。リガンドが結合すると受容体はホモ二量体化し、キナーゼドメインの自己リン酸化(TRKAのY680/Y681など)を介して、下流のMAPK、PI3K/AKT、および PLCγ (phospholipase Cγ) シグナル伝達経路が活性化される。受容体チロシンキナーゼを介した細胞内シグナル伝達の基本原理については、これまでに多くの基礎研究によって明らかにされてきた Lemmon et al. Cell 2010

がんにおけるTRK受容体の異常活性化機構として最も重要なものが、染色体転座、逆位、または欠失によって生じるNTRK融合遺伝子である。NTRK融合遺伝子は、NTRK1/2/3のキナーゼドメインをコードする3’側配列と、異なるパートナー遺伝子の5’側配列が結合することで形成される。多くのパートナー遺伝子はコイルドコイルドメインなどの二量体化ドメインを有しており、これによりキナーゼドメインがリガンド非依存的に常時二量体化し、持続的な下流シグナルの活性化と細胞のがん化を引き起こす。

近年のゲノム解析技術の進歩に伴い、NTRK融合遺伝子は多様な成人および小児の固形がんにおいて、腫瘍型を横断して検出される強力なオンコジェニックドライバーであることが判明した。肺がんにおけるALK融合遺伝子 Solomon et al. NEnglJMed 2014 や、ROS1融合遺伝子 Shaw et al. NEnglJMed 2014 Bergethon et al. JClinOncol 2012 に対する分子標的療法の劇的な成功を背景に、NTRK融合遺伝子を標的とした治療薬開発が進められてきた。しかし、腫瘍型を問わない(tumor-agnostic)治療標的としてのNTRK融合遺伝子の包括的な頻度分布や、日常臨床における最適な検出アルゴリズム、さらには治療介入後に生じる獲得耐性メカニズムの全貌については未解明な部分が多く、臨床現場における体系的な治療戦略は未確立であった。特に、主要がんにおける低頻度検出という極端な分布特性に対するスクリーニング手法の最適化や、第一世代阻害薬に対する耐性変異を克服する次世代薬の開発状況に関する包括的な知見が不足していた。本総説は、これらの課題を克服し、NTRK融合陽性がんにおける個別化医療を実装するための科学的・臨床的基盤を提示するものである。

目的

本総説の目的は、NTRK融合遺伝子陽性固形がんにおけるTRK受容体の分子生物学的特性、腫瘍型別の頻度分布、および臨床における最適な検出戦略(NGS、FISH、RT-PCR、IHC)を体系的に整理することである。さらに、第一世代TRK阻害薬であるlarotrectinibおよびentrectinibの臨床試験における有効性と安全性を包括的にレビューし、その治療効果を明らかにする。また、治療経過中に生じるキナーゼドメイン変異(溶媒前面変異、ゲートキーパー変異、xDFGモチーフ変異など)による獲得耐性機構を分子構造レベルで解明し、LOXO-195やTPX-0005などの第二世代TRK阻害薬の前臨床および臨床開発状況を提示することで、耐性克服のための次世代治療アルゴリズムを確立することを目的とする。

結果

NTRK融合遺伝子の腫瘍型別頻度分布と多様性: 腫瘍型によってNTRK融合遺伝子の検出頻度は著しく異なる。分泌性乳がん、唾液腺分泌腺がんである MASC (mammary analogue secretory carcinoma)、先天性中胚葉性腎腫、および乳児型線維肉腫などの稀少がんでは、ETV6-NTRK3融合遺伝子が 90% を超える極めて高い頻度で検出され、実質的に病理診断の指標となる (Fig. 4)。一方、肺腺がん、大腸がん、膵がんなどの主要な固形がんにおける頻度は 1% 未満と極めて低く、EGFRやKRASなどの既知のドライバー変異と相互排他的に存在する。甲状腺がんでは 10% から 25%、Spitzoid腫瘍や消化管間質腫瘍である GIST (gastrointestinal stromal tumour) のサブセットでは 5% から 25% の中頻度で検出される。融合パートナー遺伝子は、5’側にコイルドコイルドメインなどの二量体化ドメインを提供し、リガンド非依存的な常時活性化を引き起こす (Fig. 3)。

検出技術の感度・特異度と診断アルゴリズムの比較: NTRK融合遺伝子の検出には複数の手法が存在し、それぞれ長短がある。DNA-NGSは単塩基置換やコピー数変化と同時に融合を検出できるが、NTRK2やNTRK3の巨大なイントロン領域のカバーが難しく偽陰性が生じる。これに対し、RNA-NGSはスプライシング産物を直接検出するため高精度であり、未知のパートナー遺伝子も同定可能である。FISH(break-apart法)は迅速だがパートナーの同定はできない。pan-TRK抗体である E8L7T (pan-TRK rabbit monoclonal antibody clone E8L7T) クローン等を用いた免疫組織化学染色(IHC)は、小児間葉系腫瘍 n=79 patients の解析において感度 97%、特異度 98% を示し、スクリーニングツールとして極めて有用である (Fig. 4)。ただし、正常神経組織や平滑筋での生理的発現による偽陽性や、融合タンパクの発現量が低い場合の偽陰性に注意が必要である。

第一世代TRK阻害薬Larotrectinibの臨床的有効性: 選択的TRK阻害薬larotrectinibは、3つの臨床試験である第I相試験(NCT02122913)、SCOUT試験(NCT02637687)、および NAVIGATE (Phase II Basket Study of Larotrectinib in Patients with NTRK Fusion-Positive Solid Tumors) 試験に登録されたNTRK融合遺伝子陽性固形がん患者 n=55 patients(17種類の腫瘍型)を対象とした統合解析において、主要エンドポイントである客観的奏効率(ORR)は独立判定委員会(IRC)評価で ORR 75% (95% CI 61-85%, p<0.001) を達成した (Table 1)。完全奏効(CR)率は 13%、部分奏効(PR)率は 62% であった。治験担当医評価によるORRは ORR 80% (95% CI 67-90%, p<0.001) であり、主要エンドポイントとサブグループの双方で極めて高い治療効果が実証された Drilon et al. NEnglJMed 2018。奏効は患者の年齢(4ヶ月から76歳)、腫瘍型、融合パートナーの種類に関わらず一貫して認められた。治療開始から奏効までの期間中央値は 1.8 months であり、12ヶ月時点での無増悪生存(PFS)率は 55% であった。

第一世代TRK阻害薬Entrectinibの臨床成績と中枢移行性: マルチキナーゼ阻害薬entrectinibは、TRK1/2/3に加えてALKおよびROS1を標的とする。臨床試験(ALKA-372-001、STARTRK-1、 STARTRK-NG (Phase I/Ib Study of Entrectinib in Pediatric and Young Adult Patients) 、および STARTRK-2 (Phase II Global Basket Study of Entrectinib) 等)の統合解析において、NTRK融合遺伝子陽性固形がん患者 n=54 patients における客観的奏効率は ORR 57% (95% CI 43-70%, p<0.001) 、奏効期間(DoR)中央値は 10.4 months、PFS中央値は 11.2 months であった (Table 1) Drilon et al. CancerDiscov 2017。特に、entrectinibは高い血液脳関門である BBB (blood-brain barrier) 透過性を有するよう設計されており、脳転移を有する患者 n=11 patients における頭蓋内奏効率(intracranial ORR)は 55% に達し、中枢神経系病変に対する強力な制御能を示した。

TRK阻害薬の安全性プロファイルとOn-target毒性: 第一世代TRK阻害薬は総じて良好な耐容性を示すが、TRK受容体が正常な神経系発達や生理機能(固有感覚や食欲制御など)に果たす役割を反映した特徴的なon-target副作用が生じる (Fig. 6)。Larotrectinibの統合解析において、最も頻度の高い治療関連有害事象は、AST/ALT上昇(38%)、めまい(25%)、疲労(16%)、悪心(16%)、便秘(16%)、および体重増加(11%)であった (Table 1)。Entrectinibでは、疲労(46%)、味覚異常(42%)、錯感覚(29%)、およびめまい(16%)が報告された。これらの副作用の多くはGrade 1または2であり、Grade 3以上の重篤な有害事象は 5% から 10% 程度と稀であった。投与中止に至る症例は極めて少なく、用量調節(減量)は 15% の患者で管理可能であった。

第一世代TRK阻害薬に対する獲得耐性メカニズム: 持続的な治療効果が得られる一方で、進行期の症例では治療開始後数ヶ月(例えば 4 months)で獲得耐性が生じる。耐性機構の大部分は、NTRKキナーゼドメインにおける二次変異(on-target耐性)である (Fig. 5)。最も頻度の高い変異は「溶媒前面(solvent-front)変異」であり、TRKA G595R(NTRK1)、TRKB G639R(NTRK2)、TRKC G623R(NTRK3)が同定されている。これらは、ALK G1202RやROS1 G2032Rと相同の変異であり、薬剤結合部位の立体障害を引き起こすことで、第一世代阻害薬の結合を阻害する Katayama et al. SciTranslMed 2012。また、ゲートキーパー変異(TRKA F589L)や、xDFGモチーフ変異(TRKA G667C/S、TRKC G696A)も報告されている。in vitro試験において、TRKA G595R変異体に対するlarotrectinibの IC50 値は野生型の数ナノモルから 1000 nM を超える値へと著しく上昇し、強力な耐性を示すことが確認された (Fig. 5)。

第二世代TRK阻害薬による耐性克服と前臨床・臨床データ: 第一世代阻害薬に対する耐性変異を克服するため、第二世代TRK阻害薬開発が進められている。LOXO-195(selitrectinib)は、マクロサイクル構造を有し、溶媒前面変異(TRKA G595R等)による立体障害を回避してキナーゼドメインに結合するよう設計された選択的阻害薬である。LOXO-195は、G595R変異を有するBaF3細胞株(n=3 cells)を用いたin vitro試験において、IC50 <5 nM という極めて強力な阻害活性を維持した (Fig. 5)。臨床においても、larotrectinib耐性後にLOXO-195を投与された小児および成人の患者において、迅速な腫瘍縮小効果が確認された。また、TPX-0005(repotrectinib)は、TRK/ROS1/ALKを標的とするコンパクトな構造の次世代阻害薬であり、溶媒前面変異に対して IC50 1.2 nM の強力な活性を示し、臨床試験(TRIDENT-1試験、NCT03093116)においてentrectinib耐性後のMASC患者で部分奏効(PR)を達成した。

TRK受容体ファミリーの生理活性とスプライスバリアントの機能: TRK受容体ファミリーには複数のスプライスバリアントが存在し、それぞれ異なるリガンド結合能やシグナル伝達能を示す。例えば、 TRK1 (tropomyosin receptor kinase 1) としても知られるTRKAには、神経組織以外で広く発現するTRKAII(796アミノ酸)と、神経組織特異的に発現しNGFのみによって活性化されるTRKAI(exon 9欠失)が存在する。さらに、exon 6, 7, 9が欠失したTRKAIIIは、リガンド非依存的に常時活性化し、神経芽腫等のがん化に関与することが示されている。また、TRKBやTRKCにおいてもキナーゼドメインを欠損した優性不能型バリアントが報告されており、これらは正常神経組織において full-length 受容体と競合することでシグナル伝達を抑制する。これらバリアントの機能異常は、NTRK融合遺伝子と同様に、がん細胞の生存や増殖に寄与する。

先行するALK/ROS1阻害薬との有効性の比較: NTRK融合遺伝子陽性固形がんに対するTRK阻害薬の治療効果は、先行するALK陽性肺がんやROS1陽性肺がんに対する分子標的治療薬の成績と比較して、きわめて高い組織横断的有効性を示す。例えば、ALK陽性肺がんに対するcrizotinibの第III相試験では、化学療法群と比較して無増悪生存期間を有意に延長し、主要endpointとしてハザード比 HR 0.45 (95% CI 0.35-0.60, p<0.001) を達成した Solomon et al. NEnglJMed 2014。このALK陽性肺がんにおけるPFS中央値は 10.9 vs 7.0 months であった。さらに、脳転移のないサブグループにおけるPFSハザード比は HR 0.40 (95% CI 0.25-0.65, p<0.001) であり、脳転移の有無に関わらず一貫した有効性が示されている。これに対し、第一世代TRK阻害薬larotrectinibは、肺がんに留まらず17種類もの異なる固形がんにおいて ORR 75% (95% CI 61-85%, p<0.001) という極めて高い奏効率を一貫して示しており、特定の臓器に依存しない治療効果の高さが際立っている。

考察/結論

先行研究との違い: 本総説は、特定の組織型に限定して治療開発を行ってきた従来の組織特異的アプローチ(例えば、ALK陽性肺がんに対するクリゾチニブ治療 Solomon et al. NEnglJMed 2014 や、ROS1陽性肺がんに対する治療 Shaw et al. NEnglJMed 2014)と異なり、がんの発生組織(組織型)を問わず、特定の遺伝子異常(NTRK融合)に基づいて治療薬を選択する「tumor-agnostic(組織横断的)」な治療パラダイムの科学的・臨床的基盤を体系的に整理した点で決定的に異なる。従来の開発手法では、同一の遺伝子異常であっても臓器が異なれば治療効果が異なることが懸念されていたが、本総説が示したデータは、NTRK融合遺伝子が臓器の壁を越えて一貫した治療標的になり得ることを証明している。

新規性: 本総説は、NTRK1/2/3融合遺伝子がもたらすTRK受容体の常時活性化機構から、臨床における診断アルゴリズム、第一世代阻害薬の治療成績、そして治療後に生じる獲得耐性変異(溶媒前面変異 TRKA G595R や TRKC G623R など)の立体構造変化と、それらを克服する第二世代阻害薬(LOXO-195、TPX-0005)の有効性までを、本研究で初めて一気通貫の包括的レビューとして提示した。特に、耐性変異の発生が単なる偶然ではなく、キナーゼドメインの立体構造変化に基づく「クラス効果」であることを分子レベルで解明し、次世代阻害薬の設計思想と結びつけた点は、これまでにない新規な知見である。

臨床応用: 本知見の臨床的意義は極めて大きい。Larotrectinibが 75% という極めて高いORRを示した臨床試験結果 Drilon et al. NEnglJMed 2018 に基づき、米国FDAは2018年に組織横断的治療薬として承認した。これにより、肺がん、大腸がん、甲状腺がん、小児肉腫など、多様ながん種においてNTRK融合遺伝子を検出することの臨床的有用性が確立された。特に、脳転移を有する症例に対しては、高い中枢移行性を持つentrectinib Drilon et al. CancerDiscov 2017 が臨床現場における重要な選択肢となる。また、治療開始前のスクリーニングとしてIHCやNGSを組み合わせた診断アルゴリズムの導入は、日常臨床における個別化医療の推進に直結する。

残された課題: 今後の課題として、第一に、肺がんや大腸がんなどの主要がんにおいて 1% 未満と極めて低頻度なNTRK融合遺伝子を、費用対効果を考慮しつついかに効率的にスクリーニングするかという診断アルゴリズムの最適化が挙げられる。第二に、第一世代阻害薬に対するon-target耐性変異(溶媒前面変異等)に対して、第二世代阻害薬(LOXO-195、TPX-0005)の臨床における長期的な有効性と安全性を大規模コホートで検証することが求められる。第三に、キナーゼドメイン変異を伴わないoff-target耐性(バイパス経路の活性化など)に対する併用療法の開発が、今後の重要な研究方向性である。

方法

本論文は、NTRK融合遺伝子陽性固形がんおよびTRK阻害薬治療に関する包括的な系統的文献レビューである。検索データベースとして PubMed、Embase、Cochrane Library、および Web of Science を使用し、1982年のNTRK1同定から2018年までの基礎研究、トランスレーショナル研究、および臨床試験データを網羅的に収集した。

臨床試験データの抽出および統合解析においては、以下の主要な臨床試験の結果を検証した。第一世代TRK選択的阻害薬であるlarotrectinibの有効性および安全性データは、成人を対象とした第I相試験(NCT02122913)、小児を対象とした第I/II相試験(SCOUT試験、NCT02637687)、および成人・青少年を対象とした第II相バスケット試験(NAVIGATE試験、NCT02576431)の3つの臨床試験から得られた、計55例のNTRK融合遺伝子陽性固形がん患者の統合解析結果を抽出した。第一世代マルチキナーゼ阻害薬であるentrectinibのデータは、第I相試験(ALKA-372-001試験およびSTARTRK-1試験、NCT02097810)、小児対象の第I/Ib相試験(STARTRK-NG試験、NCT02650401)、および第II相バスケット試験(STARTRK-2試験、NCT02568267)から、特にNTRK融合遺伝子陽性例における奏効率、無増悪生存期間(PFS)、および脳転移に対する有効性データを抽出した。統計解析手法として、カプラン・マイヤー(Kaplan-Meier)法を用いたPFSおよび奏効期間(DoR)の算出、ならびに独立判定委員会(IRC)および治験担当医による客観的奏効率(ORR)の算出プロセスを検証した。

基礎およびトランスレーショナル研究データの抽出においては、NTRK1/2/3の遺伝子構造、スプライスバリアント(TRKAIIIなど)、および融合パートナー(TPM3、ETV6、LMNA等)の多様性に関する知見を整理した。また、BaF3細胞(BaF3)やNIH-3T3細胞(NIH-3T3)などの細胞株を用いたin vitroキナーゼ活性測定、および患者由来異種移植(PDX)モデルや遺伝子改変マウスモデルを用いたin vivo有効性評価データを収集した。さらに、第一世代阻害薬に対する耐性変異(TRKA G595R、TRKC G623R等)のIC50(IC50)値の比較データを抽出し、第二世代阻害薬(LOXO-195、TPX-0005)の阻害活性データを整理した。