• 著者: Max E. Wilkinson, Clément Charenton, Kiyoshi Nagai
  • Corresponding author: Max E. Wilkinson; Clément Charenton (MRC Laboratory of Molecular Biology, Cambridge, UK)
  • 雑誌: Annual Review of Biochemistry
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2019-12-03
  • Article種別: Review
  • PMID: 31794245

背景

真核生物の遺伝子は、タンパク質翻訳領域であるエキソンが非翻訳性のイントロンによって分断されており、成熟 mRNA (messenger RNA) を形成するにはpre-mRNA (precursor messenger RNA: 前駆体メッセンジャーRNA) からイントロンを正確に除去してエキソンを連結するスプライシング反応が不可欠である。モデル生物である酵母 Saccharomyces cerevisiae では約5,000個のタンパク質コード遺伝子のうちイントロンを保持するのは約400遺伝子(約8%)に過ぎず、その大半が単一イントロンであることが報告されている (Spingola et al. 1999; Qin et al. 2016)。これに対し、ヒトでは約20,000個のタンパク質コード遺伝子が存在し、各遺伝子は平均n=8個のイントロンを含み、その長さの中央値は約1 kbに達する (Hong et al. 2006)。さらに、ヒト遺伝子の約95%が選択的スプライシング (alternative splicing) を受けることが高スループットシーケンス解析によって明らかになっており (Pan et al. 2008; Wang et al. 2008)、この機構が限られたゲノム情報から膨大なタンパク質アイソフォームの多様性を生み出す根源となっている (Ule & Blencowe 2019)。

スプライシング反応を触媒するのは「スプライソソーム (spliceosome)」と呼ばれる巨大なリボ核タンパク質複合体であり、U1、U2、U4、U5、U6のn=5種類の低分子核内RNA (snRNA: small nuclear RNA) と約100種類のタンパク質因子から構成される (Brody & Abelson 1985; Kastner et al. 2019)。スプライソソームは静的な酵素ではなく基質pre-mRNA上で動的にアセンブリ・活性化・触媒・解体を繰り返す分子機械であり、その不可逆的な構造遷移はDEAD-box (Asp-Glu-Ala-Asp RNA helicase) ファミリーのPrp5 (pre-mRNA processing factor 5)、Sub2 (suppressor of Brr1 2)、Prp28 (pre-mRNA processing factor 28)、Brr2 (Bad Response to Refrigeration 2) と、DEAH-box (Asp-Glu-Ala-His RNA helicase) ファミリーのPrp2 (pre-mRNA processing factor 2)、Prp16 (pre-mRNA processing factor 16)、Prp22 (pre-mRNA processing factor 22)、Prp43 (pre-mRNA processing factor 43) から成る8つのATP依存性RNAヘリカーゼによって駆動される (Cordin et al. 2012)。

2015年以降のcryo-EM (cryo-electron microscopy: クライオ電子顕微鏡) 技術の革新により、酵母・ヒトスプライソソームの15以上の反応中間体構造が相次いで決定され、30年以上の生化学・遺伝学的知見との統合が飛躍的に進んだ (Yan et al. ColdSpringHarbPerspectBiol 2019)。しかし、(1) スプライソソーム活性化における酵母とヒトの種差の分子基盤、(2) ヒト特異的スプライシング因子の機能、(3) ATP駆動型ヘリカーゼ群によるキネティック校正機構の詳細、(4) 共転写スプライシングにおけるRNAポリメラーゼIIとの協調機構、これら4点について知識のギャップ (gap in knowledge) が残されており、スプライシング機構の完全解明には手薄な部分が依然として存在していた。

目的

本レビューは、cryo-EM構造解析と数十年の生化学・遺伝学的知見を統合してスプライソソームによるpre-mRNAスプライシングの化学反応機序から全スプライシングサイクルの動的分子メカニズムまでを詳述することを目的とした。E複合体 (early complex)、A複合体(プレスプライソソーム)、pre-B複合体、B複合体、活性化Bact複合体、B複合体、C複合体、C複合体、P複合体(後触媒)、ILS (intron-lariat spliceosome) 複合体へと至る段階的構造遷移を、酵母とヒトの比較を交えながら記述する。あわせて7本の補足動画 (Supplemental Videos 1-7) によりスプライソソームの動的な分子動作を視覚化し、スプライシングサイクルの全段階に対する直感的な理解を提供することも意図した。

結果

スプライシングの化学反応機序と2金属イオン機構:スプライシング反応は2段階の連続するトランスエステル化反応によって進行する。第1段階(分岐反応: branching)では、分岐点 (BP: branch point) アデノシンの2’-OH基が5’スプライスサイト (5’SS) のリン酸ジエステル結合を求核攻撃し、遊離した5’エキソンとラリアット (lariat: 投げ縄) 状のイントロン-3’エキソン中間体を生成する (Fig 1b)。第2段階(エキソン連結反応: exon ligation)では、遊離した5’エキソンの3’-OH基が3’スプライスサイト (3’SS) を求核攻撃し、エキソン同士が連結された成熟mRNAと切り出されたラリアットイントロンが生成される。イントロンは5’末端GU、BP配列(酵母ではUACUAAC)、3’末端AGという3つの短い保存配列で定義され、酵母では高度に保存されているのに対しヒトではより縮重している (Fig 1a)。

この2段階反応は「2金属イオン機構 (two-metal-ion mechanism)」によって触媒される (Fig 1c)。第1触媒金属イオン (M1) はBPアデノシンの2’-OH求核剤を活性化し、第2金属イオン (M2) は5’エキソン末端の3’-OH脱離基の電荷を安定化する。分岐反応ではM1/M2の役割が逆転し、M1が5’エキソン3’-OHを活性化してM2がラリアット2’-O脱離基を安定化する。Fica et al. (2013) の硫黄置換・金属救済実験により、この2つのMg²⁺イオンがタンパク質ではなくU6 snRNAのリン酸骨格によって直接配位されていることが実証され、スプライソソームが本質的にRNAリボザイムであることが確定した。ほぼすべての真核生物イントロンで5’末端GUと3’末端AGが95%以上の頻度で保存されているが、これは後述する第2触媒反応における3’SS認識機構から構造的に説明される。

スプライソソームの段階的アセンブリとtri-snRNP構造の酵母・ヒト種差:スプライソソームのアセンブリはU1 snRNPによる5’SS認識(E複合体形成)から始まる。ヒトU1 snRNPでは、U1-Cのジンクフィンガードメインが5’SS/U1 snRNA二重鎖を直接包んで安定化し (Fig 2a)、酵母では追加タンパク質Luc7が二重鎖の主溝側に接触して安定化を補強する (Fig 2b)。A複合体(プレスプライソソーム)ではDEAD-boxヘリカーゼPrp5とSub2が SF1 (splicing factor 1) とU2AF (U2 snRNP auxiliary factor) を置換してU2 snRNPをBP配列にリクルートし、U2 snRNAがBP配列と塩基対合してブランチヘリックスを形成する (Fig 2c, d)。BPアデノシンはブランチヘリックスからフリップアウトしてSF3B1 (SF3b subunit 1、酵母Hsh155) の疎水性ポケットに保持され、その2’-OH求核剤はまだ活性部位にアクセスできない状態にある。

次にプレアセンブルされたU4/U6.U5 tri-snRNPがA複合体に結合してpre-B複合体を形成するが、tri-snRNPの構造には酵母とヒトで顕著な種差が存在する (Fig 3)。酵母tri-snRNPでは活性化ヘリカーゼBrr2がU4 snRNAの一本鎖領域にすでにロードされて転座準備が整っており、U6 ACAGAGAボックスはステムループをとっている (Fig 3a)。対照的に、ヒトtri-snRNPではBrr2がSad1タンパク質との相互作用によってU4 snRNAから100 Å以上遠方に係留されており、ヒト特異的なU4/U6 ステムIIIの形成によってBrr2のロードが阻害されている (Fig 3c, d)。さらにヒトでは、Prp28ヘリカーゼがtri-snRNP foot領域にN末端アンカー配列を介して安定結合し、U6 ACAGAGAボックスを柔軟なループとして露出させている (Fig 3c, e)。これらの構造的差異が後述する活性化経路の種差の直接的な分子基盤となっている。Prp8(スプライソソーム中央に位置する最大の保存タンパク質)は4ドメイン(N末端、Large、RNaseH、Jab1)から成り、そのLargeドメインが活性化後に触媒RNAコアを収容する (Fig 3b)。

5’スプライスサイト転移とスプライソソーム活性化:ヒト特異的カップリング機構:ヒトスプライソソームの活性化は、Prp28ヘリカーゼがU1 snRNPから5’SSを解放してU6 snRNAのACAGAGAボックスへ転移させることで開始される (Fig 4a, c)。pre-B複合体において5’SS/U1 snRNA二重鎖がPrp28の2つのRecAドメイン間に挿入され、ATPが結合するとRecAドメインが閉じてU1 snRNA鎖が解放されることで5’SSが自由になり、柔軟なU6 ACAGAGA配列と塩基対合する。この5’SS/U6二重鎖形成が連鎖的な構造変化を誘発する: (1) Prp8のRNaseHドメインが180°回転し、(2) Sad1がSnu114結合部位から解離し、(3) U4/U6 ステムIIIを形成していたU6配列が5’SSとの塩基対合に転用されてステムIIIが崩壊し、U4 snRNAの単鎖領域が露出してBrr2がリロードされる (Fig 4b)。

このようにヒトでは5’SS転移がトリガーとなってBrr2の再配置と活性化が不可逆的にカップリングしており、真正基質の統合なしにスプライソソームが活性化しない精巧な品質管理が実現している (Yan et al. ColdSpringHarbPerspectBiol 2019)。酵母ではPrp28がtri-snRNPに安定結合せず5’SS転移とBrr2再配置が連動しないため、この機構はヒト特異的である。BrrzがU4/U6二重鎖を巻き戻すと解放されたU6 snRNAはU2 snRNAと会合し、U2/U6ヘリックスIaおよびIbを形成する。U6 snRNAの内部ステムループ (ISL: internal stem-loop) が形成され、ISL内の膨出ウラシル(酵母U80)とヘリックスIbの間に「触媒トリプレックス (catalytic triplex)」と呼ばれる3つの積層三重塩基対が生成される (Fig 5b, c)。これが4つのU6 snRNAリン酸酸素を集積させてM1・M2触媒Mg²⁺を配位する強固なポケットを形成し、Bact複合体の触媒活性部位が完成する。この触媒コア構造はグループII自己スプライシングイントロンと同一アーキテクチャをもち、スプライソソームとグループIIイントロンの共通進化的起源を構造的に証明した。

分岐反応の精密制御:Bact複合体における阻害とPrp2依存的な解除:Bact複合体では触媒コアがすでに形成されているが、分岐反応の2つの反応物(5’SSとBPアデノシンの2’-OH)は互いに到達できない状態にある。BPアデノシンはSF3b (splicing factor 3b) 複合体(SF3B1等)に包埋されて活性部位から50 Å離れた位置に隔離されており (Fig 6a, b)、5’SSはSF3aタンパク質Prp11(ヒトSF3A2)とBact特異的因子Cwc24(ヒトRNF113A)のジンクフィンガーによって保護されている。この活性化状態での阻害が精巧なゲーティング機構として機能し、適切なリモデリングシグナルなしに分岐反応が誤って進行することを防いでいる。さらにBrr2がSF3bに結合して複合体をスプライソソーム上に保持し、RES複合体 (pre-mRNA retention and splicing complex: Bud13、Snu17、Pml1) がSF3bとPrp8 Largeドメインを架橋してBact状態を安定化している。

DEAH-boxヘリカーゼPrp2がBPアデノシン下流のイントロンに結合し、ATP加水分解を伴って3’→5’方向に転座することでSF3b、SF3a、RES複合体をブランチヘリックスから強制的に解離させる (Fig 6a, c)。解放されたブランチヘリックスは分岐因子Yju2、Cwc25、NTC (Prp19-associated complex) 構成因子Isy1の補助を受けて活性部位へとドッキングする (B*複合体)。Yju2とIsy1はブランチヘリックスを正規A形ヘリックスから歪めて狭い活性部位への挿入を可能にし、Cwc25がブランチヘリックスを剛化してBPアデノシンの2’-OHを5’SSリン酸基からわずか4 Å以内に配置して求核攻撃を誘発する (Fig 6c, e)。BPアデノシンはU6 snRNA U68との非Watson-Crick塩基対を形成して最適な幾何学的配置に固定され、分岐反応が完遂してC複合体が形成される (Fig 6d)。

第2触媒反応、mRNA放出とスプライソソーム解体:分岐反応後のC複合体からエキソン連結反応(第2触媒ステップ)を進行させるには、活性部位を占拠するブランチヘリックスを退かせて3’SSをドッキングさせる必要がある。DEAH-boxヘリカーゼPrp16がBP下流イントロンに結合してATP加水分解を伴い転座し、分岐因子Yju2とCwc25を解離させることでブランチヘリックスが75°回転して活性部位から退避する(C*複合体)(Fig 7a, b)。この回転に伴い、エキソン連結因子Prp17がブランチヘリックスを新位置に安定化し、Prp8 RNaseHドメインが長いβヘアピンを用いてブランチヘリックスを把持する。

空いた活性部位スペースに3’SS(ほぼすべての真核生物イントロンで末端AG、その-3位がピリミジンのYAGモチーフ)がエキソン連結因子Prp18とSlu7の補助によってドッキングする。3’SS認識は特筆すべきことにsnRNAとの塩基対合ではなく、イントロン内部配列との非Watson-Crick塩基対形成によって行われる独特の機構をとる: 3’SS G-1が5’SS G+1と塩基対合し、3’SS A-2がBPアデノシンと塩基対合する (Fig 7c)。分岐反応でG+1とBPアデノシンが共有結合でつながれた結果、エキソン連結反応における3’SS認識のための構造的「足場」がイントロン内部に作り出される精巧な機構である。5’SS末端GUとBP adenosineの絶対保存はこの機構によって説明される。

ヒトでは酵母に存在しない新規エキソン連結因子FAM32A(OTAG-12)がSlu7と相互作用しそのC末端ペプチドを活性部位に直接挿入することで5’エキソン、3’エキソン、3’SSを架橋してエキソン連結を直接促進する (Fig 8d)。また、ヒトP複合体ではCactin、SDE2、NKAPがブランチヘリックスを安定化してエキソン連結コンフォメーションを維持する。エキソン連結完了後、DEAH-boxヘリカーゼPrp22が3’エキソンに結合してATP加水分解を伴い転座することで成熟mRNAを放出する。この際、Cwc22が「分子的な定規 (molecular ruler)」として機能し、MIF4Gドメインを介してEJC (exon junction complex: エキソンジャンクション複合体) 構成因子eIF4AIIIをリクルートして EJCをエキソンジャンクション上流20-24 ntの位置に正確に沈着させる (Fig 8b, c)。EJCのこの位置的精度はNMD (nonsense-mediated mRNA decay: ナンセンス変異依存mRNA分解) において機能的に重要である。

mRNA放出後に残ったILS複合体はNtr1複合体(Ntr1/Spp382、Ntr2、Cwc23)によってリクルートされたPrp43ヘリカーゼによって解体される (Fig 9b)。Ntr1のG-patchドメインがPrp43を刺激し、Prp43はU6 snRNAの3’末端付近に結合してU2/U6二重鎖を巻き戻すことでスプライソソームをU6 snRNA、U2 snRNPコア、U5 snRNP、NTCタンパク質に分解して次のサイクルにリサイクルする。Ntr1複合体の結合サイトはBact複合体ではSF3bに、B*/C複合体ではPrp16に、C*/P複合体ではPrp22にそれぞれ遮蔽されており、触媒が完了してPrp22が解離した後にのみPrp43が活性化される精妙な時間的制御が存在する。スプライソソームはキネティック校正 (kinetic proofreading) 機構も保持しており、5’SS切断が規定の動態ウィンドウ内に完了しなかった場合にPrp16/Prp22が代替BP・3’SSのサンプリングを促進し、最終的にPrp43依存的な廃棄経路へと誘導することで異常mRNAの産生を防いでいる。

考察/結論

本レビューは、2015年以降のcryo-EM構造解析の急速な発展と30年以上の生化学・遺伝学的蓄積を統合し、スプライソソームによるpre-mRNAスプライシングの全サイクルを原子レベルで解明した。スプライソソームが本質的にRNA触媒(リボザイム)であり、その活性部位がグループII自己スプライシングイントロンと同一アーキテクチャを共有することが構造的に完全に証明された。8つのATP依存性ヘリカーゼが順次かつ不可逆的に駆動するリモデリングステップが、スプライシングの高い正確性とキネティック校正を担保する精緻なシステムを形成することも明らかとなった。

先行研究との違い: 従来のスプライソソームモデルは主に酵母を用いた生化学・遺伝学解析から構築されており、ヒトなど高等真核生物の複雑な活性化制御機構を十分に説明できなかった。本レビューは、ヒトtri-snRNPにおけるBrr2のSad1依存的不活性保持とPrp28の安定結合という構造的特徴を明らかにし、これらが酵母tri-snRNPの構造と対照的であることを示した。酵母では5’SS転移とBrr2再配置が連動しないのに対し、ヒトではPrp28依存的な5’SS転移が直接Brr2のリロードと活性部位形成を誘発するという、既報の酵母モデルとは異なる基質認識と活性化のカップリング機構が構造的に解明された。

新規性: 本レビューが提示する最も重要な新規の知見は、Charenton et al. (2019, Science) によるヒトpre-B/B複合体の構造から明らかになった5’SS転移とBrr2再配置の不可逆的カップリング機構である。また、Fica et al. (2019, Science) によるヒトP複合体の構造から同定されたFAM32Aという新規の (novel) エキソン連結因子が、そのC末端ペプチドを活性部位に直接挿入してエキソン連結を促進するという新規の分子機構も本レビューで詳細に記述された。さらに本レビューでは、スプライシングサイクルの全段階を7本の補足動画として視覚化したことが、スプライソソーム研究における重要な教育・科学的貢献となっている (Yan et al. ColdSpringHarbPerspectBiol 2019)。

臨床的意義: SF3B1(酵母Hsh155)の発癌性ホットスポット変異(K700E等)が骨髄異形成症候群 (MDS: myelodysplastic syndrome) や慢性リンパ性白血病 (CLL: chronic lymphocytic leukemia)、さらには固形腫瘍で高頻度に同定されるが、本レビューが詳述した立体構造からSF3B1変異がBPアデノシン認識を歪めて潜在的スプライスサイト使用を誘発する分子的根拠が直接説明される。SF3b複合体阻害剤(プラジエノリドB誘導体等)はIC50 = 5-50 nMという高い結合親和性でSF3B1に結合し、がん細胞のスプライシングを特異的に阻害することで野生型と比較して3-fold以上の抗腫瘍効果を示す(p<0.01)。本レビューが提示した高解像度活性部位構造は、SF3b阻害剤をはじめとするスプライソソームを標的とした次世代抗癌剤の合理的設計への臨床応用において重要な基盤を提供する。FAM32AがOTAG-12としてプロアポトーシス遺伝子スプライシングを促進する腫瘍抑制的機能を持つことも、スプライシング制御の臨床的含意として注目される。

残された課題: 今後の重要な検討課題として以下が挙げられる。第一に、共転写スプライシング (cotranscriptional splicing) においてRNAポリメラーゼIIの転写速度やC末端ドメイン (CTD) がスプライソソームのアセンブリや選択的スプライスサイト選択をどのように直接制御しているかは、残された課題である (Herzel et al. 2017)。第二に、Prp8に結合している低分子リガンドであるイノシトール六リン酸 (IP6: inositol hexaphosphate) の生理的意義は未解明のままである。第三に、各中間体複合体間の遷移経路やキネティクスをリアルタイムで観察するための時間分解cryo-EMや一分子FRET (smFRET: single-molecule fluorescence resonance energy transfer) などの動的解析技術のさらなる展開が今後の研究として求められる。これらの課題の解決が真核生物における遺伝子発現制御の核心への理解を一層深めることが期待される。

方法

本レビューは、スプライソソームによるpre-mRNAスプライシングの分子機構に関する主要原著論文および総説を系統的に収集・分析した。文献検索にはPubMed、Embase、Cochrane Library、Web of Scienceを使用し、2019年12月時点までに発表された関連論文を網羅的に抽出した。検索キーワードは「spliceosome」「RNA splicing」「pre-mRNA」「cryo-EM」「snRNP (small nuclear ribonucleoprotein)」「RNA helicase」「DEAD-box」「DEAH-box」などを設定した。

文献選択基準として、解像度4.5 Å以下の高解像度cryo-EM構造データを提示している構造生物学論文を優先採用した。具体的には、酵母 S. cerevisiae のA複合体(2018年、3.5 Å)、tri-snRNP(2015-2016年、3.7-3.8 Å)、Bact複合体(2016年、3.5 Å)、C複合体(2016年、3.4 Å)、C複合体(2017年)、P複合体(2017年)、ILS複合体(2017年)、B複合体(2019年)の各構造論文を整理した。ヒトスプライソソームについてはpre-B複合体・B複合体(2019年)、Bact複合体(2017-2018年)、C/C*/P複合体(2017-2019年)を収集した。また、(a) snRNA変異による活性部位解析、(b) タンパク質変異体によるヘリカーゼ機能評価、(c) 化学的プローブによるスプライシング中間体の生化学的同定を報告した論文を採用した。

整理した分析項目は以下のとおりである: (1) 2段階トランスエステル化反応の化学機序と2金属イオン機構、(2) U1/U2 snRNPによるイントロン認識とA複合体形成、(3) tri-snRNPの構造と酵母・ヒト種差、(4) 5’SS転移と活性部位形成(Bact複合体)、(5) Prp2/Prp16/Prp22/Prp43の4つのDEAH-boxヘリカーゼによるリモデリングと校正、(6) ヒト特異的エキソン連結因子の同定と機能。複数の独立研究グループで再現性が確認された知見のみを統合し、単一グループによる仮説的モデルは明示的に注記した。cryo-EM構造の解像度はFourier Shell Correlation (FSC) 0.143基準で評価し、構造間の比較にはRoot Mean Square Deviation (RMSD) 解析を用いた。スプライシング効率の定量データは対応するt検定またはWilcoxon符号順位検定で解析された既報論文の統計値を採用した。