• 著者: Johannes G. Reiter, Marina Baretti, Jeffrey M. Gerold, Alvin P. Makohon-Moore, Adil Daud, Christine A. Iacobuzio-Donahue, Nilofer S. Azad, Kenneth W. Kinzler, Martin A. Nowak, Bert Vogelstein
  • Corresponding author: Johannes G. Reiter (Stanford University); Martin A. Nowak (Harvard University); Bert Vogelstein (Johns Hopkins University)
  • 雑誌: Nature Reviews Cancer
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-08-28
  • Article種別: Review
  • PMID: 31455892

背景

腫瘍内遺伝的不均一性 (ITH; intratumor heterogeneity) は、次世代シークエンシング (NGS; next-generation sequencing) 技術の進歩に伴い、がんゲノム研究における主要な関心事となってきた。多くの先行研究において、ITHは治療抵抗性の獲得や標的治療の失敗、さらには新規薬剤開発における最大の障壁として位置づけられてきた。しかし、これまでのゲノム解析における大きな課題として、検出された「ドライバー遺伝子内の変異」がすべて真にがん化や腫瘍維持を駆動する「機能的ドライバー変異」であるとは限らないという点、およびパッセンジャー変異との厳密な区別がなされていないという点が挙げられる。先行研究である Gerlinger et al. NEnglJMed 2012Vogelstein et al. Science 2013deBruin et al. Science 2014 は多領域生検によるゲノム解析からITHの存在を強く主張したが、これらはシークエンシング深度の不足や腫瘍細胞含有率の低さ、あるいは多領域解析における統計的補正の欠如による偽陽性の影響を十分に排除できていなかった。例えば、シークエンシング深度が10リード、腫瘍細胞含有率が50%の条件下では、がん細胞の100%に存在するクローナルな変異であっても、単一サンプルでそれを見逃す確率は5.6%に達し、3つの独立した変異のうち少なくとも1つを見逃す確率は57%まで跳ね上がる。進化生物学的な観点からは、強力な選択有利性を持つ新たなドライバー変異が出現すると、それが腫瘍全体に急速に広がり他のクローンを駆逐する「クローナルスウィープ (clonal sweep) 」が起こると予測されるが、未治療の上皮性がんにおいてこのプロセスがどの程度完了しているのか、その定量的な実証は不十分であった。このように、真に治療標的となり得る機能的ドライバー変異の均一性に関する正確な評価がなされていないという重大な知識ギャップ (knowledge gap) が存在しており、実臨床における単一生検に基づく治療選択の妥当性を揺るがす懸念材料となっていた。この未解明の課題を解決するため、機能的ドライバー変異とパッセンジャー変異を厳密に区別し、技術的ノイズを補正した高精度な再解析が強く求められていた。

目的

本研究の目的は、文献から収集した未治療の上皮性がん (7がん種、合計38例) の多領域シークエンシングデータ、および複数転移巣を有する17例のゲノムデータを高度なバイオインフォマティクス手法を用いて再解析し、機能的ドライバー遺伝子変異における腫瘍内および転移間不均一性の真の程度を定量化することである。さらに、単一の生検 (バイオプシー) によって機能的ドライバー変異を見逃す臨床的リスクを算出し、実際の標的治療コホートにおける転移巣間の奏効一致率を評価することで、現行の単一生検に基づく精密医療 (precision medicine) の妥当性を包括的に検証することを目的とする。

結果

原発巣内における機能的ドライバー変異の極めて高い均一性: 38例の未治療上皮性がん患者から得られた96サンプルの多領域ゲノムデータを解析した結果、がんドライバー遺伝子内に合計162個の体細胞変異が同定された。このうち143個はすべての領域で共通して検出されたクローナル (truncal) 変異であり、19個は一部の領域でのみ検出されたサブクローナル (branched) 変異であった。LiFDアルゴリズムを適用したところ、クローナル変異の54% (77/143変異) が機能的ドライバー変異と予測されたのに対し、サブクローナル変異において機能的と予測されたのはわずか11% (2/19変異) に留まり、統計学的に極めて有意な差が認められた (p<0.001, Fisher’s exact 検定) (Figure 4a)。この結果は、サブクローナルなドライバー遺伝子変異の大部分が、実際にはがん化を駆動しないパッセンジャー変異であることを示している。患者単位での解析では、38例中37例 (97%) において機能的ドライバー変異がすべての領域で完全に均一 (クローナル) であった。原発巣全体で同定された機能的ドライバー変異の総数147個のうち、97.3% (143/147変異) が均一に存在しており、各原発腫瘍における機能的ドライバー変異の平均個数は2.1個であった (Figure 4c)。

転移巣間における機能的ドライバー変異の100%完全な均一性: 複数転移巣を有する未治療がん患者17例 (計67転移巣) のゲノム解析において、転移間不均一性の検証を行った。ドライバー遺伝子内に同定された変異のうち、すべての転移巣に共通して存在したクローナル変異は68個、一部の転移巣にのみ存在したサブクローナル変異は14個であった。LiFDによる機能予測の結果、クローナル変異の65% (44/68変異) が機能的ドライバー変異と判定されたのに対し、サブクローナル変異において機能的ドライバーと判定されたものは0% (0/14変異) であった (p<0.001, Fisher’s exact 検定) (Figure 4b)。すなわち、17例すべての患者において、転移巣間で検出された機能的ドライバー変異の均一性は100% (44/44変異) であり、転移間での機能的ドライバー変異の不均一性は全く観察されなかった (Figure 4c)。これは、転移を形成する創始細胞 (seeding cells) が原発巣を離脱する以前に、主要な機能的ドライバー変異の獲得とクローナルスウィープが完全に完了していることをゲノム科学的に証明するものである。

単一生検による機能的ドライバー変異の見逃しリスクの定量的評価: 原発巣の単一領域のみを標的とした生検 (バイオプシー) を行う現行の臨床診断において、全身の転移巣に共通して存在する治療標的変異を見逃してしまう確率を定量化した。原発巣の1領域および少なくとも2つ以上の転移巣がシークエンシングされている14例の患者コホート (膵癌5例、大腸癌3例、子宮内膜癌3例、乳癌2例、胃癌1例) を用いて算出した結果、全転移巣に共通して存在する機能的ドライバー変異が原発巣の単一生検で検出されない確率は、わずか2.6% (95% CI: 0-5.7%) という極めて低い値であった (Supplementary Table 2)。さらに、これら14例の原発巣生検で検出されたすべての機能的ドライバー変異は、例外なくすべての転移巣ゲノムデータにおいても検出された (見逃し率0%)。このデータは、単一の原発巣生検から得られるゲノム情報が、全身の転移病変における治療標的プロファイルを十分に代表していることを示している。

実臨床における標的治療に対する転移巣間の奏効一致率: ゲノム解析から示された機能的ドライバー変異の均一性が、実際の患者における治療応答と一致するかを検証するため、標的治療を受けた2つの臨床試験コホート (計44例、91病変) のデータを解析した。BRAF V600E 変異陽性のメラノーマ患者33例 (BRAF/MEK阻害薬併用療法など) において、少なくとも1つの指標病変が30%以上の縮小を示した奏効例は27例であった。このうち85%に相当する23例において、他のすべての指標病変も同時に縮小または安定を示し、治療期間中に10%以上の増大を示す病変 (不一致奏効) は認められなかった (Figure 6a)。また、pazopanib と trametinib の併用療法を受けた転移性甲状腺癌患者11例においては、奏効を示した8例の全例 (100%) において、他のすべての転移病変が同様に縮小または安定を維持した (Figure 6c)。コホート全体では、44例中40例、すなわち91% (95% CI: 78-97%) という極めて高い割合で、全身の転移病変が標的治療に対して concordant (一致した) な奏効を示した。不一致な挙動を示した残りの9% (4/44例) については、ゲノムの不均一性ではなく、各転移臓器における薬剤移行性や腫瘍微小環境の差異などの非ゲノム的要因が関与していると考えられた。

正常組織との比較におけるがんゲノムの相対的均一性: 本研究では、腫瘍内不均一性の程度を客観的に評価するため、同一個体から採取された正常細胞間の遺伝的差異との比較を行った。数理モデルを用いた解析により、同一がん腫瘍内からランダムに選択された2つのがん細胞間の遺伝的類似性 (Jaccard 類似度係数などを用いて算出) は、同一人物の正常組織からランダムに選択された2つの正常細胞間の遺伝的類似性よりも有意に高いことが示された。Simpson index および Shannon index を用いた多様性解析においても、がん細胞集団は正常細胞集団と比較して、クローナルスウィープの歴史を反映した高いクローン的均一性を有していることが確認された。この結果は、「がんは不均一性が極めて高い」という一般的な認識が、正常組織の持つバックグラウンドな遺伝的多様性と比較した場合には過剰評価されている側面があることを浮き彫りにしている。

非小細胞肺がんコホートにおけるサブクローナル変異と予後の関連性: 先行研究である TRACERx コホート Jamal-Hanjani et al. NEnglJMed 2017 の早期非小細胞肺がん (NSCLC) 100例のデータを用いて、サブクローナルなドライバー遺伝子変異の存在が患者の予後に与える影響を再解析した。元の論文の分類基準では、62例が少なくとも1つのサブクローナルなドライバー遺伝子変異を有しているとされ、予後不良との関連が示唆されていたが、本研究の再解析では、サブクローナル変異あり群 (n=62) となし群 (n=38) の間で無病生存期間 (DFS; disease-free survival) に統計学的な有意差は認められなかった (ハザード比 [HR] 0.51, 95% CI: 0.24-1.1, p=0.088, 尤度比検定) (Figure 5a)。さらに、LiFDアルゴリズムを適用して真に機能的な変異のみに絞り込んだところ、サブクローナルな機能的ドライバー変異を持つ症例は32例にまで減少したが、この厳密な分類においても、DFSにおける有意な予後差は検出されなかった (HR 1.4, 95% CI: 0.61-3.0, p=0.46) (Figure 5b)。この結果は、治療前の原発巣内に存在するサブクローナルな変異が、必ずしも初期の臨床予後を直接的に悪化させる因子ではないことを示唆している。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、多領域生検データから高度な腫瘍内不均一性 (ITH) を報告し、これが精密医療の限界を規定すると主張した Gerlinger et al. NEnglJMed 2012 などの先行研究と異なり、技術的ノイズや偽陽性を厳密に排除した再解析を行った。従来のゲノム解析のように単に「ドライバー遺伝子内の変異」をすべて同一に扱うのではなく、LiFDアルゴリズムを用いて「真に機能的なドライバー変異」と「ドライバー遺伝子内に生じた機能を持たないパッセンジャー変異」を厳密に区別した結果、サブクローナルとされた変異の大部分が機能を持たない中立的なパッセンジャー変異であることを暴き、「機能的ドライバー変異は原則としてクローナル (均一) である」という、これまでの定説とは対照的な事実を明らかにした。

新規性: 本研究は、未治療の上皮性がんにおいて、真にがん化を駆動する機能的ドライバー遺伝子変異が原発巣内で97%、転移巣間で100%という極めて高い割合で均一に存在していることを本研究で初めて新規に実証した。また、Treeomics によるベイズ推論とLiFDを組み合わせることで、サブクローナルなドライバー遺伝子変異の大部分が実際には機能を持たないパッセンジャー変異であることを、これまで報告されていない高精度なバイオインフォマティクスアプローチによって証明した。

臨床応用: 本研究の知見は、がんの臨床現場における精密医療の妥当性を強く支持するものである。単一のバイオプシーによる機能的ドライバー変異の見逃しリスクが2.6%と極めて低いことは、患者に過度な負担を強いる複数部位の生検を行うことなく、単一の生検検体に基づいて標的治療を選択する現行プロトコルの臨床的有用性を裏付けている。また、標的治療に対する転移巣間の奏効一致率が91%と高率であることは、単一の標的治療が全身の転移巣に対して有効に作用する蓋然性が高いことを示しており、将来的な多剤併用療法の設計など、臨床応用における大きな希望となる。

残された課題: 今後の検討課題として、いくつかの limitation が存在する。第一に、解析対象が未治療の上皮性がんに限定されており、治療介入後の耐性獲得プロセスにおけるゲノム進化や、グリオブラストーマのような切除不能で高度な不均一性を示す非上皮性腫瘍における検証が今後の課題として残されている。第二に、本解析は一塩基置換 (SNV) および微小挿入・欠失 (indel) に限定されており、コピー数異常 (CNA) やエピジェネティックな変化がもたらす機能的不均一性の役割については十分に解明されていない。第三に、LiFDアルゴリズムは予測モデルであり、すべての変異の生物学的機能を完全に保証するものではない。今後は、より大規模な臨床コホートにおいて、プロテオミクスや単一細胞マルチオミクス解析を統合し、治療抵抗性を駆動する真の機能的因子の動態を明らかにする必要がある。

方法

本研究は、未治療の上皮性がんにおける遺伝的不均一性を統合的に評価する系統的レビューおよびメタ解析的再解析である。文献検索のために、主要な書誌データベースである PubMed および Embase、Cochrane Library を用いて包括的な検索を実施した。検索対象期間はデータベース開設時から2019年までとし、明確な inclusion/exclusion criteria (選択・除外基準) を設定した。具体的には、(1) 治療介入を受けていない (treatment-naive) 上皮性がん患者であること、(2) 同一患者から複数の原発巣領域または複数の転移巣領域が採取され、高深度の全ゲノムシークエンシング (WGS) または全エクソームシークエンシング (WES) が行われていること、を必須の選択基準とした。一方で、術前化学療法や放射線療法などの前治療歴がある症例や、腫瘍細胞含有率が極めて低く信頼性の低いデータは除外した。

最終的に、基準を満たした38例 (計96サンプル) の多領域シークエンシングデータを収集した。対象としたがん種は、卵巣癌13例、大腸癌10例、乳癌9例、膵癌4例、胃癌1例、子宮内膜癌1例の計7種類である。各領域における変異の存在または非存在の確率を判定するため、ベイズ推論モデルを用いた系統樹再構築ツールである Treeomics を適用し、確率閾値80%以上を基準として変異のクローナル/サブクローナル分類を行った。

検出された変異の中から、真に腫瘍形成を駆動する機能的変異を同定するため、本研究では「LiFD (Likely Functional Driver) 」と名付けた2段階の統合アルゴリズムを開発した。LiFDの第1段階では、精密腫瘍学データベースである OncoKB Chakravarty et al. JCOPrecisOncol 2017、CGI (Cancer Genome Interpreter)、既知のがんホットスポットデータベース、および COSMIC (Catalogue of Somatic Mutations in Cancer) において4回以上報告されている変異を機能的変異として抽出した。第2段階では、CHASMplus (Cancer-Specific High-Throughput Annotation of Somatic Mutations)、FATHMM (Functional Analysis through Hidden Markov Models)、CanDrA (Cancer-specific Driver missense mutation Annotation)、CGI、および VEP (Variant Effect Predictor) の5つの機能予測ツールを統合し、過半数 (50%超) のツールが機能的影響ありと予測した変異を機能的ドライバー変異と定義した。

さらに、複数転移巣を持つ未治療患者17例 (計67転移巣サンプル) を用いて転移間不均一性を解析した。また、単一生検による見逃しリスクを評価するため、原発巣と少なくとも2つ以上の転移巣がシークエンシングされている14例のペアデータを用いて確率計算を行った。臨床的検証として、ドライバー変異を標的とした治療を受けた44例 (メラノーマ33例、甲状腺癌11例、計91病変) の臨床試験データを収集し、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumours) ガイドラインバージョン1.1 Eisenhauer et al. EurJCancer 2009 に基づき、個々の転移病変における治療応答の一致率を解析した。統計学的有意差の検定には、Fisher’s exact 検定および Wilcoxon rank-sum 検定を用いた。