- 著者: Nicholas McGranahan, Francesco Favero, Elza C. de Bruin, Nicolai J. Birkbak, Zoltan Szallasi, Charles Swanton
- Corresponding author: Charles Swanton (Cancer Research UK London Research Institute / Francis Crick Institute; charles.swanton@crick.ac.uk)
- 雑誌: Science Translational Medicine
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-05-13
- Article種別: Original Article
- PMID: 25877892
背景
がんは単一祖先クローンからの多段階体細胞変異の蓄積によって進化する分岐プロセスであり、異なる遺伝的組成を持つ複数のサブクローンが共存する腫瘍内不均一性 (intratumoral heterogeneity: ITH) が生じる。Gerlinger et al. 2012 は腎細胞癌のマルチリージョンシーケンスにより ITH と分岐進化を体系的に示し Gerlinger et al. NEnglJMed 2012、クローナル変異 (腫瘍の全細胞が共有する早期イベント) とサブクローナル変異 (一部の細胞のみに存在する後期の分岐進化産物) の二分が精密医療の根幹的問題であることを提起した。サブクローナル変異を標的とした治療薬は変異を持たない細胞集団の増殖選択を招き、実際に大腸癌でサブクローナル RAS 変異が cetuximab 耐性の原因となることが報告されていた。
変異プロセスの観点からは、Alexandrov et al. 2013 が30癌種の体細胞変異解析から21種の変異シグネチャー (APOBEC・喫煙・加齢等) を同定し Alexandrov et al. Nature 2013、APOBECシグネチャーが一部の癌種で特に活発であることを示した。de Bruin et al. 2014 は肺癌においてゲノム不安定性プロセスが空間的・時系列的に多様化することを示し deBruin et al. Science 2014、単一生検では捉えられない時系列ダイナミクス解析の必要性を提示した。
しかしこれら先行研究の多くは単一癌種または少数症例にとどまっており、複数癌種を横断して (1) 治療標的ドライバー変異のクローナル/サブクローナル分率、(2) 変異シグネチャーの早期/後期時系列分布、(3) サブクローナル変異解析から同定される新規ドライバー遺伝子の全体像を系統的に解析した汎がん種研究は未確立であった。精密医療において最も重要な知識ギャップは、治療選択バイオマーカーとしてのクローナリティ情報が不足していたことであり、その系統的なデータベースが何が足りなかったかの核心であった。
目的
9癌種にわたる大規模コホートにおいて、臨床的に治療可能なドライバー変異のクローナリティと発生時期を系統解析し、がんゲノム進化における変異プロセス (APOBEC・喫煙等) の時系列ダイナミクスを解明すること。またサブクローナル変異の解析によるサブクローン拡大駆動因子となる新規がん遺伝子の同定。
結果
所見1: ドライバー変異の大部分はクローナル・早期発生:9癌種 n=2694 samples の解析において、KIRC以外の全癌種でドライバー遺伝子変異はノンドライバー変異と比較して有意にクローナル変異に富んでいた (各癌種のFisher’s exact test: BLCA P=0.0292、BRCA P=8.19×10-21、COAD P=1.45×10-9、GBM P=0.000791、HNSC P=2.58×10-8、LUAD P=0.00311、LUSC P=1.89×10-5、SKCM P=2.71×10-5) (Fig 2)。TP53変異は全体でクローナル比率が有意に高く (P<0.0001)、90%以上がゲノム倍加前に発生していた。LUAD/LUSC/HNSCではTP53クローナル変異の40%以上がC>A転換 (タバコ煙起因) であった。
所見2: PI3K/AKT/mTOR 経路変異の相当数がサブクローナル:PIK3CA全非サイレント変異の10%以上、PTEN全変異の20%以上がサブクローナルであった。PI3K/AKT/mTOR 経路全体では15%以上の変異が複数の癌種でサブクローナルであった (Fig 4)。GBMではIDH1変異の20%以上がサブクローナルであった。KIRCではmTOR変異の30%以上がサブクローナルであった。また、PI3K/AKT/mTOR 経路変異のサブクローナル比率はRAS/MEK 経路・CDK関連遺伝子と比較して有意に高かった (P<0.05、Fisher’s exact test)。
所見3: APOBEC変異はサブクローナル後期変異の主要原因:変異シグネチャー解析 (Signature 2: APOBEC関連C>T転換) は HNSC (P=5.57×10-7)・BLCA (P=4.39×10-6)・LUAD (P=3.33×10-6) で後期変異に有意に富んでいた (Fig 3)。ER陰性乳癌でも後期変異への富化傾向が確認された (P=0.0126)。LUAD・LUSC・HNSCのAPOBEC陽性腫瘍では、クローナルドライバー変異のAPOBEC起因率が平均21% (範囲19〜24%) であったのに対し、サブクローナルドライバー変異では45%以上 (範囲35〜59%) がAPOBEC起因であった。これらの癌種でのPIK3CA サブクローナル変異の90%以上がAPOBEC文脈で生じていた。PTEN・EGFR・TP53のサブクローナル変異にもAPOBECシグネチャーが確認された。Signature 13 (APOBEC/REV1関連) はBLCAで早期変異に富み (P=6.67×10-7)、Signature 2と時系列的に分離可能であることが示された。
所見4: 喫煙・UV・加齢シグネチャーは早期変異に富む:Signature 4 (タバコ煙) はLUAD (P=4.56×10-17) とLUSC (P=8.1×10-7) で早期変異に有意に富んでいた。Signature 7 (UV暴露) はSKCM で早期変異に富んでいた (P=5.67×10-11)。Signature 1A (自然発生CpG転換、加齢相関) はBRCA・COAD・GBM・HNSCで早期変異に富んでいた (COAD P=7.59×10-15、GBM P=3.55×10-10)。これらの結果から、外因性変異プロセスが早期腫瘍開始に関与し、内因性変異プロセス (APOBEC) が後期のサブクローン多様化に寄与するという時系列的分業が示された。
所見5: 後期サブクローナル変異解析による新規ドライバー遺伝子同定:MutSigCVを時系列・クローン別分割変異サブセットに適用した結果、9癌種 n=2694 samples から32個の後期推定ドライバー遺伝子が同定された (q<0.05)。うち12遺伝子は時系列分割なしには少なくとも1癌種で検出できなかったものであった。HNSCではPIK3CAが後期ドライバーとして同定された (サブクローナル変異に富むがゆえに全変異解析では検出困難)。LUADではCTNNA2 (catenin alpha-2、細胞接着分子・腫瘍転移との関連あり) とNRXN3 (neurexin-3) が後期ドライバー候補として同定された。COADではATXN1 (ataxin-1、転写制御・細胞外マトリクスリモデリング)、LUSCではLRP1B (low-density lipoprotein receptor-related protein 1B) が同定された。
所見6: 並行進化の証拠:同一腫瘍サンプル内に同一がん遺伝子または同一経路の異なるメンバーへの複数独立したサブクローナル変異が30例超で同定された (Fig 5)。典型例として、ある腎明細胞癌腫瘍でSETD2変異が2か所 (CCF 40%・19%) 独立して生じており、ある膠芽腫ではPI3KシグナルのPIK3R1変異 (CCF 54%) とPTEN変異 (CCF 36%) が別々のサブクローンに存在した。同一遺伝子に複数変異が存在する場合のCCF は1変異のみのケースより有意に低かった (P<0.001、Wilcoxon rank sum test)。
考察/結論
本研究で新たに示したのは、当時最大規模の汎がん種コホート (n=2694 samples、9癌種) を用い、TCGA WES データに対して CCF 推定・変異シグネチャー時系列分割・時系列限定 MutSigCV 解析を統合することで、治療標的変異のクローナリティを定量化し変異プロセスの時系列ダイナミクスを pan-cancer スケールで初めて体系的に解析した点である。クローン進化とITHの概念はよく知られていたが、複数癌種横断の定量的クローナリティデータベースを初めて提供したことが本研究の独自貢献である。
Gerlinger et al. NEnglJMed 2012 らの研究と異なり、本研究は単一癌種 (腎細胞癌) に限定せず9癌種 n=2694 samples を横断して治療標的変異の定量的サブクローナル分率 (PI3K/AKT/mTOR 経路 >15%、IDH1 in GBM >20%、mTOR in KIRC >30%) を系統的に示した。さらに APOBEC3B を後期サブクローン進化の主要原動力として特定した点も先行研究と異なる貢献であり、Alexandrov et al. Nature 2013 が変異シグネチャーの分類体系を構築したのに対し、本研究はそれを時系列軸 (早期 vs. 後期) と組み合わせた初の汎がん種解析を実施した。
臨床応用の観点では、治療標的 PIK3CA 変異の90%以上がAPOBEC陽性腫瘍 (LUAD/LUSC/HNSC) ではサブクローナルかつ後期発生であるというデータは、現行のシングルバイオプシー診断でクローナル変異のみを対象とする治療設計の限界を示す。サブクローナル変異を標的とした分子標的療法は変異陰性クローンを選択的に増殖させ臨床ベネフィットを損なう可能性があり、クローナリティ情報を組み込んだ生検プロトコールおよびコンパニオン診断の設計が求められる。また APOBEC 阻害薬の開発が後期腫瘍進化・サブクローン多様化を制御する治療戦略として理論的根拠を持つことも示唆された。
残課題として、本研究は単一生検サンプルに基づくため真の ITH は過小評価される。単一生検でクローナルと判定された変異がマルチリージョン解析では空間的に偏在する可能性は deBruin et al. Science 2014 が肺癌で示しており、TRACERx 等の縦断的マルチリージョンシーケンス研究との連携が不可欠である。低 CCF (<5%) サブクローナル変異は検出力不足であり、液体生検・超深部シーケンシング技術との統合が今後の課題である。さらに本研究後に確立された CRISPR スクリーニングや空間トランスクリプトミクスを組み合わせたサブクローン機能解析が残されている。
方法
データセット: TCGAから9癌種 [BLCA (膀胱尿路上皮癌)、BRCA (乳癌)、COAD (大腸腺癌)、GBM (膠芽腫)、HNSC (頭頸部扁平上皮癌)、KIRC (腎明細胞癌)、LUAD (肺腺癌)、LUSC (肺扁平上皮癌)、SKCM (皮膚メラノーマ)] n=2,694腫瘍の全エクソームシーケンシング (WES) データを取得した。総計516,672体細胞変異 (ミスセンス326,918、サイレント145,009、ナンセンス24,236等) を解析に使用した。
クローナリティ推定: SNP 6.0 アレイデータとWES変異対立遺伝子頻度 (variant allele frequency: VAF) を統合し、腫瘍純度・コピー数 (ASCAT法) を考慮したがん細胞分率 (cancer cell fraction: CCF) を推定した。CCFの95%信頼区間上限≥1をクローナル、<1をサブクローナルと厳格に定義した (サブクローナル変異の過大評価を防ぐ保守的定義)。早期変異は「クローナルかつゲノム倍加・増幅前に発生」、後期変異は「サブクローナルまたはゲノム倍加・増幅後に発生」と定義した。
ドライバー遺伝子解析: Lawrence et al. の汎がん種解析とCOSMIC cancer gene census (table S1) の共通遺伝子をドライバー遺伝子として定義した。TARGET (Tumor Alterations Relevant for Genomics-driver Therapy) データベースv2で治療標的遺伝子を同定した。DoCM (Database of Curated Mutations) で臨床的文脈が確立されたホットスポット変異を同定した。
変異シグネチャー解析: Wellcome Sanger Instituteのシグネチャーフレームワーク (Alexandrov et al.) を用いた10の変異シグネチャーを同定し、各変異が早期 vs. 後期のどちらに多く分布するかを解析した。
サブクローナルドライバー探索: MutSigCVアルゴリズムを時系列・クローン別に分割した変異サブセットに適用し、サブクローン拡大を駆動する新規がん遺伝子 (q<0.05) を同定した。