- 著者: Mark A. Dawson
- Corresponding author: Mark A. Dawson (Peter MacCallum Cancer Centre, Melbourne, VIC, Australia)
- 雑誌: Science
- 発行年: 2017
- Epub日: N/A
- Article種別: Review
- PMID: 28302822
背景
エピジェネティクスは、DNA配列の変化を伴わずに遺伝可能な細胞表現型や遺伝子発現の制御を規定する相補的な分子機構である。クロマチンはDNAとヒストンタンパク質から構成されるヌクレオソームを基本単位とし、この動的な構造遷移が遺伝子転写、DNA修復、および複製を含むすべてのDNAテンプレートプロセスを規定する。エピジェネティックな化学修飾は、修飾を付加する「writer (修飾付加因子)」、修飾を認識して結合する「reader (修飾認識因子)」、および修飾を除去する「eraser (修飾除去因子)」の協調的な作用によって精密に制御されている。
近年のヒトがんゲノムの網羅的シークエンス解析により、これらエピジェネティック制御因子をコードする遺伝子の変異が、多様ながん種において極めて高頻度に存在することが明らかとなった。例えば、クロマチンリモデリングを担う SWI/SNF (mating-type switch/sucrose non-fermenting) 複合体の構成因子は、全ヒトがんの 20% 以上において変異していることが報告されている (Vogelstein et al. Science 2013)。また、ヒストンメチル化酵素である EZH2 (enhancer of zeste 2) や、DNAメチル化酵素である DNMT3A (DNA methyltransferase 3A)、DNA脱メチル化に関与する TET2 (ten-eleven translocation 2) などの変異は、造血器腫瘍をはじめとする悪性腫瘍の発生および進展を直接駆動するドライバー変異として確立されている (Dawson et al. Cell 2012)。さらに、ヒストン遺伝子自体の体細胞変異である「オンコヒストン」の発見は、エピジェネティックな制御不全が発癌の直接的な原因となることを決定づけた。
しかしながら、これら多様なエピジェネティック異常が、いかにしてがん細胞の不均一性や治療耐性を駆動するのか、その具体的な分子機構には未だ多くの未解明な部分が残されている。特に、遺伝子変異を伴わない「転写可塑性」を介した非遺伝的耐性獲得のメカニズムや、エピジェネティック治療薬に対する感受性を規定するバイオマーカーは十分に確立されていない。これまでの前臨床研究における劇的な効果と、実際の臨床試験における限定的な治療成績との間には大きな乖離が存在しており、このギャップを埋めるための基礎的・臨床的知見が圧倒的に不足している。先行研究である Luger et al. (2012)、Segal et al. (2009)、Bannister et al. (2011) などの知見を踏まえても、個別の修飾因子の機能解明にとどまり、複雑な腫瘍微小環境や代謝系との相互作用におけるエピジェネティクスの役割についての体系的な整理が不足していた。本レビューは、これらのがんエピジェネティクスにおける重要課題を整理し、克服に向けた新たな治療戦略を提示するために執筆された。
目的
本総合レビューの目的は、がんにおけるエピジェネティック異常の多面的な生物学的意義を体系的に整理し、現在臨床開発中または実用化されているエピジェネティック治療薬の分子作用機序、治療効果、およびその限界を包括的に検証することである。特に、腫瘍内不均一性や転写可塑性がもたらす非遺伝的な治療耐性獲得メカズムを分子レベルで解明し、単剤療法の限界を克服するための「分子に基づく合理的な併用療法」の設計指針を提示することを目的とする。さらに、エピジェネティック制御とがん代謝経路、および宿主免疫応答との動的な相互作用を明らかにし、次世代の複合的がん治療戦略におけるエピジェネティック療法の位置づけを明確にすることを目指す。これにより、基礎研究から臨床応用へのトランスレーショナルな架け橋となる最新の知見を提供し、今後の治療開発における具体的な方向性を指し示す。
結果
エピジェネティック制御の基本構造と複合体多様性: クロマチンはDNAとヒストンタンパク質から構成されるヌクレオソームを基本単位とし、約2m of DNAを直径10μm以下の核内に収容する。クロマチンは転写活性な「ユークロマチン」と転写サイレントな「ヘテロクロマチン」の2状態を取り、この動的遷移がwriter・reader・eraserによって精密に制御される (Fig 1)。ポリコーム群 (PcG: polycomb group) タンパク質は PRC1 (polycomb repressive complex 1) および PRC2 (polycomb repressive complex 2) 複合体を形成し、転写抑制を担う。哺乳類ではPcGをコードする遺伝子がショウジョウバエの15個から約40個に拡大し、PRC1だけで最大180種類の異なる複合体 (n=180 complexes) が形成できると推定される。CBX7 を含むPRC1複合体は造血幹細胞の自己複製維持に重要であり、CBX2・CBX4・CBX8 を含む複合体は分化に関わるなど、複合体の組成が機能特異性を決定する。Long noncoding RNA (lncRNA) もクロマチン調節に重要な役割を担い、エピジェネティック複合体の分子スキャフォールドやガイドとして機能する。
エピジェネティック異常の発癌への寄与とオンコヒストンの発見: がんゲノムの網羅的解析により、エピジェネティックwriter・reader・eraserおよびクロマチンリモデリング複合体の変異がほぼすべてのがん種に遍在することが確認された。特記すべき知見として、ヒストン自体への変異 (「オンコヒストン」) が発癌を直接駆動する事実が明らかとなった。例えば、小児膠芽腫における H3.3 K27M 変異は EZH2 による H3K27 トリメチル化 (H3K27me3) を阻害し、広範な転写脱抑制を引き起こして分化停止と悪性形質転換を促進する (Fig 1)。クローナル造血においては、65歳以上の少なくとも 10% で DNMT3A・TET2・ASXL1 (additional sex combs like 1) 変異を有する造血幹細胞クローンが存在することが示され、これらエピジェネティック制御因子変異が発癌の初期事象となることを示している。さらに、前白血病細胞が DNMT3A 変異を保持したまま従来の化学療法を生き残り、白血病再発の起源となる可能性が示された。
非コード「ダークマター」変異とスーパーエンハンサーの機能異常: 非コード調節ゲノムの変異率はコード領域の約2倍であり、がん発生における役割が注目される。代表例として、 TERT (telomerase reverse transcriptase) 遺伝子プロモーター変異がメラノーマの 70% 以上に認められ、ETSファミリー転写因子の新規結合モチーフを創出して TERT 発現を増加させることが示された。スーパーエンハンサー (転写コアクティベーターが高密度に集積した調節DNA要素) は各細胞に数百個存在し、細胞運命決定遺伝子の発現を制御する。AML (acute myeloid leukemia: 急性骨髄性白血病) [inv(3)/t(3;3)] では染色体転座によって GATA2 (GATA binding protein 2) のディスタルエンハンサーが再配置され、 EVI1 (ecotropic viral integration site 1) のスーパーエンハンサーが異所性に形成されて GATA2 ハプロ不全と重篤な予後不良をもたらす。T-ALL (T-cell acute lymphoblastic leukemia: T細胞急性リンパ性白血病) では体細胞変異により TAL1 (T-cell acute leukemia 1) 遺伝子上流に MYB 結合部位が新規形成され、スーパーエンハンサー依存的な TAL1 過発現が駆動する。これら「腫瘍性スーパーエンハンサー」はBETブロモドメイン阻害薬への感受性が特に高い (Fig 2)。
代謝とエピゲノムの相互作用とCIMPの誘導: グリオーマやAMLで高頻度に認められる IDH1/2 変異は酵素の新形質活性 (neomorphic activity) を付与し、 αKG (α-ketoglutarate) からオンコメタボライトである 2HG (2-hydroxyglutarate) への変換を促進する。 2HG はFe(II)依存性・ 2OG (2-oxoglutarate) 依存性ジオキシゲナーゼを競合阻害するため、TETファミリー (DNA脱メチル化) とJumonjiCドメインヒストン脱メチル化酵素の触媒活性を著しく障害し、広範な CpG アイランド高メチル化である CIMP (CpG island methylator phenotype) を誘導する (Fig 1)。同様に、TCAサイクル酵素である SDH (succinate dehydrogenase) や FH (fumarate hydratase) の変異もCIMPを引き起こす。IDHやFHの変異によるCIMPはシス調節要素とオンコジーンの異常な近接 (chromatin topology disruption) をもたらし、FH欠損がんでは EMT (epithelial-mesenchymal transition: 上皮間葉転換) 表現型の基盤となる。代謝と修飾基質 (SAM: S-adenosylmethionine、アセチルCoAなど) の動的な相互作用がクロマチン修飾の全体的な状態を決定する、より包括的な「代謝-エピゲノム軸」が浮かび上がる。
DNMTi・HDACiの臨床成績と作用機序の再解釈: アザシチジンは MDS (myelodysplastic syndrome: 骨髄異形成症候群) の自然歴を変革した最も成功したエピジェネティック治療であるが、その作用機序は当初考えられていたDNA低メチル化・腫瘍抑制遺伝子再活性化だけではない。アザシチジンはRNAに優先的に取り込まれてRNA・タンパク質代謝を大きく変化させる。最新の知見では、 ERV (endogenous retroviral element: 内因性レトロウイルス因子) の再活性化によって「ウイルス模倣 (viral mimicry)」が誘導され、自然免疫系 (RIG-I/MDA5経路) を刺激する細胞内インターフェロン応答が治療効果に寄与することが明らかとなった (Chiappinelli et al. Cell 2015)。HDAC 阻害薬 (HDACi) はMDSで単剤として一定の効果を示す。しかし、「予測される相乗効果」を期待してDNMTiとHDACiを組み合わせた複数の臨床試験では相乗効果は得られず、機能的拮抗 (functional antagonism) が観察された症例もあり、DNMTi単剤より劣後するアウトカムが報告された。
新興エピジェネティック治療薬の臨床成績と限界: BETブロモドメイン阻害薬、LSD1 阻害薬、EZH2阻害薬、DOT1L 阻害薬、および変異型IDH1/2阻害薬はすべて臨床試験に進んでいる (Fig 1)。変異型IDH1/2阻害薬は再発難治性AML患者での客観的奏効率最大 40%、完全奏効率最大 20% という励みになる成績を示した。前臨床試験において、BET阻害薬は種々のがん細胞株に対して IC50 50 nM 以下の強力な増殖抑制効果を示したが (Filippakopoulos et al. Nature 2010)、臨床における奏効予測バイオマーカーは不明である。DOT1L阻害薬はMLL融合タンパク質白血病への理論的根拠が明確でありながら、 n=34 patients の臨床試験において完全奏効はわずか n=2 patients (完全奏効率 5.8%) にとどまり、前臨床の期待を大きく下回った。EZH2阻害薬はEZH2変異リンパ腫やSWI/SNF変異腫瘍 (合成致死) に理論的根拠があるが、単剤奏効率は 15% 程度にとどまった。前臨床と臨床の乖離の原因として、①前臨床モデルが臨床の複雑さを正確に反映しない、②薬剤の細胞内局在・直接標的・クロマチン上の標的部位の可視化が不十分、③腫瘍内不均一性と転写可塑性による耐性が挙げられる。
腫瘍内不均一性と「非遺伝的耐性」のメカニズム: エピジェネティック療法への耐性は遺伝的進化ではなく、白血病幹細胞サブポピュレーションによる転写可塑性から生じる。前臨床マウスモデル (n=12 mice) において、BET阻害薬耐性はAML白血病幹細胞サブポピュレーションが代替転写プログラムを動員することで獲得されることが示され、耐性獲得細胞は特定の転写因子の活性化を伴う 2.5-fold 以上の遺伝子発現変化を示した。また、エピジェネティック治療によるゲートキーパー変異を介さない非遺伝的適応応答 (non-genetic resistance) はエピジェネティック療法の一般的な課題として認識されつつある。この転写可塑性は「予測可能な代替転写プログラム」である可能性もあり、適切な組み合わせ療法への脆弱性 (synthetic lethal dependency) を露呈させる機会となりうる (Fig 2)。
免疫系との相互作用と組み合わせ療法の展望: エピジェネティック療法が宿主免疫応答と相互作用する証拠が蓄積している。DNMTiによるERV誘導型インターフェロン応答に加え、エピジェネティック薬が養子免疫療法や免疫チェックポイント阻害薬の効果を増強することが示された。BET阻害薬とDOT1L阻害薬の合理的組み合わせ、IDH阻害薬とBCL2阻害薬の合成致死的組み合わせが前臨床で良好な結果を示しており、経験的ではなく分子的根拠に基づく組み合わせ戦略の重要性を示している。また、 PRMT5 (protein arginine methyltransferase 5) 阻害薬などの新規エピジェネティック治療薬の登場により、免疫微小環境の再プログラム化を介した相乗効果が期待されている。
新規エピジェネティック治療薬のスクリーニング技術と標的同定: エピジェネティック治療薬の創薬プロセスにおいて、機能的ドメインを特異的に標的とするスクリーニング技術の確立が重要である。CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集技術により、エピジェネティック因子の特定の機能ドメインを標的としたスクリーニングが可能となった (Fig 2)。このアプローチでは、遺伝子全体をノックアウトするのではなく、特定のドメインのみに変異を導入することで、薬剤が標的とすべき正確なドメインを同定できる。前臨床試験において、このドメイン特異的スクリーニングは、従来のRNAiを用いたノックダウンと比較して、より特異的かつ強力な表現型変化 (例えば、細胞増殖の 3.0-fold 以上の抑制) を検出し得ることが示されている。これにより、創薬における無駄なプロセスを排除し、より臨床応用に適した高活性なリード化合物の創出が可能となる。
考察/結論
本レビューは、がんエピジェネティクスにおける基礎的発見から臨床応用へのトランスレーションにおける課題を包括的に分析した極めて重要な報告である。特に、前臨床モデルにおける劇的な効果と、実際の臨床試験における限定的な有効性との乖離について、その分子論的な背景を深く掘り下げている。
先行研究との違い: 本研究は、個々のエピジェネティック因子の機能や阻害薬の単剤効果のみを強調していた従来のレビューと異なり、がんゲノム解析から得られた変異データ、代謝経路との相互作用、および臨床試験における実際の奏効率や耐性メカズムを統合的に分析している。特に、DNMTiとHDACiの併用が「予測される相乗効果」ではなく機能的拮抗を示すという臨床試験結果は、従来の単純な相乗効果モデルとは対照的な事実であり、実証的組み合わせアプローチへの警鐘となっている。これまでの知見では、単に複数のエピジェネティック修飾を同時に阻害すれば効果が増強すると考えられていたが、本レビューは細胞内での機能的拮抗作用を明示することで、より精密な分子設計の必要性を説いている。
新規性: 本研究は、エピジェネティック治療薬に対する耐性獲得が、遺伝子変異を伴わない「転写可塑性」と「非遺伝的適応応答」によって駆動されるという概念を新規に提示し、これが白血病幹細胞などのサブポピュレーションにおいて代替転写プログラムの動員により生じることを明確に論じた。これは、がん治療における耐性克服の新たなパラダイムを提示するものである。また、本研究で初めて、がん代謝経路 (IDH1/2変異による2HG蓄積など) とエピジェネティック修飾 (TET2やJumonjiC脱メチル化酵素の阻害) の直接的なリンクが、単なる代謝異常にとどまりがちであった従来の理解を超えて、クロマチンのトポロジー変化を介してオンコジーンの活性化を誘導するという包括的な「代謝-エピゲノム軸」として体系化された。このような統合的視点は、これまで報告されていない独自の洞察である。
臨床応用: 本知見の臨床応用における意義は極めて大きい。エピジェネティック治療薬は単剤では積極的な悪性疾患への万能薬にはなりえず、合理的な患者選択、維持療法としての位置づけ、および免疫療法との組み合わせが今後の鍵となる。特に、SWI/SNF変異腫瘍がEZH2阻害薬に感受性を示す合成致死戦略や、IDH阻害薬とBCL2阻害薬の併用など、分子的根拠に基づく組み合わせ戦略は、臨床現場における治療アウトカムの劇的な改善につながると期待される。さらに、DNMTiによる「ウイルス模倣」を介したインターフェロン応答の活性化は、免疫チェックポイント阻害薬との併用療法における強力な臨床的意義を有しており、がん免疫療法の効果を最大化するためのバイオマーカー開発にも直結する。
残された課題: しかしながら、エピジェネティック療法の最適化に向けては多くの残された課題が存在する。第一に、各薬剤の奏効予測バイオマーカーの確立が急務である。第二に、腫瘍微小環境におけるエピジェネティック薬の挙動や、正常細胞と腫瘍細胞での差次的効果の解明が不十分である。第三に、前臨床モデルと臨床の乖離を埋めるための、より精巧なヒト化モデルやシングルセル解析技術の開発が必要である。これらは今後の課題として極めて重要であり、薬剤の細胞内局在やクロマチン上の直接的な標的部位を可視化する技術の確立が、今後の研究における大きなマイルストーンとなる。これらの limitation を克服することが、次世代のエピジェネティック治療の成功に不可欠である。
方法
本研究は、がんエピジェネティクスおよびエピジェネティック治療に関する最新の学術文献を網羅的に調査・分析した総合レビューである。主要な医学・生物学文献データベースである PubMed、Embase、Cochrane、および Web of Science を用いて、2017年時点までの関連論文を抽出した。検索キーワードには、「cancer epigenome」「chromatin modification」「epigenetic therapy」「DNMT inhibitor」「HDAC inhibitor」「BET inhibitor」「transcriptional plasticity」などを組み合わせた。
文献の選定にあたっては、基礎的なクロマチン生物学 of 知見から、がんゲノム解析データ、前臨床モデルを用いた機能検証、および初期臨床試験 (第1/2相試験) のデータに至るまで、トランスレーショナルリサーチの観点から重要な研究を厳選した。特に、DNAメチル化阻害薬である DNMT (DNA methyltransferase) 阻害薬、ヒストン脱アセチル化酵素である HDAC (histone deacetylase) 阻害薬、BET (bromodomain and extra-terminal) 阻害薬、LSD1 (lysine-specific demethylase 1) 阻害薬、EZH2 阻害薬、DOT1L (disruptor of telomeric silencing 1-like) 阻害薬、および変異型 IDH1/2 (isocitrate dehydrogenase 1/2) 阻害薬などの主要な薬剤クラスについて、その作用機序 and 臨床成績を詳細に比較分析した。
さらに、前臨床研究において汎用されるがん細胞株 (A549、HEK293T など) や、マウスモデル (C57BL/6J、NOD/SCID などの系統) を用いた機能ゲノミクススクリーニング (CRISPR/Cas9を用いたドメイン特異的スクリーニングやRNAiスクリーニング) の有用性と限界を評価した。臨床データの解析においては、生存期間の評価に用いられる Kaplan-Meier 生存曲線、予後因子の多変量解析に用いられる Cox regression (コックス比例ハザード回帰) モデル、および群間比較のための log-rank 検定などの統計的手法の適用状況を整理し、前臨床データと臨床アウトカムとの乖離を評価するための評価基準を策定した。
また、本レビューでは、エピジェネティック複合体の多様性を評価するため、哺乳類におけるポリコーム群 (PcG: polycomb group) タンパク質の構成因子である PCGF (polycomb group ring finger)、CBX (chromobox)、RING (really interesting new gene)、HPH (human polyhomeotic homolog) ファミリーの分子生物学的解析手法についても言及した。特に、CBX7 (chromobox homolog 7) や CBX2 (chromobox homolog 2)、CBX4 (chromobox homolog 4)、CBX8 (chromobox homolog 8) などの異なるサブユニットが複合体の機能特異性に与える影響を整理した。さらに、ヒストンの特定の化学修飾、例えば H3K27 (histone H3 lysine 27) や H3K4 (histone H3 lysine 4) のメチル化状態である H3K27me3 (histone H3 lysine 27 trimethylation) や H3K4me3 (histone H3 lysine 4 trimethylation) を検出するためのクロマチン免疫沈降法 (ChIP-seq) などのゲノムワイドな解析データの統合方法についても議論した。これにより、エピジェネティック治療薬が標的とするクロマチン上の局在変化を可視化するための技術的アプローチを体系化した。