• 著者: Quanyou Wu, Lin Feng, Yaru Wang, Yousheng Mao, Xuebing Di, Zhang Kaitai, Cheng Shujun, Xiao Ting
  • Corresponding author: Kaitai Zhang (zhangkt@cicams.ac.cn); Shujun Cheng (chengshj@cae.cn); Ting Xiao (xiaot@cicams.ac.cn) (State Key Laboratory of Molecular Oncology, National Cancer Center, Chinese Academy of Medical Sciences and Peking Union Medical College, Beijing)
  • 雑誌: Signal transduction and targeted therapy
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2022-08-22
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 35989380

背景

肺腺癌 (LUAD) は世界的に最も罹患率が高く致死的な癌であり、全肺癌死亡の約半数を占め、5年生存率は約20%と依然として予後不良である。LUADについては、DNA変異、遺伝子発現、エピゲノム、プロテオームの包括的プロファイルが蓄積されているものの、その異常選択的スプライシングプロファイルは十分に研究されておらず、その全容は未解明な点が多かった。選択的スプライシングは90%以上のヒト遺伝子を調節し、mRNAアイソフォームの多様性を生み出す主要機構であり、癌遺伝子化や腫瘍抑制遺伝子不活化に直接関与することが報告されている。先行研究において、EGFR、RET、MET等の治療標的遺伝子もスプライシング変化を受けることが示されており、治療応用が期待される。スプライススイッチングアンチセンスオリゴヌクレオチド (SSO) 療法は脊髄性筋萎縮症 (SMA) において臨床承認されており (Spinraza)、LUAD向け応用への基盤確立が課題であった。

これまでのゲノム・エピゲノム研究、例えば Cancer et al. Nature 2014Gillette et al. Cell 2020、さらに Xu et al. Cell 2020 などの包括的プロファイリングにより、LUADの分子標的や治療脆弱性が多数同定されてきた。しかし、トランスクリプトームの多様性を生み出す根幹である選択的スプライシングの異常については、大規模コホートにおけるマルチオミクス的な統合解析が圧倒的に不足していた。特に、RNA結合タンパク質 (RBP)、DNA変異、DNAメチル化がどのように協調してスプライシング異常を駆動するのかという多層的な制御機構の解明は、これまで手薄な領域であり、治療標的同定に向けた大きなgapが残されていた。したがって、LUADにおける異常選択的スプライシングイベント (AASE) の包括的な理解は、疾患の分子メカニズムの解明と新規治療戦略の開発に不可欠である。

目的

本研究の目的は、LUAD患者799例 (自施設統合コホート285例+TCGA 514例) と正常組織204例のRNAシーケンス (RNA-seq) データを統合解析し、LUADにおけるAASEの包括的な景観を明らかにすることである。さらに、RNA結合タンパク質 (RBP)、DNA変異、DNAメチル化によるAASE調節機序を解明し、AASEの腫瘍機能的意義と免疫・予後サブタイプとの関連を検証することで、スプライシングを標的とした治療法の開発基盤を提供することを目指す。特に、スプライシング異常パターンに基づく患者層別化システムを構築し、個々のサブタイプに適した精密医療 (プレシジョン・メディシン) や免疫療法、新規薬剤候補の同定に繋げることを目的とする。

結果

LUADにおけるAASEの包括的景観とNUMBスプライシング変化の予後的意義: 本研究では、28774件のhigh-confidence ASEが同定され、このうち3688件 (2081遺伝子) がLUADと正常組織間で有意な差異を示すAASE (aberrant alternative splicing event: 異常選択的スプライシングイベント) として特定された (FDR < 0.05、|ΔPSI| > 0.1) (Fig 1d)。最も頻繁に観察されたAASEタイプはAP (alternate promoter: 代替プロモーター) とES (exon skip: エクソンスキップ) であった。これらのAASEのうち1670件はTCGA LUADコホートでも再現され、その97% (1620/1670) が両コホートで同方向の変化を示したことから、その堅牢性が確認された。AASE関連遺伝子には、53のドライバー遺伝子が過剰に代表されており (hypergeometric test p < 0.001)、AASEがLUADの発生に重要な役割を果たす可能性が示唆された。さらに、ほとんどのAASEはLUAD症例の75%以上で検出可能であった (Fig 1g)。

最も顕著なAASEの一つとして、NUMB遺伝子のエクソンスキップイベントが同定された。このイベントは、細胞増殖を促進するNUMB PRRLアイソフォームと細胞分化を誘導するNUMB PRRSアイソフォームを生成する。LUAD組織では、正常組織と比較してNUMB PRRLのPSI値が有意に上昇しており (Wilcoxon p < 2.2e-16、Fig 1h)、ウェスタンブロット解析でもPRRL/PRRS比の有意な増大が確認された (Fig 1i)。高PRRL/PRRS比は、OSの不良 (Kaplan-Meier p = 0.031、Fig 1j) およびPFSの不良と相関したが、NUMB遺伝子自体の発現量とOS/PFSとの間には相関は認められなかった。これらの結果は、NUMBの異常な選択的スプライシングがLUADの悪性度に関与する可能性を示唆する。

RBPによるAASE調節と薬剤感受性への影響: AASEの主要な調節因子であるRBP (RNA-binding protein: RNA結合タンパク質) の摂動を包括的に解明するため、LUADで差次発現する100個のRBPを特定した。このうち88個のRBPが2505件のAASEと有意に相関し、合計46704のRBP-AASEペアが同定された。これらのペアの約半数 (47%、21928/46704) が負の相関を示し、RBPによるAASEの調節が全体としてバランスが取れていることが示唆された。ALDH18A1、PDIA4、NUSAP1が最も多くのAASEを調節するRBPとして同定された (Fig 2b)。DeepBindを用いた解析では、IGF2BP3、KHDRBS2、YBX2の3つのRBPが438件のAASEを調節することが示され、これらのAASE関連遺伝子は細胞外マトリックス (ECM) 組織化、細胞-基質接着などの腫瘍浸潤・転移関連のGene Ontology (GO) タームに濃縮されていた (Fig 3a, 3b)。

薬剤感受性との関連では、高PDIA4発現がSTAT3阻害剤であるPyrimethamineへの高感受性 (Spearman r = -0.70、p = 0.011) と、高DKC1発現がTBK1/IKKε阻害剤であるGSK319347Aへの高感受性と関連することが示された (Fig 2c)。これらの知見は、RBPがLUADにおけるスプライシングプロファイルを攪乱し、腫瘍発生に重要な機能的意味を持つこと、および新規治療戦略開発のための重要な情報を提供することを示唆する。

DNA変異およびメチル化によるスプライシング調節: DNA変異がASEに与える影響を調べるため、sQTL (splicing quantitative trait loci: スプライシング量的形質遺伝子座) 解析を実施した。その結果、TP53遺伝子のスプライス部位変異がエクソン10のインクルージョン増加を引き起こす唯一のcis-sQTL (FDR = 0.005) として同定された (Fig 4a)。また、LUADにおいて広範なASEを調節する36件のtrans-sQTLが同定され、その大部分 (28/36) がミスセンス変異であった (hypergeometric test p < 0.001)。特に、13件のtrans-sQTLがTP53遺伝子が存在する染色体17に集中していた (Fig 4b)。

DNAメチル化の調節的役割については、差次メチル化された56個のCpGサイトのうち21個がAASEと有意に相関し、その全てがAP (alternate promoter) イベントと負の相関を示した。これは、CpGサイトのメチル化レベルが高いほど、対応するAPの使用率が低下することを示す (Fig 4e)。この原則は30癌種にわたって検証され、DNAメチル化の主要なスプライシング調節機能がAP抑制であることが示された (Fig 4g)。

AASEの機能的意義と免疫原性サブタイプ: AASEの機能的意義を解明するため、AASE関連遺伝子についてGO濃縮解析を実施した。その結果、APイベントはRas/Rhoシグナル経路 (腫瘍増殖) に、ESイベントは細胞接着・浸潤関連プロセスに選択的に関与することが示された (Fig 5b)。14の癌hallmarkとAASEの相関解析では、TGFβシグナル、細胞シグナル、細胞周期、Rasシグナルが最多のAASEs相関hallmarkであった (Fig 5c)。

AASEパターンに基づきTCGA LUAD 514例を3つのサブタイプ (G1 34.2%・G2 25.3%・G3 40.5%) に層別化したところ、G3が最高のAASE頻度 (Fig 6a)、最高の免疫細胞浸潤、および良好なOSを示した (Fig 6d)。G3ではCWC22、ELAVL1、PRPF40B等のスプライシング因子変異が高AASE頻度と関連した。

G3サブタイプの免疫療法感受性: G3サブタイプは、CD4+記憶休止T細胞や骨髄性樹状細胞を含む11種類の免疫細胞タイプで最も高い浸潤レベルを示し (Fig 7a, 7b)、全免疫細胞の浸潤レベルも最高であった (Fig 7c)。17の免疫経路のうち16経路で有意な差が認められ、G3では抗原提示・処理、NK細胞細胞傷害性、TCRシグナル経路など、腫瘍増殖抑制に重要な多くの免疫経路が上方制御されていた (Fig 7d, 7e)。78の免疫調節因子についても、G3でCD28、CD80、HLA-DPA1、HLA-DRAを含む19因子が最高発現レベルを示した (Fig 7g, 7h)。

H&E染色およびIHC染色 (CD8、PD-L1) による自施設コホート60例の検証でも、G3が最も高い免疫細胞浸潤とCD8/PD-L1発現を示し (Fig 7j, 7k)、TIDEアルゴリズムによる免疫療法反応予測でもG3が最高の反応率 (Chi-square test, p = 6.966e-07) を示した。さらに、G3サブタイプは、既報の転写産物サブタイプであるTRU (terminal respiratory unit) サブタイプ (69/100, 69%) および免疫サブタイプであるC3 (inflammatory) サブタイプ (111/196, 56.6%) とも有意に相関し (chi-square test, p < 0.001)、これらサブタイプが良好な予後と高い免疫細胞浸潤レベルを示すことが確認された (Supplementary Fig 8a, 8b)。

AASEサブタイプに基づく薬剤感受性: Connectivity Map (Cmap) を用いた解析では、異なるLUADサブタイプが異なる薬剤プロファイルに感受性を示すことが示された。特に、3つのLUADサブタイプ全てがHSP阻害剤 (AT-13387、nomilin) に感受性を示した (Fig 8b)。

実験的検証として、LUAD細胞株 (A549 (G1), NCI-H2347 (G1), NCI-H441 (G2)) を用いた細胞増殖アッセイ (n=6 replicates) により、AT-13387およびnomilinがこれらの細胞株の増殖を有意に抑制することが確認された。HSP90阻害薬 AT-13387 投与群 (n=6 replicates, p < 0.001) は対照群 (DMSO) と比較して細胞増殖を著しく抑制し、log2FC -1.8 の発現低下と 3.5-fold decrease の生存率低下を示した。また、nomilin 投与群 (n=6 replicates, p = 0.003) でも 2.5-fold decrease の増殖抑制効果が確認された (Fig 8c)。これらの結果は、AASEプロファイルに基づく患者層別化が精密医療において有用である可能性を示唆する。

考察/結論

新規性: 本研究は、LUADにおけるAASEの包括的な景観マップをマルチオミクス解析により本研究で初めて提供した。特に、NUMB PRRL/PRRS比という新規の予後バイオマーカーを同定したことは、LUADの悪性度評価に新たな視点をもたらす。RBP (IGF2BP3、KHDRBS2、YBX2等) とDNAメチル化によるAP調節の発見は、スプライシング制御の多層的理解を深める新規な知見である。また、AASEパターンに基づくLUADの新規サブタイプ分類は、腫瘍免疫微小環境との関連性を明らかにし、免疫療法感受性を予測する新規なアプローチを提供する。

先行研究との違い: これまでのLUADにおけるスプライシング研究が主に生存関連ASEsのトランスクリプトーム解析に限定されていたと異なり、本研究は大規模かつ多民族コホートのマルチオミクスデータを統合することで、AASEの堅牢なレパートリーを確立した。また、高AASE頻度を示すサブタイプG3が免疫浸潤と良好な予後、免疫療法感受性と関連するという知見は、AASE景観が腫瘍免疫原性を反映し免疫療法感受性と連動するという概念を支持する点で、Kahles et al. CancerCell 2018 のpan-cancer解析結果とも部分的に一致する。さらに、既報の転写産物サブタイプや免疫サブタイプ (Thorsson et al. Immunity 2018) との比較により、本研究で同定されたAASEサブタイプが腫瘍の実質的特徴と免疫微小環境の両方を反映することが示された点も、これまでの研究と対照的である。

臨床応用: 本研究で同定された高AASEサブタイプG3が免疫原性が高く、予後良好で免疫療法に感受性を示すという発見は、AASEプロファイルに基づく患者層別化が臨床応用において免疫チェックポイント阻害剤の治療効果予測に有用であることを示唆する。また、DARS2、CNOT11、DKC1、PDIA4等のRBPと既存薬感受性の関連は、薬剤再利用 (drug repurposing) の可能性を示唆し、臨床現場での治療選択肢拡大に貢献しうる。IHC染色によるCD8およびPD-L1発現の評価 (Reuben et al. NatCommun 2020) と同様に、スプライシングパターンに基づく免疫微小環境の評価は、臨床的有用性が極めて高い。HSP阻害剤 (AT-13387、nomilin) がLUAD細胞株の増殖を抑制することも実験的に検証され、新規治療薬としての応用が期待される。

残された課題: 本研究は大規模なデータセットを用いたが、個々のAASEやアイソフォームの具体的な機能は依然として曖昧な点も残された課題である。治療標的となりうるアイソフォームと腫瘍発生に寄与しないアイソフォームを区別するためには、今後、労働集約的な実験的検証が必要となる。また、LUAD特異的AASEを標的としたSSOやCRISPR-Cas13aの開発、およびAASEベース of 患者層別化の前向きバリデーションが今後の検討課題である。

方法

自施設統合コホート (285腫瘍+145隣接正常、高品質基準:代替スプライシングイベント (ASE) ≥5000件・マッピング率≥60%) とTCGA LUADコホート (514腫瘍+59正常) を統合した。7種のASEタイプ (イントロン保持 (RI)・相互排他的エクソン (ME)・エクソンスキップ (ES)・代替終止コドン (AT)・代替プロモーター (AP)・代替アクセプターサイト (AA)・代替ドナーサイト (AD)) をRMATS/MAJIQで同定した。AASEは偽陽性率 (FDR) <0.05かつスプライシング率 (PSI) 差異閾値 (|ΔPSI|>0.1) で定義した。RBP-AASE調節については、100の差次発現RBPと46704のRBP-AASEペアの相関解析を実施し、DeepBindでIGF2BP3・KHDRBS2・YBX2のモチーフ検索を行った。スプライシング量子形質遺伝子座 (sQTL) 解析には MatrixEQTL アルゴリズムを適用し、DNA変異からスプライシング調節への影響を検証した。DNAメチル化 (ENCODE CpGサイト) とAPイベントの相関解析を30癌種に拡張して実施した。

NUMB PRRL/PRRSのウェスタンブロット解析 (LUAD vs 正常組織) とKaplan-Meier法による全生存期間 (OS)/無増悪生存期間 (PFS) 解析を行った。シングルサンプル遺伝子セット濃縮解析 (ssGSEA) で14の腫瘍hallmarkとAASEの相関を解析した。TCGA 514例をAASEパターンで3サブタイプに層別化するために、Rパッケージ ConsensusClusterPlus (Wilkerson et al. Bioinformatics 2010) を用いた。免疫細胞浸潤レベルは CIBERSORT (Newman et al. NatMethods 2015) およびTIMER2.0で推定し、免疫経路活性化はssGSEAで評価した。免疫調節因子78種の遺伝子発現も解析した。免疫療法反応予測にはTIDE (Tumor Immune Dysfunction and Exclusion) アルゴリズムを用いた。自施設コホート60例でH&E染色および免疫組織化学 (IHC) 染色 (CD8、PD-L1) を実施し、H-score (Histoscore) で評価した。薬剤感受性についてはConnectivity Map (Cmap) を用いて予測し、LUAD細胞株 (A549, NCI-H2347, NCI-H441) でHSP阻害剤 (AT-13387, nomilin) の増殖抑制効果を検証した。