• 著者: Alexandre Reuben et al.
  • Corresponding author: Mark M. Davis, Ignacio I. Wistuba, P. Andrew Futreal, Jianjun Zhang
  • 雑誌: Nature Communications
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-01-30
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 32001676

背景

非小細胞肺がん (NSCLC) は、高い腫瘍変異負荷 (TMB) を有することが知られており、このTMBはネオ抗原を介した抗腫瘍T細胞応答の活性化に繋がる可能性が指摘されている Alexandrov et al. Nature 2013Lawrence et al. Nature 2013。このようなT細胞応答は、CTLA-4阻害薬 Hodi et al. NEnglJMed 2010、PD-1阻害薬 Topalian et al. NEnglJMed 2012、PD-L1阻害薬 Brahmer et al. NEnglJMed 2012 などの免疫チェックポイント阻害薬、個別化ネオ抗原ワクチン、T細胞ベースの治療法など、T細胞レパートリーを標的とする新たな治療法の基盤となっている。そのため、腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) レパートリーの特性をより深く理解することが喫緊の課題である。T細胞受容体 (TCR) のベータ鎖のCDR3領域を標的とするシーケンス解析は、T細胞クローン、その頻度、およびレパートリー内の抗原応答の存在を特定するために用いられる。

これまでの研究では、メラノーマにおいてT細胞のクローン性 (clonality) の上昇が免疫チェックポイント阻害薬への臨床的奏効と関連することが報告されている Tumeh et al. Nature 2014Snyder et al. NEnglJMed 2014。しかし、T細胞応答は臓器によってその動態や分布が異なるため、T細胞レパートリーの解析は複雑である。特に肺がんは、喫煙暴露や非腫瘍関連病原体による局所炎症を伴うため、この複雑性がさらに増大する。先行研究では、好中球、抗原提示細胞 (APC)、T細胞の役割を定義することで、肺における防御免疫応答が調査されてきたが、T細胞レパートリーの属性と患者の転帰との関連についてはほとんど未解明な点が残されていた。特に、腫瘍特異的なT細胞と組織常在T細胞の区別は、臨床応用上重要な課題であるにもかかわらず、NSCLCにおける腫瘍レパートリーと予後の関係、および隣接正常肺との重複については十分に検討されていなかった。この領域には依然として知識のギャップが存在し、より詳細な解析が不足している。

本研究は、早期NSCLC患者236例の大規模コホートにおいてTCRβ CDR3シーケンスを実施し、腫瘍、隣接肺、健常肺のT細胞レパートリーを系統的に比較解析した。これにより、NSCLCにおけるT細胞レパートリーの包括的な特性を明らかにし、その属性が臨床病理学的特徴、腫瘍免疫ゲノム学的特徴 (TMB、ドライバー変異) とどのように関連するかを評価し、腫瘍と腫瘍隣接肺の間のT細胞共有度が予後に与える影響を解明することを目的とした。この大規模な解析を通じて、肺がんにおけるT細胞応答の複雑性を解明し、免疫療法の有効性向上と毒性軽減に資する知見を提供することが期待される。

目的

本研究の目的は、早期NSCLC患者におけるTCRレパートリーの属性 (T細胞密度、多様性を示すrichness、クローン性を示すclonality) を包括的に特徴づけることであった。具体的には、これらのTCRレパートリー属性と、患者の臨床病理学的特徴、および腫瘍の免疫ゲノム学的特徴 (腫瘍変異負荷 (TMB) や主要なドライバー変異など) との関連性を詳細に評価した。さらに、腫瘍組織と隣接する非腫瘍肺組織との間でT細胞レパートリーの重複度合い、すなわちT細胞の共有度が、早期NSCLC患者の全生存期間 (OS) にどのような影響を与えるかを解明することも主要な目的とした。

この目的を達成するために、本研究では、腫瘍、隣接肺、末梢血単核球 (PBMC) の各コンパートメントにおけるT細胞レパートリーの特性を比較し、特に腫瘍と隣接肺の間で共有されるT細胞クローンの抗原特異性 (例: 共通の背景変異やウイルス感染への応答) を探求した。また、EGFR変異などの特定のドライバー変異がT細胞レパートリーの特性に与える影響を、TMBとの関連性を含めて詳細に解析し、免疫療法の奏効予測因子としてのTCRレパートリーの潜在的価値を評価することも目指した。最終的には、これらの知見が、NSCLCにおける免疫療法、特に養子細胞療法 (ACT) の有効性向上と毒性軽減のための、より抗原特異的なT細胞応答の理解に貢献することを目指した。

結果

TCRレパートリーの基礎特性: 切除されたNSCLC患者236例の腫瘍組織におけるT細胞レパートリーの解析結果は、T細胞密度が0.01から1.0の範囲 (n=225; 平均0.24) であったことを示した (Supplementary Fig. 1A)。T細胞の多様性を示すrichnessは204から20,479のユニークなT細胞再構成の範囲 (n=224; 平均5335ユニークな再構成) であった (Supplementary Fig. 1B)。T細胞のクローン性 (clonality) は0.06から0.36の範囲 (n=225; 平均0.15) であった (Supplementary Fig. 1C)。全体として、T細胞密度はrichness (r=0.75, p<0.0001) およびclonality (r=0.20, p=0.003) と正の相関を示した (Spearman順位相関、Supplementary Fig. 1D-E)。しかし、richnessとclonalityは逆相関を示し (r=-0.16, p=0.019)、より多様なT細胞浸潤は全体的に低い反応性を示唆する可能性が示された (Supplementary Fig. 1F)。

T細胞クローン性はCD8 T細胞によって駆動される: 腫瘍内のT細胞レパートリーを構成するT細胞の表現型を定義するため、免疫組織化学 (IHC) および遺伝子発現データが再解析された。NSCLC腫瘍のT細胞は主にCD4陽性であり、平均CD4:CD8比は1.65 (範囲0.3~5.3) であった (n=146患者; Supplementary Fig. 2B-C)。T細胞クローン性はCD3 (n=135患者; r=0.24, p=0.005) およびCD8 (r=0.30, p=0.0003) 密度と相関したが、CD4密度とは相関しなかった (n=135患者; r=-0.03, p=0.753) (Fig. 1a-c)。これは、CD8 T細胞の増殖能が高いことを示唆し、T細胞クローン性が主にCD8陽性T細胞のクローン増殖によって駆動される可能性を示唆する。さらに、T細胞クローン性はGranzyme B (GzmB) (n=141患者; r=0.47, p<0.0001) およびIFNγ (n=141患者; r=0.52, p<0.0001) の発現と正の相関を示し、抗原遭遇後のCD8 T細胞の活性化および細胞傷害性表現型を反映していた (Fig. 1d-e)。

CD45ROおよびPD-1表現型との関連: CD45RO高発現腫瘍は、CD45RO低発現腫瘍と比較して、より高いT細胞浸潤 (n=135患者; p=0.0016) および中程度のrichness増加 (n=134患者; p=0.0851) を示したものの、クローン性には差がなかった (n=135患者; p=0.5027) (Fig. 2a-c)。一方、PD-1高発現腫瘍は、PD-1低発現腫瘍と比較して、T細胞密度 (n=135患者; p<0.0001)、richness (n=134患者; p=0.0083)、およびクローン性 (n=135患者; p=0.0104) のすべてが有意に高かった (Fig. 2d-f)。これは、活性化T細胞および抗原特異的応答の存在を示唆する。

腫瘍変異負荷 (TMB) とT細胞活性化の関連: 平均176個 (範囲3~857) の非同義エクソン変異 (NSEM) が同定された (n=215患者; Supplementary Fig. 5A)。TMB高値は、T細胞クローン性高値 (r=0.19, p=0.015)、CD4:CD8比低値 (r=-0.38, p=0.0002)、およびGzmB高値 (IHCでr=0.32, p=0.0019; 遺伝子発現でr=0.26, p=0.02) と相関した (n=215患者; Fig. 3aおよびn=146患者; Supplementary Fig. 5B-G)。これは、体細胞変異が腫瘍の免疫原性を高め、ネオ抗原の生成を通じてT細胞応答を誘発する上で重要な役割を果たすことを支持する。しかし、HLAヘテロ接合性喪失 (HLA-LOH) とT細胞密度、richness、クローン性との間には関連は認められなかった (n=164患者; Supplementary Fig. 6A-C)。

EGFR変異とT細胞クローン性: EGFR変異腫瘍は、EGFR野生型腫瘍と比較して、有意に高いrichness (p=0.017) と低いT細胞クローン性 (p=0.001) を示した (n=186患者; Fig. 3b-e)。T細胞密度には差がなかった (p=0.103)。EGFR変異患者はすべてコホートのTMB下位3分位内に位置したが (p<0.0001, Fig. 3b)、TMBが低いEGFR野生型腫瘍に限定して解析した場合でも、EGFR野生型腫瘍ではT細胞クローン性が有意に高いままであった (n=43患者; p=0.015, Fig. 3g-i)。これらの結果は、EGFR変異NSCLCにおける免疫療法抵抗性には、低TMBに依存しない免疫抑制メカニズムが存在する可能性を示唆する。KRASおよびTP53変異とT細胞レパートリーとの間には関連は認められなかった。

臨床病理学的特徴とT細胞レパートリーの関連: 低分化腫瘍は、中分化および高分化腫瘍と比較して、T細胞クローン性が有意に高かった (n=223患者; p=0.0019およびp=0.0318) (Supplementary Fig. 8A-C)。腺癌 (ADCA) は扁平上皮癌 (SCCA) よりもT細胞密度 (n=225患者; p=0.01) およびrichness (n=224患者; p=0.009) が高かった (Fig. 4a-b)。クローン性はSCCAでやや高かった (n=225患者; p=0.055)。腫瘍サイズが小さいほど、T細胞密度 (r=-0.26, p=0.0001) およびrichness (r=-0.25, p=0.0002) が高かった (n=224患者; Fig. 4c-d)。現喫煙者および既喫煙者は非喫煙者よりもT細胞クローン性が高かった (n=224患者; Fig. 4e)。この差はTMBを線形モデルで調整した後も統計的に有意であり、タバコ煙がTMBとは独立してT細胞応答に影響を与えることを示した。ADCA患者においてT細胞richnessが高いことは、再発率の低下と関連していた (n=134患者; p=0.026) (Fig. 4f)。

腫瘍隣接肺におけるT細胞クローン性の高さ: 末梢血単核球 (PBMC)、非腫瘍隣接肺、および腫瘍間のT細胞レパートリーを比較した。T細胞密度はコンパートメント間で相関を示さなかったが、マッチしたサンプルではrichnessおよびクローン性に正の相関が認められた (n=121患者; Supplementary Fig. 10A-C)。腫瘍は非腫瘍隣接肺よりも有意に高いT細胞密度を示したが (n=225患者; Fig. 5a)、richnessはPBMCで最も高かった。一方、T細胞richnessは非腫瘍隣接肺と比較して腫瘍で有意に高かった (n=224患者; Fig. 5b)。驚くべきことに、T細胞クローン性は非腫瘍隣接肺で最も高く、腫瘍よりも集中的な抗原応答を示唆した (n=225患者; Fig. 5c)。これらの知見は、最近報告された隣接非腫瘍肺における傍観者T細胞反応性、または腫瘍微小環境外での疲弊した腫瘍反応性T細胞の蓄積を反映している可能性がある。

腫瘍隣接肺と腫瘍間のレパートリー相同性: PBMC、非腫瘍隣接肺、および腫瘍間のT細胞レパートリーの重複を評価した。Jaccard指数 (JI) およびMorisita重複指数 (MOI) を用いた場合、PBMCと非腫瘍隣接肺または腫瘍との間には限られた相同性しか認められなかった (n=215患者; Fig. 6aおよびSupplementary Fig. 11A)。しかし、ペアの非腫瘍隣接肺と腫瘍の間では、両方の指標でより高い相同性が観察された (JI, p<0.0001; MOI, p<0.001) (Fig. 6aおよびSupplementary Fig. 11A)。さらに、腫瘍で同定された上位100の最も一般的なT細胞クローンのうち、中央値で57個が非腫瘍隣接肺組織でも検出され、そのうち28個は非腫瘍隣接肺で同定された上位100の最も一般的なT細胞クローンにも含まれていた (n=225患者; Fig. 6b)。

共有T細胞は共有変異またはウイルスを標的とする可能性: 非同義エクソン変異 (NSEM) が非腫瘍隣接肺と腫瘍間のT細胞レパートリー相同性に寄与するかどうかを調査した。96例の患者から得られた生殖細胞系DNA、ペアの腫瘍、および非腫瘍隣接肺組織のWESデータは、NSEMの平均0.7% (0%~4.5%) のみが腫瘍と非腫瘍隣接肺組織間で共有されていたことを示した (n=96患者; Fig. 7a-e)。共有NSEMの割合と共有される一般的なT細胞の割合との間に弱いながらも正の相関が観察され (n=92患者; r=0.23, p=0.028)、T細胞レパートリーの重複の一部が共有変異/ネオ抗原への反応性によって駆動される可能性が示唆された (Fig. 8a)。また、GLIPHアルゴリズムを用いたTCRモチーフと抗原特異性の解析により、腫瘍と非腫瘍隣接肺の間で共有されるT細胞は、患者の67%で予測されるウイルス関連TCRが有意に濃縮されていることが示された (n=178患者; p<0.0001) (Fig. 8b-d)。これは、肺全体にわたる抗ウイルスT細胞応答が、腫瘍と非腫瘍隣接肺組織間のT細胞レパートリー相同性に寄与した可能性を示唆する。

腫瘍に焦点を当てたT細胞レパートリーはより良い生存と関連: T細胞レパートリーと全生存期間 (OS) の関係を評価したところ、末梢血中のT細胞密度が高い患者は有意に長いOSを示した (n=120患者; p=0.041, HR: 0.38-0.98) (Fig. 9a)。対照的に、非腫瘍隣接肺におけるT細胞密度が高いこと (n=216患者; p=0.036, HR: 1.024-2.001) およびT細胞クローン性が高いこと (腫瘍と比較して濃縮されたT細胞に基づく) は、有意に短いOSと相関した (n=214患者; p=0.014, HR: 1.09-2.138) (Fig. 9b-c)。多変量解析では、末梢血中のT細胞密度 (p=0.032) と非腫瘍隣接肺におけるクローン性 (p=0.032) が統計的に有意なままであった。再発患者は、非再発患者と比較して、共有変異の割合が高く、腫瘍と非腫瘍隣接肺間のTCR重複度が高いことを示した (n=96患者およびn=215患者; p=0.011およびp=0.06) (Supplementary Fig. 14A-B)。これらの結果は、より強力なT細胞応答を生成する宿主の能力 (PBMC中のT細胞数が多いことで示される) と、非腫瘍隣接肺における腫瘍外T細胞の密度と反応性が低いこと (すなわち、傍観者T細胞) がより良い生存と関連する可能性を示唆する。一方、ウイルス感染や共有変異を標的とするT細胞応答は、腫瘍を効果的に排除する免疫系の能力を阻害する可能性がある。

考察/結論

本研究は、NSCLC腫瘍におけるT細胞レパートリーが、組織学的サブタイプや臨床病理学的特徴、およびマッチした末梢血単核球 (PBMC)、非腫瘍隣接肺、腫瘍の間で全身的な不均一性を示すことを明らかにした。外部環境への曝露は肺腫瘍におけるT細胞解析を複雑にし、抗腫瘍T細胞応答が病原体や他の炎症誘発性因子への応答と混在する可能性がある。

先行研究との違い: これまでの研究では、メラノーマなどでT細胞のクローン性上昇と免疫チェックポイント阻害薬への奏効の関連が報告されてきたが、本研究は、肺という特殊な臓器におけるT細胞レパートリーの複雑性を詳細に解明した点で、先行研究と対照的である。特に、腫瘍内の最頻出T細胞クローンの相当数が隣接肺にも存在するという知見は、肺がんにおける腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) 応答の解釈を根本から変えるものである。すなわち、腫瘍内で最も頻繁に検出されるTCRが必ずしも腫瘍特異的であるとは限らず、むしろ喫煙暴露やウイルス感染による傍観者T細胞である可能性が高いことを示唆する。

新規性: 本研究で初めて、早期NSCLC患者において、腫瘍と非腫瘍隣接肺のT細胞レパートリー相同性が高い (すなわち、腫瘍特異性の低いT細胞応答) 患者が有意に短い全生存期間 (HR: 1.09-2.138, p=0.014) を示すことを新規に同定した。また、EGFR変異腫瘍では腫瘍変異負荷 (TMB) が低い傾向にあったが、TMBを調整した後もT細胞クローン性が有意に低い (p=0.015) ことが示され、TMB非依存的な免疫抑制メカニズムの存在が本研究で初めて示唆された。これらの知見は、肺がんにおける免疫応答の複雑な性質と、その臨床的意義を浮き彫りにする。

臨床応用: 本知見は、NSCLCにおける免疫療法や養子細胞療法 (ACT) の臨床応用に直結する重要な含意を持つ。第一に、TILを用いたACTの設計においては、腫瘍特異的クローンの厳密な選別が不可欠である。無選別なTILの増幅は、治療効果の希薄化や、腫瘍とは無関係なT細胞サブセットの増殖による免疫関連有害事象のリスク増大を招く可能性がある。第二に、EGFR変異NSCLCは、低TMBに加えてT細胞クローン性の低下という独立した免疫抑制機序を有しており、免疫チェックポイント阻害単独では不十分である可能性が示唆される。これは、EGFR変異陽性患者に対する新たな治療戦略の開発の必要性を強調する。第三に、腫瘍特異性の低いレパートリー (隣接肺との相同性が高い) を持つ患者は、予後不良バイオマーカーとして層別化可能であり、治療選択の最適化に貢献する可能性がある。

残された課題: 今後の検討課題として、腫瘍内最頻出クローンの抗原特異性 (ウイルス抗原、ネオ抗原、自己抗原など) の網羅的な同定が残されている。また、多領域サンプリングによる腫瘍内不均一性の詳細な評価、および免疫チェックポイント阻害薬やTIL療法を受けた患者におけるT細胞レパートリーの縦断的追跡研究が今後の方向性として挙げられる。本研究のlimitationとしては、単一施設からのコホートであること、および一部の解析で利用可能なサンプル数が異なることが挙げられる。これらの課題を克服することで、NSCLCにおけるT細胞応答の理解をさらに深め、より効果的で個別化された免疫療法の開発に繋がることが期待される。

方法

患者コホートとサンプル収集: 本研究では、治療歴のない早期NSCLC患者236例から切除された腫瘍組織、非腫瘍隣接肺組織 (腫瘍辺縁から2cm以上離れた、病理医により異型性のないことが確認された組織)、および末梢血単核球 (PBMC) を収集した。これらのサンプルは、新鮮凍結検体とホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 検体の両方を含んでいた。対照群として、慢性閉塞性肺疾患 (COPD) 患者11例および健常肺ドナー24例から肺サンプルを得た。患者の臨床病理学的特徴はTable 1に示されており、NSCLC患者の平均年齢は66.3 ± 9.9歳、女性が45%、男性が55%であった。組織型は腺癌 (ADCA) が62%、扁平上皮癌 (SCCA) が37%を占めた。病期はStage Iが48%、Stage IIが33%、Stage IIIが19%であった。

TCRβ鎖可変領域シーケンス: T細胞レパートリーの解析には、Adaptive Biotechnologies社のimmunoSEQ® Assayを用いてヒトTCRβ鎖のCDR3領域の次世代シーケンスを実施した。T細胞密度は、TCRβテンプレート数を、すべての有核細胞に存在するハウスキーピング遺伝子のPCR増幅およびシーケンスによって決定された使用可能なDNAの総量で正規化して算出した。Richnessは、ユニークなT細胞再構成の数として定義され、PBMCでは400,000テンプレート、組織では120,000テンプレートに外挿してpreseqRパッケージを用いて算出された。Clonalityは、Peilouの均等度 (1-Peilou’s evenness) として定義され、サンプリング深度に正規化されるように設計された。異なる組織間でTCRの濃縮を特定するために、差次的発現解析フレームワークを適用した。統計解析はRバージョン3.2で実施された。

免疫組織化学 (IHC): 腫瘍組織はホルマリン固定され、パラフィン包埋された。IHC染色には、CD3、CD4、CD8、FoxP3、CD45RO、Granzyme B、PD-1、PD-L1の8種類のT細胞関連マーカーを用いた。染色後、スライドはLeica Aperio AT2自動スライドスキャナーでスキャンされ、腫瘍中心部の5 × 1 mm²領域で陽性細胞の平均密度 (cells/mm²) を定量した。PD-L1については、H-scoreを算出した。

RNAマイクロアレイ: 141例の患者から得られたRNAを用いて、Illumina HumanWG-6 v3.0発現ビーズチップによるRNAマイクロアレイ解析を実施した。その後、拡張ロバストマルチアレイ解析 (RMA) 背景補正モデルを適用し、正規化された遺伝子発現プロファイルを得た。

全エクソームシーケンス (WES): 腫瘍および非腫瘍隣接肺組織のWESは、NimbleGen 2.1MヒトエクソームアレイとIllumina HiSeq2000を用いた75bpペアエンドシーケンスにより実施された。前処理されたBAMファイルは、MuTectおよびPindelアルゴリズムを用いて一塩基多型 (SNV) および小型挿入欠失 (indel) の検出に解析された。96例の患者では、生殖細胞系DNAコントロールとして末梢血サンプルもシーケンスされ、非腫瘍隣接肺組織の変異を特定した。ヒト白血球抗原 (HLA) ヘテロ接合性喪失 (HLA-LOH) 解析にはPHLATを用いてHLAタイピングを行い、LOHHLAツールを用いてHLA喪失を評価した。

ウイルス抗原予測: T細胞特異性グループを特定するため、GLIPHアルゴリズムを用いてCDR3再構成をクラスター化した。非腫瘍隣接肺、健常肺、COPD肺、および腫瘍のTCRβ鎖CDR3シーケンスを、公開されているテトラマー定義ウイルスCDR3シーケンスと組み合わせて使用した。ウイルスモチーフは、少なくとも3つのウイルス由来テトラマーCDR3シーケンスと特定のV遺伝子の濃縮 (Fisher’s exact test p < 0.05) から構成されるGLIPHモチーフとして定義された。

統計解析: すべてのプロットはGraphPad Prism 8.0を用いて作成された。TCR変数の正規性仮定を満たさないものが多いため、群間の差の評価にはKruskal-Wallis検定 (両側) を適用した。マッチしたサンプルの比較にはWilcoxon符号順位検定を用いた。2つの連続変数間の単調な関係を評価するためにSpearmanの順位相関係数 (両側) を用いた。生存解析では、まず個々のTCR変数について単変量Cox解析を実施した。その後、単変量解析で統計的に有意であった各TCR変数と、年齢、性別、腫瘍型、病期、喫煙状況、腫瘍サイズなどの臨床病理学的共変量を組み合わせてCox多重回帰モデルを構築した。多変量解析では、臨床因子を考慮した上で各TCR変数を評価した。本研究の探索的性質から、単変量解析では偽発見率 (FDR) を考慮しない未調整p値を用いてTCR変数を選択した。