• 著者: Vésteinn Thorsson, David L. Gibbs, Scott D. Brown, Denise Wolf, Dante S. Bortone, Tai-Hsien Ou Yang, Eduard Porta-Pardo, Galen F. Gao, Christopher L. Plaisier, James A. Eddy, Elad Ziv, Aedin C. Culhane, Evan O. Paull, I.K. Ashok Sivakumar, Andrew J. Gentles, Raunaq Malhotra, Farshad Farshidfar, Antonio Colaprico, Joel S. Parker, Lisle E. Mose, Nam Sy Vo, Jianfang Liu, Yuexin Liu, Janet Rader, Varsha Dhankani, Sheila M. Reynolds, Reanne Bowlby, Andrea Califano, Andrew D. Cherniack, Dimitris Anastassiou, Davide Bedognetti, Younes Mokrab, Aaron M. Newman, Arvind Rao, Ken Chen, Alexander Krasnitz, Hai Hu, Tathiane M. Malta, Houtan Noushmehr, Chandra Sekhar Pedamallu, Susan Bullman, Akinyemi I. Ojesina, Andrew Lamb, Wanding Zhou, Hui Shen, Toni K. Choueiri, John N. Weinstein, Justin Guinney, Joel Saltz, Robert A. Holt, Charles S. Rabkin, The Cancer Genome Atlas Research Network, Alexander J. Lazar, Jonathan S. Serody, Elizabeth G. Demicco, Mary L. Disis, Benjamin G. Vincent, Ilya Shmulevich
  • Corresponding author: Vésteinn Thorsson (Institute for Systems Biology, Seattle, USA), Benjamin G. Vincent (UNC-Chapel Hill, USA), Ilya Shmulevich (Institute for Systems Biology, Seattle, USA)
  • 雑誌: Immunity
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-04-05
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29628290

背景

がん免疫療法の進展に伴い、腫瘍微小環境 (TME) の包括的な理解が極めて重要となっている。しかし、これまでの研究は特定のがん種や特定の免疫細胞サブセットに焦点を当てることが多く、がん種を横断した免疫応答の体系的な解析は未解明な点が多かった。The Cancer Genome Atlas (TCGA) プロジェクトは、33種類のがん種にわたる10,000を超える腫瘍サンプルから、ゲノム、エピゲノム、トランスクリプトームといった多層的なデータを収集しており、この膨大なデータを統合的に解析することで、汎がん的な免疫ゲノムの全体像を把握する機会が提供されていた。免疫浸潤の程度、免疫細胞種の組成、ネオ抗原量、T細胞受容体 (TCR) およびB細胞受容体 (BCR) のレパートリー、さらには免疫チェックポイント分子の発現パターンが、腫瘍種や患者間でどのように変動し、それが患者の予後や免疫療法への応答にどう影響するのかを明らかにすることは、喫緊の課題であった。特に、免疫細胞の浸潤パターンやその機能的状態が、がんの進行や治療効果に与える影響については、まだ多くの知識ギャップが残されており、個別化された免疫療法戦略の確立には、これらの複雑な相互作用を解明することが不足していた。例えば、Hanahan et al. Cell 2011 が提唱した「がんの特性」においても、免疫回避は重要な要素として挙げられているが、その詳細なメカニズムは多岐にわたるため、大規模なデータセットを用いた包括的な解析が求められていた。また、Network et al. Nature 2011Rooney et al. Cell 2015 の研究では、特定の腫瘍タイプにおける免疫浸潤のプロファイルが報告されているものの、がん種を横断した汎がん的な免疫サブタイプの定義と、それらが予後や治療応答に与える影響については、依然として未確立な点が多かった。このギャップを埋めることが、本研究の主要な動機付けである。

目的

本研究の目的は、TCGAが収集した33がん種、10,000を超える腫瘍サンプルを対象に、免疫遺伝子発現シグネチャーに基づいた汎がん的な免疫サブタイプを定義することである。さらに、これらの免疫サブタイプと、免疫浸潤の組成、ネオ抗原の免疫原性、TCR/BCRレパートリーの多様性、免疫モジュレーター (IM) 遺伝子の発現制御、および腫瘍内コミュニケーションネットワークとの関連性を包括的に解析する。最終的に、これらの知見を統合し、患者の予後との関連を評価することで、免疫療法の個別化に資する新たな汎がん免疫ゲノムリソースを構築することを目指した。

結果

6つの免疫サブタイプの同定と予後特性: コンセンサスクラスタリングにより、がん種を横断する6つの安定した免疫サブタイプ (C1〜C6) が同定された。これらのサブタイプは、異なる免疫シグネチャー、腫瘍内異質性 (ITH)、増殖率、異数性、ネオ抗原負荷、および予後特性によって特徴付けられた (Figure 1A-D)。C1 (創傷治癒型) は血管新生とTh2応答が優位で、TGFβ高発現、最高の増殖率とITHを示した。C2 (IFN-γ dominant型) は最高の白血球分画とCD8+T細胞浸潤、最高のM1マクロファージ比、および最高レベルのネオ抗原量を示した。C3 (炎症型) はTh1/Th17応答が優位で、最低のITHと増殖率を示し、最も良好な予後と関連した (C1と比較してOS HR 0.628, 95% CI 0.540-0.730, p = 2.34 × 10⁻⁸)。C4 (リンパ球枯渇型) はマクロファージ優位でリンパ球浸潤が低く、C5 (免疫学的に静穏型) は白血球分画が最も低く癌精巣抗原 (CTA) が高発現であった。C6 (TGFβ dominant型) はTGFβ高発現とマクロファージ優位を示し、C4およびC6は最も不良な予後と関連した。特にC2サブタイプは、高レベルのCD8+T細胞浸潤を伴うにもかかわらず、高い増殖率とITHを示し、予後改善効果が限定的であった。

免疫浸潤組成のサブタイプ依存的変動とゲノム変異の関連: 免疫サブタイプ間でCD8+T細胞、CD4+T細胞、NK細胞、M1/M2マクロファージ、B細胞、Tregの比率が大きく異なった。CIBERSORTによるリンパ球含量の推定値は、H&E画像解析による空間的TIL評価と有意に相関した (Figure 2A, D)。特定のドライバー変異は白血球分画 (LF) と関連しており、CTNNB1 (C4に富化)、NRAS、IDH1変異はLFと負の相関を示した。一方、BRAF、TP53、CASP8変異はLFと正の相関を示した (Figure 4D)。299のがんドライバー遺伝子のうち33が免疫サブタイプと有意に関連し (q < 0.1)、特にPBRM1変異はC3 (免疫療法応答良好群) に富化されることが確認された (Figure 4C)。例えば、PBRM1変異は腎細胞癌患者の免疫療法応答と関連することが報告されている。また、染色体1pの増幅はLFの上昇と、9pの欠失はLFの低下と関連した (Figure 4B)。これらのコピー数異常は、免疫細胞の浸潤パターンに直接的な影響を与える可能性が示唆された。

ネオ抗原量と免疫原性の免疫サブタイプ依存的予後への影響: ネオ抗原 (pMHC) 数はほとんどの免疫サブタイプでLFと正相関したが、その予後への影響は免疫サブタイプに依存的であった。C1およびC2では高pMHC数が進行のない生存期間 (PFI) の改善と関連したが、C3、C4、C5では逆相関を示した (Figure S5B)。このことは、ネオ抗原負荷単独では予後予測の精度が限定的であり、全体の免疫シグナル状態との組み合わせが重要であることを示唆する。ヒトパピローマウイルス (HPV) (6.2%)、B型肝炎ウイルス (HBV)、エプスタイン・バーウイルス (EBV) の腫瘍内ウイルス含量はそれぞれ異なる免疫特性と関連した。例えば、高EBVはCTLA4およびCD274の高発現と関連し、高HPVはTh2細胞の増加と関連した (Figure S5C)。ネオ抗原の予後への影響がサブタイプ間で異なることは、免疫応答の複雑性を浮き彫りにする。

TCR/BCRレパートリーと免疫モジュレーター発現制御: TCR多様性 (Shannon entropy) はC6およびC2で最も高く (p < 10⁻¹⁸³)、B細胞のIgH多様性も同様のパターンを示した (Figure 5C)。2,812のαβ-TCR共起ペアと206のpMHC-CDR3ペアが2例以上の腫瘍で共有されたが、全体的にTILの多様性は高く、T細胞応答の共有は限定的であった (Figure 5D, E)。75のIM遺伝子の発現は、DNAメチル化 (例: CD40, IL10, IDO1が逆相関)、コピー数変異、miRNA (294のmiRNAが関与し、miR-17がBTN3A1, PDCD1LG2, CD274と負相関) の複合的な機序で制御されていることが示された (Figure 6A-C)。例えば、C3サブタイプではCD40の発現とメチル化レベルが逆相関を示した (Figure 6C)。これは、エピジェネティックな制御がIM遺伝子の発現に重要な役割を果たすことを示唆する。

予後モデルと転写制御ネットワーク: 免疫遺伝子シグネチャー、TCR/BCRの多様性、ネオ抗原数を用いたelastic net CoxPHモデルは、検証セットにおいて有意な生存差を示し (p < 0.0001)、腫瘍種や病期に加えて免疫TMEが予後に独立した追加情報をもたらすことを示した (Figure 3D, F)。転写制御ネットワーク解析により、7つの転写因子 (PRDM1, SPI1, FLI1, IRF4, IRF8, STAT4, STAT5A) が細胞内および細胞間ネットワークの両方で免疫応答調節に関与することが同定された (Figure 7D, E)。これらの転写因子は、免疫細胞の分化や機能に重要な役割を果たすことが知られている。この解析には、n=10,000を超える腫瘍サンプルが使用された。

考察/結論

本研究は、TCGAの全がん種を対象とした最大規模の免疫ゲノム統合解析であり、6つの安定した免疫サブタイプがほぼすべての悪性腫瘍を横断的に包含できることを示した。これらのサブタイプは、腫瘍種特異的な分類を超えた予後および治療応答予測の枠組みを提供すると考えられる。

先行研究との違い: 本研究は、これまでのネオ抗原負荷が単独で免疫療法応答の予測因子とされてきた先行研究とは異なり、ネオ抗原量の予後への影響が免疫サブタイプに依存することを示した。これは、ネオ抗原負荷単独ではなく、TME全体の免疫シグナル状態を組み合わせた複合的バイオマーカーが免疫療法奏効予測に必要であることを示唆する。特に、C3 (炎症型) が最も良好な予後 (OS HR 0.628, 95% CI 0.540-0.730, p = 2.34 × 10⁻⁸) を示した一方で、C2 (IFN-γ dominant型) が高い免疫浸潤にもかかわらず中程度の予後しか示さなかったことは、単なる免疫細胞の量だけでなく、その機能的状態が予後決定に重要であることを示唆する。この結果は、Rooney et al. Cell 2015 が報告した免疫細胞の活性化状態の重要性と一致する。C2での予後不良の一因として、高い増殖シグネチャーとITH、および免疫編集 (HLA遺伝子の喪失など) が関与し、「免疫チェックポイントがかかった状態」がIFN-γシグナルを増加させながらも腫瘍制御を妨げている可能性が考察された。

新規性: 本研究で初めて同定された免疫サブタイプは、これまで報告されていないがんの免疫学的分類を提供し、新規の治療戦略開発に貢献する。BRAF変異やPBRM1変異を有する患者がC3に富化されることは、これらの患者に対する免疫療法の適応を支持する新たな根拠となる。対照的に、CTNNB1変異やIDH1変異を有する患者がC4やC5に分類されることは、免疫逃避を示唆し、これらの患者では免疫療法への応答が期待しにくい可能性を示す。

臨床応用: 本知見は、免疫サブタイプに基づいた個別化された免疫療法戦略の確立に貢献する臨床的意義を持つ。特定の免疫サブタイプに属する患者に対し、より効果的な免疫療法を選択するためのバイオマーカーとしての活用が期待される。例えば、C3サブタイプに分類される患者は、免疫チェックポイント阻害剤により良好な応答を示す可能性があり、臨床現場での治療選択に役立つ。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究はTCGAのアーカイブデータを用いた解析であり、生存イベント率や追跡期間ががん種間で異なるという限界がある。また、病理医による腫瘍細胞核が60%未満のサンプルは解析から除外されたため、最も免疫浸潤の強い腫瘍が解析対象から漏れている可能性があり、一般のがん患者集団に対する結果のバイアスは未解明である。今後の研究では、これらの免疫サブタイプが実際の免疫療法臨床試験における治療効果とどのように関連するかを検証する必要がある。本研究のデータはNCI GDCおよびCRI iAtlasポータルで公開されており、免疫療法臨床試験データとの統合が進められる「living resource」として、将来的な臨床応用への活用が期待される。

方法

TCGAの33がん種、約10,000腫瘍のRNA-seq、DNA-seq、DNAメチル化、コピー数変異 (CNV) データを統合的に解析した。免疫サブタイプの同定には、コンセンサスクラスタリング手法を採用し、5つの主要な免疫遺伝子発現シグネチャーモジュール(マクロファージ/単球、リンパ球浸潤、TGFβ応答、IFN-γ応答、創傷治癒)に基づくペアワイズ相関行列を用いた。白血球分画 (LF) の推定には、遺伝子発現データからのdeconvolution解析ツールであるCIBERSORT Newman et al. NatMethods 2015 と、DNAメチル化データに基づくESTIMATE法を併用した。ESTIMATEは、腫瘍組織における間質細胞と免疫細胞の浸潤度を推定する手法である。さらに、腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) の空間的評価は、H&E染色画像の機械学習解析により補完した。ネオ抗原 (pMHC) の同定は、非同義SNVおよびindel変異情報からMHC結合予測アルゴリズムを用いて実施し、HLAタイピング結果と組み合わせた。TCRおよびBCR (α鎖、β鎖、IgH鎖) のレパートリーは、RNA-seqデータから再構成した。75個のIM遺伝子について、その発現、DNAメチル化、コピー数変異、およびmiRNAによる制御メカニズムを詳細に解析した。予後解析は、腫瘍種および病期で調整したCox比例ハザード (CoxPH) 多変量モデルと、elastic net Coxモデルを用いて実施した。統計解析には、Hanzelmann et al. BMCBioinformatics 2013Subramanian et al. ProcNatlAcadSciUSA 2005 で用いられた手法も参考にしている。また、RNA-seqデータのリードマッピングには Dobin et al. Bioinformatics 2013Li et al. Bioinformatics 2009 が、トランスクリプト定量には Li et al. BMCBioinformatics 2011 が用いられた。これらの解析は、約10,000の腫瘍サンプルから得られたデータを用いて行われた。