• 著者: Rajender Nandigama, Bassem Ben Cheikh, Jochen Wilhelm, Nadya Nikulina, …, Hauke Winter, Rajkumar Savai (Corresponding)
  • Corresponding author: Rajkumar Savai (Justus Liebig University / Max Planck Institute for Heart and Lung Research, Giessen/Bad Nauheim, Germany)
  • 雑誌: American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine
  • 発行年: 2026
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • DOI: N/A

背景

非小細胞肺癌 (NSCLC) は全世界のがん死亡の 20% 超を占め、免疫療法・分子標的治療の進歩にもかかわらず恩恵を受けるのは約 20% の患者に限られる。治療反応は腫瘍微小環境 (TME) の細胞構成・遺伝子変異・免疫細胞の空間的配置に強く規定される。TME には M2 様腫瘍関連マクロファージ (M2-like TAM)・骨髄由来抑制細胞・制御性 T 細胞 (T-reg) といった腫瘍促進性の免疫抑制細胞と、M1 様 TAM・細胞傷害性 T 細胞・NK 細胞といった抗腫瘍細胞が混在する。

先行研究として、① Skoulidis et al. CancerDiscov 2018 は KRAS 変異肺腺癌における STK11/LKB1 共変異が PD-1 阻害薬抵抗性と関連することを示した。② single-cell transcriptomics は TME の細胞異質性を明らかにしたが、免疫–腫瘍相互作用に必須の「空間的文脈」を欠く。③ Liang et al. CancerCell 2026Li et al. Cell 2026 は空間バイオマーカー探索の重要性を示してきた。しかし従来の空間トランスクリプトミクスや低多重空間プロテオミクスは、蛋白レベルの空間解像度が不足するか、変異特異的効果を捉えるためのコホート規模が不十分であった。すなわち EGFR・KRAS という主要ドライバー変異がどのように TME を空間的に再編するかは依然として未解明であり、変異特異的な空間免疫構造と予後の関連を大規模に解析した研究は手薄であった。本研究はこの gap を、高多重空間プロテオミクスと変異層別化・大規模コホートの統合で埋めることを狙う。

目的

EGFR および KRAS 変異が NSCLC の TME の空間的組織化と免疫構成をどのように規定するかを定義することを目的とする。具体的には、38 マーカー高多重免疫蛍光と単一細胞解析を用いて変異特異的な免疫アーキテクチャを描出し、細胞近傍 (CN)・最近傍 (NN)・空間近接 (proximity) の各空間指標を臨床転帰と統合して、免疫細胞の空間的配置が予後・治療選択の biomarker となりうるかを検証する。

結果

変異が免疫抑制的で免疫排除的な TME を形成する:解析コホートは n=200 例 (EGFR 変異 n=50 例・KRAS 変異 n=50 例・野生型 n=100 例) で、品質管理後 n=197 例 (EGFR n=50 例・KRAS n=50 例・WT n=97 例) が下流解析に含まれた。EGFR・KRAS 変異腫瘍は野生型 (WT) と比べ腫瘍細胞比率が有意に上昇し (EGFR 49.1%・KRAS 47.1% vs WT 29.82%)、免疫浸潤が低下した (EGFR 36.2%・KRAS 32.2% vs WT 53.2%) 一方、間質量は不変であった (Fig. 2E)。両変異群でリンパ系 (13% vs WT 24.8%) と骨髄系 (19–22% vs WT 28%) が減少し、細胞傷害性 T 細胞・樹状細胞・顆粒球が顕著に減った (Fig. 2F)。TAM 極性は遺伝子型で異なり、EGFR 変異腫瘍で M2 様 TAM が濃縮 (9.9%)、KRAS 変異腫瘍では TAM 存在量が低かった (Fig. 2G)。GPU 加速 Leiden クラスタリングで n=369 コア (400 コア中 92.3% が品質管理通過) の 216 万細胞から 14 の細胞表現型を同定し、38 バイオマーカーの pairwise 相関でマーカー特異性を検証した (Fig. 2A-B)。

共変異が TME 表現型をさらに規定する:全 200 例で臨床・分子変数別に細胞比率を解析したところ、軽喫煙者 (1–9 pack-years) の EGFR 変異腫瘍は重喫煙者 (>30 pack-years) より TAM が増加し、小径腫瘍 (pT1b vs pT4) では M1 様 TAM が濃縮した (Fig. 2C)。KRAS/STK11 または KRAS/KEAP1 共変異腫瘍は M1 様 TAM と平滑筋細胞が減少して免疫抑制的 TME と一致し、逆に EGFR/TP53 共変異腫瘍は M1 様 TAM が増加した。KRAS G12D 変異亜型はアポトーシス腫瘍細胞が少なく樹状細胞が多いという他 KRAS 変異と異なる特徴を示した (Figure E7)。

細胞近傍・最近傍解析が変異特異的空間構造を検出:CN 解析は 14 の空間近傍を同定し、KRAS 変異腫瘍は腫瘍優位近傍 (CN1–3)・増殖腫瘍細胞 CN11 に、EGFR 変異腫瘍は CN1–3 と M2 様 TAM 優位の CN7 に濃縮した。WT 腫瘍は M1 様 TAM (CN4)・内皮細胞 (CN5)・細胞傷害性 T 細胞 (CN9) といった免疫豊富近傍に濃縮した (Fig. 3C)。5-NN・10-NN の短距離スケールで有意な空間変化が集中し (20-NN では最小)、WT 腫瘍は全体の免疫浸潤が多いにもかかわらず腫瘍–免疫細胞距離が大きい「免疫排除」の逆説的特徴を示した。EGFR 変異腫瘍では細胞傷害性 T 細胞と増殖腫瘍細胞、樹状細胞と複数細胞型の距離が増大した (Fig. 3D-F)。

空間近接が腫瘍細胞状態と生存を規定する:25 µm の腫瘍近傍内で KRAS 変異腫瘍は T-reg・M1 様 TAM・増殖/アポトーシス腫瘍細胞・線維芽細胞・平滑筋細胞の密度が WT より有意に高く、EGFR 変異腫瘍は T-reg・増殖腫瘍細胞・線維芽細胞・平滑筋細胞が増える一方アポトーシス腫瘍細胞は減少した (Fig. 5C)。このパターンは 50・100 µm でも安定していた (Fig. 6A)。EGFR 変異腫瘍では T-reg・平滑筋細胞近傍の増殖腫瘍細胞が増え、KRAS 変異腫瘍では T-reg・内皮・平滑筋細胞近傍で増殖腫瘍細胞が濃縮した (Fig. 5E)。

空間指標が Cox モデルで予後を予測する:UICC 病期・年齢・性別で補正した多変量 Cox 比例ハザードモデルで、EGFR 変異腫瘍では腫瘍細胞と内皮細胞の近接 (5-NN) が生存悪化と関連し、線維芽細胞・細胞傷害性 T 細胞近接は生存良好傾向を示した。KRAS 変異腫瘍では腫瘍–内皮近接で生存改善、腫瘍–細胞傷害性 T 細胞近接で生存悪化という逆説的所見が得られ、T 細胞の機能不全・疲弊状態を反映すると解釈された (Fig. 4A-B)。KRAS 変異腫瘍で腫瘍細胞 25–100 µm 内の M1 様 TAM は生存改善と関連し、EGFR 変異腫瘍でアポトーシス腫瘍細胞と補助 T 細胞の 50 µm 近接は生存悪化と関連した。全空間指標 (CN・NN・PA) が予後と有意に相関し、免疫細胞の「配置」が「存在量」以上に転帰を予測することを示した (Fig. 6G)。

考察/結論

本研究は 38 マーカー高多重空間プロテオミクスで 197 例・200 万細胞超を解析し、NSCLC 最大級の空間アトラスを構築して、EGFR・KRAS 変異が組織構築を保持したまま変異特異的な免疫アーキテクチャを形成することを示した。① 先行研究との違い:single-cell transcriptomics が細胞異質性を明らかにする一方で空間文脈を欠くのとは異なり、本研究は蛋白発現と細胞間近接を直接測定し、免疫の活性化・抑制・疲弊を transcriptomics では推定できない形で機能的に捉えた。従来の低多重空間手法や小規模コホートとは対照的に、深層多重蛋白プロファイリング・変異層別化・大規模コホートを統合した点でこれまでの研究を凌駕する。② 新規性:本研究で初めて、免疫細胞の「存在量」ではなく「空間的配置・近接性」こそが生存の主要規定因子であることを大規模に実証し、EGFR 変異腫瘍で M2 様 TAM が腫瘍細胞に空間的に近接して免疫回避を媒介するという構造的説明を提示した点が novel である。WT 腫瘍が高浸潤でありながら腫瘍–免疫距離が大きい「免疫排除」を示す逆説も新規知見である。③ 臨床応用:空間免疫プロファイリングは PD-L1 発現・TMB といった従来 biomarker を超えて患者層別化を改善しうる。EGFR 変異腫瘍の M2 様 TAM 濃縮ニッチは ICI と免疫抑制マクロファージを併用する治療の根拠となり、空間 biomarker と TKI 等標的治療を統合する mutation-directed 免疫療法の臨床的意義が大きく、bench-to-bedside の橋渡しに直結する。④ 残された課題:今後の検討として、LKB1 等特定共変異の十分に検出力のある解析にはコホート規模の制約があり、TMA サンプリングは腫瘍内異質性を完全には捉えられず、多重イメージングの技術的変動と高コスト・スケーラビリティが limitation として残る。今後の研究では低コストでスケーラブルな空間プロファイリング法の開発と多施設・大規模データでの検証が必要である。結論として、腫瘍細胞近接と近傍構造が免疫細胞数を超えた腫瘍–免疫相互作用の洞察を与え、精密免疫療法戦略に資することが示された。

方法

Heidelberg 大学病院で治療された原発性 NSCLC (UICC 病期 I–IV) 200 例のコホート (倫理承認 S-270/2001) を対象とし、EGFR 変異 50 例・KRAS 変異 50 例・野生型 (EGFR-/KRAS-) 100 例で構成した。腫瘍は 2007–2017 年に採取され、期間内で治療標準に有意な変化はなかった。ホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 検体から 1 mm コアの組織マイクロアレイ (TMA) を作製し、4 µm 切片に oligonucleotide 結合 41-plex 抗体パネルによる多重免疫蛍光 (mIF) を PhenoCycler Fusion (Akoya Biosciences) で逐次イメージングした。画像分割・単一細胞定量は画像解析ソフト (StarDist, Scanpy, Halo) で行い、厳格な品質管理により 400 コア中 369 コア (92.3%) が通過、197 例 (EGFR 50・KRAS 50・WT 97) が下流解析に含まれた。核マーカーに基づく分割後、38 バイオマーカーの単一細胞発現と空間座標を抽出し、非特異的染色を示した 3 マーカー (β-actin・Bcl-xL・CD57) を除外した。腫瘍細胞は汎サイトケラチン陽性、増殖細胞は Ki-67 陽性、アポトーシス細胞は PARP 発現で同定した。GPU 加速 Leiden アルゴリズムによる教師なしクラスタリングで 14 表現型を同定し t 分布確率的近傍埋め込み法 で可視化した。空間解析として細胞近傍 (CN)・k-最近傍 (kNN: 5–20-NN)・空間近接プロファイリング (25–100 µm 半径) を実施した。臨床相関は UICC 病期・年齢・性別で補正した多変量 Cox 比例ハザードモデルで評価した。