• 著者: Naoki Shijubo, Toshiyuki Sumi, Shintaro Sugita, Kotomi Arioka, Hirofumi Uehara
  • Corresponding author: Toshiyuki Sumi (Hakodate Goryoukaku Hospital, Department of Pulmonary Medicine, Hakodate, Japan)
  • 雑誌: American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine
  • 発行年: 2026
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Images in Pulmonary, Critical Care, Sleep Medicine, and the Sciences (Case Report)
  • DOI: N/A

背景

三次リンパ様構造 (TLS: tertiary lymphoid structures) は慢性炎症や腫瘍環境に応答して形成される異所性リンパ組織であり、B細胞コアとT細胞リムの明確な空間的区画化および機能的胚中心 (germinal center) を有する「成熟 TLS」は抗腫瘍免疫応答の増幅において中心的役割を担う。非小細胞肺癌 (NSCLC) における腫瘍免疫微小環境の構成は予後と ICI 奏効に深く関連することが示されており (Fridman et al. NatRevCancer 2012)、成熟 TLS は ICI 奏効を予測する堅牢なバイオマーカーとして肺扁平上皮癌および腺癌のいずれにおいても注目されてきた。NSCLC 腫瘍免疫微小環境の空間的不均一性を系統的に解析した研究は (Desharnais et al. NatCommun 2025)、腫瘍内 TLS 分布が局所的に偏在することを示しており、サンプリング手技の組織保存能が評価精度に直結する。さらに最近、神経線維による腫瘍内 TLS 形成の抑制が肺癌進展を促進するという知見が示され (Ho et al. Cell 2026)、TLS 成熟度の術前評価が治療戦略選択においてより重要な位置づけを占めつつある。しかし、従来の経気管支鉗子生検 [transbronchial forceps biopsy (TBB)] は機械的圧迫による組織破砕アーティファクトを生じやすく、TLS の精緻な区画化構造とりわけ成熟 TLS に特徴的な胚中心の識別が術前生検では不可能であることが大きな障壁となっていた。すなわち、「術前小生検で成熟 TLS を正確に評価する手段が不足していた」という未解明の臨床的ニーズが存在しており、これが本研究の動機となった。

目的

経気管支クライオ生検 [transbronchial cryobiopsy (TBCB)] が、NSCLC 術前小生検において TLS の成熟度評価に必要な組織建築を保存し、CD21 染色による成熟 TLS (胚中心含有) の確実な識別を可能にするかどうかを検討する。

結果

TBCB による組織建築保存と TBB との対比: 61歳男性に発見された末梢型 stage IA2 肺腺癌症例において、同一病変から TBCB と TBB を同時施行した。TBCB は外径 1.1 mm の使い捨てクライオプローブ (Erbe 社製) を CO2 ガスで 8 秒間 (8-second freeze) 凍結して組織を採取する手技であり、静脈内鎮静 (fentanyl + midazolam) 下で実施した。2 本のクライオ標本を採取 (n=2 cores per TBCB session) した。H&E 染色において TBCB 標本は外科切除標本に匹敵する精緻な濾胞状組織建築を示したのに対し、TBB 標本では顕著な押しつぶしアーティファクトが生じ、細胞構造の把握が困難であった。採取中に Grade 2 の一過性出血 (1 件、約 1 分間のウェッジングで止血) を認めたが、重篤な合併症は生じなかった (Fig 1、上段 H&E 行)。3 生検モダリティのうち、組織建築の整合性は「外科切除標本 ≈ TBCB ≫ TBB」の序列を示した。

成熟 TLS マーカーの免疫染色による可視化: CD20/CD3 二重染色において TBCB 標本は、中心部に密集する CD20+ B細胞コア (茶色) とその外縁に明瞭に識別できる CD3+ T細胞リムとの空間的区画化を外科切除標本と同等の精度で示した。一方、TBB 標本では組織圧迫による細胞変形のため同様の区画化は判別不能であった (Fig 1、中段 CD20/CD3 行)。CD21 染色では TBCB 標本においてのみ、胚中心の支持骨格である濾胞樹状細胞 [follicular dendritic cell (FDC)] の分枝状網目構造 (reticular FDC network) が外科切除標本と同等の精度で明瞭に描出され、機能的胚中心を有する成熟 TLS の決定的な組織学的証拠となった。スケールバー: 低倍率 1 mm / 高倍率 200 μm。TBB の CD21 染色では同様の構造は認められず、識別不能な密集凝集像のみを呈した (Fig 1、下段 CD21 行)。

三者比較の総括と術前評価上の意義: 本症例では TBCB により採取した標本が、H&E (組織建築)・CD20/CD3 (B/T 細胞空間区画)・CD21 (FDC reticular network = 胚中心成熟マーカー) の 3 染色において一貫して外科切除標本と同等の品質を示した。TBB は 3 染色すべてでアーティファクトにより評価困難であり、TLS 成熟度判定に用いることができなかった。本症例では stage IA2 のため術前 PD-L1 発現・driver mutation 検索は実施されなかったが、進行期 NSCLC における術前 TLS 成熟度評価を TBCB で代替できる可能性が本観察により示された。著者グループの先行研究 (Sumi 2024, Respir Investig) では、超音波気管支鏡 + 超細径気管支鏡を組み合わせた TBCB プロトコルが直径≤30 mm の末梢病変において高い診断精度を示すことが確認されており、本症例はその知見の免疫微小環境評価への拡張を示す。

考察/結論

① 先行研究との違い: これまで NSCLC における成熟 TLS の評価は外科切除検体の病理解析か、免疫組織化学的評価が困難な TBB 標本への依存を余儀なくされており、術前小生検による TLS 成熟度の正確な評価は不可能と考えられてきた。これと異なり、本症例では TBCB が外科切除検体に匹敵する精緻な組織建築保存性を発揮し、通常鉗子生検では識別不能な FDC reticular network を含む成熟 TLS の組織学的診断が術前小生検で初めて可能となることを示した。

② 新規性: 本研究で初めて、TBCB 標本が CD21 染色による FDC 網目構造の識別を通じて成熟 TLS (胚中心含有) と未成熟 TLS (胚中心なし) とを確実に鑑別できることが具体的な症例で実証された。また、TBCB という確立された診断手技が腫瘍免疫微小環境のバイオマーカー評価ツールとして転用可能であるという新規な概念が示された。

③ 臨床応用: 成熟 TLS を有する NSCLC は ICI 奏効が期待される免疫 hot 腫瘍と考えられており、TBCB による術前 TLS 成熟度評価が実用化されれば、周術期 ICI 補助療法 (atezolizumab / osimertinib 補助療法等) の対象患者選択や術前免疫療法レジメン決定において臨床的意義を持ちうる。さらに切除不能進行 NSCLC においても、ICI 選択基準として PD-L1 発現に加えて TLS 成熟度を併用する層別化の可能性がある。

④ 今後の課題: 本知見は単一症例の観察に基づくものであり、TBCB による TLS 成熟度評価の感度・特異度を確立するためには多症例の前向き比較試験が今後の研究として必要である。腫瘍内 TLS 分布の不均一性に起因するサンプリングバイアス、TBCB 由来 TLS 成熟度スコアと実際の ICI 奏効・OS 転帰との相関、さらに spatial transcriptomics や multiplex IHC との統合による TLS 機能的評価の精緻化が今後の重要な方向性として残された課題である。

方法

本報告は単一施設における 61 歳男性の stage IA2 肺腺癌の単一症例観察報告 (Images in Pulmonary, Critical Care, Sleep Medicine, and the Sciences) であり、同一病変から TBB と TBCB を同時施行して TLS 組織学的評価を比較した。

TBCB 手技: 外径 1.1mm 使い捨てクライオプローブ (Erbe 社製)、冷媒 CO2、凍結時間 8 秒。超音波気管支鏡および超細径気管支鏡ガイド下に実施。鎮静: fentanyl および midazolam 静脈内投与。出血管理: Grade 2 一過性出血を気管支鏡ウェッジング (1 分間) で止血。

TBB 手技: 標準鉗子 (Olympus FB 433D) による通常の経気管支肺生検。

病理・免疫染色: H&E 染色、CD20 (B細胞マーカー)、CD3 (T細胞マーカー)、CD21 (FDC マーカー / 胚中心成熟 TLS マーカー) による免疫組織化学染色。スケールバー: 低倍 1mm / 高倍 200μm。

倫理: 患者インフォームドコンセント取得済み。利益相反なし。外部資金支援なし。本論文は症例観察報告のため統計解析は不適用。試験登録番号なし (NCT 等)。