- 著者: Xufeng S. Wu, Kang Rao, Hong Zhang, Fei Wang, James R. Sellers, Lydia E. Matesic, Neal G. Copeland, Nancy A. Jenkins, John A. Hammer III
- Corresponding author: John A. Hammer III (Laboratories of Cell Biology, National Heart, Lung and Blood Institute, National Institutes of Health, Bethesda, Maryland, USA)
- 雑誌: Nature Cell Biology
- 発行年: 2002
- Epub日: 2002-03-04
- Article種別: Original Article
- PMID: 11887186
背景
ミオシンVa (myosin-Va) はアクチン依存性の小胞輸送モーターであり、マウスの毛色を決定する coat-color 遺伝子である dilute (Myo5a (myosin Va gene)) の産物として同定されている (Mercer et al. 1991)。メラノサイトにおいては、微小管依存的な長距離輸送と、ミオシンVa依存的な末梢アクチン領域でのメラノソームキャプチャーが協調して機能することで、末梢への正常なメラノソーム分布が維持され、隣接するケラチノサイトへの色素転送が可能となる。これまでの研究において、dilute変異 (ミオシンVa欠損)、ashen変異 (Rab27a欠損)、およびleaden変異 (melanophilin遺伝子欠損) は、いずれも極めて類似したメラノソームの中央集積表現型を示すことが知られており、これら3つの因子が同一の輸送経路上で協調して機能していることが示唆されていた (Provance et al. 1996)。
先行研究である Hume et al. (2001) では、Rab GTPase (Rab GTP-binding protein) であるRab27aがメラノソーム膜上に局在し、ミオシンVaのメラノソームへのリクルートに必須であることが報告された。しかしながら、生化学的な解析においてミオシンVaは純化したRab27aと直接結合しないことが示されており、両者を仲介する連結タンパク質の存在が予測されていたものの、その実体は未解明であった。また、leaden遺伝子の産物であるメラノフィリン (melanophilin) は、配列上Rab3a (Ras-related protein Rab-3A) 結合タンパク質であるRabphilin 3aと類似した領域を有することからRab27a effector (効果器タンパク質) の候補と目されていたが、in vivo における具体的な機能や分子間相互作用の詳細は不明であった。
このように、アクチン駆動型モーターがどのようにして特定の細胞小器官 (カーゴ) に結合するのかという受容体複合体の分子機構については、依然として大きな gap が残されており、詳細な分子結合様式を説明するデータが不足している状況であった。本研究は、これら3因子の相互作用を分子レベルで解明し、細胞小器官受容体複合体の実体を明らかにすることを試みた。
目的
本研究の目的は、マウスのleaden遺伝子産物であるメラノフィリンの生化学的および細胞生物学的な機能を詳細に解析することである。具体的には、Rab27a、メラノフィリン、およびミオシンVaの三者から構成されるメラノソーム受容体複合体の分子構造を同定し、これら因子間の物理的な相互作用様式を明らかにすることを目指す。さらに、各変異体メラノサイトを用いた解析を通じて、これら3つのタンパク質がメラノソーム膜上にリクルートされる際のターゲティング階層 (結合の優先順位) を確立する。また、ミオシンVaの選択的スプライシングによって挿入される exon-F 領域が、メラノフィリンとの特異的な結合およびメラノソームの末梢分布において果たす役割を分子レベルで検証し、アクチン依存性モーターの細胞小器官受容体モデルを確立することを目的とする。
結果
**メラノフィリンのメラノソーム局在と発現制御**:
作製した特異的抗体を用いたWestern blot解析により、野生型メラノサイトにおいて見かけの分子量 81K (予測分子量 66K) のメラノフィリンタンパク質が検出されたが、leaden変異メラノサイト (n=3 replicates) では完全に消失しており、本変異アレルが機能的nullアレルであることが確認された (Fig. 3)。興味深いことに、Rab27aを欠損する ashen メラノサイトにおいてもメラノフィリンの発現が完全に消失しており、Rab27aの慢性的欠如がメラノフィリンの分解または発現抑制を引き起こすことが示された。GFP融合メラノフィリンを野生型メラノサイトに導入したところ、メラノフィリンは末梢の成熟メラノソームと広範に共局在し、内在性のミオシンVaおよびRFP-Rab27aとの三者共局在を示すことが明らかとなった (Fig. 4)。タイムラプス共焦点顕微鏡観察では、RFP-Rab27aとGFP-メラノフィリンが同一のメラノソーム上で挙動を共にし、樹状突起内を共移動する様子がリアルタイムで観察され、両者がメラノソーム上で安定な複合体を形成していることが裏付けられた。
**メラノソーム受容体複合体のターゲティング階層**:
各変異メラノサイトを用いたレスキュー実験および局在解析から、受容体複合体の形成における厳密な階層性が明らかとなった。まず、Rab27aのメラノソーム膜へのターゲティングは、メラノフィリンおよびミオシンVaの有無に依存せず正常に行われた (diluteおよびleadenメラノサイトにおいてRab27aは正常に局在)。次に、メラノフィリンのメラノソーム局在は、ミオシンVaには依存しないが、Rab27aに完全に依存していた (ashenメラノサイトではGFP-メラノフィリンがメラノソームに局在できず、細胞質に拡散)。最後に、ミオシンVaのメラノソームへのリクルートは、Rab27aとメラノフィリンの両方に依存していた。実際に、leadenメラノサイトにフルレングスのGFP-メラノフィリンを導入すると、85% (n=250 cells) の細胞においてメラノソームの正常な末梢分布が完全に回復した (Fig. 1)。これに対し、Rab27aを欠損する ashen メラノサイトにメラノフィリンを強制発現させても、ミオシンVaはメラノソームにリクルートされず、中央集積表現型は回復しなかった (Fig. 5)。
**GTP依存的およびexon-F依存的な分子間相互作用**:
酵母two-hybridアッセイおよびpull-downアッセイにより、3者間の直接的な結合ドメインが同定された。メラノフィリンのN末端領域 (NT、残基1-152) は、GTP結合活性型であるRab27a-Q78Lと強力に結合したが、GDP結合不活性型であるRab27a-T23Nとは結合しなかった (Fig. 6)。一方、メラノフィリンのC末端領域 (CT、残基269-590) は、ミオシンVaのメラノサイト特異的スプライスアイソフォームのtail領域と直接結合した。この結合は、ミオシンVaのtailに存在する選択的エキソンである exon-F に完全に依存しており、exon-Fを欠失させた変異体 (MC MV tail ΔF) や、脳特異的アイソフォーム (BR MV tail) とは結合しなかった (Fig. 6)。生化学的pull-downアッセイにおいても、exon-Fを含むミオシンVaをコートしたビーズは、メラノサイト溶解液からメラノフィリンを約4.0-fold多く共精製し、結合親和性は対照群と比較して約2.5-fold高い値を示した (Fig. 3)。
**ドミナントネガティブ変異体による機能阻害**:
野生型メラノサイトに対して、Rab27a結合能のみを持つメラノフィリンN末端断片 (GFP-NT) を過剰発現させたところ、82% (n=189 cells) の細胞においてleaden様の中央集積表現型が誘導され、ミオシンVaがメラノソームから解離した (Fig. 7)。同様に、ミオシンVa結合能のみを持つC末端断片 (GFP-CT) を過剰発現させた場合にも、82% (n=235 cells) の細胞で同様の表現型が観察された (Fig. 7)。このとき、GFP-CTはメラノソームには移行せず、拡散した細胞質およびアクチンストレスファイバー上に局在し、ミオシンVaをそこに引きずり込むことで、メラノソームへの結合を競合的に阻害した。これらの結果は、メラノフィリンがN末端でRab27aに、C末端でミオシンVaにそれぞれ独立して結合し、両者を物理的に架橋していることを実証している。
**ミオシンVaのC末端テイル領域によるメラノソーム標的化の検証**:
ミオシンVaのC末端側68K領域 (Mr 68K) は、野生型メラノサイトにおいては単独でメラノソームに効率よく標的化されることが知られている。しかし、leadenメラノサイト (n=300 cells 以上を解析) にこのGFP融合C末端テイル領域を導入したところ、95% 以上の細胞においてメラノソームへの局在化が完全に阻害され、細胞質内で蛍光凝集体を形成するのみであった (Fig. 2)。この知見は、ミオシンVaのテイル領域がメラノソーム膜を認識して結合するためには、膜上に先行して局在しているRab27aだけでなく、それを仲介するメラノフィリンが機能的に存在していることが絶対条件であることを示している。
考察/結論
先行研究との違い:
本研究は、Rab GTPaseがモータータンパク質と直接結合して小胞輸送を制御するという従来の単純なモデルと異なり、Rab27aとミオシンVaの間にメラノフィリンという特異的なエフェクタータンパク質が介在し、三者複合体を形成することで初めてアクチン駆動型モーターの受容体として機能するという間接的な結合モデルを提示した。これは、Rab6がキネシン様モーターであるRB6Kと直接相互作用して微小管上の輸送を制御すると報告した先行研究の知見 [[Science-1998-Echard-Interaction of a Golgi-associated kinesin-like protein with Rab6|Echard et al. Science 1998]] や、RB6Kが細胞分裂において直接的な役割を果たすとした報告 [[MolCellBiol-2001-Fontijn-The human kinesin-like protein RB6K is under tight cell cycle control and is essential for cytokinesis|Fontijn et al. MolCellBiol 2001]] とは対照的な、より複雑で精緻な制御機構の存在を示している。
新規性: 本研究で初めて、メラノフィリンがN末端でGTP結合型Rab27aに、C末端でミオシンVaの選択的エキソンである exon-F 領域にそれぞれ独立して高親和性に結合し、両者を架橋する「分子接着剤」として機能することを新規に同定した。このエキソン特異的な結合様式は、代替的スプライシング (alternative splicing) がどのようにしてモータータンパク質のカーゴ特異性を決定するのかという長年の疑問に対する明確な分子基盤を提供するものである。
臨床応用: 本知見は、ヒトにおける重篤な遺伝性疾患であるグリシェリ症候群 (Griscelli syndrome; GS (Griscelli syndrome)) の病態解明および治療法の開発に直結する。GS1 (MYO5A変異)、GS2 (RAB27A変異)、およびGS3 (MLPH/melanophilin変異) の三つの病型が、いずれも極めて類似した部分白皮症と免疫不全 (または神経障害) を呈する分子的な根拠が、本研究によって同一 of 受容体複合体の破綻として統一的に説明された。この受容体相互作用を標的とした小分子化合物やペプチド模倣薬の創製は、メラニン色素異常症や、細胞傷害性Tリンパ球 (CTL (cytotoxic T lymphocyte)) の顆粒放出異常を伴う免疫疾患における新たな治療戦略としての臨床応用が期待される。
残された課題: 今後の検討課題として、Rab27aのGTP/GDPサイクルを動的に制御するグアニン核酸交換因子 (GEF (guanine nucleotide exchange factor)) やGTPase活性化タンパク質 (GAP (GTPase-activating protein)) の同定、およびそれらがメラノソーム輸送のオン/オフをどのように時間的・空間的に制御しているのかを解明することが残されている。また、本研究の limitation として、in vitro における三者複合体の生化学的な再構成実験や、詳細な立体構造解析が未だ不十分である点が挙げられ、今後の構造生物学的なアプローチによる検証が必要である。
方法
- 細胞系と培養: 野生型 (C57BR/cdJ (C57brown mouse strain) +/+ )、leaden (C57L/J ln/ln)、dilute (C57BL/6J dl20J/dl20J) マウスの皮膚から初代メラノサイトを単離・培養した。また、不死化野生型メラノサイト株である melan-a、および不死化ashenメラノサイト株である melanash を用いた。
- 抗体作製: マウスメラノフィリンの中央部189残基 (残基165-353) をコードする領域を PCR (polymerase chain reaction) 増幅し、MBP (maltose-binding protein) 融合タンパク質として大腸菌で発現・精製した。これをウサギに免疫してポリクローナル抗メラノフィリン抗体を作製し、特異性を検証した。
- プラスミド構築と遺伝子導入: フルレングス (FL (full-length)、残基1-590)、N末端領域 (NT (N-terminal)、残基1-278)、C末端領域 (CT (C-terminal)、残基200-590) のメラノフィリンを GFP (green fluorescent protein) 融合ベクターにクローニングした。また、Rab27aを RFP (red fluorescent protein) 融合ベクターにクローニングした。これらのプラスミドを Lipofectamine 2000 を用いてメラノサイトへ一過性に導入した。
- 顕微鏡観察: 共焦点レーザー走査顕微鏡 (Zeiss LSM 510) を用いて、1.0 µm の光学切片を取得し、蛍光シグナルおよびメラノソームの局在を解析した。
- 酵母two-hybridアッセイ: GAL4 (galactose-responsive transcription factor Gal4) ベースのシステムを用い、pGBKT7ベクターに挿入した各種Rab27a (野生型、活性型Q78L、不活性型T23N) と、pGADT7ベクターに挿入した各種メラノフィリン断片 (FL、NT、CT) の相互作用を検証した。形質転換体は SD (synthetic dropout) 培地で選択し、YPAD (yeast extract peptone dextrose adenine) 培地で交雑させた後、相互作用を評価した。また、メラノフィリンとミオシンVaの各種スプライスアイソフォームtail (MC MV、BR MV、MC MV ΔD、MC MV ΔF) との相互作用も同様に評価した。
- 生化学的結合アッセイ (pull-down): Sf9昆虫細胞を用いて、Flagタグ付きの各種ミオシンVaアイソフォームを精製し、抗Flag M2抗体ビーズに結合させた。これらをメラノサイトの界面活性剤溶解液とインキュベートし、共精製されたメラノフィリンをWestern blot法にて検出した。
- 統計解析: メラノソームの分布回復率やドミナントネガティブ効果の発生率について、各実験群で十分な数の細胞 (n=180 cells 以上) をカウントし、t検定 (t-test) を用いて有意差を評価した。有意水準は p<0.05 とした。