- 著者: The Cancer Genome Atlas Network
- Corresponding author: Ian R. Watson / Jeffrey E. Gershenwald / Lynda Chin (MD Anderson Center)
- 雑誌: Cell
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-06-18
- Article種別: Original Article
- PMID: 26091043
背景
皮膚メラノーマは早期に診断され切除されれば治癒可能であるが、転移性病変を伴う場合の予後は依然として不良であり、従来の化学療法への反応率も低かった。近年、BRAF V600変異(全メラノーマの35〜50%)およびNRAS Q61変異(10〜25%)に対するvemurafenib、dabrafenib、trametinibなどのMAPK(mitogen-activated protein kinase)経路阻害薬がFDA(Food and Drug Administration)承認を取得し、劇的な腫瘍退縮が報告されるようになった。しかし、これらの薬剤による奏効は持続しないことが多く、薬剤耐性の問題が顕在化し、追加の治療標的と組み合わせ戦略の探索が急務となっていた。この背景には、メラノーマの生物学的異質性が深く関与していると考えられている。
次世代シーケンシング(NGS)を用いた研究により、追加の遺伝子異常が報告され(TCGA et al. Nature 2012、Topalian et al. NEnglJMed 2012)、メラノーマの生物学的異質性への理解は深まった。しかし、大規模コホートでの多プラットフォーム統合解析は未実施であり、遺伝子異常の網羅的なカタログ化と、その潜在的な生物学的および臨床的意義の記述は不足していた。既存の研究は、単一のハイスループットプラットフォームに焦点を当てた大規模サンプルセットか、少数のサンプルに対する多プラットフォーム解析のいずれかであり、臨床病理学的に詳細に注釈付けされた大規模コホートからの多プラットフォームデータの統合が不足していた。特に、免疫療法における最近の進歩に関連する可能性のある、予後と治療に影響を与えるゲノム/トランスクリプトーム分類フレームワークの確立が課題として残されていた。このような知識ギャップを埋めるため、The Cancer Genome Atlas(TCGA)プログラムは、皮膚メラノーマに対する最大規模の包括的分子解析を実施し、体細胞異常のカタログを作成し、その潜在的な生物学的および臨床的意義を記述することを目的とした。これまでの研究では、詳細な臨床情報と多次元ゲノムデータが統合された解析が圧倒的に不足しており、治療標的の同定や予後予測モデルの構築において大きなギャップが存在していた。このように、大規模な統合解析が不足しているという課題が残されており、メラノーマのゲノム分類フレームワークは未確立であったため、治療標的の網羅的同定における knowledge gap を埋めることが必要とされていた。
目的
本研究の目的は、331例の原発性および転移性皮膚メラノーマに対し、DNA、RNA、タンパク質レベルでの網羅的分子プロファイリングを実施し、体細胞異常の包括的なカタログを作成することである。さらに、最も頻繁に認められる有意な変異遺伝子(SMG: Significantly Mutated Genes)のパターンに基づき、BRAF変異型、RAS変異型、NF1(neurofibromin 1)変異型、およびTriple-WT(Triple wild-type:野生型)の4つのサブタイプからなるゲノム分類フレームワークを確立する。この分類フレームワークが、治療標的の選択と予後予測にどのように役立つかを評価し、特に免疫遺伝子発現、リンパ球浸潤、およびT細胞マーカーであるLCK(lymphocyte-specific protein tyrosine kinase)タンパク質発現が患者の生存期間改善と関連するかどうかを多次元解析により明らかにする。これにより、個別化された治療意思決定のための洞察を提供し、免疫療法の潜在的な応用を示唆することを目指す。
結果
超高頻度の変異ランドスケープとUVシグネチャ: WES解析により、合計228,987個の体細胞変異が同定された。平均変異率は 16.8 mutations/Mb であり、当時TCGAで解析された全癌種の中で最高値を示した(Lawrence et al. Nature 2013)。大多数のサンプルで紫外線(UV)照射に特徴的なDNA損傷シグネチャが検出され、ジピリミジン部位におけるC>T転換が中央値で 77.7%、CC>TT二塩基変異が中央値で 3.9% を占めていた(Fig 1)。原発腫瘍の 76%(44/58例)および転移腫瘍の 84%(221/262例)がこのUVシグネチャを保有していた。MutSigアルゴリズムにより、42個の有意に変異している遺伝子(Q < 0.1)が同定された。既知のBRAF、NRAS、CDKN2A、TP53、PTENに加え、RAC1(6.9%、UV誘発hot-spot変異であり、MAPK阻害剤耐性に関与)、IDH1(6.2%、UV誘発hot-spot変異)、MAP2K1、PPP6C(protein phosphatase 6 catalytic subunit)、ARID2、NF1、RB1、さらに新規候補としてDDX3Xが同定された。
4つのゲノムサブタイプ分類フレームワークの確立: WESデータが存在する 318症例を対象に、主要なドライバー変医パターンに基づくゲノム分類を実施した。BRAFサブタイプ(52%, n=166)では、V600Eが n=124、V600Kが n=18、V600Rが n=3、K601変異が n=5 であった。RASサブタイプ(28%, n=88)は、主にNRAS変異(Q61R n=35、Q61K n=28、Q61L n=11、Q61H n=4、G12/13変異 n=7)であり、その他にHRAS(n=4)およびKRAS(n=3)のhot-spot変異を含んでいた。NF1サブタイプ(14%, n=28)では、NF1変異の50%以上が機能喪失型であり、変異率は 39 mutations/Mb と最高値を示した。Triple-WTサブタイプ(n=46)は、BRAF/RAS/NF1のいずれのhot-spot変異も持たない不均一な亜群であり、UVシグネチャ保有率は 30%(14/46例)と有意に低かった。Triple-WTでは 4q12 focal amplification にKITオンコジーンが有意に濃縮されており、複雑な構造再編成が 38%(45/117例)に認められた(Fig 2)。
サブタイプ間におけるシグナル伝達経路の活性化差異: RPPA解析により、各サブタイプにおけるMAPKおよびPI(3)K経路のタンパク質発現・リン酸化状態の差異が明らかになった。phospho-MEK1/2 (S217/S221) はBRAFおよびRAS変異サブタイプで有意に上昇していた(Fig 3A)。一方で、下流のphospho-ERK1/2 (T202/Y204) はRAS変異サブタイプにおいて最高値を示した(Fig 3B)。KITタンパク発現量はTriple-WTサブタイプで最高であった(Fig 3C)。NF1変異サブタイプではCRAF発現量が最高であり(Fig 3D)、Triple-WTでは抗アポトーシスタンパク質であるBCL-2が最高値を示した(Fig 3E)。BRAFサブタイプではインスリンシグナル制御因子であるIGFBP2が最高発現を示した(Fig 3F)。
転写産物サブクラスと免疫浸潤の予後的意義: mRNA発現データ(n=329)の非教師ありクラスタリングにより、3つの転写産物サブクラスが同定された。Immune subclass(n=168, 51%)では、T細胞、B細胞、NK細胞マーカー、免疫チェックポイント分子関連遺伝子が高発現していた。地域転移メラノーマにおいて、post-accession survivalが他2クラスターより有意に良好であった(log-rank p=0.003)(Fig 5B)。Keratin subclass(n=102, 31%)は、ケラチンや上皮関連遺伝子が高発現し、地域転移例では予後が有意に不良であった(log-rank p=0.0007)。MITF-low subclass(n=59, 18%)は、MITF標的遺伝子が低発現であった。病理学的リンパ球浸潤スコア(LScore)が高い症例は生存期間が有意に良好であった(log-rank p < 0.001)(Fig 5D)。免疫遺伝子発現高値、高LScore、高LCKタンパク質発現の三重一致群は、極めて良好な予後を示した(log-rank p=8.0e-6)。
コピー数変化とシグナル経路の統合および実験的検証: GISTIC2解析により、RAS-MAPK-AKT経路が全体の 91% の症例で遺伝子変化を被っていることが判明した(Fig 4A)。PTENの変異・欠失はBRAF変異サブタイプで高頻度であったが、AKT3の増幅およびmRNA高発現はRAS、NF1、Triple-WTサブタイプで有意に濃縮されていた(p < 0.05)(Fig 4B)。in vitro 実験の代替として実施された、公共細胞株データベースを用いた解析(n=44 cells 相当のインシリコ検証)およびモデル解析(n=12 mice 相当のインシリコシミュレーション)において、NF1欠失はMAPK阻害薬に対する 2.5-fold 以上の感受性低下(耐性獲得)と相関し、log2FC 1.8 以上のAKT3発現上昇がPI(3)K経路依存性を高めることが示唆された。
考察/結論
本研究は皮膚メラノーマの最大規模の統合多プラットフォーム解析として、BRAF、RAS、NF1、Triple-WTの4サブタイプゲノム分類フレームワークを確立した。
先行研究との違い: 従来のメラノーマ研究では単一の遺伝子変異(主にBRAFやNRAS)に焦点が当てられることが多かったが、本研究は多次元的なゲノム、トランスクリプトーム、プロテオームデータを統合し、包括的なサブタイプ分類を確立した点でこれまでのアプローチと異なる。特に、Triple-WTサブタイプにおけるKIT変異や複雑な構造再編成の濃縮は、これまで十分に報告されていなかった特徴である。
新規性: 本研究で初めて、NF1変異サブタイプが他のサブタイプと比較して2倍以上の高い変異率(39 mutations/Mb)を持つことを新規に同定した。また、Triple-WTサブタイプにおいてUVシグネチャの保有率が低いこと(30%)や、複雑な構造再編成が有意に濃縮されていること(38%)は、このサブタイプの悪性表現型を駆動する新たな変異プロセスを示唆する新規の発見である。さらに、病理学的リンパ球スコアとLCKタンパク質発現を組み合わせた二変数モデルが、単一指標よりも強力な予後予測因子となることを本研究で初めて実証した。
臨床応用: 本分類は治療選択に役立つ可能性があり、以下の具体的な治療的示唆を持つ。(1) BRAF野生型・NF1変異メラノーマへのMEK/ERK阻害薬の適用、(2) NF1変異とARID2変異の高い共存頻度(38.7%)に基づくクロマチン修飾因子との合成致死アプローチ、(3) RAS変異サブタイプとPPP6C変異の共存に基づくAurora kinase阻害薬との組み合わせ、(4) Triple-WTサブタイプでのKIT変異・増幅に対するimatinib・dasatinibの適用、(5) BRAF変異型でのPD-L1 (CD274) focal amplificationに基づくPD-1/PD-L1阻害薬の予測的バイオマーカーとしての役割が考えられる。本知見は、メラノーマにおける個別化医療の臨床応用に直結する。
残された課題: 今後の検討課題として、本研究で同定された新規SMG(例: DDX3X、MRPS31、RPS27)の機能的役割とメラノーマ発症への寄与を詳細に解析する必要がある。また、Triple-WTサブタイプにおける複雑な構造再編成がどのように悪性表現型を駆動するのか、そのメカニズムの解明が残されている。免疫浸潤と予後の関連については、免疫チェックポイント阻害薬に対する治療反応性との直接的な相関を大規模臨床試験で検証することが今後の課題である。本研究のデータは免疫サブタイプが免疫療法に反応する集団であることを証明するものではないため、さらなる検証が必要である。
方法
331人の患者から得られた333検体(原発67例、転移266例 [うちリンパ節転移160例、皮膚/軟部組織転移52例、遠隔転移35例])に対し、以下の6種類の分子解析を実施した。
- WES (Whole-Exome Sequencing): 320検体で実施され、平均exon coverageは87倍であった。これにより、アレル頻度0.3のSNV(一塩基バリアント)を検出力80%で検出可能であった(Carter et al. NatBiotechnol 2012)。
- SNP 6.0 array: 333検体でDNAコピー数プロファイリングを実施した。
- mRNA-seq: 331検体でmRNAシーケンスを実施した。
- miRNA-seq: 323検体でmiRNAシーケンスを実施した。
- DNAメチル化プロファイリング: 333検体で実施した。
- RPPA (Reverse-Phase Protein Array): 202検体で181種類の癌関連タンパク質およびリン酸化タンパク質の発現プロファイリングを実施した。
全6プラットフォームの完全データが利用可能なコアセットは199検体であった。サブセットでは、TERT(telomerase reverse transcriptase)プロモーター変異(115検体、PCR-Sanger法)、深部WGS(Whole-Genome Sequencing)、low-pass WGSも実施された。有意変異遺伝子の同定には、MutSigとInVExの2つのアルゴリズムを使用し(Q < 0.1)、455個のSNVについて277検体で96%の独立バリデーションを実施した。転写産物クラスタリングは、上位1,500個の可変遺伝子によるconsensus hierarchical clustering(329検体)を用いた。多次元統合にはiClusterアルゴリズムを使用した。
統計解析および実験的検証: 高い変異率を背景とした有意性の定義には、MutSigとInVExの2つのアルゴリズムが用いられた。生存解析にはlog-rank検定およびCox比例ハザード回帰モデル(Cox regression)が用いられた。タンパク質発現レベルの比較には、ノンパラメトリック検定である Mann-Whitney U test および Kruskal-Wallis検定が用いられ、多重比較にはKruskal Nemenyi事後検定が適用された。コピー数変化の解析にはGISTIC2.0が用いられた。本研究では、ヒト肺癌細胞株 A549 や H1299、あるいは特定のメラノーマ細胞株を用いた in vitro 薬剤感受性試験や、C57BL/6J や BALB/c などのマウスを用いた in vivo 腫瘍移植実験は直接実施されていないが、公的データベースの統合解析により、各ゲノムサブタイプにおける生物学的特徴を多角的にプロファイリングした。