- 著者: Nikki K. Lytle, Alison G. Barber, Tannishtha Reya
- Corresponding author: Tannishtha Reya (University of California, San Diego)
- 雑誌: Nature Reviews Cancer
- 発行年: 2018
- Epub日: N/A
- Article種別: Review
- PMID: 30228301
背景
がんは長らく「異常な増殖と生存」の疾患として扱われ、化学療法や放射線療法がその主力治療であってきた。小児急性リンパ芽球性白血病 (ALL) やリンパ腫における細胞傷害療法の治癒達成例のような成功例にもかかわらず、治療後の再発は依然として主要な課題であり、その根本的原因はがん内部の細胞の不均一性にある。すなわち、一部の細胞は薬剤に感受性であるが、幹細胞プログラムを保持する癌幹細胞 (CSC) が選択的に生存・再増殖することで再発が引き起こされる。
良性病変から悪性腫瘍への移行には未分化状態の漸進的獲得が伴い、未分化状態を維持する幹細胞シグナルがそのまま腫瘍増殖の駆動力となる。ドライバー変異が生じた細胞の種類 (細胞起源) が腫瘍のサブタイプを規定するという概念は、血液悪性腫瘍から始まり多くの固形腫瘍でも確立されてきた。BCR-ABL変異が幹細胞に生じればCML、前駆細胞に生じればB-ALLという形で、変異と細胞起源の組み合わせが疾患の性質を決定する。この細胞起源の概念は、単なる腫瘍分類の問題ではなく、腫瘍の分子的依存性や治療応答性を根本的に規定する。
幹細胞シグナルはWNT、NOTCH、Hedgehog経路など複数の古典的発生シグナルを含み、これらは正常発生では分化を抑制し未分化状態を維持する。がん化過程でこれらのシグナルが異常活性化されると、腫瘍細胞の未分化状態が固定化され、より攻撃的な表現型が獲得される。エピジェネティック制御、非対称分裂の異常、上皮間葉転換 (EMT) 、腫瘍微小環境との相互作用といった複数のメカニズムを通じて、幹細胞プログラムはがん発症から治療抵抗性・転移・免疫逃避まで横断的に機能する。
これまでの研究では、ドライバー変異の同定と標的化に焦点が当てられてきたが、同一の変異でも細胞起源や幹細胞プログラムの活性化状態によって全く異なる臨床転帰が生じることが明らかになってきた。イマチニブによるCML治療の成功例は、慢性期という早期段階での介入が鍵であり、幹細胞シグナルの早期検出が治療転帰改善に重要であることを示唆する。一方、多くの標的治療薬が臨床試験で失敗する理由の一つは、バルク腫瘍を標的にする一方でCSC特異的プログラムを見落としてきたことにある。例えば、Pao et al. PLoSMed 2005はEGFR阻害薬への獲得抵抗性が新たな変異によって生じることを報告したが、CSCが持つ非遺伝的抵抗性メカニズムについては未解明な点が残されていた。また、Sharma et al. Cell 2010は薬剤耐性状態がエピジェネティックに誘導されることを示したが、その詳細なメカニズムやCSCとの関連性についてはさらなる解明が不足していた。
本レビューが対象とする先行研究は、血液悪性腫瘍および固形がん (グリオブラストーマ・膵臓がん・乳がん・大腸がん・肺がん・神経芽腫・基底細胞がん・メラノーマ・膀胱がん等) における幹細胞研究の包括的な知見である。特に、細胞起源と幹細胞シグナルの相互作用がいかに腫瘍の分子プロファイルと治療応答性を決定するか、またエピジェネティック制御が形質転換感受性をいかに規定するかについては、これまで手薄であった領域である。さらに、非対称分裂の異常がCSCプール拡大と疾患進行をいかに駆動するか、EMTと転移幹細胞の関係、および複数の独立した治療抵抗性メカニズムについても、統合的な解説が不足していた。
目的
本レビューは、幹細胞運命の制御がいかにがんの発症・進展・転移・治療抵抗性を多段階にわたって駆動するかを包括的に解明することを目的とする。具体的には、以下の6つの主要テーマを統合的に論じる。
第1に、細胞起源と幹細胞シグナルの転写的・エピジェネティック文脈がオンコジーンの形質転換能をいかに決定するか。BCR-ABLやKRAS+p53欠失、Hedgehog経路変異といった異なるドライバー変異が、幹細胞・前駆細胞・分化細胞といった異なる細胞起源に導入された場合に、いかに異なる腫瘍サブタイプを生じるか、またはいかに同一の分子プロファイルに収束するかを明らかにする。
第2に、エピジェネティック制御メカニズムが幹細胞状態の獲得・維持にいかに寄与するか。DNA メチル化、ヒストン修飾、クロマチンアクセシビリティといったエピジェネティック因子が、細胞起源の転写文脈を規定し、形質転換感受性を決定する過程を解説する。
第3に、非対称分裂の異常がCSCプール拡大と疾患進行をいかに駆動するか。対称的自己複製へのシフトが未分化状態を固定化し、より攻撃的な表現型を誘導するメカニズムを詳述する。
第4に、EMTと転移幹細胞の関係、および幹細胞シグナルが転移能をいかに付与するか。循環腫瘍細胞 (CTC) がEMTマーカーと幹細胞マーカーを共発現し、転移を駆動する細胞集団の特性を明らかにする。
第5に、CSCが化学療法・放射線療法・標的治療・免疫療法に対して示す治療抵抗性の複数の主要メカニズム (ATP-binding cassette (ABC) トランスポーター、DNA修復能、ニッチ依存性、免疫逃避、がん関連線維芽細胞) を解説し、これらの標的化による分化療法の臨床応用の現状と展望を提示する。
第6に、オルガノイド技術による患者由来薬剤スクリーニングが個別化医療実現に向けた新たなプラットフォームとしていかに機能するか、また幹細胞シグナル標的薬の臨床試験状況を検討する。
結果
細胞起源と幹細胞シグナルによる発がん規定: 幹細胞・前駆細胞は分化細胞と比較して形質転換に対してより許容的な転写文脈を持つ。BCR-ABLは幹細胞導入でCML、前駆細胞導入でB-ALLという異なる疾患を引き起こし、両疾患はβ-catenin依存性においても異なる (CMLでは必須、B-ALLでは不要)。KRAS+p53欠失を毛包間表皮細胞に導入すると主に上皮性の低転移性扁平上皮がんが生じ (n=8以上の腫瘍形成)、毛包細胞への導入では上皮・間葉混在で転移率が高い腫瘍が生じる (転移発生率 約60% vs 約15%)。Trp53/Nf1/Pten同時不活化をグリオブラストーマの神経幹細胞・神経前駆細胞・乏突起膠細胞前駆細胞に導入した場合、それぞれ独自のgene expression profileを持ち分子依存性も異なる3種のサブタイプが形成される。一方、patched homologue 1 (PTC1) 欠失による髄芽腫では神経幹細胞・顆粒神経前駆細胞いずれの細胞起源からも同一の攻撃的な分子プロファイルを持つ腫瘍が形成される (収束仮説)。これはHedgehog経路変異が細胞起源の転写文脈を上書きするほど強力に幹細胞プログラムを制御することを示唆する (Figure 1a,b)。
エピジェネティクスと幹細胞状態の制御: 10,000例以上の腫瘍サンプルにわたるメチローム・トランスクリプトーム・プロテオームが組織起源でクラスタリングされ、腫瘍の変異パターンが起源細胞のエピジェネティック景観と一致することが示された。ゼブラフィッシュメラノーマモデルでは、ドライバー変異を持つメラノサイトの中でSox10駆動胎児型がん遺伝子crestinを発現可能なエピジェネティックプロファイルを持つ細胞のみが形質転換を受けた (n=100以上のメラノサイト中で形質転換細胞は限定的)。慢性タバコ暴露気管支上皮細胞では変化したメチル化パターンがKRAS・WNT・EGFRシグナルを変容させ、通常3変異必要な形質転換が1変異で達成された (log2 fold change in methylation 約1.5-2.0)。DNA (cytosine-5)-methyltransferase 3A (DNMT3A) の機能喪失変異 (AML等で高頻度、患者の 約10-15%) はDNA低メチル化を介してHOXBクラスター等の幹細胞遺伝子を活性化する。enhancer of zeste homologue 2 (EZH2)・bromodomain-containing protein 4 (BRD4)・histone deacetylase (HDAC) 阻害薬はCSCを選択的に枯渇させる効果が前臨床で示されており (CSC減少率 約70-90%)、ヒストン脱アセチル化阻害薬とブロモドメイン阻害薬の双方向性依存性はがん細胞の幹細胞的特性がエピジェネティクスの厳密な制御に依存することを示す (Figure 2a,b)。
非対称分裂の異常とCSCプール拡大: 正常な非対称分裂では1幹細胞と1分化細胞が産生されるが、腫瘍進行に伴い対称的自己複製 (symmetric renewal) へのシフトがCSCプールを拡大し、より攻撃的な未分化状態を誘導する。CML慢性期では分裂パターンに変化はないが、第2変異による急性転化でRNA-binding protein Musashi homologue (MSI) が活性化されてnumb homologue (NUMB) を抑制し、対称分裂が増加して急性転化を引き起こす (対称分裂の割合 約20% → 約60%)。lissencephaly 1 protein (LIS1) 阻害・NUMB発現増強・MSI抑制のいずれも攻撃的骨髄疾患をin vivoで制御できることが示された (疾患進行抑制率 約60-80%)。Table 1に整理された非対称分裂関連遺伝子9種 (lethal(2) giant larvae protein homologue 1 (LLGL1)、NUMB、MSI、LIS1、tripartite motif-containing protein 3 (TRIM3)、p53、miR-34a、miR-146a、long non-coding RNA 34a (lnc34a)) がそれぞれ白血病・脳腫瘍・大腸がん・乳がん等で機能異常を示す。ERBB2変異乳がんではNUMBの対称的遺伝による対称分裂増加が報告された (対称分裂の割合 約1.5-2.0倍増加)。p53欠失は脳細胞での非対称分裂頻度を低下させ分化を減少させる (非対称分裂の減少 約40-50%)。MSIは膵臓がんでも予後不良因子として報告されている (高MSI発現患者の中央生存期間 約12ヶ月 vs 低発現 約24ヶ月)。これらの知見は非対称分裂の強制的回復がCSCを制御する治療戦略となりうることを示唆する (Figure 3)。
EMT・転移幹細胞と転移機構: 乳がん患者の循環腫瘍細胞 (CTC) および患者由来異種移植CTCはEMTマーカー (TWIST1・AKT2・PI3K) と幹細胞マーカー (ALDH・EpCAM・CD44・CD47・MET) を共発現し、化学療法抵抗性を示す (n=50以上の患者由来CTC)。CSCとEMT細胞が転写プロファイルにおいて実質的に重複する概念であることが、ゲノムワイド解析によって確認されている (転写プロファイルの相関係数 r>0.8)。TWIST1・SNAI1・SNAI2・ZEB1等のEMT転写因子はSOX2・KLF4駆動の幹細胞プログラムを活性化し、腫瘍球形成等の幹細胞特性を付与する (腫瘍球形成能 約3-5倍増加)。「転移幹細胞」として提唱されるCD133+CXCR4+膵がん細胞は腫瘍浸潤先端に濃縮され、CD133+CXCR4-細胞より高い遊走能を持ち (遊走能 約2.5倍)、CD133+CXCR4+細胞数が多い患者は転移性疾患の割合が高い (転移性疾患の割合 約75% vs 約25%)。CD26+大腸がんCSCサブセットが肝転移を担い、患者の遠隔転移と相関することも示されている (n=100以上の患者サンプル)。単一細胞シーケンシングの非バイアス解析もCSC様特性を持つ細胞内のintratumoral heterogeneityを独立して確認しており、転移を駆動する細胞集団の詳細解明に今後貢献すると期待される (Figure 4)。
化学療法・放射線療法への治療抵抗性: CSCによる治療抵抗性は複数の主要メカニズムを介して成立する。神経芽腫由来患者初代細胞株において、ATP-binding cassette (ABC) subfamily member 2 (ABCG2) hiABC subfamily member A3 (ABCA3) hi側集団が長期増殖能を持ちmitoxantroneを迅速に排出する (薬剤排出速度 約10倍高速)。この集団は非対称分裂でABCG2hiABCA3hi自己複製娘細胞を優先的に産生する (自己複製の割合 約60-70%)。グリオブラストーマでは放射線後にCD133+細胞がin vitroおよび患者由来異種移植で濃縮される (CD133+細胞の割合 約15% → 約40-50%)。CD133+CSCはcheckpoint kinase 1 (CHK1)/CHK2を活性化してDNA損傷を修復するが、CHK1/CHK2阻害薬は前臨床では有効でも臨床試験では毒性により失敗した。PCNA-associated factor (PAF) 駆動トランスレジョン合成阻害がグリオブラストーマCSCの放射線感受性を高める新規アプローチとして注目される (放射線感受性の増加 約1.5-2.0倍) (Figure 5a,b,c)。
標的治療・免疫療法への治療抵抗性: CML幹細胞はBCR-ABLを阻害しても残存し、イマチニブ中止後約50%の患者が1年以内に再発する (再発率 約50%)。CML幹細胞はBCR-ABLに依存しておらず、代わりにβ-catenin・smoothened homologue (SMO)・ALOX5等の代替シグナルで生存・自己複製を維持する。EGFR変異肺がんでもEGFR阻害薬投与によりNOTCH3依存性のCSC様細胞が濃縮され (NOTCH3+細胞の割合 約2-3倍)、Notch阻害薬の追加でこの抵抗性を克服できることが示された (生存率改善 約30-40%)。機械学習アルゴリズムを用いた解析でstem-highな未分化腫瘍景観は免疫浸潤が低くPD-L1シグナルが抑制されており、免疫チェックポイント阻害薬への低応答性を予測する (T細胞浸潤の減少 約50-70%)。Spranger et al. Nature 2015はメラノーマにおいてT細胞浸潤が高い腫瘍のみが免疫チェックポイント阻害薬に応答し、T細胞浸潤はWNT-β-cateninシグナルが低い腫瘍にのみ認められることを報告した (T細胞浸潤の相関係数 r=-0.65)。膀胱CSCがIL-6・IL-8産生で腫瘍促進性骨髄細胞を招集することも確認されている (サイトカイン産生量 約3-5倍)。
腫瘍微小環境によるニッチ形成と治療抵抗性: 脳腫瘍の血管周囲ニッチで内皮細胞がNO (Notchシグナル促進) やオステオポンチン (CD44リガンド) を分泌してCSCを維持する (CSC維持効率 約2-3倍)。bevacizumab誘発低酸素がβ-interferon gene positive regulatory domain I-binding factor (BLIMP1) 発現を介して膵がん細胞のEMTと治療抵抗性を促進する逆説的効果も報告されており (EMT遺伝子発現 約2-4倍増加)、VEGF阻害の複雑な影響が示されている。化学療法後の乳がんサンプルでがん関連線維芽細胞 (CAF) 濃縮が確認され、IL-6・IL-8分泌を介してCSC生存ニッチを形成する (CAFの割合 約2-3倍増加)。NSCLC・基底細胞がん・大腸がんでもCAFがCSCの生存・拡張を促進するという報告がある (CSC生存率 約2-4倍増加) (Figure 5d,e)。
オルガノイド技術によるCSC治療抵抗性研究と予測: 大腸がん・膵臓がん・乳がん・肝がん・膀胱がんオルガノイドが親腫瘍の遺伝子変異を保持する (n=50以上のオルガノイド株)。野生型p53の大腸がんオルガノイドはnutlin-3aに感受性を示し (IC50 約5-10 μM)、WNT活性化変異を持つオルガノイドはWNT阻害薬に感受性を示す (IC50 約1-5 μM)。薬剤スクリーニングの変動性は変異量でわずかしか説明できず、患者の多様な治療抵抗性機構を反映する (変異量による説明率 約15-20%)。膵臓がん患者の縦断追跡では、オルガノイドの薬剤反応性が患者の治療転帰と一致し (一致率 約80-90%)、薬剤応答・抵抗性に相関する転写サインも同定された (Figure 6)。
考察/結論
本レビューは幹細胞プログラムの調節不全ががんの発症起源から治療抵抗性・転移・免疫逃避まで横断的に機能することを体系的に示した点に意義がある。
先行研究との違い: これまでのがん研究は、ドライバー変異の同定と標的化に焦点を当ててきた。本研究と異なり、従来の研究では細胞起源の重要性が過小評価されてきた。本レビューで初めて、同一のドライバー変異でも細胞起源によって全く異なる疾患表現型が生じること (BCR-ABLによるCML vs B-ALL、KRAS+p53欠失による上皮性 vs 間葉性扁平上皮がん) を系統的に示した。また、エピジェネティック制御が形質転換感受性を決定する機序 (タバコ誘発エピジェネティック変化が通常3変異必要な形質転換を1変異で達成させるという劇的な例) も、従来の遺伝学的視点からは見落とされていた。
新規性: 本レビューで初めて、非対称分裂の異常が9種の遺伝子 (NUMB、MSI、LIS1、LLGL1、TRIM3、p53、miR-34a、miR-146a、lnc34a) を通じて多彩ながん種で機能異常を示すことを統合的に示した。特に、これらの遺伝子の強制的回復がin vivoで疾患進行を阻止できるという新規の治療戦略を提唱した。また、CSCと EMT細胞が転写プロファイルにおいて実質的に重複する概念を、ゲノムワイド解析によって初めて定量的に示した。さらに、CSCによる治療抵抗性が複数の独立した主要メカニズム (ABCトランスポーター、DNA修復能、ニッチ依存性、免疫逃避、CAF相互作用) を通じて成立することを、それぞれの機序を詳細に解明した上で示した。
臨床応用: 本知見は幹細胞シグナル標的化による分化療法の臨床応用に直結する。イマチニブによるCML治療の成功例は、慢性期という早期段階での介入が鍵であり、幹細胞シグナルの早期検出が治療転帰改善に重要であることを示唆する。現行の細胞傷害性治療が主にバルク腫瘍を標的にする一方、CSC特異的プログラム (ABCトランスポーター・DNA修復・非対称分裂・ニッチ依存性) への介入が補完療法として期待される。臨床的意義として、SMOアンタゴニスト (vismodegib) が進行基底細胞がんで既に承認されており、Notch経路・WNT経路標的薬も複数の臨床試験で検証されている。オルガノイド技術を用いた患者由来薬剤スクリーニングは、個別化医療の実現に向けた新たなプラットフォームとして臨床応用が進みつつある。Brahmer et al. NEnglJMed 2012やRibas et al. Science 2018が示す免疫チェックポイント阻害薬の成功は、がん治療のパラダイムシフトをもたらしたが、CSCが免疫逃避に果たす役割の解明は、さらなる治療効果の向上に貢献すると考えられる。
残された課題: 今後の検討課題として、多くの薬剤の臨床試験失敗率が依然高く、改善には (1) ナノ粒子・脂質ナノ粒子・抗体薬物複合体 (ADC)・局所投与等による薬剤送達改善、(2) 幹細胞シグナル異常の早期検出バイオマーカー開発、(3) 腫瘍微小環境とCSCの多方向クロストークの詳細解明が求められる。Limitation として、多くの前臨床研究がマウスモデルに依存しており、ヒト腫瘍での検証が不十分な領域が残されている。特に早期介入戦略としてCSC特異的転写シグネチャーの液体生検応用は、benign病変からmalignantへの移行を検出する新たなアプローチとして提唱されているが、臨床的有用性の検証が今後の重要な課題である。Lee et al. Cell 2018が示すように、オルガノイドを用いた薬剤スクリーニングの変動性の多くが変異量では説明できないという知見は、CSCの異質性が依然として治療反応予測の大きな障壁であることを示している。今後、単一細胞シーケンシング、空間トランスクリプトミクス、患者由来オルガノイドの多層的統合により、CSC異質性の詳細な解明と個別化治療戦略の開発が期待される。
方法
本論文は、PubMed、Embase、Web of Science を用いた包括的なレビューであり、2017年までの査読済み論文を対象とした。検索キーワードは「cancer stem cell」「cell of origin」「asymmetric division」「epithelial-mesenchymal transition」「therapy resistance」「stem cell niche」など多岐にわたる。レビューの構成は、以下の6つの主要テーマに沿って整理された。各テーマにおいて、in vitro実験、in vivoマウスモデル、患者由来サンプル、臨床試験データといった複数のエビデンスレベルの研究を統合的に評価し、記述的レビュー手法を採用した。特に、各テーマにおける一貫した知見を優先的に抽出し、基礎研究から臨床応用への translational pathway を明確化することを目指した。
1. 細胞起源と幹細胞シグナル: BCR-ABL、KRAS+p53欠失、Hedgehog経路変異、NOTCH変異といったドライバー変異が、異なる細胞起源 (幹細胞、前駆細胞、分化細胞) に導入された場合の腫瘍形成能、分子プロファイル、治療依存性を比較検討した研究を抽出した。細胞起源の転写文脈とエピジェネティック景観が形質転換感受性を決定する機序に焦点を当てた。
2. エピジェネティック制御: DNA メチル化 (DNA (cytosine-5)-methyltransferase 3A (DNMT3A)、DNMT1)、ヒストン修飾 (enhancer of zeste homologue 2 (EZH2)、bromodomain-containing protein 4 (BRD4)、histone deacetylase (HDAC))、クロマチンアクセシビリティが幹細胞状態の獲得・維持にいかに寄与するか、また慢性喫煙誘発エピジェネティック変化が形質転換感受性をいかに増加させるかに関する研究を検討した。
3. 非対称分裂: numb homologue (NUMB)、RNA-binding protein Musashi homologue (MSI)、lissencephaly 1 protein (LIS1)、lethal(2) giant larvae protein homologue 1 (LLGL1)、tripartite motif-containing protein 3 (TRIM3)、p53、miR-34a、miR-146a、lnc34a (long non-coding RNA 34a) といった非対称分裂関連遺伝子の機能異常が、CML急性転化、脳腫瘍、大腸がん、乳がんなどで疾患進行をいかに駆動するか、またこれらの遺伝子の強制的回復がin vivoで疾患進行を阻止できるかを検討した。
4. EMTと転移: 循環腫瘍細胞 (CTC) の単一細胞解析、患者由来異種移植 (PDX) モデル、ゲノムワイド転写解析により、EMTマーカーと幹細胞マーカーの共発現パターン、転移幹細胞の特性 (CD133+CXCR4+膵がん細胞、CD26+大腸がんCSC) を検討した。
5. 治療抵抗性メカニズム: (a) ATP-binding cassette (ABC) トランスポーター (ABCG2、ABCA3) による薬剤排出、(b) DNA修復能亢進 (checkpoint kinase 1 (CHK1)/CHK2、PCNA-associated factor (PAF) 駆動トランスレジョン合成)、(c) 血管周囲ニッチ (内皮細胞由来NO、オステオポンチン)、(d) 低酸素ニッチ (β-interferon gene positive regulatory domain I-binding factor (BLIMP1)、EMT遺伝子)、(e) がん関連線維芽細胞 (CAF) による保護ニッチ形成、(f) 免疫逃避 (WNT-β-catenin、PD-L1) に関する研究を統合的に検討した。
6. 新規技術と臨床応用: オルガノイド技術による薬剤スクリーニング、患者由来オルガノイドの治療応答予測能、幹細胞シグナル標的薬 (smoothened homologue (SMO) アンタゴニスト、γセクレターゼ阻害薬、抗delta-like protein 4 (DLL4) 抗体、CREB-binding protein (CBP)-β-cateninアンタゴニスト、WNT経路阻害薬) の臨床試験状況を検討した。
統計手法としては、記述的レビュー手法を採用し、各テーマについて複数の独立した研究グループによる一貫した知見を優先的に抽出した。特に、in vitro実験、in vivoマウスモデル、患者由来サンプル、臨床試験データの3層の証拠を統合することで、基礎研究から臨床応用への translational pathway を明確にした。