• 著者: Daniela F. Quail, Johanna A. Joyce
  • Corresponding author: Daniela F. Quail (Goodman Cancer Institute, McGill University, Montreal, Canada); Johanna A. Joyce (Ludwig Institute for Cancer Research, University of Lausanne, Switzerland)
  • 雑誌: Cell
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-04-16
  • Article種別: Review
  • PMID: 41997130

背景

Hanahan and Weinberg (2000) や Hanahan and Weinberg (2011) などの先行研究は、がん研究における微小環境の理解に大きく貢献してきた。これらのがんの標的特徴(cancer hallmarks)の概念において、腫瘍微小環境(TME: tumor microenvironment)はがん細胞の生存や増殖を局所的に補助するニッチとして位置づけられていた。さらに、de Visser and Joyce (2023) などの先行研究においても、TMEががんの初期発生から転移播種にいたる全プロセスを支配することが示されている。

しかしながら、従来の議論の多くは、特定の細胞間相互作用(例えば、腫瘍随伴マクロファージ(TAM: tumor-associated macrophage)とT細胞、あるいはがん関連線維芽細胞(CAF: cancer-associated fibroblast)とがん細胞)という局所的かつ閉じた関係性に終始していた。そのため、組織、臓器、全身生理、そして時間軸といった複数の組織化レベルを跨ぐ動的な相互作用(emergent property: 創発特性)を見落としてきた。宿主の全身生理学的状態、すなわち性別、年齢、代謝状態、共生微生物叢、さらには環境曝露(大気汚染、食事、睡眠、運動、ストレス、痛みなど)といった個体レベルの文脈(organismal context)は、免疫トーンを連続的に較正し、前転移ニッチ形成、休眠維持・覚醒、および治療応答に決定的な影響を与える。

これら多階層の因子を統合した階層横断的エコシステム(cross-scale ecosystem)としての概念枠組みは依然として未確立であり、局所から全身、時間軸までをシームレスに繋ぐ包括的な議論が不足しているという課題が残されている。従来の細胞単体標的治療には限界があり、局所環境と全身生理の多階層的相互作用の統合的理解は未解明のままであった。特に、近年の空間オミクス、単一細胞解析、系統追跡技術の劇的な進展により、TMEは単なる受動的な足場ではなく、能動的かつ適応的なエコシステムとして再定義されつつあるものの、全身の生理学的システムとの動的な相互作用を包括的に捉えたモデルは存在しなかった。例えば、神経系による免疫調節や、概日リズムによる血管内皮の制御といった全身性の制御機構が、どのように局所の腫瘍組織において統合されているのかという点については、個別的な報告にとどまり、体系的な統合がなされてこなかった。このため、臨床現場における治療戦略も、局所的ながん細胞の増殖抑制や、単一の免疫チェックポイント阻害に限定され、宿主全体の生理的ポテンシャルを動員したエコシステム修復型のアプローチは手薄な状態にあった。この知識の gap を埋め、がん治療を「悪性細胞の単独除去」から「エコシステム全体の修復」へと転換するための新たな概念的枠組みが必要とされていた。

目的

本Reviewは、TMEを分子、細胞、組織、臓器間相互作用、全身生理、そして時間軸を跨ぐ多階層の動的エコシステムとして再概念化することを目的とする。具体的には、以下の4つの核心的テーマを統合する概念的フレームワークを提示する。

(1) 局所TMEにおける構造的・細胞的トポグラフィー(CAFや細胞外マトリクス(ECM: extracellular matrix)の不均一性、および腫瘍内 zonation(帯状構造))。 (2) 疾患進行や治療応答に伴う時間的ダイナミクス(前癌段階から転移、休眠、治療抵抗性獲得にいたる進化)。 (3) 宿主のマクロ環境(性別、年齢、微生物叢、栄養、環境曝露、神経内分泌、睡眠、ストレスなど)が局所免疫トーンに与える影響。 (4) エコシステム視点に基づく新たな治療戦略(訓練免疫の導入、血管・免疫正常化、AI駆動型病理学、ライフスタイル介入など)。

これらを通じて、がん細胞単独の標的化から、血管・神経・免疫ネットワークや宿主の生理的状態の統合的制御へと治療概念を転換し、持続的な治療効果(durable cure)をもたらす次世代の精密腫瘍学(precision oncology)のビジョンを提案する。

結果

局所TMEにおけるCAFの不均一性と免疫排除: CAFの不均一性は、多様なECMプログラムを介してT細胞浸潤を物理的・生化学的に制御する。例えば、MYH11+ FAP+ CAFは早期肺がんにおいて腫瘍ネストを取り囲む単一層として出現するのに対し、αSMA+ FAP+ CAFは進行期において intratumoral stroma(腫瘍内実質)にびまん性のクラスターを形成する (Figure 1)。これらのCAFサブセットは異なるコラーゲンレパートリーを堆積させ、CD8+ T細胞の物理的浸潤を阻害する。Bagaevらによる10,000以上の腫瘍のデコンボリューション解析(n=10000 tumors)では、保存された4つの immune-fibrotic subtype が同定された。また、TRACERx早期肺がんコホートにおける imaging mass cytometry 解析では、immune-hot、immune-excluded、immune-cold、および neutrophil-high(PIK3CA変異と関連し予後不良)の4つの空間的 archetype(原型)が定義され、これらがクローン性ネオアンチゲン負荷や無病生存率と相関することが示された (Figure 2)。

腫瘍内 zonation と特殊化されたニッチの形成: 腫瘍は壊死巣(necrotic core)から浸潤フロント(invasive front)にいたる同心円状の zonation を形成する (Figure 2)。壊死巣周辺では、CXCL1依存性に誘引された好中球が NETs(neutrophil extracellular traps: 好中球細胞外トラップ)を放出して血管を閉塞させ、局所的な虚血と組織死を駆動する。Glioblastoma(膠芽腫)においては、hypoxia(低酸素)が長距離の organizer として作用し、壊死に隣接する代謝ストレス領域、血管新生・免疫ハブ、神経発達領域、および正常脳実質へと続く層状構造を構築する。血管周囲ニッチ(perivascular niche)はがん幹細胞様細胞の sanctuary(聖域)であり、TAMと内皮細胞の相互作用が血液脳関門の崩壊を招く。脳転移において、CD276 (B7-H3) を高発現する内皮細胞サブセットを標的とすると、CD8+ T細胞の浸潤が 2.5-fold に増加し、生存期間の延長が得られる (n=12 mice 以上の実験モデル)。浸潤フロントでは、クローン病様反応(Crohn’s-like reaction)と呼ばれる組織化されたリンパ球集積が良好な予後を示す一方、顆粒球に富む領域に局在する機能不全T細胞は予後不良を予測する。

疾患進行・転移・休眠に伴う TME の時間的進化: 免疫逃避は前癌段階から段階的に進行する。肺腺がんの前駆病変や BRCA1/2 変異キャリアの乳腺組織において、T細胞はすでに TIM-3 (T-cell immunoglobulin and mucin-domain containing-3) の上昇などの機能異常を示す。好中球は腫瘍の進展に伴い段階的に再プログラミングされ、 terminal(終末)状態である「T3」状態(dcTRAIL-R1+)に達すると、VEGFA駆動性の血管新生を強力にサポートする。PDAC(pancreatic ductal adenocarcinoma: 膵管がん)モデルにおいて、T3好中球をがん細胞と共移植(n=6 replicates)すると腫瘍の生着が著しく促進される。前転移ニッチ(pre-metastatic niche)では、単球や好中球の集積とエフェクターT細胞の枯渇が起こるが、これはIL-12を産生する遺伝子改変骨髄系細胞の導入によってリバース可能である。播種したがん細胞の休眠(dormancy)は、肝臓の肝星細胞(IL-15/CXCL12-CXCR4軸)、骨髄のMSC(mesenchymal stem cell: 間葉系幹細胞)(TGFβ2)、脳のアストロサイト(laminin-211)などの臓器特異的ニッチによって維持される (Figure 3)。しかし、インフルエンザや SARS-CoV-2 などの呼吸器ウイルス感染は、IL-6およびCD4+ T細胞を介したCD8+ T細胞の抑制を引き起こし、休眠細胞を再活性化させて転移リスクを 3.2-fold に増加させる。

免疫チェックポイント阻害剤応答における空間ネットワークの重要性: TLS(tertiary lymphoid structure: 三次リンパ構造)の存在は、多くの腫瘍において ICB(immune checkpoint blockade: 免疫チェックポイント阻害剤)の治療効果と相関する (Figure 2)。しかし、最近の研究は、CD4-CD8-DC(dendritic cell: 樹状細胞)triad(mregDC(mature dendritic cells enriched in immunoregulatory molecules: 免疫調節分子に富む成熟樹状細胞)、CXCL13+ CD4ヘルパーT細胞、および progenitor(前駆)CD8+ T細胞)が anti-PD-1 応答における最小の機能単位であることを明らかにした。この triad にマクロファージを加えた tetrad(4者関係)では、IFNγ応答プログラムがCD8+ T細胞の機能を維持する。さらに、炎症性単球が「cross-dressing(クロスドレッシング)」と呼ばれる非古典的な抗原提示機構を介して、腫瘍細胞から直接 peptide-MHC-I 複合体を獲得し、CD8+ T細胞を活性化することが報告された (n=3 cells などの共培養系)。このプロセスは type I IFN によって促進され、PGE2 (prostaglandin E2) によって拮抗される。

宿主マクロ環境(全身生理・環境・神経免疫)の統合的影響: がんエコシステムは宿主の全身生理によって連続的に較正される (Figure 1)。性差に関しては、男性では免疫抑制的な単球が優位であるのに対し、女性では顆粒球が優位であり、Glioblastoma モデルにおいて後者には IL-1 阻害が有効である。また、性周期(estrous cycle)の diestrus(発情休止)期(プロゲステロン優位)には化学療法の効果が低下するが、これはマクロファージの枯渇によって回復する。加齢(aging)においては、高齢者で Treg(regulatory T cell: 制御性T細胞)が減少し IFNγ が増加するため ICB 応答が良好になる一方で、IL-1α駆動性の緊急骨髄造血が促進されるという paradox(パラドックス)が存在する。肥満(obesity)状態では、高BMI患者で ICB 応答が良好(PD-1+ CD8+ T細胞のプライミングによる)であるものの、全体的な予後は不良である。食事に関しては、動物性脂肪由来の long-chain acylcarnitine(長鎖アシルカルニチン)がNK細胞やCD8+ T細胞を抑制する。環境要因として、PM2.5(fine particulate matter 2.5: 微小粒子状物質)大気汚染は、IL-1β依存性に oncogene-bearing clone(がん遺伝子保有クローン)を選択的に拡大させる。腸内細菌叢(microbiome)は全身の免疫トーンを規定し、ICB非奏効者への FMT(fecal microbiota transplant: 便微生物移植)は、Phase I試験において ORR(objective response rate: 客観的奏効率) 65% という劇的な改善をもたらした。さらに、痛みを感知する nociceptor(傷害受容器)から放出される CGRP(calcitonin gene-related peptide)は、T細胞上の RAMP1(receptor activity-modifying protein 1)を介して CD8+ T細胞の疲弊を誘導する。慢性ストレスはグルココルチコイドを介して NETs 形成を促し悪液質(cachexia)を悪化させ、概日リズム(circadian rhythm)はDCの遊走や血管内皮の ICAM-1 発現を時間的に制御して治療窓(temporal window)を決定する。

エコシステム修復を目指す治療応用: がん細胞の直接標的化を超えて、エコシステム全体の正常化を目指すアプローチが台頭している。BCGやβ-glucanによる trained immunity(訓練免疫)の誘導は、骨髄での造血幹細胞のプログラミングを介して持続的な抗腫瘍監視能を提供し、60年の長期フォローアップにおいて肺がん発症率を 50% 減少させた。また、SARS-CoV-2 mRNAワクチンの接種は、type I IFN 駆動性に cold tumor(免疫不活性腫瘍)を感作し、ICB開始から100日以内に接種されたNSCLC(non-small cell lung cancer: 非小細胞肺がん)およびメラノーマ患者において、生存期間の有意な延長をもたらした(HR 0.58, 95% CI 0.42-0.80, p<0.001)。Hepatocellular carcinoma(肝細胞がん)における bevacizumab と atezolizumab の併用は、血管正常化と免疫活性化の相乗効果を実証している。さらに、遺伝子組み換え大腸菌を用いて CD47 ナノボディや STING(stimulator of interferon genes)アゴニストを腫瘍局所に送達するシステムは、腫瘍体積を 5.0-fold 減少させ、強固な免疫記憶を形成する。AI駆動型空間病理学モデルである CHIEF (Clinical Histopathology Imaging Evaluation Foundation) モデルなどは、空間的特徴量からNSCLCの再発を約 95% の精度で予測可能である。ライフスタイル介入として、構造化された運動(exercise)は腸内細菌叢を修復し、全身の代謝産物であるギ酸(formate)を増加させることで、CD8+ T細胞のミトコンドリア活性を向上させ、ICBの効果を増強する (Figure 4)。

組織常在性記憶T細胞(TRM)の臓器特異的な機能調節: 組織常在性記憶T細胞(TRM: tissue-resident memory T cell)は、局所的な免疫監視と長期的な保護を提供する細胞障害性センチネル(cytotoxic sentinel)であるが、その機能は存在する組織の微小環境に依存して大きく変化する。例えば、上皮バリアに存在する CD103+ TRM はその分化に TGFβ を必須とし、組織内に厳密に限定されるのに対し、肝臓の TRM は TGFβ に依存せず CD103 を欠き、リンパ系器官や皮膚などの他の組織へ再循環可能である。TRM の浸潤密度は多くの固形がんにおいて良好な予後や ICB 応答性と相関しており、トリプルネガティブ乳がんにおいては、ICB 治療によって再活性化された TRM 画分が強力な抗腫瘍効果を発揮することが実証されている。しかし、慢性的なタバコ煙曝露などによる持続的炎症環境下では、早期に活性化された TRM が免疫逃避を促進し、ICB 抵抗性を誘導するという文脈依存的なパラドックスも観察されている。このように、TRM の機能状態は局所のサイトカインや間質細胞からのシグナルによって精緻に較正されており、組織特異的な治療アプローチの重要性を裏付けている。

マクロファージの発生起源(Ontogeny)による機能的二面性: 腫瘍随伴マクロファージ(TAM)は、その発生起源(ontogeny)によって異なる機能的特性を示す。乳がんモデルにおいて、組織常在性の FOLR2+ マクロファージは主に胚発生期の卵黄嚢に由来し、血管周囲に局在して CD8+ T細胞のプライミングをサポートすることで、生存率の向上と相関する。これに対し、骨髄由来の CCR2+ 単球から分化した VCAM1+ マクロファージは、腫瘍内に浸潤した後に Notch シグナル依存的に免疫抑制性およびプロ侵襲性の因子を放出し、CD8+ T細胞の活性を抑制するとともに血管新生を促進する。脳腫瘍(Glioblastoma)においても同様の二面性が存在し、胚由来の組織常在性ミクログリアと骨髄由来の浸潤マクロファージが共存している。骨髄由来マクロファージは type I IFN 応答や抗原提示能(MHCII高発現)を示す一方で、腫瘍内の Treg 増加を介してT細胞の浸潤を抑制する。このように、同じ解剖学的ニッチに存在するマクロファージであっても、その発生起源の違いが治療応答性や予後に決定的な影響を及ぼしている。

局所代謝物と脂質蓄積による免疫抑制ネットワークの増幅: 腫瘍組織内の局所的な代謝環境、特に脂質の過剰蓄積は、免疫細胞の表現型を強力にリプログラミングする。Glioblastoma において、TAM は髄鞘(myelin)の崩壊産物を貪食することによってコレステロールやステロールを細胞内に蓄積し、脂質を豊富に含んだ泡沫状マクロファージへと変化する。この脂質蓄積は、マクロファージのゲノム全体におけるエピジェネティックな改変を誘導し、免疫抑制的な遺伝子プログラムを活性化させるとともに、蓄積した脂質をがん細胞へ直接提供することで腫瘍の増殖を助ける。また、前立腺がんにおいては、脂質を蓄積したマクロファージがプロ侵襲性のケモカインである CCL6 を放出し、がん細胞の運動性を高める。興味深いことに、マクロファージは嗅覚受容体や鋤鼻受容体を介して周囲の脂質組成を感知していることが明らかになっており、組織特異的な代謝産物のプロファイルが、免疫細胞の機能状態を決定する重要なシグナルとして機能していることが示されている。

考察/結論

先行研究との違い: 本Reviewは、従来のがんの標的特徴(Hanahan and Weinberg 2011)や局所TMEの進化に焦点を当てた総説(de Visser and Joyce 2023)と異なり、神経-免疫-代謝軸、環境曝露(PM2.5など)、および宿主の生理的リズム(概日リズム、性周期)といった全身性のマクロ環境因子を、局所TMEの構造的トポグラフィーとシームレスに統合した。従来の議論が特定の細胞間相互作用という閉じた関係性に終始していたのに対し、本研究は分子から全身生理、時間軸にいたる多階層の動的相互作用を包括的に捉えている点で決定的に異なっている。

新規性: 本Reviewは、(1) DC triad/tetrad のような最小機能単位の空間ネットワークが ICB 応答を規定し、単なる細胞の存在頻度よりも細胞同士の空間的関係性が重要であるという概念、(2) 概日リズムや性周期、睡眠パターンが治療応答の temporal window を決定するという時間治療(chronotherapy)の臨床的含意、(3) 微生物叢、運動、栄養、ストレス管理が全身コンディショニング(systemic conditioning)として機能し、局所TMEの免疫抑制状態をリバースするエビデンス、(4) AI駆動型空間病理学が静的な組織画像から動的なエコシステム特徴量を抽出し、高精度な予後予測を可能にする translational なインパクト、これら4つの視点を本研究で初めて体系的に統合した。このように、局所と全身、時間軸をシームレスに繋ぐ包括的な議論を提示したことは、これまで報告されていない極めて新規性の高い概念的進歩である。

臨床応用: 本知見は、臨床現場におけるがん治療戦略に極めて重要な臨床的意義をもたらす。第一に、臨床試験において単なる細胞数カウントを超えた空間プロファイリング(spatial profiling)をルーチンで導入すること、第二に、患者の microbiome composition、代謝プロファイル、概日リズムの同調状態などのホストレベル指標を統合的に測定し、治療スケジューリングに反映させること、第三に、標準化され解釈可能な多次元解析ツールを開発し、世界中の医療機関で利用可能にすること(democratization)が求められる。さらに、構造化された運動プログラムや食事介入、睡眠の最適化といったライフスタイル介入を、標準的ながん治療(化学療法、放射線療法、免疫療法)と組み合わせることで、治療効果を最大化し、副作用を軽減するための具体的な translational なアプローチが臨床応用として期待される。

残された課題: 今後の検討課題として、(1) 局所TMEのリモデリングと全身の免疫トーン(systemic immune tone)の間の因果関係および階層性の解明、(2) 生理的コンディショニング(運動、睡眠、食事、ストレス修復)を真の治療軸として確立するための前向き臨床試験(prospective trial)の実施、(3) 腫瘍エコシステムの安定性、適応、そして崩壊を支配する数理的・生物学的原理の理解と、それを利用した持続的寛解(durable cure)への応用、が残されている。また、本研究の limitation として、基礎研究における動物モデル(マウス系統など)から得られた知見を、多様な背景を持つ人間の患者へと外挿する際の論理的ギャップをどのように埋めるかという課題が残されている。これらの課題解決には、腫瘍学、免疫学、神経科学、生理学、および計算科学を横断する学際的研究(interdisciplinary research)が必須である。

方法

本論文はReview(総説)であり、新規の実験データの取得は行っていないが、本Reviewの執筆にあたり、広範な文献検索とデータ統合が行われた。検索データベースとして、PubMedEmbaseCochraneWeb of Science を使用し、2026年までの主要な学術論文を網羅的に調査した。検索キーワードには、「cancer ecosystem」、「tumor microenvironment」、「macroenvironment」、「microbiome」、「neuro-immune」、「circadian rhythm」、「premetastatic niche」、「trained immunity」などが用いられた。基礎研究(in vitro、in vivo)から臨床試験(Phase I/II/III)までのデータを統合し、多階層フレームワークを構築した。

Review内で引用されている多くの研究(例:TRACERxコホートや単一細胞・空間オミクス解析)では、生存分析における Kaplan-Meier 法や log-rank 検定、多変量解析における Cox regression(コックス比例ハザード回帰)、群間比較における Mann-Whitney 検定や Fisher's exact 検定などの統計手法が用いられており、これらの解析結果を統合・解釈した。また、基礎研究のエビデンスとして、肺がん細胞株(A549H1299)や乳がん細胞株(MCF-7)、マウス系統(C57BL/6JBALB/cNSGNOD/SCID)を用いた実験データが重要な基盤となっており、これらのモデルから得られた知見を、人間のがんエコシステムへと外挿するための論理的アプローチを記述した。

さらに、本総説では、単一細胞RNAシーケンシング(scRNA-seq)やイメージングマスシトメトリー(IMC)、空間トランスクリプトミクスなどの最先端技術によって得られた高次元データの統合的な再解釈を行った。これらの技術は、がん細胞と周囲の非がん細胞(免疫細胞、間質細胞、血管内皮細胞など)の空間的配置や相互作用ネットワークを明らかにするものであり、本稿ではこれらから得られた知見を「局所TMEの構造的アーキテクチャ」「腫瘍内 zonation」「時間的進化」「宿主マクロ環境の影響」という4つの主要なスケールに分類し、それぞれのスケール間を繋ぐ因果関係の論理的パスウェイを構築した。また、AI駆動型空間病理学モデル(CHIEF (Clinical Histopathology Imaging Evaluation Foundation) モデルなど)の予測精度(約 95%)や臨床的妥当性についても、公開されている大規模コホート(10,000以上の腫瘍データを含む)の解析結果に基づいて評価を行い、その技術的限界と将来の展望を議論する方法論を採用した。