- 著者: Lawrence G. Lum, Archana Thakur, Zaid Al-Kadhimi, Gerald A. Colvin, Francis J. Cummings, Robert D. Legare, Don S. Dizon, Nicola Kouttab, Abby Maizel, William Colaiace, Qin Liu, Ritesh Rathore
- Corresponding author: Lawrence G. Lum; Archana Thakur (Wayne State University and Karmanos Cancer Institute)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-02-16
- Article種別: Original Article
- PMID: 25688159
背景
MBC (metastatic breast cancer、転移性乳がん) は局所乳がん診断後の約10%が5年以内に転移性病変を発症し、化学療法やホルモン療法に一定の奏効が得られるものの疾患進行は不可避であることが確立されている (Harris et al. Cancer 1993; Muss et al. N Engl J Med 1991; Nabholtz et al. J Clin Oncol 1999)。HER2はMBC・卵巣がん・肺がん等の固形腫瘍に過発現し、トラスツズマブ・ペルツズマブ・T-DM1 (trastuzumab emtansine)・ラパチニブ等の抗HER2標的療法がHER2陽性MBCの予後を大きく改善してきた。しかし、HER2陰性MBCに対する特異的免疫療法は手薄であり、HER2陽性・陰性いずれの腫瘍にも対応できる非MHC制限的なT細胞療法の臨床確立が求められていた。
先行前臨床研究では、OKT3 (anti-CD3 monoclonal antibody) とトラスツズマブをcGMP条件下でヘテロコンジュゲートして製造したHER2Bi (HER2 bispecific antibody、抗CD3-抗HER2二重特異性抗体) で武装した活性化T細胞 (armed activated T cell: aATC) が、HER2高発現・低発現のいずれの乳がん細胞株に対しても非MHC制限的な細胞傷害活性を示し、コカルチャー時にIFN-γ (interferon-gamma)・RANTES・MIP-1αといったTh1サイトカインを繰り返し産生することが示されていた (Grabert et al. Clin Cancer Res 2006)。さらにSCID/Beigeマウスモデルでは、確立されたHER2+ PC-3腫瘍に対するaATC輸注が腫瘍成長を完全抑制した実績があり (Davol et al. Clin Prostate Cancer 2004; Lum et al. Anticancer Res 2005)、ヒト臨床試験への基盤は整っていた。
一方でCAR-T細胞 (chimeric antigen receptor T cell) を用いた固形腫瘍標的療法も開発されていたが (Maus et al. CancerImmunolRes 2013; Hudecek et al. ClinCancerRes 2013)、ウイルスベクター遺伝子導入を必要とする製造工程の複雑さや、固形腫瘍の免疫抑制微小環境に対する持続的有効性の確立が大きな課題として未解明のまま残されていた (Frigault et al. CancerImmunolRes 2015)。何が不足していたかを端的に示せば、「繰り返し輸注型・非ウイルスベクター製造によるarmed T細胞療法のMBC第I相安全性・有効性データが皆無」という状況であり、HER2Biアプローチの臨床的実現可能性と内因性免疫誘導能はいずれも未確立のまま残されていた。
目的
Stage IV MBC患者 (HER2 0〜3+) を対象に、HER2Bi aATCをIL-2 (interleukin-2) および GM-CSF (granulocyte-macrophage colony-stimulating factor、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子) と組み合わせた8回投与レジメンの安全性・最大耐用量 (maximum tolerated dose: MTD)・製造実現可能性・aATC体内動態・免疫応答・time to progression (TTP) および全生存 (overall survival: OS) を評価すること。
結果
患者背景と製品品質:24例登録のうち23例が治療を受け (1例は登録後病勢進行で未治療)、22例が14.5週時点で臨床的に評価可能であった (Table 1)。年齢中央値48歳 (範囲:31〜68歳)。ECOG 0が18例 (78.3%)、1が5例 (21.7%)。HER2 3+:7例 (30.4%)、HER2 0〜2+:15例、HER2不明:1例。ER/PR陽性:15例 (65.2%)。aATC製品の平均viabilityは91.88%±5.9%、製品中T細胞サブセットの平均比率はCD3 86.7% (95% CI: 79.9〜93.6%)、CD4 52.4% (95% CI: 44.6〜60.2%)、CD8 34.6% (95% CI: 26.9〜42.3%) であり、CD45RO+メモリーT細胞が90.8%以上を占めた。HER2Bi aATCのSK-BR-3に対する平均特異的細胞傷害活性は59.3%±11.9% (範囲:12.1〜90.7%、E:T=25:1) であり、武装前患者自己ATC (3.0%±2.8%) vs HER2Bi-aATC (59.3%±11.9%)の比較でP<0.0001と有意に高かった (Table S3)。CD4細胞比率とHER2Bi-ATCのin vitro細胞傷害活性の間に逆相関が認められた (Spearman r=-0.5642、P<0.02)。
安全性とMTD評価:dose-limiting toxicity (DLT) は全例で認められず、MTDは定義されなかった。最高完遂用量レベルはdose level 3 (20×10^9 aATC/回、総160×10^9) であった。Dose level 4 (40×10^9/回、総320×10^9) は1例が試みたが、単回アフェレーシスでの総320×10^9 aATC製造が技術的に実現困難であり、実現可能な最大総投与量は160×10^9と定義された。最多の有害事象はGrade 3の悪寒であり、dose level 1〜3での輸注ごとの発生率はそれぞれ8.6%・20.8%・43.1%と用量依存性を示した (Table 2)。Grade 3頭痛が2番目に多く (dose level 1〜3でそれぞれ3.1%・8.3%・19.6%/回)、1例 (患者#13、dose level 3) でGrade 4頭痛・高血圧が発生し3回輸注後に研究から離脱した (硬膜下血腫の外科的排液後、神経学的後遺症なし)。1例 (患者#2) はジゴキシン毒性による心不全で死亡したが、剖検で心筋へのT細胞浸潤は認められずaATC非関連と判定された。Grade 3悪寒にはメペリジンが有効であり、aATCの減量を必要とした患者はいなかった (Fig. 1A)。
臨床効果 (14.5週時点):評価可能な22例のうち、NED (no evidence of disease、病変消失) が1例、PR (partial response、部分奏効) が1例、SD (stable disease、安定) が11例、PD (progressive disease、進行) が9例であった。SD以上の割合は59.1% (13/22例) であり、免疫療法前にPDを示していた患者のうち5/22例 (22.7%) がaATC後にSDへ移行した。特筆すべきはHER2陰性の患者#9 (ER+、letrozole進行中) がPRを達成し、PET/CTで確認された肝転移2か所 (2.5×1.7 cm・2.5×1.3 cm) が14.5週時点で30%縮小、7か月時点で70%超縮小を示したことである (Fig. 1B)。HER2 3+群では5/7例 (71.4%) がSD以上、HER2 0〜2+群では7/14例 (50.0%) がSD以上を達成した (Table S5)。
生存アウトカム:中央OSは全23例で36.2か月 (HER2 3+群 57.4か月 vs HER2 0〜2+群 27.4か月) であった (Fig. 1C左)。SD達成患者のサブグループでは中央OSがHER2 0〜2+群40か月・HER2 3+群57.9か月に対し、PD患者では各21.3か月・36.6か月であった (Table S4)。中央TTPは全体で4.2か月、HER2 3+群で7.9か月、HER2 0〜2+群で3.7か月であった (Fig. 1C右)。アンスラサイクリン・タキサン治療後進行MBCでの既存療法による中央OSが4〜18.1か月 (第2〜3次治療後) であることと対比すると、多くが≥3ラインの治療歴と内臓転移を有する本コホートでの36.2か月は注目すべき数値である。
免疫学的効果:fresh PBMCによるSK-BR-3に対する非MHC制限的細胞傷害活性が、治療中 (infusion #4〜#5の間) に前治療時と比較して有意に増加し (P<0.003)、治療後も持続が示された (Fig. 2B)。SK-BR-3刺激でのIFN-γ ELISpotは治療中 (P<0.04) および治療後 (P<0.03) に有意に増加した。血清サイトカインの多重解析 (n=13) では、IL-12 (P<0.0005)・IL-2 (P<0.002)・GM-CSF (P<0.05)・IL-10 (P<0.01) が治療中に有意に上昇し (Fig. 3)、Th1/Th2比 ([IL-2+IFN-γ]/[IL-4+IL-10]) の増大によるTh1優位な免疫プロファイルへの転換が確認された。腫瘍マーカーの評価では14/22評価可能患者で、CEA (carcinoembryonic antigen)減少4例 (2例で>50%低下)・CA27.29減少5例 (2例で>50%)・可溶性HER2受容体低下5例 (2例で>50%) が観察された。
aATCの体内動態と腫瘍浸潤:輸注後のフローサイトメトリーでIgG2a+ (aATC) 細胞が輸注後2〜4時間で循環T細胞の最大50%に達し、dose level 1患者では最終輸注1週間後まで血中持続が確認された (Fig. 4A)。111In標識aATC (250×10^6) の核医学イメージングでは輸注後4時間以内に肺・肝臓・脾臓・骨髄に分布し、24時間後には肺からは消失するも骨髄・肝臓・脾臓での存在が4日間持続した。血中のaATCは輸注後約30分で約50%が消失したが、4日後でも初期投与量の1.1%が検出可能であった (Fig. 4B)。胸壁結節および胸骨腫瘍生検の免疫染色では輸注後1週・1か月時点でIgG2a+ aATCの腫瘍内浸潤が確認された (Fig. 4C)。HAMA応答は全例 (n=11) で10 ng/mL未満に留まり、臨床的に有意な免疫原性は認められなかった (Fig. 4D)。
考察/結論
本試験は、HER2Bi aATCをIL-2・GM-CSFと組み合わせた多施設第I相試験として、MBC患者 (HER2 0〜3+) での安全性・実現可能性・免疫学的有効性を系統的に確立した意義を持つ。
既報との違いと位置付け:既報のアンスラサイクリン・タキサン治療後進行MBCでの標準的な化学療法レジメン (カペシタビン1次治療の中央OS 18.6か月、第2次以降5〜15か月) と異なり、本試験の全体中央OS 36.2か月は多くが≥3ラインの治療歴 (14/23例、61%) と内臓転移 (17/23例、74%) を有する患者群において達成された。また標準的なHER2標的療法 (トラスツズマブ・ラパチニブ等) がHER2過発現腫瘍にのみ有効であるのと対照的に、本アプローチはHER2 0〜2+患者でも50.0%がSD以上を達成し、HER2陰性患者での部分奏効 (患者#9、肝転移>70%縮小) を含む抗腫瘍効果を示した。これはaATCが直接細胞傷害に加えて内因性免疫の in situ 活性化を通じてHER2非依存的な腫瘍認識を誘導する機序を示唆する。
本研究で初めて示されたこと:本研究で初めてMBC患者においてHER2Bi aATCの繰り返し輸注が (1) 技術的に実現可能な臨床製造規模 (単回アフェレーシスから160×10^9 aATC製造達成)、(2) 輸注後1週間以上の血中持続と腫瘍への直接浸潤、(3) 内因性SK-BR-3特異的細胞傷害活性 (P<0.003) およびIFN-γ産生の有意な誘導という「ワクチン様作用」を新規に示した。IL-12の著明な上昇 (P<0.0005) と持続的なTh1/Th2比増大は、aATC輸注が固形腫瘍の免疫抑制微小環境をTh1優位に転換できることを臨床レベルで初めて実証した知見である。CAR-T療法が固形腫瘍で直面する腫瘍微小環境の免疫抑制克服という課題 (Katz et al. ClinCancerRes 2015; Frigault et al. CancerImmunolRes 2015) に対して、繰り返し輸注型のaATCが内因性免疫動員による補完的な機序で対応できる可能性を示した点でも新規性がある。
臨床応用の観点:本試験の臨床応用上の意義として、HER2Biによる「武装」アプローチは従来のCAR-T細胞療法 (Hudecek et al. ClinCancerRes 2013) と異なりウイルスベクター遺伝子導入を必要とせず、臨床承認済み抗体成分のヘテロコンジュゲートという相対的に簡便な製造工程で腫瘍指向性を付与できる。これは臨床現場での実装コストと規制上の負担を抑制できる実践的な利点である。試験開始時点で115例以上がarmed ATC輸注をDLTなしで受けており (aATC infusion、リンパ腫を対象とした別試験を含む)、本試験での追加的安全性データと合わせて、固形腫瘍を対象とした第II相試験への移行を強く支持する臨床的含意が得られた。
残された課題:今後の検討課題として、(1) 本試験は23例という小規模コホートで無作為化比較対照設計を持たないため、生存ベネフィットの因果的証明がないことがlimitationとして挙げられる。(2) aATC投与量とOS (r^2=0.0732) およびTTP (r^2=0.3011) の間に相関が認められなかったため、最適用量・投与スケジュールの同定には更なる検討が必要である。(3) 本試験でDLTとして観察された悪寒・頭痛等のサイトカイン放出関連症状が、より高用量・より多くの輸注回数を設定する第II相試験でどの程度許容されるかも残された課題である。(4) aATCと免疫チェックポイント阻害剤との組み合わせによる相乗効果の探索、myeloid-derived suppressor cell等の免疫抑制細胞をaATC輸注がどのように克服するかの機序解明も、future research として位置付けられた。
方法
多施設第I相試験 (NCT00027807; Roger Williams Hospital およびWayne State University Karmanos Cancer Institute; 2001年5月〜2010年8月)。試験はFDA・各機関のHuman Investigational Committeeで承認され、データ安全性監視委員会が監督した。適格基準は病理確認MBC (HER2 0〜3+)・ECOG 0〜2・Karnofsky ≥70%・良好な臓器機能・生存期間 ≥3か月。
白血球アフェレーシス後にOKT3+IL-2で末梢血単核球を10〜14日間拡張してATC (activated T cell、活性化T細胞) を製造し、cGMP条件下で製造したHER2Bi (トラスツズマブ-OKT3ヘテロコンジュゲート) 50 ng/10^6細胞で武装・凍結保存した。製品は全例で細菌・真菌・エンドトキシン・マイコプラズマ・表現型・細胞傷害活性の品質管理試験を実施した。
標準3+3 dose escalationデザインで4用量レベル (5・10・20・40×10^9 aATC/回) を検討し、2回/週×4週=計8回投与した。全例にIL-2 (300,000 IU/m^2/日 SC) とGM-CSF (250 μg/m^2 2回/週) を初回aATC輸注3日前から最終輸注1週間後まで併用した。腫瘍評価はRECISTに基づき治療開始14.5週後 (免疫療法後4.5週+観察4週) に実施した。毒性はNCI毒性基準version 2で評価し、DLTの定義は持続するGrade 3非血液毒性またはGrade 4毒性とした。
免疫モニタリングとして (1) 51Cr放出試験 (SK-BR-3 HER2+乳がん細胞・K562 NK標的細胞、E:T比25:1)、(2) IFN-γ ELISpot (enzyme-linked immunospot)、(3) 血清多重サイトカインアレイ (Bio-Plex; Bio-Rad)、(4) 腫瘍生検の免疫組織化学 (抗CD3抗体・DAKO Catalyzed Signal Amplificationシステム) を実施した。aATCの体内分布追跡には111In標識aATCを用いた核医学イメージングを行い、HAMA (human anti-mouse antibody、ヒト抗マウス抗体) 応答も全例で測定した。OS・TTPはKaplan-Meier法で推定し、log-rank検定で群間比較した。aATC産物中CD4比率とin vitro細胞傷害活性の相関はSpearman順位相関で評価した (Prism、GraphPad v5.0)。