• 著者: Marcela V. Maus, Andrew R. Haas, Gregory L. Beatty, Steven M. Albelda, Bruce L. Levine, Xiaojun Liu, Yangbing Zhao, Michael Kalos, Carl H. June
  • Corresponding author: Marcela V. Maus (Abramson Cancer Center, University of Pennsylvania, Philadelphia, PA)
  • 雑誌: Cancer Immunology Research
  • 発行年: 2013
  • Epub日: 2013-04-07
  • Article種別: Cancer Immunology Miniatures (症例報告)
  • PMID: 24777247

背景

キメラ抗原受容体 (chimeric antigen receptor, CAR) を発現させたT細胞は、腫瘍免疫寛容を克服する新規養子免疫療法として注目されている。CARの腫瘍認識ドメインはscFv (single chain variable fragment) が担うが、これはしばしばマウス由来抗体配列を含むため、ヒト体内で宿主がHAMA (human anti-mouse antibody、ヒト抗マウス抗体) を産生する可能性がある。実際にKershaw et al. が実施した卵巣癌対象の遺伝子改変T細胞第I相試験 (Kershaw et al. ClinCancerRes 2006) やCD20特異的CAR-T細胞のリンパ腫治験では、患者の相当数でIgGクラスのHAMAが検出された。しかし、これらの既報においてIgG HAMAは臨床的有害事象を引き起こすことなく無症候性に推移しており、HAMA産生は無害とみなされてきた。同様に、マウスT細胞受容体 (TCR) を発現するT細胞を投与された患者でも、TCRに対する抗体産生はあったが有害事象は認められていなかった。このようにHAMA産生が臨床的に問題ないという先行知見が積み重なる中で、HAMA-IgEを含むより重篤な免疫応答の可能性は検討されていなかった。

ペンシルバニア大学グループはMSLN (mesothelin、メソセリン) を標的とするCAR-T細胞の開発を進めていた。MSLNは悪性胸膜中皮腫・膵癌・卵巣癌・肺癌等で高発現する腫瘍関連抗原であり、正常組織では腹膜・胸膜・心膜を覆う中皮細胞のみ低レベルに発現するためオフターゲット毒性が限定的とされる。一方、抗CD19 CAR-T療法では持続性B細胞無形成というon-target/off-tumor毒性が観察されており (Porter et al. NEnglJMed 2011)、この安全性評価の方法論として同グループはmRNAエレクトロポレーション法による一過性CAR発現戦略を選択した。mRNA CAR-T細胞は数日間しかCARを発現しないため、有害事象が出ても投与停止で毒性が自然消退するという安全上の設計原理を持つ。しかし、この戦略では十分な抗腫瘍効果を得るために複数回投与が前提となり、投与間隔が長くなれば宿主免疫系が感作されてIgEクラスの抗体を獲得するリスクが生じる可能性があるというデータが不足していた。HAMA-IgG産生が臨床的に問題ないとされてきた従来の知見は、いずれも単回あるいは短い投与間隔を前提とするものに過ぎず、長い投与間隔でのIgEクラススイッチングという危険性は全く未解明のギャップとして残されていた。この知識の不足こそが本研究の発端であり、mRNA CAR-T療法の安全性評価において見落とされてきた重要な課題を初めて臨床的に示した。

目的

マウスSS1 scFvを含むメソセリン特異的mRNA CAR-T細胞 (meso-RNA-CAR-T、SS1-4-1BB-TCRζ構造) の安全性を固形腫瘍患者への複数回投与で評価し、発生した重篤有害事象 (serious adverse event, SAE) の機序を臨床・免疫学的に解析すること。特に、CAR-T細胞の繰り返し投与が宿主IgE産生を誘発してアナフィラキシーを引き起こし得るかを検討する。

結果

全体的安全性:n=4例へのmeso-RNA-CAR-T細胞投与はn=21回に及び、1例 (Subject 105) の3回目投与を除き全て忍容性良好であった (Fig. 1)。各患者の投与後サイトカインパターンでは、MIP-1β・G-CSF・IL-6・IL-17の一過性軽度上昇が数日間観察され、T細胞活性化と整合的な所見であった。中皮腫のSubject 101は拡大コホートでさらに6回の追加投与を受けたが、軽度の関節痛および倦怠感のみで重篤事象はなく良好な忍容性を示した。Subject 102は進行性疾患のため拡大コホートへの移行前に死亡した。膵癌のSubject 103は20日間に8回の静脈内投与を受け、全体として許容可能な安全性プロファイルが確認された。これらの結果はmRNA CAR-T細胞の反復投与が概ね良好な忍容性を持つことを示す一方で、特定の投与間隔条件下では重大な例外が生じ得ることを後続の症例が示した。

SAE発症経緯:Subject UPCC17510-105は喘息および石綿曝露歴を持つ81歳男性で、両側胸膜病変・縦隔および腹膜リンパ節浸潤を伴うステージIVの悪性胸膜中皮腫と診断されていた。コホート1でDay 0に1×10⁸細胞、Day 7に1×10⁹細胞の投与を受け、いずれも有害事象なく良好な忍容性を示した。その後拡大コホート1に登録され、Day 0からちょうど49日後に同一ロットの凍結保存細胞から取り出した1×10⁸細胞のアリコートを15分間かけて静脈内投与した。投与完了からわずか1分以内に、紅潮・手の痺れ・呼吸困難・低酸素血症が急速に出現し、直後に無脈性電気活動 (pulseless electrical activity, PEA) による心停止に至った。心肺蘇生 (CPR)・エピネフリン・大量輸液・高用量ステロイド・昇圧剤投与による積極的な蘇生処置を施行し、全ての微生物培養は陰性であった。患者は急速に回復し、昇圧剤は2日以内に中止され、3日目に抜管、SAEから10日後に室内気でプレドニゾン漸減中として退院した。注目すべきことに、SAE後の再評価CT上では中皮腫の一過性の部分奏効が確認された。

アナフィラキシーの生化学的確定:SAE後に凍結保存していた複数時点の血清サンプルから後向きに血清トリプターゼを測定したところ、SAE後最初の数時間に正常参照範囲上限 (0.4-10.9 μg/L) を大幅に超えて著明上昇していた (Fig. 2)。なおトリプターゼはマスト細胞脱顆粒の最も信頼性の高い臨床指標であり、症状出現後15-60分でピークに達し、半減期約2時間で低下する特性を持つ。この結果からアナフィラキシーが生化学的に確定された。SAE後24時間以内の血清30種サイトカイン解析では、IL-6・G-CSF・MIP-1β・MCP-1・IP-10・MIG・IL-8が全てベースラインから1,000-fold上昇し、IL-6は投与1時間後に測定上限超であった (Fig. 3A)。その後全サイトカインはDay 4までにベースラインへ復帰し、Day 35まで基準値を維持した。留置胸腔カテーテルから採取したSAE翌日の胸水でも、IL-6が測定上限超、IL-8・G-CSF・MIGがベースライン比1.5倍以上の上昇を示し (Fig. 3B)、全身性のみならず局所の急性炎症反応も確認された。なお、アナフィラキシーではIL-6・IL-10・IL-2等のサイトカインが有意に上昇することが既知であるが、本症例ではアレルゲン (CAR-T細胞) とマスト細胞の両方がサイトカインを分泌し得るため、特に発症後24時間以内の血清サイトカインの起源の特定は困難であった。

HAMA-IgG経時的追跡:3例の中皮腫患者でHAMA-IgGを複数時点で測定した (Table 1)。Subject 105はDay -3 (登録前) にすでに80 ng/mL (Quest法正常上限75 ng/mL) と微陽性であり、コホート1の投与後にDay 14で87 ng/mL、Day 21で119 ng/mLと漸増した。Day 107では63 ng/mLとやや低下したが、SAEから3か月後 (Day 141) に新鮮検体でLabCorpにて測定したところ>600 ng/mL (測定上限外) と著明高値を示した。Day 219 (SAEから約7か月後) には79 ng/mLと部分的に低下したが依然正常上限を超えていた。Subject 101ではDay 21に30 ng/mL (正常範囲内)、Day 107で40 ng/mLと推移した。Subject 102もDay 21にIgG HAMA陽性 (88 ng/mL) となったが、これ以降の追加投与を受けなかったため無症候性で経過した。一方、IgE特異的HAMA ELISAは全患者の全時点の凍結血清で陰性であったが、これは血清中のIgE濃度が本来低く測定感度が制限されることと整合的であった。

機序推定:複数の代替機序を体系的に除外した。(1) IgA欠乏症によるアナフィラキシー: Subject 105の定量免疫グロブリンは正常範囲内であり否定された。(2) 汎アトピー素因: 総IgE値は正常であった。(3) CD3/CD28ビーズ由来マウス抗体への反応: 同製造プロセス (mRNAエレクトロポレーションなし) でn=400例以上の患者へのT細胞投与経験があるが、同様のアナフィラキシー事象は一例も報告されておらず除外された。また、ビーズへのモノクローナル抗体は共有結合しているためキャリーオーバーは極めて少量である。(4) 安定形質導入CAR-T細胞の免疫原性: 完全ヒト配列のCD4ζ CAR-T細胞では、n=43例中41例において10年間にわたるCARの長期生存が確認されており (Scholler et al. SciTranslMed 2012)、マウス配列を含まない構築物では同様の事象が生じないことを示唆する。以上の除外から、第1投与から第3投与まで49日間の間隔がIgGからIgEへのクラススイッチングに必要な時間を与え、マウスSS1 scFv由来のCARに特異的なIgE抗体が産生されてアナフィラキシーを誘発したと結論した。この知見を受けてプロトコルを即座に改定し、mRNA CAR-T細胞の投与間隔を10日以内とし、全投与を21日以内に完了するよう制限した。

考察/結論

本報告はCAR改変T細胞による臨床アナフィラキシーの初の記載であり、これまで臨床的に無害と考えられてきたHAMA産生が、適切な条件下ではIgEクラス抗体誘導を介して生命を脅かすアナフィラキシー・心停止を引き起こし得ることを本研究で初めて実証した。マウス由来scFvを含むCAR-T細胞投与後のHAMA-IgG産生は既報で複数報告されていたが、これまでの研究では有害事象との関連は一切示されていなかった。本症例と既報との対照的な差異は、投与スケジュールにある: 従来試験の多くは単回投与または短い投与間隔であったため、IgGからIgEへのクラススイッチングに必要な時間窓が存在しなかったと推察される。一方、本研究では第1投与から49日間の間隔が開いたことで、感作が完成してIgE抗体が蓄積する時間が与えられた。

新規の安全上の知見として、本研究は臨床的に重要な教訓をいくつか提供した。mRNA CAR-T療法は安全設計上の利点として「毒性の自己限定的消失」を期待しているが、本研究で初めてその想定を覆すアナフィラキシーという毒性が出現した点が特に重要である。IgE介在性即時型過敏反応は投与中止のみでは対処できず、エピネフリン・CPR等の緊急対応が必要であり、かつ一過性mRNA CARの短命性が安全上のバッファーとして機能しない。

臨床応用上の含意として、この知見はmRNA CAR-T療法の設計に対する重要な含意を持つ。第一に、投与スケジュールの厳格な管理が本事象への直接的対策として採用され、全投与を10日以内の間隔・21日以内の期間に完了することが義務付けられた。これはIgEクラススイッチングに必要な時間窓を遮断することを目的とする。第二に、HAMA IgGスクリーニングは臨床的スクリーニングツールとして非実用的であることが示された: ターンアラウンドタイムの長さにより毎回の投与前測定が困難であり、さらにHAMA-IgGはアレルギー反応を予測しない (Subject 102もIgG陽性だったが無症状) ことに加え、多くのHAMA-IgGはマウスアルブミンやIgG Fc領域に対するものでCAR構築物には含まれない配列への反応であることが明らかになった。第三に、持続的なCAR発現 (脱感作の原則と同様) があればIgE産生が抑制される可能性があり、安定形質導入の長期生存CAR-T細胞が単回投与で十分な抗腫瘍効果を持つならば、このリスクを回避できる可能性がある。

残された課題として、いくつかの重要な問いが今後の検討を待っている。第一に、IgE特異的HAMAの検出が凍結血清ELISAで陰性であったことは測定感度の問題の可能性があり、新鮮血清・高感度IgE測定法の開発および検証がfuture researchとして求められる。第二に、マウス由来scFvを含む他のCAR標的 (CD19・HER2・GD2・EGFR等) でも同様のIgEリスクが存在するかは体系的に評価されておらず、この点のlimitation がある。第三に、本症例は単一症例 (n=1) であり、アナフィラキシーを引き起こした患者固有の免疫学的背景 (喘息既往・登録前から微陽性HAMA) が寄与した可能性があるが、その相対的寄与を評価するデータが不足している。根本的解決策として、完全ヒト型scFvへの移行が最も有望であり、今後の更なる検討として完全ヒト型抗メソセリンCARの臨床的免疫原性回避の実証が求められる。本症例はCAR-T療法の安全性評価において免疫原性モニタリングを前臨床から体系的に組み込む必要性を痛切に示した歴史的事例である。

方法

臨床試験デザインと対象: 第I相臨床試験 (NCT01355965/UPCC 17510) およびコンパッショネートユースプロトコル (UPCC 21211) をペンシルバニア大学で実施した。対象はメソセリン陽性悪性腫瘍患者n=4例 (悪性胸膜中皮腫3例、膵腺癌1例)。試験の主目的はmeso-RNA-CAR-T細胞の安全性評価であり、各投与後にサイトカイン測定用の血液を複数時点で採取した。

CAR構造と製造: SS1 (anti-mesothelin murine monoclonal antibody) 由来のscFvに4-1BB共刺激ドメインおよびTCRζシグナルドメインを連結したmRNA-CAR (mRNA-based chimeric antigen receptor) を構築し、これを発現させたmRNA-CAR-T (mRNA-based CAR-T cell) をmeso-RNA-CAR-T細胞と称した。自家T細胞をCD3/CD28固定化ビーズで活性化後、10日間の培養を経てエレクトロポレーションによりmRNAを導入し、ヒト血清アルブミン含有溶液中に凍結保存した。scFvはマウス由来配列を含む一方、細胞内シグナルドメインは完全ヒト配列で構成される。mRNA由来CARは数日間のみ発現が維持される一過性系であり、安定的なウイルスベクター形質導入と根本的に異なる設計である。

投与スケジュール: 中皮腫3例ではコホート1としてDay 0に1×10⁸細胞、Day 7に1×10⁹細胞を静脈内投与 (1週間間隔2回) し、Day 35にCTスキャンによる腫瘍評価を実施した。奏効例は拡大コホート1 (週3回×2週=計6回追加投与) に移行する計画とした (Fig. 1)。膵癌1例は20日間に8回の静脈内投与を実施した。

重篤有害事象 (SAE) の解析: SAE発生後に凍結保存していた血清から血清トリプターゼ (mast cell tryptase, マスト細胞脱顆粒の指標) をARUP Laboratoriesで後向きに測定した。なおトリプターゼは凍結血清中で少なくとも1年間安定して保持される。血清・胸水中の30種サイトカインはLuminexビーズアレイ技術 (Life Technologies製キット) を用いた9点標準曲線法 (3倍段階希釈系列) で定量した。HAMA-IgG (human anti-mouse IgG antibody) およびHAMA-IgE (human anti-mouse IgE antibody) はマウス血清タンパク質特異的ELISAにて、QuestおよびLabCorpの2施設でduplicate測定 (技術的反復n=2) により実施した (Quest法正常上限 <75 ng/mL、LabCorp法正常上限 <188 ng/mL)。サイトカイン定量値はlog10変換後にベースライン比 (fold change) として算出し、記述統計 (descriptive statistics) で表示した。Luminex multiplex assayの標準曲線は9点3倍段階希釈系列で作成し (R² ≥0.99)、変動係数 (CV) ≤15%を精度基準とした。