- 著者: Steven C. Katz, Rachel A. Burga, Elise McCormack, Li Juan Wang, Wesley Mooring, Gary R. Point, Pranay D. Khare, Mitchell Thorn, Qiangzhong Ma, Brian F. Stainken, Earle O. Assanah, Robin Davies, N. Joseph Espat, Richard P. Junghans
- Corresponding author: Richard P. Junghans (Roger Williams Medical Center, Boston University School of Medicine)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-04-07
- Article種別: Original Article
- PMID: 25850950
背景
消化器腺がん (大腸がん・胃がん・膵臓がんなど) による肝転移は主要な死因であり、切除不能肝転移に対する化学療法の効果は限定的で、有効な免疫療法戦略が不足していた。肝転移内のTIL (tumor-infiltrating lymphocyte; 腫瘍浸潤リンパ球) を解析した先行研究では、宿主T細胞応答が生存の重要な相関因子であることが複数の独立したコホートで示されており、強いT細胞浸潤を示す患者では大腸がん肝転移切除後の長期生存が改善されることが明らかにされていた (Katz et al. Ann Surg Oncol 2009; 2013)。しかし肝臓固有の免疫抑制微小環境 (肝類洞内皮細胞、Kupffer細胞、制御性T細胞などによる抑制機構) が内因性T細胞応答を妨げ、大多数の患者は病勢進行で死亡する。
CAR-T (chimeric antigen receptor改変T細胞) 技術は、T細胞にキメラ抗原受容体遺伝子を導入することでMHCに非依存的に腫瘍細胞を認識・傷害できる次世代免疫療法として急速に発展しており、血液悪性腫瘍では顕著な臨床効果が示されていた (Porter et al. NEnglJMed 2011、Grupp et al. NEnglJMed 2013)。CEA (carcinoembryonic antigen、癌胎児性抗原) は腺がん肝転移の大多数に高発現し、かつ血清値によるモニタリングが可能な魅力的CAR標的である。しかし、CEA陽性転移性大腸がんに対して抗CEA TCR改変T細胞を全身静脈投与した既報では、大腸がんへの有効性の一方でGrade 3の重篤な大腸炎などの用量制限毒性が発生し、安全性上の課題が残されていた (Parkhurst et al. MolTher 2011)。
一方、HAI (hepatic artery infusion; 肝動脈注入) 化学療法では全身毒性を抑制しながら肝転移への局所薬物濃度を高める優れた治療指数が確立されており、CAR-T細胞にも同様の局所投与戦略を適用することで、CEA陽性正常組織への全身暴露を最小化しながら肝転移内での抗腫瘍効果を最大化できる可能性があった。すなわちgap in knowledgeとして、固形腫瘍 (特に肝転移) に対するCAR-T療法においては、全身投与による毒性プロファイルの問題と肝転移への効率的なCAR-T送達という2つの課題を同時に克服する局所投与戦略が不足しており、安全性・有効性の臨床的検証が求められていた。
目的
CEA陽性腺がん肝転移患者を対象に、経皮的肝動脈経由で第二世代抗CEA CAR-T細胞 (scFv-CD28/CD3ζ tandem構造) を投与するHITM (Hepatic Immunotherapy for Metastases) 試験 (NCT01373047) を実施し、CAR-T細胞HAIの安全性・忍容性、生体内でのCAR-T細胞腫瘍内集積、および臨床的生物活性 (血清CEA変化・組織学的腫瘍効果・免疫相関) を評価する。
結果
患者背景と登録状況:8例が登録され (平均年齢57歳、範囲51〜66歳)、うち6例がプロトコールを完遂した (Table 1)。1例は治療前の無関係感染症で離脱し、もう1例は第3回HAI前に肝外病変の進行で離脱 (2回HAI施行後に死亡)。完遂した6例の原発疾患内訳は大腸がん5例・膵胆管周囲型乳頭部がん1例であり、平均前治療ライン数2.5 (範囲2〜4)、平均最大肝転移径8.4 cm (範囲1.7〜14.4 cm)、平均血清CEA 807 ng/mL (範囲2〜3,265 ng/mL) と大きな腫瘍量を有する重症例であった。4/6例で10個超の肝転移を認め、5例では同時性大腸がん肝転移であった。6例中3例 (Cohort 1) はIL-2なし、3例 (Cohort 2) はIL-2併用で治療した。
CAR-T細胞製品の品質と安全性プロファイル:CAR-T製品品質として、白血球分離後CD3陽性率は平均55% (範囲12.0〜82.0%) であったが、活性化・導入後に平均91% (範囲72〜97%) へ増加した (Fig. 1B)。CAR導入効率 (CAR+%) は10〜64%、平均45%であり、CD4:CD8比は白血球分離産物2.4 (範囲1.4〜4.7) から最終製品0.8 (範囲0.2〜2.2) へ変化した。最終製品の平均生存率は85% (範囲71〜95%)。FoxP3陽性制御性T細胞はCAR陽性細胞中にわずかしか検出されなかった。in vitro細胞傷害アッセイでは全患者製品がCEA陽性標的細胞を特異的に傷害することが確認された。
安全性として、Grade 4以上の有害事象は皆無であり、Cohort 1では予定最大HAI dose (10^10細胞) への用量漸増が完遂された (Table 2)。Cohort 1ではGrade 1〜3の発熱・悪心・腹痛・AST/ALP上昇 (Grade 3: 2例) が観察されたが管理可能であった。Cohort 2 (IL-2併用) ではPatient 7にGrade 3の発熱・頻脈 (最高104°F) が発生しIL-2を50%減量することで改善、Patient 8にはGrade 3の大腸炎・腹部痛が発生しこれもIL-2減量で迅速に改善した。6例全例でHAI 1か月後に抗CAR抗体は検出されなかった。正常肝実質は全例で良好に保たれ、正常肝生検でCAR-T投与前後の炎症・線維化増加は認められず (Fig. 2A)、血小板数・PT-INRも有意な変化を示さなかった (Fig. 2C、2D)。
CAR-T細胞の腫瘍内選択的集積:HAI後のCAR-T細胞の生体内分布として、Patient 7の第2回HAI後2週間目フローサイトメトリー解析では、正常肝単核球中のCAR陽性率0.8%に対し肝転移内単核球中のCAR陽性率6.6%と、肝転移への優先的集積が確認された (Fig. 1C、1D)。6例中5例で正常肝よりも肝転移内にCAR-T細胞がより多く集積していた。末梢血中CAR-T細胞は4例で検出されず、Patient 7・8では最終HAI時に一過性に検出されたが3日後に検出限界以下となった。qPCRでは最終HAI後2日目にPatient 7のみ1.1-fold増加のCAR DNAを末梢血に認めたが、他例では変化なし。注目すべき点として、Patient 5では最終HAI後12週間における微波熱焼灼術 (microwave ablation) 実施時の生検でも肝転移内に2.0%のCAR-T細胞が残存しており、局所投与による長期の腫瘍内持続性が示された。
臨床活性 - CEA応答と生存転帰:全生存期間は中央値15週 (範囲8〜102週)、平均30週であった。MRI・PETでの画像評価は5/6例で実施され、1例 (Patient 5) のみSD (stable disease、安定病変)、残4例はPD (progressive disease、進行病変) と判定された (Table 3)。画像では奏効を認めなかったが血清CEAは複数の患者で変化を示した。Cohort 1 (IL-2なし) では2例で各HAI後に一過性のCEA低下が観察された (Fig. 3A)。
Cohort 2 (IL-2併用) では、IL-2用量中断・減量前の時点を比較基準として全3例でCEA減少を確認した: Patient 6で-19%、Patient 7で-48%、Patient 8で-43%と、3例の平均CEA低下率37% (範囲19〜48%) であった (Table 3)。唯一の例外はPatient 4 (乳頭部がん) で、CEAが逆に+401%上昇し最も短い8週で死亡した。Patient 5は23か月 (102週) 時点で疾患と共に生存しており、microwave ablation施行後もフォローアップが継続された。
組織学的腫瘍効果とIFNγバイオマーカー相関:肝転移生検の組織学的評価として、盲検病理医によるスコアリングにより6例中4例で線維化スコアの増加、3例で壊死スコアの増加が確認された (Fig. 3B)。CEA免疫染色ではPatient 8でCAR-T HAI後にCEA陽性腫瘍細胞の明確な減少が組織学的に確認された (Fig. 3C)。血清IFNγは全患者でHAIの24〜48時間後にスパイクを認め、ピーク値IFNγとCEA変化率の逆相関は統計学的に有意であった (n=6、Pearson r=-0.94、p=0.02) (Fig. 3D上)。IL-2投与群の平均IFNγ値は非投与群より有意に高かった (p=0.03) (Fig. 3D下)。IL-2用量を各CAR-T製品投与時のボーラスIL-2 (600,000 U) と合わせると、持続全身IL-2を受けたCohort 2の3例で最も良好なCEA応答と最高IFNγ値が得られ、IL-2がCAR-T活性化を増幅させることが示唆された。
考察/結論
本HITM試験は、CAR-T細胞のHAI局所投与がCEA陽性腺がん肝転移患者において安全かつ技術的に実現可能であることを示したパイオニア的臨床研究である。本研究で初めてCAR-T細胞のHAI局所投与によって固形腫瘍治療での安全性確立および生物学的活性の概念実証が達成された。
既報との違い: これはCEA標的T細胞の全身投与で用量制限毒性 (Grade 3大腸炎など) が報告されていた既報 (Parkhurst et al. MolTher 2011) とは異なり、HAI局所投与によってCAR-T細胞の全身暴露が最小化されたことで毒性プロファイルが著明に改善された。実際、CAR-T細胞は4/6例で末梢血から検出されず、腫瘍内に優先的に集積し、この局所集積パターンが全身性CAR-T毒性の回避に寄与したと考えられる。また、本研究で採用したIL-2の連続低用量投与 (75,000 U/kg/日) は他試験のIL-2レジメンより数倍低い用量であったが、それでも2例でGrade 3有害事象が発生し減量対応が必要であった。
新規性: 本研究で初めてCAR-T細胞HAIが腫瘍内選択的集積 (6.6% vs 0.8%) をもたらすことが生体内フローサイトメトリーで実証され、さらにIFNγ産生スパイクおよびCEA応答との有意な相関 (R=-0.94、p=0.02) が生物活性マーカーとして機能することが示された。これは固形腫瘍CAR-T療法において腫瘍送達の改善が生物学的応答と連動することを初めて定量的に示した結果である。
臨床的意義: 平均2.5ライン前治療後の難治例 (4/6例で10個超の肝転移) における組織学的腫瘍効果 (4/6例で壊死・線維化増加) および1例の23か月長期生存は、この局所投与戦略の臨床的意義を示唆する。IL-2との組み合わせはCAR-T機能を増強しCEA応答を改善したが、Grade 3毒性の増加も伴っており、より標的化されたサイトカインサポート (CAR内蔵型IL-21や共刺激最適化など) を開発することが今後の臨床応用における課題となる。さらに、著者らがPD-L1の肝免疫抑制細胞での高発現とCAR-T上のPD-1発現を観察していることから、免疫チェックポイント阻害との組み合わせ (Topalian et al. NEnglJMed 2012、Brahmer et al. NEnglJMed 2012) は有望な次段階の橋渡しアプローチとなりうる。
残された課題: limitation として、n=6という小規模コホートでは有効性に関する確定的結論は得られず、大多数 (5/6例) が免疫療法の効果発現に必要な2か月以上のフォローアップ前に急速進行で死亡した。生検組織からのCAR-T細胞解析には技術的限界 (コア針生検サンプルの小量性、ex vivo操作による表現型変化) があり、IL-2単独効果とCAR-T+IL-2の相乗効果を分離できない点も limitation である。今後の検討課題として、HITM-SURE第II相試験 (Cohort 2設計の拡張) での有効性検証、免疫チェックポイント阻害との併用試験、リンパ球枯渇前処置の導入、代替的CAR-T拡張法 (抗CD3/CD28ビーズ) の探索、およびIFNγをプロスペクティブな代替エンドポイントとして検証する更なる検討が必要である。
方法
Roger Williams Medical Center (ロードアイランド州プロビデンス) での単施設第一相試験 (NCT01373047、Roger Williams Hospital (RWH) IRB 11-335-99)。対象は、測定可能な切除不能CEA陽性腺がん肝転移または検出可能な血清CEA値を有し、1ライン以上の標準治療後に進行した成人患者 (軽微な肺・腹部の肝外病変は許容)。
CAR-T細胞製造: 患者自家PBMC (peripheral blood mononuclear cells; 末梢血単核球) を白血球分離 (leukapheresis) で採取後、OKT3 (anti-CD3 monoclonal antibody, 50 ng/mL)・IL-2 (interleukin-2、3,000 U/mL) による48〜72時間活性化を実施し、スピノキュレーション法でMFG (murine retroviral gene transfer) ベクター (hMN14 sFv-CD8ヒンジ-CD28/CD3ζ tandem CAR、FDA BB IND 10791) を3回導入した後、Lifecell培養バッグで10〜14日間拡張し凍結保存した。GMP (Good Manufacturing Practice) 施設 (Roger Williams Medical Center CITGT施設) で製造し、CD3・CD4・CD8・WI2抗体を用いたフローサイトメトリーおよびルシフェラーゼ発現標的細胞を用いた生物発光細胞傷害アッセイで品質評価した。
試験デザイン: 2コホート構成。Cohort 1 (n=3): HAI intrapatient dose escalation (10^8 → 10^9 → 10^10細胞)、IL-2なし。Cohort 2 (n=3): 10^10細胞×3回HAI + 連続全身IL-2 (75,000 U/kg/日、携帯型持続注入ポンプ)。投与手技として基準値マッピング血管造影後に胃十二指腸動脈・右胃動脈等をマイクロコイルで塞栓し、固有肝動脈 (または肝葉体積比で左右分割) へ計100 mLを2 mL/秒未満でhand injectionした。
評価: MRI・PET (mRECIST/irRC (immune-related response criteria)、Wolchok et al. ClinCancerRes 2009)、血清CEA・IFNγ (interferon gamma) をELISA (enzyme-linked immunosorbent assay、eBioscience) で測定、超音波ガイド下コア針生検 (16 gauge、H&E組織学的壊死・線維化スコアリング、CEA免疫染色)、フローサイトメトリー (末梢血・正常肝・肝転移のCAR-T集積)、血中CAR DNA (qPCR、DeltaDelta Ct法、RPL13AおよびGAPDHを内部標準遺伝子として使用)、抗CAR抗体スクリーニングを評価した。CEA応答とピーク血清IFNγの相関はPearson相関分析で評価し (R値・p値)、IL-2投与群と非投与群のIFNγ平均値比較にはt検定を用いた。有害事象はNCI CTCAE v4.0でグレーディングした。