• 著者: Yibo Xue, et al.
  • Corresponding author: N/A (筆頭著者Yibo Xueら、BC Cancer/UBC)
  • 雑誌: Nature Communications
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-01-10
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30718512

背景

SWI/SNFクロマチンリモデリング複合体のサブユニットは、全ヒト癌の20%以上で変異しており、治療的標的として注目されているが、直接阻害薬は存在しない。SMARCA4 (BRG1) はSWI/SNF複合体の触媒ATPaseサブユニットであり、非小細胞肺癌 (NSCLC)・乳癌・神経膠芽腫など多様な癌種で不活化されることが報告されている (Kadoch et al. 2013, Oike et al. 2013, Medina & Sanchez-Cespedes 2008)。しかし、SMARCA4喪失が腫瘍形成を駆動するメカニズムは現在も未解明な点が多く、SMARCA4欠損癌に対する合理的な標的治療オプションは不足している。

卵巣小細胞癌・高カルシウム血症型 (SCCOHT) は、若年女性に発生するまれで高度悪性の腫瘍であり、ほぼ常にSMARCA4の両アレル変異による喪失を特徴とする (Jelinic et al. 2014, Ramos et al. 2014, Witkowski et al. 2014)。この腫瘍は、他の卵巣癌サブタイプとは対照的に、ゲノムが極めて単純であり、ほとんどの変異がSMARCA4のみである点が特徴的である (Gamwell et al. 2013, Fahiminiya et al. 2015)。この単一遺伝子的な性質は、SMARCA4喪失と合成致死的な薬物標的を発見するための機能的遺伝子スクリーニングに理想的なモデルを提供する。既存の外科的切除と化学療法・放射線療法による長期生存率は、早期診断でも33%と低く (Estel et al. 2011)、承認された標準的な分子標的療法は確立されていない。

CDK4/6阻害薬 (palbociclib、ribociclib、abemaciclib) は、エストロゲン受容体 (ER) 陽性/HER2陰性進行乳癌で米国食品医薬品局 (FDA) の承認を取得しており (Turner et al. 2015, OLeary et al. NatRevClinOncol 2016, Sherr et al. 2016)、これらはCDK4/6の過剰活性化 (サイクリンD1過剰発現など) を利用したものである。しかし、腫瘍抑制因子の喪失が逆説的にCDK4/6感受性をもたらすという機序はこれまで報告されていなかった。本研究は、この知識ギャップを埋め、SMARCA4欠損SCCOHTにおける新たな治療戦略を開発することを目指した。

目的

本研究の目的は、ヒトキノームフォーカスRNAiスクリーニングを用いてSMARCA4欠損SCCOHTの合成致死的分子標的を同定し、その分子メカニズムを解明することである。さらに、前臨床モデルにおいてCDK4/6阻害薬の有効性を実証し、SCCOHT患者に対する新たな治療戦略の可能性を提示することを目指す。具体的には、SMARCA4喪失が細胞周期調節因子に与える影響、特にサイクリンD1発現との関連性を詳細に解析し、CDK4/6阻害薬への感受性を駆動するメカニズムを明らかにする。

結果

キノームスクリーニングによるCDK4/6の同定: ヒトキノームフォーカスRNAiスクリーニングの結果、CDK6がSMARCA4欠損SCCOHT細胞株BIN-67において最上位の合成致死的遺伝子として同定され (RRA第1位)、CDK4が第2位であった (Fig. 1b)。SMARCA4正常対照細胞 (IOSE80、OVCAR4) では、CDK6およびCDK4に対する選択的致死性は認められなかった。独立したshRNAを用いた検証実験では、CDK6およびCDK4のノックダウンがSCCOHT細胞株3種 (BIN-67、SCCOHT-1、COV434) の増殖を著明に抑制し、RBリン酸化を低下させた (Fig. 1c, d)。これはSMARCA4正常細胞では観察されなかった。さらに、酵素活性不活化変異体を用いたレスキュー実験により、SCCOHT細胞における増殖抑制がCDK4/6のキナーゼ活性に依存することが確認された (Fig. 1e-j)。

SMARCA4喪失によるサイクリンD1欠乏とCDK4/6依存性のメカニズム: SCCOHT細胞株3種はすべて、サイクリンD1タンパク質およびCCND1 mRNAの発現が著しく低下していることが判明した (Fig. 3a, b)。これらの細胞はRB陽性・p16 INK4a低発現という、CDK4/6阻害薬感受性と関連するプロファイルを有していた。SMARCA4の復元によりCCND1 mRNA発現が有意に上昇し (p<0.01)、逆にSMARCA4ノックダウンではSMARCA4正常細胞においてCCND1発現が著減した (p<0.0001) (Fig. 4d-g)。ChIP実験により、SMARCA4がCCND1プロモーターに特異的に結合することが確認され (Fig. 4h, i)、8種の公開ChIP-Seqデータでも一貫してCCND1プロモーター占有が示された (Supplementary Fig. 9)。外来性サイクリンD1の発現はCDK4/6阻害薬に対する耐性を付与し、自然発生的な耐性クローンでも高サイクリンD1発現が確認された (Fig. 3f-k)。これらの結果は、SMARCA4喪失がサイクリンD1欠乏を引き起こし、それがCDK4/6阻害薬への感受性を駆動することを示唆する。SCCOHT細胞のCDK4総キナーゼ活性はIOSE80対照細胞と比較して有意に低く (Fig. 3c)、CDK4/6阻害薬に対する「余剰」がほとんどない状態であることが示された。

CDK4/6阻害薬の強力なIn vitro抗腫瘍効果: Palbociclib、ribociclib、abemaciclibの3剤すべてにおいて、SCCOHT細胞株は高い感受性を示し、IC50値はER陽性乳癌細胞株 (MCF7、CAMA-1) と同等かそれ以下であった (Fig. 2a, b)。Palbociclib処理はSCCOHT細胞および乳癌細胞においてRBリン酸化を抑制したが、SMARCA4正常細胞では抑制しなかった (Fig. 2c)。RNA-Seqによるトランスクリプトーム解析では、palbociclib処理またはCDK6ノックダウン後のSCCOHT細胞において、細胞周期関連経路が最も強く影響を受けることが示された (Fig. 2d-g)。

In vivoでの有効性: マウス異種移植モデルにおいて、palbociclib (150 mg/kg/日) はBIN-67腫瘍の有意な増殖抑制を示し (p<0.0001、two-way ANOVA) (Fig. 5a, b)、SCCOHT-1異種移植モデルでも同様の抑制効果が42日間の治療期間で確認された (p<0.0001) (Fig. 5c, d)。IHC解析では、palbociclib処置群でpRB、Ki67発現、および有糸分裂指数の有意な低下が確認された (Fig. 5e-h)。さらに、SCCOHT患者由来異種移植 (PDX) モデルにおいても、palbociclibは有意な腫瘍増殖抑制効果を示した (p<0.01) (Fig. 5i)。

患者腫瘍での検証: NanoString遺伝子発現解析 (SCCOHT n=17 vs. HGSC n=6) の結果、SCCOHT腫瘍サンプルはHGSCと比較して有意に低いCCND1 mRNAレベルを示した (Fig. 6a, b)。TMAを用いたIHC解析 (SCCOHT n=32 vs. HGSC n=52) では、SCCOHT腫瘍におけるサイクリンD1タンパク質発現がHGSCと比較して約14倍低く (p<0.001)、CDK4発現も約29倍低いことが示された (Fig. 6d, e)。SCCOHT腫瘍はRB陽性・p16陰性プロファイルを保持しており、これはCDK4/6阻害薬感受性に関連する臨床予測プロファイルと一致していた。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、SMARCA4という腫瘍抑制因子の喪失が、逆説的にCDK4/6阻害薬に対する脆弱性を生み出すという新規パラダイムを提唱した。従来のCDK4/6阻害薬の応用 (ER陽性乳癌) がCDK4/6経路の過剰活性 (サイクリンD1過剰発現によるoncogenic addiction) を標的とするのとは対照的に、SCCOHTではSMARCA4喪失によるサイクリンD1欠乏がCDK4/6活性をバッファリングする能力を低下させ、CDK4/6阻害薬に対して非常に低い「余剰」しか持たない状態となっている。

新規性: 本研究で初めて、この「腫瘍抑制因子喪失によるcritically low oncogene levels → 合成致死的脆弱性」という概念を実証した。この発見は、機能的遺伝子スクリーニングが予期せぬ癌の脆弱性を明らかにし、効果的な治療戦略を考案する上で強力なツールであることを示している。

臨床応用: 本知見は、SCCOHTの治療にCDK4/6阻害薬を再利用できる可能性を示唆する点で臨床応用への大きな意義を持つ。実際、Lee et al. (JCO Precis Oncol 2020) が同様の前臨床的根拠に基づいてSCCOHT難治例にabemaciclib+nivolumab併用を試みて著効を示したことで、本研究の前臨床的発見が実際の臨床応用へとつながった。CDK4/6阻害薬はSCCOHT以外にも、Xue et al. NatCommun 2019で報告されたSMARCA4欠損NSCLCや他のSMARCA4欠損腫瘍への応用可能性が広がる。本研究が提示したこの概念は、直接標的化できない腫瘍抑制因子を持つ腫瘍群への治療戦略開発に広く応用しうる重要なパラダイムである。

残された課題: 残された課題として、サイクリンD2発現による部分的補償機序の解明が挙げられる。SCCOHT-1細胞株や一部のSCCOHT腫瘍でサイクリンD2の発現上昇が観察されたが、in vitroキナーゼアッセイではSCCOHT-1細胞のCDK4総キナーゼ活性はSMARCA4正常細胞より依然として低く、サイクリンD2がサイクリンD1欠乏を完全に補償するわけではないことが示唆された。今後の検討課題として、他のSMARCA4欠損腫瘍型への本知見の外挿可能性の検証、およびCDK4/6阻害薬と他の治療法 (EZH2阻害薬、AURK阻害薬、免疫療法など) との組み合わせによる相乗効果の探索が挙げられる。本研究のlimitationとしては、in vitroおよびin vivoモデルが限定的であり、より多様なSCCOHTモデルでの検証が必要である点が挙げられる。

方法

本研究では、SMARCA4欠損SCCOHT細胞株BIN-67と、SMARCA4正常対照細胞株IOSE80およびOVCAR4を用いて、ヒトキナーゼを標的とするshRNAプールドスクリーニングを実施した。スクリーニングデータはMAGeCK統計ソフトウェア (Love et al. GenomeBiol 2014) で解析された。IOSE80はSMARCA4正常の卵巣上皮細胞であり、OVCAR4はSMARCA4正常の卵巣癌由来細胞株である。

同定されたCDK4/CDK6について、以下の検証を行った。まず、独立した2-3種のshRNAによるノックダウン実験を行い、コロニー形成アッセイとRBリン酸化のウェスタンブロット解析により増殖抑制効果を確認した。次に、野生型および酵素活性不活化変異体 (CDK6 D163N、CDK4 D158N) を用いたレスキュー実験を実施し、増殖抑制がCDK4/6のキナーゼ活性に依存することを確認した。さらに、CDK4/6阻害薬3剤 (palbociclib、ribociclib、abemaciclib) を用いて、細胞生存率アッセイ (CellTiter-Blue)、RBリン酸化のウェスタンブロット解析、およびRNA-Seqによる薬理学的検証を行った。RNA-SeqデータはSTAR (Dobin et al. Bioinformatics 2013) でマッピングし、HTSeq (HTSeq) でカウント、DESeq2 (Love et al. GenomeBiol 2014) で差次発現解析を行い、GSEA (Subramanian et al. ProcNatlAcadSciUSA 2005) でパスウェイ解析を実施した。

サイクリンD1の低発現とSMARCA4の関係を解析するため、mRNAレベル (qRT-PCR)、タンパク質レベル (ウェスタンブロット)、SMARCA4復元実験、およびSMARCA4ノックダウン実験を行った。クロマチン免疫沈降 (ChIP) 実験により、SMARCA4のCCND1プロモーターへの占有を確認した。

In vivoでの有効性は、BIN-67およびSCCOHT-1細胞株を用いた異種移植モデル (マウスに経口palbociclib 150 mg/kg/日投与) およびSCCOHT患者由来異種移植 (PDX) モデルで検証した。腫瘍増殖抑制効果は腫瘍体積と重量で評価し、免疫組織化学 (IHC) 染色によりpRB、Ki67、および有糸分裂指数を解析した。

患者腫瘍での検証として、17例のSCCOHTと6例の卵巣高悪性度漿液性癌 (HGSC) のNanoString遺伝子発現データ、および組織マイクロアレイ (TMA) を用いたIHCにより、SCCOHT 32例とHGSC 52例におけるサイクリンD1、CDK4、CDK6、RB、p16の発現を解析した。IHCの定量化には、Matlabの画像処理ツールボックスを用いた自動解析プログラムが使用された (Venneti et al. 2013)。統計解析にはPrism 6ソフトウェアを用い、二項t検定、二元配置分散分析 (two-way ANOVA)、または非パラメトリックMann-Whitney検定が適用された。