- 著者: Wolf J, Seto T, Han JY, Reguart N, Garon EB, Groen HJM et al.; Heist RS (共著)
- Corresponding author: Jürgen Wolf, MD (Department I of Internal Medicine, Center for Integrated Oncology, University Hospital Cologne, Cologne, Germany)
- 雑誌: New England Journal of Medicine
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-05-28
- Article種別: Original Article
- PMID: 32877583
背景
MET exon 14 (METex14) スキッピング変異は、進行非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者の約3〜4%に認められる独立した発癌性ドライバー変異である (Awad et al. 2016; Frampton et al. 2015; Schrock et al. 2016)。この変異は、METタンパクのE3ユビキチンリガーゼ (Cbl) 結合部位を含む膜近傍ドメインの欠失を引き起こし、その結果、METタンパクのユビキチン化と分解が障害され、持続的なMETシグナル活性化が生じる。METex14変異は、上皮成長因子受容体 (EGFR) 変異、未分化リンパ腫キナーゼ (ALK) 転座、KRAS変異といった他の主要なドライバー変異との共存が稀であり、独立したドライバーとして機能することが示されている。これらの患者は標準治療に対する予後が不良であることが報告されており (Awad et al. 2019; Tong et al. 2016)、有効な分子標的治療薬の開発が強く求められていた。
一方、MET増幅は、MET遺伝子コピー数 (GCN) の増加によりMETタンパクの過剰発現を引き起こし、NSCLCの1〜6%に認められる。高度MET増幅 (GCN≥10) は独立した発癌性ドライバーとして機能しうるが、GCN<10の低度から中等度増幅では、EGFRやKRASなどの他のドライバー変異との共存が多く、それ自体でのドライバー性は限定的であると考えられてきた (Schildhaus et al. 2015; Noonan et al. 2016)。このGCNによる有効性の差を前向き試験で明確にすることは、患者選択における重要な課題であった。
カプマチニブ (INC280) は、MET受容体に対して高い選択的阻害活性 (IC50 0.13 nM) を持つ経口METチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI) である (Liu et al. 2011; Baltschukat et al. 2019)。in vitroおよびin vivoの癌モデルにおいて、MET活性化を有する癌に対して有効性を示している。さらに、動物試験では血液脳関門 (BBB) 透過性を有することが確認されており (Heist et al. 2019; Shih et al. 2016)、脳転移を高頻度に合併するMETex14変異NSCLCに対する頭蓋内活性への期待が高まっていた。これまで、METex14変異またはMET増幅を有する進行NSCLCに対するMET選択的阻害薬の前向き多施設第2相試験は不足しており、これらの患者群におけるカプマチニブの有効性と安全性を評価し、適切なバイオマーカーを確立することが喫緊の課題であった。本研究であるGEOMETRY mono-1試験は、このような背景のもとに実施された最初の前向き多施設第2相試験であり、METex14変異と高度MET増幅を分子標的療法の予測バイオマーカーとして確立することを目指した。METex14変異NSCLCにおける治療薬の有効性データはこれまで未解明な点が多かった。
目的
本研究の主要な目的は、METex14スキッピング変異またはMET増幅 (遺伝子コピー数 [GCN] 別コホート) を有する進行NSCLC患者において、カプマチニブ400 mg 1日2回投与の有効性 (主要エンドポイント: 独立評価委員会評価による全奏効割合 [ORR]) と安全性を評価することであった。副次的な目的として、主要な副次エンドポイントである奏効期間 (DoR) を評価すること、さらに、METex14変異と高度MET増幅 (GCN≥10) をカプマチニブ治療の予測バイオマーカーとして確立することを目指した。特に、未治療患者と既治療患者におけるカプマチニブの有効性を比較し、脳転移を有する患者における頭蓋内活性も評価対象とした。また、MET増幅のGCNレベルが治療奏効に与える影響を詳細に解析し、最適な患者選択基準を特定することも重要な目的であった。
結果
METex14スキッピング変異を有する未治療NSCLC患者 (コホート5b、n=28) における高い奏効割合: 独立評価委員会評価による全奏効割合 (ORR) は68% (95% CI 48-84%) であり、完全奏効 (CR) が4%、部分奏効 (PR) が64%であった (Table 2)。奏効期間 (DoR) 中央値は12.6ヶ月 (95% CI 5.6ヶ月-算出不能) であり、無増悪生存期間 (PFS) 中央値は12.4ヶ月 (95% CI 8.2ヶ月-算出不能) であった (Figure 2C)。奏効を達成した患者の82%が最初の腫瘍評価時点で奏効を示しており、効果発現の速さが特徴であった。病勢コントロール率 (DCR) は96%に達した。この結果は、EGFR変異陽性NSCLCに対するEGFR阻害薬の一次治療成績 (ORR 60-80%) に匹敵するものであり、METex14変異が独立した治療標的として極めて有望であることを示唆する。
METex14スキッピング変異を有する既治療NSCLC患者 (コホート4、n=69) における持続的な奏効: 独立評価委員会評価によるORRは41% (95% CI 29-53%) であり、PRが36%、安定病変 (SD) が25%であった (Table 2)。DoR中央値は9.7ヶ月 (95% CI 5.6-13.0ヶ月)、PFS中央値は5.4ヶ月 (95% CI 4.2-7.0ヶ月) であった (Figure 2C)。DCRは78%であった。拡張コホート6 (1ライン既治療のMETex14変異患者、n=31) でもORR 48% (95% CI 30-67%) と一貫して高い奏効率が確認された。これらの結果は、二次治療以降の標準治療薬 (ドセタキセルなど) の成績を大幅に上回るものであった。
MET増幅GCN≥10を有するNSCLC患者における有効性: MET増幅GCN≥10を有する既治療患者 (コホート1a、n=69) におけるORRは29% (95% CI 19-41%) であった (Table 2)。DoR中央値は8.3ヶ月 (95% CI 4.2-15.4ヶ月)、PFS中央値は4.1ヶ月 (95% CI 2.9-4.8ヶ月) であった (Figure 2D)。未治療患者 (コホート5a、n=15) ではORR 40% (95% CI 16-68%)、DoR中央値7.5ヶ月、PFS中央値4.2ヶ月であった。これらの結果は有望であったものの、事前規定された有効性閾値 (ORR≥35%かつ95%CI下限>25%) には達しなかった。
MET増幅GCN<10を有するNSCLC患者における限定的な有効性: MET増幅GCN 6-9を有する患者 (コホート1b、n=42) のORRは12% (95% CI 4-26%)、GCN 4-5を有する患者 (コホート2、n=54) のORRは9% (95% CI 3-20%)、GCN<4を有する患者 (コホート3、n=30) のORRは7% (95% CI 1-22%) であった。これらのコホートは、中間解析で事前の無益性基準に達したため試験中止となった。低GCN増幅における他のドライバー変異 (EGFR、KRASなど) の共存が、MET単独のドライバー性を希釈している可能性が示唆された。
脳転移を有する患者における頭蓋内活性: METex14変異コホートにおいて、ベースラインで脳転移を有していた14例中13例 (画像評価可能) で独立神経放射線科医による評価が実施された。その結果、13例中12例で頭蓋内病変のコントロールが達成された。7例で頭蓋内奏効が確認され、うち4例が頭蓋内完全奏効 (CR) であった (Figure S8)。奏効した7例中3例は事前に脳放射線治療を受けていたが、残る4例は未照射であり、カプマチニブ自体の頭蓋内活性が示された。全例で最初の腫瘍評価時点で頭蓋内奏効が確認されており、脳転移に対する早期の有効性が示された。
安全性プロファイル: 364例の全コホート安全性解析において、最も頻繁に報告された治療関連有害事象 (AE) は末梢性浮腫 (全Grade 51%、Grade 3 9%)、悪心 (全Grade 45%、Grade 3 2%)、嘔吐 (28%)、血中クレアチニン増加 (24%、全例Grade 1-2) であった (Table 3)。血中クレアチニン増加は、カプマチニブによるMATE1 (multidrug and toxic compound extrusion protein 1)/MATE2-K (multidrug and toxic compound extrusion protein 2-K) 腎尿細管トランスポーター阻害に起因する可逆的な変化であり、腎機能障害を意味するものではないと考えられた。Grade 3/4のAEは全体で67%に認められたが、大部分は管理可能であった。治療中止率は11%、投与量減量率は23%であった。間質性肺炎による治療関連死が全コホートで1件報告された。食事制限なしでの投与 (コホート6・7) では、消化器毒性の発生率が低下する傾向が観察された。
考察/結論
GEOMETRY mono-1試験は、METex14スキッピング変異を有するNSCLC患者に対し、カプマチニブが未治療例でORR 68% (95% CI 48-84%)、PFS中央値12.4ヶ月、既治療例でORR 41% (95% CI 29-53%)、PFS中央値5.4ヶ月という顕著な抗腫瘍活性を示すことを前向き試験として実証した。この有効性は、EGFR変異陽性NSCLCに対するEGFR阻害薬の成績に匹敵するものであり、METex14変異がNSCLCの独立した治療標的として確立されたことを示す。この結果を受け、2020年5月に米国食品医薬品局 (FDA) はMETex14変異陽性NSCLCの一次治療および二次治療以降に対するカプマチニブの加速承認を行った。
先行研究との違い: 同時期に報告されたテポチニブ (VISION試験、Paik et al. 2020) のORR 46%という結果と合わせ、MET選択的阻害薬クラスのMETex14変異NSCLCへの有効性が二重に確証された。両試験の患者背景や評価時点には違いがあるものの、MET-TKIのクラスエフェクトとしての有効性が確立されたと言える。これまで、METex14変異に対する特異的な治療薬は限られており、本研究は既存の治療選択肢と比較して優れた有効性を示した点で対照的である。
高度MET増幅 (GCN≥10) を有する患者におけるORR 29〜40%は有望な結果であったが、事前規定の閾値には達しなかった。一方、GCN<10の患者ではORR 7〜12%と有効性が著明に低下しており、GCNのカットオフ設定が患者選択において重要であることを明確に示した。低〜中等度MET増幅ではEGFRやKRASなどの他のドライバー変異との共存が多く、カプマチニブのような単一MET標的薬では有効性が限定されるという生物学的原則が本研究で明確に示されたことは、今後の臨床応用において重要な知見である。
新規性: 本試験で特筆すべき新規な追加知見として、(1) METex14スキッピング変異の検出において次世代シーケンシング (NGS) と逆転写ポリメラーゼ連鎖反応 (RT-PCR) の一致率が99%と高く、いずれの方法でも高精度な患者選択が可能であること、(2) 変異の種類 (点変異、挿入、欠失) やMET増幅の共存の有無によらず奏効率は同等であり、METex14変異単独を治療選択の十分な条件とできること、(3) METex14変異NSCLC患者の腫瘍変異量 (TMB) は低値であり、免疫チェックポイント阻害薬に対する感受性が低い可能性が示唆される点が挙げられる。これらの知見は、METex14変異NSCLCの治療戦略を策定する上で極めて重要である。本研究で初めて、METex14変異の検出方法間の高い一致率と、変異タイプによらないカプマチニブの均一な有効性が示された。
臨床応用: 脳転移を有する患者における頭蓋内活性 (13例中7例で奏効、うち4例が完全奏効) は、臨床的意義が非常に高い。METex14変異NSCLCの脳転移発症率は11〜23%と高く (Awad et al. 2019)、血液脳関門透過性を有するカプマチニブが頭蓋内病変も制御できることは、患者のQOL (Quality of Life) 向上に直接寄与する。この結果は、脳転移を有する患者に対する新たな治療選択肢を提供し、臨床現場での治療戦略に大きな影響を与える。
残された課題: 今後の検討課題として、現在進行中のコホート7 (未治療例への第2相試験) や、カプマチニブとペムブロリズマブを比較するGEOMETRY-E試験などの後続試験が、これらの結果を確認・拡張することが期待される。本研究のlimitationとして、(1) 非ランダム化設計のため、他の治療法との直接比較ができないこと、(2) 未治療METex14変異コホート (コホート5b) の症例数n=28が比較的少数であり、信頼区間が広いこと、(3) METex14変異陽性NSCLCは高齢者、女性、非喫煙者に多い特殊な集団であり、試験間の比較には注意が必要な点が挙げられる。しかしながら、稀少なドライバー変異に対する前向き試験として設計・実施された本研究は、METex14変異NSCLCの治療エビデンスを確立した先駆的研究であり、プレシジョンオンコロジーの発展に重要な貢献をしたと言える。
方法
本研究は、第2相、多施設、非ランダム化、オープンラベルのコホート試験 (NCT02414139、GEOMETRY mono-1) として実施された。対象患者は、Stage IIIBまたはIVのNSCLC患者で、EGFR変異およびALK転座がなく、RECIST 1.1 (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors, version 1.1) に基づく測定可能病変を有し、ECOG Performance Status (PS) が0〜1であった。MET状態は、中央検査機関で腫瘍組織の遺伝子解析により確認された。カプマチニブは400 mgを1日2回経口投与された。コホート1〜5では絶食下で投与されたが、コホート6〜7では食事制限なしで投与された。脳転移を有する患者も、登録前2週間以内にグルココルチコイドの増量がなく、神経学的に安定していると治験責任医師が判断した場合に登録可能であった。
コホート設計: 本試験では、MET状態と前治療歴に基づいて複数のコホートが設定された。
- METex14変異を有する既治療例 (コホート4、n=69)
- METex14変異を有する未治療例 (コホート5b、n=28)
- MET増幅GCN≥10を有する既治療例 (コホート1a、n=69)
- MET増幅GCN≥10を有する未治療例 (コホート5a、n=15)
- MET増幅GCN 6-9を有する既治療例 (コホート1b、n=42)
- MET増幅GCN 4-5を有する既治療例 (コホート2、n=54)
- MET増幅GCN<4を有する既治療例 (コホート3、n=30) さらに、拡張コホートとして、1ラインの治療歴があるMETex14変異患者 (コホート6、n=31) が追加された。合計364例の患者が登録された。
主要エンドポイント: 独立評価委員会 (blinded) によるRECIST 1.1に基づく全奏効割合 (ORR) であった。 主要な副次エンドポイント: 独立評価委員会評価による奏効期間 (DoR) であった。 その他の副次エンドポイント: 無増悪生存期間 (PFS)、安全性プロファイル、薬物動態などが含まれた。
統計解析: 既治療コホートの有効性閾値は、ORRが35%以上かつ95%信頼区間 (CI) の下限が25%を超えることと事前規定された。未治療コホートでは、ORRが55%以上かつ95%CIの下限が35%を超えることが閾値とされた。各コホートは独立した統計的仮説に基づいて解析され、多重性の調整は行われなかった。低GCNコホート (コホート1b、2、3) は、中間解析で無益性 (futility) 基準に達したため、2019年4月15日に試験が中止された。全コホートのデータカットオフは2020年1月6日であった。脳転移を有する患者については、独立神経放射線科医による盲検下評価が実施された。統計解析にはFisher’s exact testが用いられた。