- 著者: Hu H, Piotrowska Z, Hare PJ, Chen H, Mulvey HE, Mayfield A, Noeen S, Kattermann K, Greenberg M, Williams A, Riley AK, Wilson JJ, Mao YQ, Huang RP, Banwait MK, Ho J, Crowther GS, Hariri LP, Heist RS, Kodack DP, Pinello L, Shaw AT, Mino-Kenudson M, Hata AN, Sequist LV, Benes CH, Niederst MJ, Engelman JA
- Corresponding author: Haichuan Hu (Massachusetts General Hospital), Cyril H. Benes (Massachusetts General Hospital/Novartis), Matthew J. Niederst (Novartis), Jeffrey A. Engelman (Novartis)
- 雑誌: Cancer Cell
- 発行年: 2021
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 34624218
背景
がん関連線維芽細胞 (cancer-associated fibroblasts; CAF) は腫瘍微小環境の主要構成成分であり、がんの生態系を構成する重要因子として認識されている。近年、単一細胞RNAシーケンス (scRNA-seq) による大規模解析により、非小細胞肺がん (NSCLC) を含む固形腫瘍のCAFが多様な分子的特徴を示すことが報告されてきた Wolf et al. GenomeBiol 2018。しかし、CAFが機能的にどのように異なるのか、またその機能的差異が臨床治療結果にどう影響するのかについては、依然として十分に未解明な点が多かった。
EGFR変異やALK融合を持つNSCLCに対するチロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) 治療は個別化がん治療の骨格をなすが、同一遺伝子異常を持つ患者間でも治療反応は大きく異なることが知られている。一部の患者は深い奏効を達成する一方で、大多数は様々な程度の応答または無応答を示す。この多様性をもたらす機構は、がん細胞固有の変異以外にも、腫瘍微小環境 (特にCAF) の役割が示唆されていた Quail et al. NatMed 2013。これまでの研究では、CAFの定義が研究間で不統一であったり、過去の一様なCAF除去アプローチが患者アウトカムをほとんど改善しなかったりした事実が報告されており、CAFの機能的多様性を系統的に解明する必要性が浮き彫りになっていた。例えば、MET遺伝子増幅はEGFR TKI耐性を引き起こすことが知られているが Engelman et al. Science 2007、これだけでは全ての耐性メカニズムを説明するには不足していた。
さらに、従来のCAF研究では、胎児組織由来の線維芽細胞や、関連性の低い遺伝子背景を持つ腫瘍由来のCAFなど、臨床的文脈が異なるモデルが用いられることが多く、その結果の臨床的意義の検証が困難であった。このため、患者が実際に受けた治療と同じ治療薬を用いて、CAFの機能的多様性を直接的に評価する体系的なアプローチが不足していた。CAFの分子的な不均一性はscRNA-seqで示されているものの、それが具体的な機能の違い、特に治療反応への影響にどう結びつくかは不明なままであった。この知識のギャップが、CAFの多様性に基づいた個別化がん治療戦略の開発を妨げていた。
目的
本研究の目的は、EGFR変異またはALK融合を有するNSCLC患者の生検由来の癌関連線維芽細胞 (CAF) バイオバンクを構築し、CAFの機能的不均一性の全体像を、患者が実際に受けた治療と同一の治療薬を用いて体系的に解析することである。具体的には、(1) CAFの機能的サブタイプを定義し、(2) そのサブタイプと患者の臨床的治療反応との相関を明らかにすること、(3) CAFの機能多様性を制御する分子機序を同定すること、そして (4) 腫瘍免疫微小環境との関係を解明することを目的とした。これにより、CAFの機能的分類が個別化治療の指針となりうるかを検証する。
結果
NSCLCのCAF機能的不均一性の実証: 60株のPDFを用いた網羅的スクリーニングにより、EGFRi (osimertinib) に対するがん細胞の救済効果には広範な分布が認められた。38株のEGFR陽性PDFを12株のがん細胞株 (MGH707, MGH134など) でスクリーニングした456ユニークな組み合わせの解析で、8株のPDFが全3種のがん細胞株を強く保護し、18株は1〜2種のみ、12株は効果がほぼなかった。PDFの救済効果は共培養とconditioned medium間で高い相関 (Spearman r=0.80) を示し、分泌因子が主要なメカニズムであることが確認された (Fig 2A, 2B)。
3つの機能的CAFサブタイプの同定: METとFGFR (fibroblast growth factor receptor) を介したがん細胞保護能に基づいて、3つの機能的サブタイプを定義した。サブタイプIはMETを主として (FGFRとの組み合わせ含む) EGFRiに対して強く広くがん細胞を保護し、HGF高発現およびFGF7高発現を示す。サブタイプIIはFGFRを主として中程度の保護を与え、FGF7高発現およびHGF低発現を示す。サブタイプIIIは保護効果が最小限で、HGFおよびFGF7がともに低発現である (Fig 5A, 5B, 5I)。ALK陽性NSCLCでも同様の機能分類が確認され、サブタイプIとIIのPDFはALKi (lorlatinib) に対してもがん細胞を保護した (Fig 5C)。
HGFとFGF7の主要な役割の解明: 分泌プロファイリングではHGF濃度がEGFRi救済効果と最も強い相関を示した (Fig 3A)。METi (MET阻害剤; INC280) でHGF高PDFの救済を部分的にしか消失させられなかったことから、HGF/MET非依存的なFGFR介在性耐性の存在が示唆された (Fig 3B)。18種のFGF (fibroblast growth factor) リガンド中、FGF7が肺腫瘍間質で最も普遍的に発現し、PDFでの発現量がFGFR依存的救済と最も相関した (Fig 5D, 5E)。FGF7の主要受容体はFGFR2 IIIbであることが確認され、FGFR2ノックダウンのみが広くPDF誘導性救済を消失させた (Fig 5F)。EGFR陽性NSCLCの生検コホート (n=11 patients) ではFGF7が90%に発現し、FGFR2は40%で検出された (Fig 5H)。EGFRiとMETi・FGFRi (FGFR阻害剤; BGJ398) の三剤併用は、456のPDF-がん組み合わせのほぼ全てでCAF誘導性耐性を解消した (Fig 4A)。in vivoマウス異種移植モデル (n=6 xenograft tumors/group) でも、EGFRi単独ではKi67とリン酸化S6の抑制が不十分であったが、METiとFGFRiを併用した三剤併用により、がん細胞の増殖とシグナル伝達が有意に抑制された (p<0.0001) (Fig 4B)。
TGFβシグナルによるCAF機能的多様性の制御: RNA-seq (21株PDF) の上位1,000変動遺伝子のunsupervised clusteringでは、サブタイプIとIIが一群を形成し、多くのサブタイプIIIが明確に分離された (Fig 6A)。KEGG経路解析でサブタイプIとIIに共通して過剰発現する3経路のうち、TGFβシグナリング経路が高い統計的有意性を示した (Fig 6C)。特に、TGFβ1の細胞外抑制因子であるdecolin (DCN)、fibromodulin (FMOD)、LTBP1がサブタイプIとIIで高発現し、TGFβ1下流のphospho-SMAD2/3はサブタイプIIIで高く、サブタイプIとIIでは最小限であった (Fig 6D, 6E)。TGFβ1処理によりサブタイプIとIIのHGFおよびFGF7発現が抑制され (p<0.05)、TGFBR1i (TGFβ receptor type I inhibitor; vactosertib) 処理によりサブタイプIIIのHGFおよびFGF7発現が増加した (Fig 6F, 6G, 6H)。転写因子TBX2とETV1がTGFβシグナルの下流でCAF機能的多様性を制御していることも示された (Fig 6J, 6K, 6M, 6N)。
臨床コホートでの検証: 12例のEGFR陽性NSCLC患者のTKI前生検secretomeでは、TKIに乏しい応答 (PD/SD) の患者ほどHGFとFGF7の分泌が高かった (p<0.05) (Fig 7A)。13例のTKI前生検由来PDFの機能分類と臨床応答の比較では、TIL (tumor-infiltrating lymphocyte) 陽性生検はいずれもサブタイプIIIを持ち、サブタイプIとIIは全てTIL陰性生検に存在していた (サブタイプIIIがより良好な治療応答と関連) (Fig 7B)。11例の公開RNA-seqデータ (osimertinib治療前後) では、PFS<12ヶ月の患者でHGFとFGF7の前処置発現が有意に高かった (p<0.05) (Fig 7C)。縦断的生検からのPDF (n=6 patients) では、後期生検PDFが初期生検PDFより一般的に強い救済能を示し、CAFの機能的進化が示唆された (Fig 7E)。
サブタイプIIIは免疫細胞遊走を促進: サブタイプIII PDFはCXCL11、CXCL12、CCL14、CCL17、CCL20などのT細胞・単球誘引ケモカインをサブタイプIとIIより高発現した (p<0.05) (Fig 8B)。ex vivoマイクロフルイディクスアッセイでは、サブタイプIII PDFがPBMC (peripheral blood mononuclear cell) およびCD8陽性T細胞の遊走を最も強く促進し、Jurkat細胞・THP-1細胞においても同様の結果が得られた (p<0.05) (Fig 8E, 8F)。
考察/結論
本研究は、患者由来CAFの大規模バイオバンクと機能的スクリーニングを組み合わせた独創的なアプローチにより、NSCLCのCAF機能的不均一性の全体像を初めて体系的に解明し、3つの機能的サブタイプという実臨床応用可能な分類枠組みを確立した。
先行研究との違い: これまでのscRNA-seqによる分子的分類 (UMAP-1〜8) とCAF機能サブタイプは完全には対応せず、UMAP-5のみがサブタイプIと最も整合的であった。この発見は、分子的表現型のみでCAF機能を予測することの限界を示しており、直接的な機能アッセイの必要性を強調する点で、これまでの研究とは対照的である。また、膵臓がんにおけるiCAF-mCAF分類とは独立した、NSCLC特有のCAF分類を確立したことも本研究の新規性の一つである。
新規性: 本研究で初めて、HGFとFGF7の発現レベルに基づいてNSCLCのCAFを3つの機能的サブタイプに分類し、これらのサブタイプがTKI治療反応に異なる影響を与えることを示した。特に、FGF7-FGFR2軸がCAF介在性TKI耐性の重要なメカニズムとして新規に同定されたことは、これまで報告されていない重要な知見である。さらに、CAFの内因性TGFβシグナルがHGFおよびFGF7の発現を抑制することで、CAFの機能的多様性を制御しているという分子メカニズムも本研究で初めて解明された。
臨床応用: 本研究の知見は、NSCLC患者の個別化治療戦略の策定に直接的な臨床的意義を持つ。サブタイプI CAFを持つ患者ではMETiとFGFRiの両方を加えた三剤併用が必要であり、サブタイプIIではFGFRi単独が主要なアプローチとなり、サブタイプIIIでは追加の標的療法が不要という治療戦略の個別化が示唆される。このCAF機能分類は、患者のTKI治療反応と相関し、腫瘍免疫微小環境とも関連することから、臨床現場での個別化治療の指針となる可能性を秘めている。CAFの機能的進化 (治療とともにサブタイプが変化) の発見は、逐次的生検による腫瘍微小環境モニタリングの重要性を示唆し、治療戦略の動的な調整に繋がる可能性がある。FGF7-FGFR2軸という新たな耐性機序の同定は、既存のFGFRi (infigratinib、pemigatinibなど) の転用を検討する根拠となりうる。
残された課題: 本バイオバンクは主にEGFR陽性・ALK陽性NSCLC (腺癌・非喫煙者) を対象としており、扁平上皮癌や喫煙関連NSCLCへの外挿可能性は今後の検討課題である。CAFが治療により機能的に選択されるのか、あるいは変化するのかという機序、サブタイプI・IIの上流regulator (TGFβ以外の経路)、CAFの物理的マトリクス産生機能や代謝機能の役割は今後の研究で解明すべき点として残されている。また、臨床的に十分忍容性があるEGFRi+METiに加えてFGFRiを追加した三剤併用の毒性・実現可能性の検証が臨床応用に向けた次のステップとなる。さらに、本研究では分泌機能に焦点を当てたが、CAFと腫瘍細胞の直接接触や代謝的相互作用、および細胞外マトリクスの構造的影響が治療反応にどう貢献するかも未解明である。免疫療法の観点では、サブタイプIIIが免疫細胞遊走を促進するという発見は、CAF機能分類が免疫チェックポイント阻害療法の適応を選別するバイオマーカーとなりうることを示唆しており、この点も今後の研究で深掘りすべき課題である。
方法
EGFR変異またはALK融合を有するNSCLC患者の生検検体から、60株の患者由来線維芽細胞 (patient-derived fibroblast; PDF) 培養を樹立した (成功率約80%)。PDFはhTERT (human telomerase reverse transcriptase) による不死化後、CAFマーカー (αSMA、S100A4、PDGFRA、FAP、COL1A2など10種) の発現プロファイリングと、既知7分子クラスを持つNSCLC scRNA-seqデータセット (Lambrechts et al., 2018; n=1,465 fibroblasts) へのUMAP (Uniform Manifold Approximation and Projection) マッピングで特性を評価した。
機能解析では、38株のEGFR陽性NSCLC由来PDFを12株のEGFR陽性がん細胞株 (MGH707, MGH134など) に対してosimertinib (EGFRi; EGFR TKI) 存在下で共培養およびconditioned mediumを用いてスクリーニングし、がん細胞の救済効果を定量化した。13株のALK陽性PDFはlorlatinib (ALKi; ALK TKI) に対して同様に評価した。448種類のタンパク質を測定する大規模分泌プロファイリング (multiplex ELISA) と、16種のシグナル経路阻害剤を用いたdrug combination screeningにより、CAF由来の耐性因子を同定した。RNA-seq (21株PDF)、TGFβ (transforming growth factor β) シグナリングプロファイリング、転写因子解析により、機能分類の分子基盤を解析した。
CAF機能分類と治療反応の相関検証には、3つの独立した臨床コホートを用いた。最初のコホートでは、12例のEGFR陽性NSCLC患者のTKI前生検secretomeにおけるHGF (hepatocyte growth factor) およびFGF7 (fibroblast growth factor 7) 分泌レベルを測定し、臨床応答 (PD/SD vs PR) と比較した。2番目のコホートでは、13例のTKI前生検由来PDFの機能分類と患者の臨床応答を比較した。3番目のコホートでは、公開RNA-seqデータセット (Roper et al., 2020; n=11 patients) を用いて、osimertinib治療前後のHGFおよびFGF7発現と無増悪生存期間 (PFS) との関連を解析した。また、縦断的生検からのPDFを用いて、CAFの機能的進化を評価した。免疫細胞遊走能は、ex vivoマイクロフルイディクスアッセイと免疫関連ケモカインのELISAアレイにより評価した。統計解析には、Spearmanの順位相関係数、二標本t検定、Mann-Whitney U検定、Fisherの正確確率検定を用いた。