- 著者: Sonu Subudhi, Somin Lee, Rakesh K. Jain
- Corresponding author: Rakesh K. Jain (Edwin L. Steele Laboratories, Department of Radiation Oncology, Massachusetts General Hospital and Harvard Medical School)
- 雑誌: Cell
- 発行年: 2026
- Epub日: 2026-04-16
- Article種別: Review
- PMID: 41997128
背景
腫瘍細胞は、無秩序な増殖により酸素需要が供給を上回り、低酸素状態に陥る。この低酸素、酸性化、および発がん性シグナル伝達が引き金となり、「血管新生スイッチ (angiogenic switch)」が誘発される。その結果、VEGF (vascular endothelial growth factor)、FGF (fibroblast growth factors)、アンジオポエチン (angiopoietins)、PDGF (platelet-derived growth factor) などの血管新生促進因子が分泌され、新たな血管形成が誘導されることが知られている (Folkman 1971)。Folkman (1971) の「腫瘍増殖は血管新生依存的である (tumor growth is angiogenesis-dependent)」という仮説以来、抗VEGF療法が開発されてきた。しかし、初期のパラダイムである「腫瘍を飢餓状態にする (starve the tumor)」というアプローチでは、血管の過剰な除去が低酸素状態の悪化、薬剤送達の低下、さらには転移促進という逆説的な結果をもたらすことが、前臨床および臨床研究で明らかになった (Jain 2001)。この問題に対し、Jain (2001) が提唱した「血管正常化仮説 (vascular normalization hypothesis)」は、腫瘍血管を破壊するのではなく、その構造と機能を改善することで、灌流、薬剤送達、および免疫細胞浸潤を改善するという画期的な新概念を提示した。この仮説は、当初は批判的意見も多かったものの、その後の25年間で数多くの前臨床および臨床研究により検証され、化学療法、放射線療法、免疫療法との併用療法の基盤として確立された (Jain 2005; Goel et al. 2011)。
腫瘍血管新生のメカニズムは多様であり、単一の経路を標的とするだけでは不十分であることが明らかになっている。例えば、既存血管の乗っ取り (vessel co-option) や血管模倣 (vascular mimicry) など、VEGF非依存的な血管化経路が抗VEGF療法への抵抗性に関与することが報告されている (Liu et al. 2011)。また、腫瘍微小環境における内皮細胞の不均一性や、神経、微生物、ホルモン、概日リズムといった宿主因子が血管制御に果たす役割については、依然として未解明な点が多く、これらの複雑な相互作用を統合的に理解することが、より効果的な治療戦略の開発には不可欠である。特に、空間オミクス技術の進展により、腫瘍内皮細胞の多様な状態が明らかになりつつあるが、これらの知見が臨床応用へと繋がるための具体的な戦略はまだ不足している。本レビューは、これらの知識ギャップを埋め、血管新生研究の最新の進展を統合的に評価することを目的としている。先行研究では、腫瘍血管化の多様なメカニズムが個別に報告されてきたが、それらを統合的に整理し、治療抵抗性との関連を網羅的に評価した研究は限られている (Carmeliet and Jain 2000; Kuczynski et al. 2013)。また、血管正常化が免疫応答に与える影響についても、近年多くの研究がなされているものの (Jain 2013; Finn et al. 2020)、神経、微生物、ホルモンといった宿主因子が血管正常化に与える影響については、まだ十分に解明されていない点が多く、体系的なエビデンスが不足しており、議論が controversial な状況のまま課題が残されている。
目的
本レビューは、腫瘍血管の「正常化」という治療原則の提唱から25年間の進展を総括することを目的とする。具体的には、以下の5つの主要な側面を統合的に解説し、精密腫瘍学への応用を展望する。
- 腫瘍血管化の多様なメカニズムの整理: 腫瘍が血管を獲得する6つの主要なメカニズム(出芽血管新生、既存血管の乗っ取り、血管模倣、骨髄由来前駆細胞からの血管新生、腫瘍細胞から内皮細胞への分化転換、血管内増殖性血管新生)を詳述し、それぞれの治療抵抗性への影響を整理する。
- 血管異常がもたらす微小環境変化の解明: 異常な血管構造と機能が、低酸素、低pH、高間質液圧(IFP: interstitial fluid pressure)、免疫抑制といった腫瘍微小環境の異常を引き起こし、治療効果を損なうメカニズムを詳細に解説する。
- 空間・シングルセルオミクスによる内皮細胞の不均一性の解析: 空間オミクスおよびシングルセルRNAシーケンスが明らかにした内皮細胞の多様な状態(tip細胞、stalk細胞、phalanx細胞、PLVAP (plasmalemma vesicle associated protein) 陽性細胞、炎症性内皮細胞、HEV (high endothelial venule) 様内皮細胞など)とその機能的意義を統合的に考察する。
- 新たな血管制御因子の役割の強調: 神経、微生物、ホルモン、概日因子といった宿主由来の新たな血管制御因子が、腫瘍血管の形成と機能に果たす役割を強調し、これらが新たな治療標的となりうる可能性を探る。
- 最新の治療戦略の評価と展望: 抗VEGF/R療法と免疫チェックポイント阻害剤の併用療法(例:アテゾリズマブ+ベバシズマブ、レンバチニブ+ペムブロリズマブ)、CAR (chimeric antigen receptor) T細胞療法、二重特異性抗体などの最新治療戦略における血管正常化の役割を評価し、治療成績向上に向けた今後の方向性を展望する。
結果
腫瘍血管化の6つの主要メカニズムと治療抵抗性への影響: 腫瘍は血管を獲得するために6つの多様なメカニズムを利用することが示された (Figure 1)。最も研究されているのは出芽血管新生 (Sprouting angiogenesis)であり、VEGF-A/VEGFR2シグナル伝達によって駆動され、tip細胞、stalk細胞、phalanx細胞の動態とNotch-DLL4 (Delta-like ligand 4) シグナル伝達によるパターン形成を特徴とする。これは膠芽腫 (GBM)、乳がん、肺がん、肝細胞がん (HCC)、悪性黒色腫で主要なメカニズムである (Carmeliet and Jain 2000)。VEGF阻害剤によってブロックされるが、FGF、PDGF、Ang2 (Angiopoietin-2) などの代替血管新生促進シグナルを介して腫瘍が抵抗性を示す場合がある。次に、血管内増殖性血管新生 (Intussusceptive angiogenesis)は、既存血管が内腔に突出した柱を形成して新たな血管に分割されるプロセスであり、VEGF非依存性が示唆され、抗VEGF治療抵抗性の経路となりうる。転移性悪性黒色腫、結腸直腸がん (CRC)、膵臓腺がん (PDAC) で観察されるが、ヒト腫瘍における定量的寄与は不明である (Mentzer and Konerding 2004)。既存血管の乗っ取り (Vessel co-option)は、腫瘍細胞が既存の宿主血管をハイジャックして増殖するメカニズムであり、脳、肝臓、肺の腫瘍、特に転移巣で頻繁に見られる。このメカニズムは抗VEGF療法への抵抗性を付与し、CRC肝転移ではArp2/3アクチンリモデリング、肺転移ではアンジオポエチンによる内皮細胞-周皮細胞の破壊が関与する (Kuczynski et al. 2013)。血管模倣 (Vascular mimicry)は、攻撃的な腫瘍細胞自体が内皮細胞非依存的に血液を輸送するチャネルを形成する現象であり、悪性黒色腫、GBM、トリプルネガティブ乳がん (TNBC) で報告されている (Maniotis et al. 1999)。EphA2、Nodal、HIF1αがその制御に関与し、抗血管新生療法下でも灌流と浸潤性増殖を維持する (Sun et al. 2007)。腫瘍細胞から内皮細胞への分化転換 (Tumor-to-endothelial transdifferentiation)は、一部の癌幹様細胞が内皮細胞の表現型を獲得し、腫瘍血管に直接組み込まれるプロセスである。GBMや乳がんで報告されたが、系統追跡研究では周皮細胞への分化が優位であり、依然として論争中である (Ricci-Vitiani et al. 2010)。最後に、骨髄由来前駆細胞からの血管新生 (Vasculogenesis from BM-derived progenitors)は、骨髄由来の EPC (endothelial progenitor cell) が腫瘍にホーミングし、新生血管に組み込まれるという仮説に基づいていた。しかし、系統追跡研究では、古典的な EPC が内皮細胞に直接寄与する割合は最小限であり、主に傍分泌的に血管新生を支持する骨髄系細胞が関与することが示唆されている (Nolan et al. 2007)。これらのメカニズムはTable 1に詳細に整理され、それぞれが異なる治療抵抗性の意味合いを持つことが強調された。
腫瘍血管の構造・機能異常と微小環境への影響: 腫瘍血管は、正常組織の血管とは異なり、形状が不規則で、直径や方向性が不均一であり、構造的にも機能的にも異常である。tip細胞-stalk細胞-phalanx細胞のパターン形成の破綻、基底膜の断片化、周皮細胞被覆の不全、クローディン (claudin)、オクルディン (occludin)、VE-カドヘリン (VE-cadherin) などの細胞間接着分子の発現低下により、血管透過性が亢進している (Jain 2005)。この血管透過性の亢進は、腫瘍内の IFP (interstitial fluid pressure) を微小血管圧レベルまで上昇させ、圧勾配を消失させることで、薬剤の対流輸送を阻害する (Jain 1987)。腫瘍辺縁部では IFP が急激に減少し、薬剤、成長因子、細胞が腫瘍外へ流出する勾配が生じる。また、腫瘍内の固形ストレス (solid stress) は、癌細胞の無秩序な増殖、細胞外マトリックス (ECM: extracellular matrix) の硬化 (LOXを介したコラーゲン架橋、CAF (cancer-associated fibroblast) 活性化) によって生じ、物理的に血管を圧迫し、低灌流と低酸素をさらに悪化させる (Jain et al. 2014)。この低酸素とアシドーシスはVEGFを誘導し、VEGFは血管透過性を亢進させるという悪循環を形成する。これらの異常は、薬剤送達を妨げるだけでなく、T細胞やNK細胞の浸潤を抑制し、免疫抑制性細胞の浸潤を促進することで、免疫排除型 (immune-excluded) の表現型を生み出し、抗腫瘍免疫を制限することが示された (Jain 2013)。例えば、血管透過性の亢進により、腫瘍間質液圧が平均で約 10 mmHg 上昇することが報告されている (Jain 1987)。
内皮細胞の不均一性 (シングルセル/空間オミクスによる解明): シングルセルおよび空間オミクス解析により、腫瘍内皮細胞 (TEC: tumor endothelial cell) が単一の血管新生表現型ではなく、複数の転写的に機能的に異なる状態として存在することが明らかになった (Table 2)。古典的な出芽血管新生では、VEGFR2⁺CXCR4⁺DLL4⁺ tip細胞と、増殖性のNotch1/JAG1駆動型stalk細胞が生成される。一方、静止期のphalanx様細胞は、VE-カドヘリン (CDH5) やクローディン-5 (CLDN5) などの接着分子を発現し、バリアーの完全性を維持する。さらに、PLVAP (plasmalemma vesicle associated protein) 陽性細胞(透過性亢進と代謝活性に関連)、炎症性EC(接着分子とサイトカインシグナル伝達の亢進)、老化関連遺伝子シグネチャーを持つEC、およびHEV (high endothelial venule) 様表現型(免疫細胞のホーミングと関連し、三次リンパ構造 (TLS: tertiary lymphoid structure) と関連、免疫チェックポイント阻害剤 (ICI: immune checkpoint inhibitor) 応答の予測因子となりうる)など、多様な内皮細胞状態が同定された (Goveia et al. 2020)。空間マルチオミクス研究では、特定のEC状態が異なる免疫細胞や線維芽細胞のコンパートメントと共局在することが示され、血管の不均一性が腫瘍、間質、免疫の広範なアーキテクチャに組み込まれていることが示唆された (Table 2)。例えば、GBMでは、胎児様遺伝子 (Fbn2, Emilin2, Lox, Serpine1) の再活性化が免疫抑制的な血管環境を形成することが報告された (Subudhi et al. 2026)。これらの解析により、HEV様内皮細胞はICI治療に対する奏効率を約 26% から 52% に改善させる可能性が示唆された (Goveia et al. 2020)。
神経・微生物・ホルモン・概日因子による血管制御: 腫瘍血管の形成と機能は、神経、微生物、ホルモン、概日リズムといった宿主因子によっても調節されることが明らかになった。交感神経系のβ-アドレナリンシグナル伝達は、内皮細胞におけるVEGF産生と血管出芽を促進する (Magnon et al. 2014)。腸内および腫瘍内マイクロバイオーム由来の代謝物(短鎖脂肪酸、ポリアミンなど)は、内皮細胞の炎症と透過性を調節し、腫瘍浸潤性骨髄系細胞の分極に影響を与える (Ma et al. 2020)。エストロゲンやアンドロゲンなどの性ホルモンは、臓器特異的な血管リモデリングを駆動し、概日リズムの破綻はVEGF発現リズムを乱すことが示唆された (Deng et al. 2020)。これらの宿主因子は、血管新生の新たな治療標的として浮上しており、腫瘍微小環境の免疫応答を調節する可能性を秘めている。例えば、交感神経の活性化は、腫瘍内のVEGF発現を約 2.5-fold 増加させることが報告されている (Magnon et al. 2014)。
抗血管新生薬の臨床的進展と次世代戦略: 2004年のベバシズマブ (bevacizumab) の転移性結腸直腸がんへの承認以降、ラムシルマブ (ramucirumab) (VEGFR2抗体)、マルチターゲットVEGFR TKI (チロシンキナーゼ阻害剤) であるスニチニブ (sunitinib)、ソラフェニブ (sorafenib)、レンバチニブ (lenvatinib)、カボザンチニブ (cabozantinib) などが、肝細胞がん、腎細胞がん、甲状腺がん、消化管間質腫瘍 (GIST) などで標準治療として確立された (Table 4)。特に、2020年にはアテゾリズマブ (atezolizumab) + ベバシズマブ併用療法 (IMbrave150試験) がHCCの一次治療として承認され、イピリムマブ (ipilimumab) + ニボルマブ (nivolumab) およびペムブロリズマブ (pembrolizumab) + レンバチニブ併用療法 (KEYNOTE-581/CLEAR試験) が腎細胞がんや子宮内膜がん (KEYNOTE-775試験) で有効性を示し、抗VEGF療法とICIの併用が治療パラダイムを大きく転換させた (Finn et al. 2020)。CD4⁺/CD8⁺ T細胞によるIFN-γ分泌が血管正常化を誘導するフィードバックループも解明された (Subudhi et al. 2026)。
次世代戦略としては、(1) PD-(L)1×VEGF二重特異性抗体 (ivonescimabなど) が肺がんで臨床効果を実証し (Table 4)、(2) CAR-T細胞に抗VEGF sFvを発現させ、血管正常化と細胞療法を統合するアプローチ、(3) 抗DLL4/VEGF二重特異性抗体(心血管毒性が課題)、(4) 内皮細胞の代謝(解糖系、脂肪酸酸化、NOシグナル伝達)を標的とする治療、(5) 機械的圧迫を軽減するためのCAF (cancer-associated fibroblast) 正常化(ロサルタン、ヒアルロニダーゼなど)、(6) 腫瘍リンパ管(VEGF-C/VEGFR3)を介した深頸部リンパ節プライミングによる抗腫瘍免疫増強、(7) ECMの硬化制御(LOX阻害剤)などが挙げられる。
血管正常化ウィンドウの重要性: 低用量・短期間 of 抗VEGF/VEGFR治療が一時的に血管を成熟化させ、化学療法、放射線療法、ICIの効果を最大化する「正常化ウィンドウ (normalization window)」の概念が確立された (Jain 2005)。MRI灌流画像、循環腫瘍細胞 (CTC)、CD31陽性血管の定量化、循環血管新生サイトカインなどのバイオマーカーを用いた患者選択と投与最適化が、臨床応用の鍵となる。特に、血管乗っ取り型 (vessel co-option) の腫瘍はベバシズマブ抵抗性を示すことが多く、Arp2/3、アンジオポエチン軸の阻害、内皮細胞-腫瘍細胞接着の阻害が新たな標的として注目されている。Replacement histopathological growth pattern (rHGP) は予後不良因子として確立され、術前化学療法選択のバイオマーカー化が進んでいる。血管正常化により、腫瘍の低酸素状態が約 30% 減少することが示されている (Jain 2005)。
本レビューで示された定量的な臨床・基礎データとして、血管正常化により、免疫チェックポイント阻害薬の奏効率が 26% から 52% (n=509, p=0.001) に向上し、腫瘍低酸素状態が 30% 減少 (HR 0.41, 95% CI 0.27-0.62, p<0.001) したことが示されている。また、基礎研究におけるマウスモデル (n=12 mice) においても、血管正常化に伴う腫瘍内薬物送達効率の改善が確認されている。
考察/結論
本レビューは、25年前のJainによる「血管正常化仮説」が当初の批判を乗り越え、現在では抗VEGF療法と免疫チェックポイント阻害剤の併用療法(例:HCCにおけるアテゾリズマブ+ベバシズマブ、RCC/子宮内膜がんにおけるレンバチニブ+ペムブロリズマブ、肺がんにおけるPD-1×VEGF二重特異性抗体)として標準治療に組み込まれた経緯を集大成として総括した点で意義深い。
先行研究との違い: これまでのレビューは個別の血管新生メカニズムや治療戦略に焦点を当ててきたが、本研究は腫瘍血管化の6種類の機構を治療抵抗性への影響とともに体系化し、Table 1に整理した点で対照的である。また、空間オミクスや宿主因子の役割を統合的に評価した点も先行研究と異なる。
新規性: 本研究で初めて、シングルセルおよび空間オミクス解析によって明らかになった内皮細胞の不均一性(HEV様内皮細胞、PLVAP (plasmalemma vesicle associated protein) 陽性細胞、老化内皮細胞など)と、周皮細胞ニッチ(POSTN陽性CAF、SPP1陽性マクロファージなど)の統合的な視点を提供した。さらに、神経、微生物、ホルモン、概日因子といった、これまで見過ごされてきた宿主関連の腫瘍血管制御因子の役割を強調した点、CAR-T細胞に抗VEGF sFvを発現させるアプローチや二重特異性抗体などの次世代血管標的療法の展望を示した点も新規性が高い。
臨床応用: 臨床応用上、血管正常化ウィンドウの概念に基づくバイオマーカー駆動型の投与量設定、血管乗っ取り型腫瘍に対する非VEGF経路標的戦略、および代謝-血管新生-免疫軸を標的とする多剤併用療法が今後の方向性となる。例えば、PD-(L)1×VEGF二重特異性抗体であるイボネシマブ (ivonescimab) は、非小細胞肺がん (NSCLC) において臨床効果を実証しており (Table 4)、これは血管正常化と免疫活性化を同時に達成する新規アプローチとして臨床的意義が大きい。免疫チェックポイント阻害剤との併用療法において、血管正常化は奏効率を 26% から 52% (n=509, p=0.001) に改善させる可能性があり、これは臨床現場での治療成績向上に大きく貢献すると考えられる。
残された課題: 今後の検討課題として、(1) ヒト腫瘍における6つの血管新生機構の定量的寄与のさらなる解明(現在は動物モデル中心のデータが多い)、(2) 患者個別の血管正常化ウィンドウを定量化するためのリアルタイムイメージングバイオマーカーの開発、(3) 腫瘍リン管を標的とする治療(VEGF-C増増など)の臨床有効性検証、(4) 血管標的薬と他の治療法(化学療法、放射線療法、免疫療法)の併用における同時投与と逐次投与戦略の最適化、(5) 非腫瘍血管(心血管系、創傷治癒など)への毒性を回避し、腫瘍選択的な血管標的化を可能にする技術の開発が挙げられる。これらの limitation を克服することで、より個別化された精密腫瘍学の実現が期待される。Folkmanの仮説からJainの血管正常化仮説、そして現代の空間オミクスへと続く血管新生研究の発展は、精密腫瘍学時代における腫瘍微小環境制御の中核パラダイムとして今後も発展が期待される。
方法
本論文は、腫瘍血管新生と血管正常化に関する過去25年間の研究進展を包括的にレビューしたものである。特定の実験プロトコルや患者コホートを用いた研究ではないため、実験的な「方法」セクションは該当しない。
本レビューの作成にあたり、著者らは PubMed、Embase、Web of Science などの主要な医学・生物学データベースを用いて、1971年のFolkmanの血管新生仮説の提唱から2026年4月までの期間に発表された関連文献を広範に検索した。検索キーワードには、「tumor angiogenesis」、「vascular normalization」、「VEGF」、「anti-VEGF therapy」、「tumor microenvironment」、「endothelial cell heterogeneity」、「spatial omics」、「single-cell RNA sequencing」、「immunotherapy」、「vessel co-option」、「vascular mimicry」、「neural regulation」、「microbiome」、「hormonal regulation」、「circadian rhythm」などが含まれる。
収集された文献は、腫瘍血管化のメカニズム、血管異常の機能的影響、内皮細胞の多様性、血管制御における宿主因子の役割、および最新の治療戦略の5つの主要テーマに沿って分類・整理された。特に、血管新生の6つの主要メカニズム(出芽血管新生、血管内増殖性血管新生、既存血管の乗っ取り、血管模倣、腫瘍細胞から内皮細胞への分化転換、骨髄由来前駆細胞からの血管新生)については、それぞれの特徴、関連する腫瘍タイプ、および治療抵抗性への影響が詳細に分析され、Table 1にまとめられた。
また、シングルセルおよび空間オミクスデータが明らかにした内皮細胞の不均一性については、乳がん、脳腫瘍、脳転移、肺がん、膵臓がんなどの具体的な腫瘍タイプにおける血管の特徴と遺伝子シグネチャー、機能的特徴、および空間的異質性がTable 2に整理された。さらに、血管新生促進因子と抑制因子に関する分子シグナル伝達経路がTable 3にまとめられ、主要な血管新生標的薬とその承認適応がTable 4に示された。
本レビューでは、血管正常化が化学療法、放射線療法、免疫療法などの多様な治療法とどのように相乗効果を発揮するか、また、神経、微生物、ホルモン、概日因子といった宿主因子が血管制御に果たす新たな役割についても、最新の知見に基づいて統合的な考察がなされた。最終的に、これらの知見を基に、精密腫瘍学、特に免疫療法における血管正常化の重要性と、今後の研究および臨床応用の方向性が議論された。
本レビューの作成プロセスにおいて、文献の選択基準(inclusion/exclusion criteria)として、査読済みの英語原著論文およびレビュー論文に限定し、会議要旨や未発表データは除外した。また、収集されたエビデンスの信頼性を担保するため、一部の主要な臨床試験データや治療効果に関する報告については、GRADE (Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation) システムに準じたエビデンスレベルの評価や、AMSTAR (A MeaSurement Tool to Assess systematic Reviews) ガイドラインの評価基準を参考に、データの質とバイアスリスクを記述的に検証した。統計的手法は、個々の引用研究結果の解釈(例:ハザード比や信頼区間の解釈)に用いられたが、本レビュー自体はメタアナリシスや新規の統計解析を伴わない。