- 著者: Gong Z, Li Q, Shi J, Wei J, Li P, Chang CH, Shultz LD, Ren G
- Corresponding author: Guangwen Ren (The Jackson Laboratory)
- 雑誌: Immunity
- 発行年: 2022
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 35908547
背景
固形がんの転移は、がん関連死の主要な原因であり、原発腫瘍の浸潤、血管内侵入、血中での生存、血管外遊出、遠隔臓器への定着という一連の複雑な過程から構成される。これらの段階のうち、臓器への定着は、播種された腫瘍細胞 (DTC) に対する強力な組織防御のため、転移の律速段階であると考えられている Massague et al. Nature 2016。転移が成功するためには、臓器環境が新たに到達したDTCと協調し、臓器の防御障壁を上回る免疫抑制機構を活性化することが不可欠である。DTCの拒絶または受容を制御する臓器環境内のメカニズムを深く理解することは、転移の基礎生物学を解明し、転移に対する治療法を開発するために不可欠である。
転移性臓器指向性(特定の腫瘍タイプが特定の臓器に転移する傾向を示す転移の主要な特徴)の主要な決定要因は、臓器環境とがんのゲノム異質性である。がん細胞の臓器指向性転移を媒介するがん内在性遺伝子に関する知識が増加している一方で、転移を支持する臓器微小環境、特に間質の特徴付けは不足している。臓器の腫瘍転移に対する感受性が、臓器に内在するものなのか、原発腫瘍によって誘導されるものなのか、あるいはその両者の相互作用によるものなのか、そしてDTCの定着を決定する主要な臓器常在成分は何であるのかなど、多くの基本的な疑問が未解明のままである。これらの疑問に答えることは、転移性臓器指向性の基盤を明らかにし、転移の臨床管理における臓器特異的標的戦略の設計を加速するのに役立つ。
肺は最も一般的な転移部位の一つであり、様々な進行期固形がんで頻繁に定着する。原発腫瘍から分泌される因子によって開始される肺の転移前ニッチ (PMN) の形成は、DTCが到達する前の重要な準備段階である Peinado et al. NatRevCancer 2017。骨髄由来の免疫抑制性骨髄系細胞(好中球、単球、マクロファージなど)は、PMNのよく特徴付けられた構成要素である Kaplan et al. Nature 2005。これらの骨髄系細胞は、主に局所抗腫瘍免疫の抑制、およびDTCに対する血管外遊出促進効果と栄養効果を通じて、将来浸潤するDTCにとって好ましい環境の構築を促進する。
骨髄由来骨髄系細胞の既知の役割とは対照的に、様々な肺疾患において決定的な役割を果たす肺常在間質線維芽細胞が、転移前および転移ニッチの形成にどのように寄与するかは十分に理解されていない。本研究では、単一細胞RNAシーケンシング (scRNA-seq) と免疫蛍光に基づく空間プロファイリングを用いて、肺免疫微小環境をリモデリングするシクロオキシゲナーゼ2 (COX-2) 発現外膜線維芽細胞 (AdvF) 集団を同定した。これらのPtgs2高発現線維芽細胞は、様々な種類の骨髄系細胞を機能不全または免疫抑制状態に再プログラミングした。乳がんマウスモデルにおいて、腫瘍関連炎症はこの線維芽細胞内在性の骨髄系細胞調節を増強した。プロスタグランジンE2 (PGE2) を含む肺線維芽細胞シグナル伝達経路の遺伝的または薬理学的阻害は、局所抗腫瘍免疫を大幅に回復させ、乳がんの肺転移を減少させ、肺転移治療における免疫療法の有効性を高めた。
目的
本研究の目的は、肺常在線維芽細胞サブセットを単一細胞RNAシーケンシング (scRNA-seq) と免疫蛍光を用いて同定し、シクロオキシゲナーゼ2 (COX-2)/プロスタグランジンE2 (PGE2) を介した骨髄系細胞リプログラミングによる転移前ニッチ (PMN) 形成機序と乳がん肺転移への寄与を解明することである。さらに、この経路が治療標的としての可能性を持つかを検証し、特に樹状細胞 (DC) ワクチンやプログラム細胞死受容体1 (PD-1) 阻害剤などの免疫療法との併用効果を評価することを目指した。これにより、肺常在間質細胞が転移性ニッチ形成において果たす役割を包括的に理解し、新たな転移治療戦略の開発に貢献することを意図する。
結果
肺線維芽細胞による樹状細胞 (DC)・単球の機能不全誘導: 骨髄由来樹状細胞 (BM-DC) を各種臓器に静脈内移植すると、肺では他臓器 (末梢血・骨髄・脾臓・肝臓) と比較して主要組織適合遺伝子複合体クラスI (MHC-I)・MHC-II発現が最も低く (p<0.0001)、この効果は腫瘍非担がんマウスでも4T1担がんマウスでも観察された (Figure 1A)。肺組織の各細胞分画との共培養では、CD140a陽性線維芽細胞のみがBM-DCのMHC発現を抑制し、線維芽細胞条件培地 (CM) も同様に機能した (直接接触不要)。上流制御因子のIngenuity Pathway Analysis解析でプロスタグランジンE2 (PGE2) が最も強力なMHC-II抑制因子として同定された (Figure 1E)。Ptgs2欠損線維芽細胞CMではBM-DCへの抑制効果が消失し (MHC発現回復、T細胞刺激能回復)、シクロオキシゲナーゼ2 (COX-2) がPGE2産生の主経路であることが確認された (Ptgs2 KO線維芽細胞のPGE2分泌は最小限)。COX-2/PGE2依存的に免疫抑制関連遺伝子 (Arg1・Cd274・Il10・Nos2・Ptgs2・Pdcd1lg2) のBM-DC発現が増加し (Figure 1H)、T細胞増殖 (p<0.001) とNK細胞障害活性 (p<0.001) が抑制された (Figure 1I, J)。BM由来単球でも同様にCOX-2依存的なArg1・Ptgs2・Nos2・Il10の上昇とT細胞抑制効果が確認された (Figure 1K, L)。これらの実験はn=3-5 replicatesで実施された。
Ptgs2高発現肺線維芽細胞の同定と特徴付け: Ptgs2Lucレポーターマウスを用いた臓器比較で、肺が他臓器 (脳・骨・腸管・心臓・肝臓・脾臓・膵臓・腎臓) より有意に高いPtgs2発現を示し (p<0.0001、n=6 mice)、このPtgs2高発現は肺線維芽細胞が主要源であった (Figure 2A)。CD140a陽性肺線維芽細胞の単一細胞RNAシーケンシング (scRNA-seq) (6クラスター同定) でPtgs2高発現クラスター (cluster 0; 外膜線維芽細胞 (AdvF) の約25%) が同定された (Figure 3B)。このクラスターの上位10シグネチャー遺伝子はすべて炎症関連遺伝子 (Ptgs2・Has1・Cxcl1・Il6・Tnfaip6・Mt1・Zfp36・Ccl7・Ptx3・Ccl2) であり、肺AdvF (肺動静脈・気道周囲の線維芽細胞) の約25%を占めるPtgs2高発現サブセットとして特定された (Figure 3D)。ヒト正常肺組織マイクロアレイ (GSE7307) でもPTGS2高発現が肺で突出しており、ヒトscRNA-seqデータではPDGFRA陽性HAS1陽性AdvFクラスターにPTGS2発現が集積した (Figure 2B, S3F)。空間的解析により、Ptgs2高発現線維芽細胞は主に肺外膜腔に局在し、CD11b陽性DC、CD103陽性DC、Ly6C陽性単球などの骨髄系細胞と近接して分布することが示された (Figure 4E-J)。
Ptgs2ΔFbマウスにおける免疫微小環境のリプログラミング: Ptgs2ΔFbマウス (n=4-5 mice) では肺線維芽細胞からのPGE2産生が消失し、定常状態の肺でDC、CD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞数が増加した (p<0.05) (Figure 2G)。肺常在CD11b陽性DCとCD103陽性DCの両サブセットでMHC-I/MHC-II発現とOVA取込能が増強され (p<0.001)、侵入モノサイトでの免疫抑制遺伝子 (Arg1・Arg2・Cd274・Ptgs2・Nos2・Il10) 発現が低下した (Figure 2H-K)。CD45陽性免疫細胞ではIFNγ・TNFα・IL-12・パーフォリン・CXCL9・CXCL10・STAT1・EOMESの発現が増加した (Figure S2H)。これらの変化は、Ptgs2欠損が肺の免疫微小環境を免疫機能不全および免疫抑制から抗腫瘍適応免疫の増強へと質的・量的に再プログラミングすることを示唆する。
IL-1βによるPtgs2高発現AdvF表現型の増強: AT3 (弱炎症) およびAT3gcsf (G-CSF過剰発現・強炎症誘導) モデル (n=3-6 mice) で、炎症強度に応じてCOX-2発現とPGE2産生が肺線維芽細胞で増強した (Figure 5A)。Ptgs2高発現線維芽細胞のtop enriched pathwayに「IL-1応答」が含まれ、IL-1βが線維芽細胞のPtgs2発現をNFκBを介して強力に誘導することをIl1r1欠損線維芽細胞とNFκB阻害薬 (MLN120B) で確認した (Figure 5B-D)。腫瘍担がんマウス肺の好中球からIL-1βが高産生され (p<0.01)、AT3gcsf担がんマウス由来好中球との共培養で線維芽細胞のPtgs2・Il6・Ccl2・Ccl7・Cxcl1発現が増加し、抗IL-1β中和抗体がこれを部分的に消失させた (Figure 5J, K)。空間的にも肺のCOX-2陽性線維芽細胞とLy6G陽性好中球が近接して分布していた (Figure 5L)。
In vivoでの乳がん肺転移の抑制: AT3腫瘍担がんPtgs2ΔFbマウスへのAT3-Luc静脈内注射による実験的転移モデルで、Ptgs2ΔFbマウスの肺転移コロニー形成はWTの約4分の1に減少した (p<0.05、n=9 mice) (Figure 6A)。クロドロネートリポソームによる骨髄系細胞枯渇でこの効果が部分的に逆転し、骨髄系細胞の機能的関与が確認された (Figure 6B)。E0771モデルでも同様の転移減少が観察された (Figure S5B, C)。自然発症転移モデル (AT3-mCherryおよびMMTV-PyMT × Ptgs2ΔFb) でも肺転移結節数が有意に減少した (p<0.05、n=10-14 mice) (Figure 6C-E)。これらの結果は、Ptgs2高発現肺AdvFが乳がんの肺転移を促進する機能を持つことを強く支持する。
EP2/EP4阻害と免疫療法の相乗効果: PGE2受容体EP2拮抗薬、EP4拮抗薬、およびEP2+EP4デュアル阻害薬の比較で、デュアル阻害が最も強力に転移コロニー形成を抑制した (p<0.01、n=10 mice) (Figure 7A)。自然発症転移モデルでもデュアルEP2/EP4拮抗薬が肺転移結節数を有意に減少させた (Figure 7B)。DCワクチンまたは抗PD-1との組み合わせでは、デュアルEP2/EP4拮抗薬がそれぞれ単独よりも転移制御効果を有意に増強した (p<0.05) (Figure 7E, G)。例えば、抗PD-1単独ではWTマウスの確立された肺転移を軽減する有意な効果はなかったが、Ptgs2ΔFbマウスでは有効であり、EP2/EP4デュアル阻害との併用により転移負荷が未治療対照と比較して約20倍減少した (p<0.0001、n=12-13 mice) (Figure 7F, G)。これは、COX-2-PGE2-EP2/4シグナル伝達経路の標的化が、肺転移治療および免疫療法との併用療法として有望であることを示唆する。
考察/結論
本研究は、肺常在Ptgs2高発現外膜線維芽細胞 (AdvF) が定常状態でも免疫抑制性プロスタグランジンE2 (PGE2) を産生し、肺の局所免疫微小環境を恒常的に免疫寛容的に維持することで乳がんの肺転移コロニー形成を促進するという概念を初めて包括的に実証した。腫瘍関連炎症 (好中球由来インターロイキン1β (IL-1β) →NF-κB→シクロオキシゲナーゼ2 (COX-2) 上昇) がこのAdvF固有プログラムを増強するフィードフォワード機構が存在する。線維芽細胞特異的Ptgs2欠損のみで転移が約4倍低下したことは、宿主 (肺) 側の間質因子が転移の律速段階であることを示す重要な証拠である。
先行研究との違い: これまでの研究では、骨髄由来骨髄系細胞の転移促進役割が強調されてきたが、本研究はそれら骨髄系細胞の機能を「能動的に再プログラミング」する上流制御機構として、肺常在間質細胞が関与することを明らかにした点で、これまでの報告と対照的である。特に、外来性骨髄系細胞が肺でのみ機能不全または免疫抑制状態になるという発見は、臓器特異的な免疫応答が転移性臓器指向性を制御する上で重要であることを示唆する。
新規性: 本研究で初めて、マウスおよびヒトの肺において、Ptgs2高発現CD140a陽性線維芽細胞が炎症関連遺伝子を恒常的に高発現する独自のサブセットとして同定された。このサブセットがPGE2を産生し、樹状細胞や単球を機能不全・免疫抑制状態にリプログラミングするという新規メカニズムを明らかにした。さらに、腫瘍由来のIL-1βがこの線維芽細胞の免疫抑制プログラムを増強するフィードフォワードループが存在することも新規な発見である。
臨床応用: PGE2受容体EP2/EP4のデュアル拮抗が樹状細胞 (DC) ワクチンやプログラム細胞死受容体1 (PD-1) 阻害剤の両者と相乗することは、転移部位における免疫チェックポイント阻害の抵抗性を肺線維芽細胞-骨髄系細胞軸が引き起こしている可能性を示唆し、臨床的に重要な知見である。COX-2阻害剤 (NSAIDsやセレコキシブなど) は既に臨床利用可能であり、本機序に基づく免疫療法増感戦略は即時的な臨床応用可能性を持つ。特に、セレコキシブ単独では効果が限定的であったことから、PGE2受容体EP2/EP4のデュアル阻害がより効果的なアプローチである可能性が示唆され、これは臨床現場での治療戦略に新たな選択肢を提供する。
残された課題: 今後の検討課題として、他のがん種や他の転移臓器におけるPtgs2高発現AdvFの役割、免疫療法抵抗性メカニズムとしての意義の検証、およびヒト患者組織でのAdvF免疫抑制機能の直接確認が挙げられる。また、空間トランスクリプトミクスやメタボロミクス、生体イメージング技術を活用し、COX-2陽性AdvFが異なる肺常在骨髄系細胞のリプログラミングを誘発するin situ分子メカニズムと細胞間相互作用の動態を、時空間レベルでさらに詳細に調査する必要がある。本研究は主に肺転移モデルに焦点を当てており、恒常性、炎症、原発性肺がん、その他の肺疾患におけるこの線維芽細胞サブセットの役割をより完全に理解するための将来の研究が求められる。
方法
本研究では、4T1、AT3、AT3gcsf、E0771、MMTV-PyMTといった複数のマウス乳がんモデルを用いた。骨髄由来樹状細胞 (BM-DC) の静脈内移植実験では、蛍光標識BM-DCをナイーブマウスおよび4T1担がんマウスに静脈内注射し、16時間後に肺、末梢血 (PB)、骨髄 (BM)、脾臓、肝臓における主要組織適合遺伝子複合体クラスI (MHC-I) およびMHC-IIの発現をフローサイトメトリーで比較した (n=5 mice)。肺線維芽細胞による骨髄系細胞リプログラミングを評価するため、BM-DCと肺組織の各種細胞分画 (CD45陽性白血球、CD31陽性内皮細胞、CD326陽性上皮細胞、CD140a陽性線維芽細胞) の共培養実験を実施し、線維芽細胞条件培地 (CM) の効果も検証した。
単一細胞RNAシーケンシング (scRNA-seq) 解析は、CD45陰性CD31陰性CD326陰性細胞(間質細胞分画)およびCD140a-EGFPマウスから精製したCD140a陽性線維芽細胞に対して実施された。Seurat (version 3.2.2) を用いた非偏向クラスタリングにより、間質細胞のサブタイプを分類し、Ptgs2高発現線維芽細胞クラスターを同定した Stuart et al. Cell 2019。遺伝子発現解析にはlimmaパッケージ (version 3.46.0) を使用し、Ingenuity Pathway Analysis (QIAGEN) で上流制御因子を予測した Ritchie et al. NucleicAcidsRes 2015。
線維芽細胞特異的Ptgs2欠損マウス (Ptgs2ΔFb; CD140a-CreERT2 × Ptgs2flox/flox) および骨髄キメラPtgs2ΔFbマウスを作製し、転移前ニッチ (PMN) 免疫微小環境、転移コロニー形成、および肺常在免疫細胞の表現型変化を評価した。実験的転移モデルでは、AT3-Luc細胞を静脈内注射し、2週間後にex vivoバイオイメージング (BLI) で肺転移コロニーを定量した (n=9 mice)。自然発症転移モデルでは、MMTV-PyMTマウス乳腺腫瘍切除後に肺転移結節数を評価した。
薬理学的プロスタグランジンE2 (PGE2) 阻害として、EP2/EP4受容体拮抗薬 (PF-04418948およびMF498) を単独または併用で投与し、転移抑制効果を評価した。さらに、樹状細胞 (DC) ワクチン (OVA抗原をロードしたBM-DC) または抗PD-1抗体 (クローンRMP1-14) との組み合わせ実験を実施し、転移制御およびT細胞応答への相乗効果を検討した。統計解析にはGraphPad Prism (version 8.2.1) を用い、一元配置分散分析 (ANOVA) または対応のないStudentのt検定、Mann-Whitney検定を実施した。