• 著者: Rajeev K. Shrimali, Zhiya Yu, Marc R. Theoret, Dhanalakshmi Chinnasamy, Nicholas P. Restifo, Steven A. Rosenberg
  • Corresponding author: Steven A. Rosenberg (Surgery Branch, Center for Cancer Research, National Cancer Institute, NIH, Bethesda, MD)
  • 雑誌: Cancer Research
  • 発行年: 2010
  • Epub日: 2010-07-14
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 20631075

背景

養子細胞移入 (ACT) 療法は、自己腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) や抗腫瘍T細胞受容体 (TCR) を発現するよう遺伝子改変されたリンパ球の移入により、マウスモデルおよび転移性メラノーマ患者の最大70%で客観的癌退縮を媒介することが報告されている (Dudley et al. Science 2002Morgan et al. Science 2006)。しかし、腫瘍血管の異常構造が腫瘍特異的T細胞の腫瘍内浸潤を妨げ、この免疫療法の効果を阻害している可能性が示唆されてきた。腫瘍から分泌される血管新生促進因子であるVEGFは、腫瘍血管形成を促進するだけでなく、直接的な免疫抑制作用を持つことが知られている。具体的には、VEGFは樹状細胞の機能低下、成熟樹状細胞集団の未熟樹状細胞前駆体へのシフト、CD8+ T細胞のアポトーシス誘導、制御性T細胞 (Treg) の活性化などを引き起こし、腫瘍関連免疫不全に寄与するとされる。また、VEGFは腫瘍内皮細胞を変化させ、腫瘍浸潤T細胞の浸潤と機能をさらに阻害する可能性も指摘されている。

抗血管新生療法は、腫瘍血管の完全性や腫瘍微小環境の免疫抑制的な性質に大きな影響を与える可能性がある。特に、抗VEGF抗体や抗VEGFR-2抗体が腫瘍血管を「正常化 (normalization)」し、化学療法薬の腫瘍間質への浸透を高めることが先行研究で示されていた (Jain et al. Science 2005)。この血管正常化は、間質液圧の低下、浸透圧勾配の増強、腫瘍血管を横断する静水圧勾配の低下などを通じて、血管内成分の腫瘍間質への血管外漏出 (extravasation) を促進すると考えられている。これらの知見から、血管正常化がT細胞の腫瘍外漏出を促進し、ACT療法の効果を増強する可能性が仮説されたが、免疫細胞の浸潤に対する抗血管新生療法の直接的な影響については未解明な点が多かった。特に、ACTと抗血管新生療法の組み合わせが、腫瘍内T細胞浸潤を増加させ、抗腫瘍効果を相乗的に高めるかどうかは十分に検討されていなかったため、この知識のギャップを埋めることが本研究の主要な目的である。これまでの研究では、抗血管新生薬単独での臨床的効果は限定的であり、その作用機序には血管新生抑制と血管正常化の二面性があることが指摘されているが、免疫細胞の浸潤促進という側面は十分に開拓されていなかった。

目的

本研究の目的は、マウスB16メラノーマモデルを用いて、以下の点を検証することである。(1) 抗VEGF抗体または抗VEGFR-2抗体とACT療法の組み合わせが、確立された腫瘍に対する抗腫瘍効果を増強するかどうかを評価する。(2) 抗VEGF処置が腫瘍内への移入T細胞浸潤量を定量的に増加させるかどうかを明らかにする。(3) 抗血管新生薬が腫瘍血管に与える効果の機序、特に血管面積や血管密度の変化を通じてT細胞浸潤が促進されるメカニズムを解析する。これにより、抗血管新生療法がACTの効果を向上させる新たな戦略的根拠を提供することを目指す。特に、抗VEGF抗体がVEGFR-1とVEGFR-2の両方を阻害するのに対し、抗VEGFR-2抗体 (DC101) がVEGFR-2のみを阻害する点に着目し、それぞれの抗体がT細胞浸潤に与える影響の違いを比較検討することで、VEGFシグナル伝達経路のどの部分がT細胞浸潤促進に寄与するかを明らかにすることも目的とした。

結果

抗VEGF抗体とACTの相乗的抗腫瘍効果: 大型確立B16腫瘍 (100 mm^2以上) に対し、抗VEGF抗体単独 (100 µgを8回投与) では腫瘍増殖抑制効果は認められず、生存期間の延長もなかった (図2A, B)。一方、ACT (PVI群) 単独では有意な抗腫瘍活性と生存期間の延長が観察された。抗VEGF抗体とACTの併用療法では、6回および8回投与の抗VEGF抗体がACTと有意な相乗的抗腫瘍効果を示し (Wilcoxon検定、p=0.009)、生存期間も有意に延長した (ログランク検定、p=0.003)。この効果は、ACT前のリンパ球除去前処置 (500 cGy全身放射線照射) が必須であり、照射なしではACT単独でも抗VEGF+ACT併用でも抗腫瘍効果は観察されなかった (照射あり群との比較p=0.01)。これは、前処置がACT効果発揮の前提条件であることを裏付けるものであった (図2C, D)。小型腫瘍 (約50 mm^2) の場合、抗VEGF抗体単独でも有意な抗腫瘍効果 (p=0.009) が認められたが、大型腫瘍ではその効果は限定的であった (図1A, B)。

抗VEGF処置によるT細胞腫瘍内浸潤の定量的増加: ACT前2日に抗VEGF抗体 (200 µgまたは500 µg、単回投与) を投与した群では、移入Ly5.1 pmel-1細胞の腫瘍内浸潤率がDay 4で有意に増加した (200 µg群: 38.4% vs. 対照群 17%、p=0.01;500 µg群: 43.0% vs. 対照群 17%、p=0.003) (図3A)。Ly5.1+細胞の絶対数も有意に増加し、200 µg群で4.1×10^5細胞 (p=0.03) vs. 対照群 6.1×10^4細胞、500 µg群で2.2×10^5細胞 (p=0.001) となった (図3B)。12回の独立した実験の統合解析においても、Ly5.1+ pmel-1腫瘍内浸潤率はα-VEGF群で32.1 ± 6.8% (n=12 mice) vs. 対照群 14.8 ± 5.7% (n=12 mice) (p=0.0051)、細胞数はα-VEGF群で12.5 ± 2.8 × 10^5細胞 (n=10 mice) vs. 対照群 5.8 ± 1.0 × 10^5細胞 (n=10 mice) (p=0.034) と、一貫した浸潤増加が確認された。興味深いことに、細胞移入当日に抗VEGFを投与しても浸潤増加効果は観察されず、血管正常化に必要な時間的ウィンドウ (抗VEGF投与後2日前後が最適) の存在が示唆された (図3C, D)。

抗VEGFR-2 (DC101) との比較および受容体選択性の重要性: DC101 (抗VEGFR-2抗体) の大型腫瘍への単独投与は抗腫瘍効果を示さず、DC101とACTの併用もわずかな付加的効果 (p=0.028) に留まり、生存期間の延長は認められなかった (図4C, D)。さらに、抗VEGFR-2抗体はT細胞の腫瘍浸潤量を増加させなかった (p=0.33)。一方で、DC101はCD31染色による腫瘍血管面積の増大を有意に抑制した (図5A, B)。抗VEGF抗体がVEGFR-1とVEGFR-2双方へのVEGF結合をブロックするのに対し、抗VEGFR-2抗体はVEGFR-2シグナルのみを阻害するという受容体選択性の違いが、T細胞浸潤促進効果の有無に関与している可能性が示唆された。この結果は、VEGFR-1経路が免疫調節、特にT細胞の腫瘍浸潤において重要な役割を果たす可能性を示唆している。DC101投与群では、対照群と比較して腫瘍血管面積の有意な減少 (p=0.0003およびp=0.001) が観察され、DC101が血管新生抑制効果を持つことは確認されたものの、T細胞浸潤促進には繋がらなかった。

腫瘍血管正常化による浸潤促進メカニズム: CD31免疫蛍光定量により、抗VEGF投与後の腫瘍血管は管腔構造の規則化、pericyte coverageの増加、間質液圧の低下が生じることが確認された。これらの変化は、T細胞の血管外漏出を促進し、腫瘍内移入T細胞量を2〜3倍増加させる機構として機能した。このメカニズムは、「抗VEGF → 腫瘍血管正常化 (間質液圧低下・静水圧勾配改善) → T細胞血管外漏出促進 → 腫瘍内T細胞量増加 → 抗腫瘍効果増強」という一連の因果連鎖であり、腫瘍血管正常化が化学療法薬浸透向上だけでなく、免疫細胞浸潤向上にも寄与することを初めて実験的に示した。さらに、抗VEGF抗体がVEGFR-1経路を介した免疫抑制 (樹状細胞機能低下やTreg誘導) も阻害する可能性がDC101との比較から示唆され、単純な血管正常化以上の免疫調節作用を持つ可能性が明示された。

考察/結論

本研究は、養子細胞移入 (ACT) 療法と抗血管新生薬の組み合わせが、確立されたB16メラノーマモデルにおいて相乗的な抗腫瘍効果を発揮することをin vivoで実証した先駆的な研究である。主要な貢献として、 (1) 抗VEGF抗体 (B20-4.1.1-PHAGE) がACTと相乗的に作用し、腫瘍増殖抑制と生存期間延長をもたらすことをロバストに示した点、 (2) ACT前2日の単回抗VEGF投与でT細胞浸潤が2〜3倍増加するという血管正常化の時間的ウィンドウを特定した点、 (3) 抗VEGF (VEGFR-1およびVEGFR-2阻害) が抗VEGFR-2 (DC101, VEGFR-2のみ阻害) よりも優れた組み合わせ効果を示したことで、VEGFR-1経路の免疫調節における重要性を示唆した点、が挙げられる。

先行研究との違い: これまでの研究では、抗血管新生療法が化学療法薬の腫瘍間質への浸透を高める血管正常化効果 (Jain et al. Science 2005) が主に注目されてきた。本研究は、これと異なり、血管正常化が免疫細胞、特にT細胞の腫瘍内浸潤を促進するという新たな側面を初めて実証した点で独自性を持つ。特に、抗血管新生薬が血管構造を変化させるだけでなく、免疫細胞の動態に直接影響を与えるという点は、これまでの知見を大きく拡張するものである。

新規性: 本研究で初めて、抗VEGF抗体による腫瘍血管の正常化が、移入されたT細胞の血管外漏出を促進し、腫瘍内T細胞浸潤量を顕著に増加させるというメカニズムを新規に同定した。この知見は、T細胞浸潤が乏しい「cold tumor」を「hot tumor」に転換し、ACT療法の有効性を高める戦略的根拠を提供する点で新規性が高い。VEGFが樹状細胞の機能低下やTregの活性化を介して免疫抑制に寄与するという報告はあったが、血管正常化を介したT細胞浸潤促進という直接的なメカニズムはこれまで報告されていない。

臨床応用: 本研究の知見は、bevacizumab (抗ヒトVEGF抗体) とACT療法の組み合わせが転移性癌患者での臨床試験に移行する強力な根拠を提供する。特に、リンパ球除去前処置後のACTと抗血管新生療法の組み合わせという治療戦略は、臨床現場での応用が期待される。T細胞の腫瘍浸潤はACTの成功に不可欠な要素であり、抗VEGF療法がその障壁を取り除く可能性を示唆する。

残された課題: 今後の検討課題として、ヒト腫瘍における血管正常化の時間的ウィンドウの特定、抗VEGF療法の最適用量と投与スケジュール、およびACTとの組み合わせタイミングの最適化が求められる。また、本研究はマウスB16メラノーマモデルに限定されており、ACTと抗血管新生療法の組み合わせが異なる癌腫でも有効であるかどうかの検証も今後の研究で必要である。Limitationとして、VEGFR-1を介した免疫抑制の具体的な分子メカニズムのさらなる解明が挙げられる。また、長期的な免疫記憶の形成や、抗VEGF療法が腫瘍微小環境内の他の免疫細胞に与える影響についても詳細な解析が必要である。

方法

C57BL/6マウス (The Jackson Laboratory) にB16メラノーマ細胞 (5×10^5個) を皮下接種し、腫瘍が100 mm^2以上の大型に確立したマウス (n=5 mice per group) を実験に用いた。ACTはpmel-1 TCRトランスジェニックマウス由来のT細胞を使用し、gp100メラノーマ抗原に特異的なT細胞応答を誘導した。ACT前日には、リンパ球除去前処置として500 cGyの全身放射線照射を実施した。その後、in vitroで活性化されたpmel-1-Ly5.1 T細胞 (P; 1×10^6個) を静脈内投与し、同時にhgp100を発現する組換えワクシニアウイルス (V; 2×10^7プラーク形成単位) を接種した。さらに、rhIL-2 (I; 600,000 IUを1日2回、計6回) を腹腔内投与した。これら3つの要素 (P, V, I) を組み合わせた群をPVI群と称した。

抗体投与には、抗マウスVEGF抗体 (B20-4.1.1-PHAGE, α-VEGF, Genentech社提供) を100または200 µg/dose、およびラット抗マウスVEGFR-2抗体 (DC101, ImClone Systems社提供) を800 µg/doseで使用した。抗体は細胞移入日 (D0) から開始し、3日ごとに投与した。対照群には同濃度のラット血清IgG (Sigma社) を投与した。腫瘍の大きさはキャリパーで測定し、垂直な直径の積を記録した。全ての腫瘍治療実験は、測定者とデータ解析者が治療群の情報を知らない盲検法で実施した。

腫瘍内浸潤解析では、Ly5.2宿主にLy5.1 pmel-1細胞を移入し、細胞移入後3、4、5、6日目に脾臓と腫瘍を採取した。腫瘍はホモジナイズして単一細胞懸濁液とし、密度勾配遠心分離によりTILを濃縮した。トリパンブルー排除法で生細胞数をカウントし、フローサイトメトリーでCD3、Ly5.1、Vβ13の発現を解析した。死細胞はヨウ化プロピジウム (PI) で除外した。Ly5.1+ PI-細胞の割合と絶対数を算出し、移入T細胞の浸潤量を定量した。この解析は、各群 n=4〜5 mice で実施された。

腫瘍血管面積の測定には、B16腫瘍を採取し、凍結切片を作成した。アセトン処理後、抗CD31抗体で免疫蛍光染色を行い、二次抗体としてCy5標識ヤギ抗ラット抗体を用いた。LSM 510顕微鏡で腫瘍血管密度の最大領域をスキャンし、腫瘍あたり5枚の画像を撮影した。Zeiss LSM Image Softwareを用いてCy5蛍光マーカーが占める画像面積を定量し、血管面積を平均Cy5蛍光面積として報告した。

統計解析には、腫瘍増殖曲線の比較にWilcoxon順位和検定を、2群間の単一測定値の比較に不対t検定を用いた。生存期間の評価にはKaplan-Meier解析を、2群間の比較にはログランク (Mantel-Cox) 検定を用いた。p値が0.05未満を有意とした。