- 著者: Lily L. Remsing Rix, Natalia J. Sumi, Qianqian Hu, Bina Desai, Annamarie T. Bryant, Xueli Li, Eric A. Welsh, Bin Fang, Fumi Kinose, Brent M. Kuenzi, Y. Ann Chen, Scott J. Antonia, Christine M. Lovly, John M. Koomen, Eric B. Haura, Andriy Marusyk, Uwe Rix
- Corresponding author: Uwe Rix (uwe.rix@moffitt.org, Department of Drug Discovery, Moffitt Cancer Center, Tampa, FL)
- 雑誌: Science signaling
- 発行年: 2022
- Epub日: 2022-08-16
- Article種別: Original Article
- PMID: 35973030
背景
腫瘍微小環境 (TME) を構成する癌関連線維芽細胞 (CAF) は、腫瘍の増殖、転移、そして薬剤耐性の促進因子として広く認識されている Rotow et al. NatRevCancer 2017。しかし、近年、CAF集団には表現型および機能的な多様性が存在し、一部のCAFは腫瘍抑制的または薬剤感受性増強的な役割を果たすことが報告されている Lambrechts et al. NatMed 2018。このCAFの多様性が薬剤応答に与える影響の分子機序は、これまで十分に解明されていなかった。特に、非小細胞肺がん (NSCLC) におけるEGFRチロシンキナーゼ阻害剤 (TKI) 耐性では、IGF1Rシグナル伝達を含む補償的シグナル伝達経路の活性化が重要な役割を果たすことが示唆されている。例えば、Sharma et al. Cell 2010 は、EGFR TKI耐性獲得における薬剤耐性パーシスター細胞の重要性を示し、IGF1Rシグナル伝達がその生存維持に関与する可能性を指摘した。また、Lovly et al. NatMed 2014 は、ALK融合陽性肺がんにおいてIGF-1RとALKの同時阻害の合理性を示し、IGF1Rシグナル伝達が薬剤耐性に関与する可能性を強調した。しかし、CAFが分泌するIGF結合タンパク質 (IGFBP) が、このような補償的シグナル伝達を制御し、薬剤感受性に影響を与えるという直接的な機序は、これまで詳細に報告されていなかった点が課題として残されていた。CAFが分泌するサイトカインや増殖因子が薬剤耐性を誘導する例は多数報告されているが、薬剤感受性を増強する因子については知識が不足しており、その分子実体と作用機序の解明が喫緊の課題であった。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目指す。
目的
本研究の目的は、まず、肺がん細胞とCAFの共培養実験において、特定のEGFR T790M変異NSCLC細胞株 (PC9GR) で観察されたCAFによる薬剤感受性増強という予期せぬ効果の分子機序を、網羅的な遺伝子発現解析および分泌タンパク質 (セクレトーム) 解析を通じて同定することである。次に、CAFが分泌するインスリン様成長因子結合タンパク質 (IGFBP) 5およびIGFBP6が、インスリン様成長因子1受容体 (IGF1R) および焦点接着キナーゼ (FAK) シグナル伝達経路の抑制を通じてオシメルチニブ感受性を増強することを機能的に実証する。さらに、IGF1R阻害剤とFAK阻害剤の小分子薬理学的併用が、CAFが誘導する薬剤感受性増強効果を模倣し、in vivoマウス腫瘍モデルにおいてオシメルチニブの抗腫瘍効果を増強することを示す。最終的に、CAFの分泌物が腫瘍のシグナル伝達依存性とどのように関連し、効果的な併用療法戦略に繋がるかを明らかにすることを目指す。
結果
CAFによる文脈依存的な薬剤感受性増強: KRAS変異A549細胞では、CAFおよびNAFのいずれもMEK阻害剤 (trametinib、AZD8330) に対する耐性を誘導した (図1A)。EML4-ALK融合H3122細胞では、CAFおよびNAFがcrizotinib耐性を増強する傾向を示した。しかし、EGFR T790M変異PC9GR細胞では、同じCAFがafatinibおよびオシメルチニブに対する感受性を有意に増強した (p < 0.05) (図1C)。NAF馴化培地 (CM) はPC9GR細胞の感受性に影響を与えなかった。CAF CM処理により、PC9GR細胞のcaspase-3およびPARP1切断といったアポトーシスマーカーが著明に増加し、NAF CMでは増加しなかった (図1F)。この感受性増強効果は細胞接触なしでCAF CMのみで再現され、分泌タンパク質が主要な要因であることが示された。
CAFとNAFのセクレトームにおけるIGFBPの差異: グローバル遺伝子発現解析の結果、CAFではIGFBP5、IGFBP6、IGFBP7の有意な高発現が認められ、一方でIGF2はNAFと比較して低発現であった (図2B)。LC-MS/MSを用いたセクレトーム解析 (同定された2330タンパク質) では、IGFBP5およびIGFBP6がCAFにおいて最も顕著に高発現している分泌タンパク質として同定された (図2D, E)。ウェスタンブロット解析により、CAFではNAFおよびがん細胞と比較してIGFBP5/6/7の発現が高いことが確認された (図2F)。また、PC9GR細胞 (耐性株) ではPC9細胞 (感受性株) と比較してIGFBPsの発現が低いという逆相関も観察された。
IGFBPの機能的実証と薬剤感受性増強メカニズム: 組換えヒトIGFBP5、IGFBP6、IGFBP7 (各10 µg/mL) は、いずれもPC9GR細胞 (n=6 replicates) のオシメルチニブ感受性を有意に増強した (p < 0.05) (図3A-C)。対照的に、IGF1またはIGF2 (各100 ng/mL) の添加は、オシメルチニブ存在下での細胞生存率を増加させ、薬剤耐性方向への効果を示した (図3D)。CAF12細胞におけるIGFBP5のsiRNAノックダウンは、CAF CMによって誘導される感受性増強効果を有意に低下させた (図3E)。IGFBP6のsiRNAノックダウンでも同様の結果が得られた。これらの結果から、CAFが分泌する複数のIGFBP (IGFシグナル阻害) とIGF (IGFシグナル促進) のバランスが、薬剤感受性を規定する重要な因子であることが確認された。IGFBP5のsiRNAノックダウンにより、オシメルチニブに対するPC9GR細胞の感受性が約20%低下した。
リン酸化プロテオミクスによるシグナル伝達機序解析: Phospho-RTKアレイ解析により、CAF7 CMはMRC5 CMと比較してpIGF1Rレベルを有意に低下させた (図4A)。これはCAF CMによるIGF1Rシグナル伝達の抑制を示唆する。オシメルチニブ処理によるEGFR自己リン酸化および下流シグナル (SHC1 Y427、GAB1 Y627) の低下は、CAF/NAF CMの存在下で同等であり、感受性増強がEGFRシグナル伝達の直接的な変化によるものではないことを示した。オシメルチニブ処理下でCAF7 CMが存在する場合、IRS2 (Y632)、ERK1/2 (Y204/187)、およびFAK (Y397) のリン酸化がMRC5 CMと比較して有意に低下した (図4C, D)。これは、補償的なIGF1RおよびFAKシグナル伝達の抑制を示唆する。ウェスタンブロット解析でも、CAF CM処理時にpAKTおよびpERK1/2がいずれもMRC5 CMと比較してさらに低下することが確認された (図4E)。
IGF1RおよびFAK二重阻害による薬剤感受性増強 (in vitroおよびin vivo): IGF1R TKIであるlinsitinibとオシメルチニブの併用は、PC9GR細胞 (n=3 experiments) の生存率をオシメルチニブ単独よりも有意に低下させた (図5A)。FAK阻害剤であるdefactinib、linsitinib、およびオシメルチニブの三剤併用は最も強い効果を示した (図5B)。IGF1RとFAKの両方を阻害するceritinibとオシメルチニブの併用は、PC9GR細胞に対して最も強力な効果を発揮し、長期コロニー形成アッセイでは28日でほぼ完全に細胞を排除した (図5C, E)。ceritinibとオシメルチニブの併用は、MET増幅耐性 (HCC827ER4) およびEMT耐性 (HCC827AZR) 細胞にも有効であった (図7A, C)。PC9マウス異種移植モデル (n=9 mice) において、ceritinibとオシメルチニブの併用は、単剤療法と比較して腫瘍体積 (fold change 0.17) および重量を有意に減少させた (p < 0.05) (図6E-G)。マウスの体重は初期のわずかな減少後、2週間で安定し、この併用療法の良好な忍容性を示した (図S7E)。
考察/結論
本研究は、CAFが腫瘍に対して薬剤耐性だけでなく、薬剤感受性増強という相反する効果も持ちうるという重要な知見を分子レベルで解明した。これは「CAFは常に腫瘍促進的である」という従来の単純化されたモデルと異なり、CAFサブタイプの多様性と、がん細胞のシグナル伝達依存性に応じた文脈依存性の重要性を強調する。本研究で初めて、CAFが分泌するIGFBP5/6が、IGF1RおよびFAKの補償的シグナル伝達を抑制することにより、EGFR TKIに対する薬剤感受性を増強するという新規の機序を同定した。
この発見は、EGFR変異NSCLCにおけるオシメルチニブ耐性の克服に向けた臨床応用において重要な含意を持つ。IGF1RおよびFAKシグナル伝達が耐性維持に関与するという知見は、FDA承認薬であるceritinibとオシメルチニブの併用療法の合理的な根拠を提供する。ceritinibはIGF1RとFAKの両方を中等度以下の濃度で阻害するポリファーマコロジー特性を持ち、これによりCAFが誘導する好ましいシグナル伝達抑制効果を小分子薬で薬理学的に再現できるという戦略は、CAFそのものを直接標的とせず、TMEの好ましいシグナルを薬理学的に模倣する新しいアプローチである。
さらに、MET増幅耐性 (HCC827ER4) やEMT耐性 (HCC827AZR) を示す細胞においてもIGFBP応答性が残存するという知見は、多様な耐性機序を持つNSCLC患者へのこの併用療法の適用可能性を示唆する。これは、単一の主要な耐性メカニズムだけでなく、複数の適応的シグナル伝達メカニズムが複合的に薬剤耐性に寄与している可能性を示している。
残された課題としては、CAFサブタイプ間のIGFBP分泌プロファイルのさらなる詳細な解析、およびこれらのIGFBPがTME内の他の細胞種(例:免疫細胞)に与える影響の評価が挙げられる。また、in vivoモデルにおける長期的な薬剤耐性獲得に対する併用療法の効果や、患者検体を用いたIGFBP発現と治療効果の相関関係の検証も今後の検討課題である。これらの研究を通じて、CAFの腫瘍抑制経路のメカニズムを理解することは、薬剤耐性の発現を遅らせる、より合理的な治療アプローチの設計に繋がるだろう。
方法
本研究では、患者由来の肺CAF (CAF7、CAF12) と正常肺線維芽細胞 (NAF; IMR-90、WI38、MRC5) を用いた。NSCLC細胞株として、KRAS変異A549、EML4-ALK融合H3122/H2228/STE-1、EGFR変異PC9/PC9GRを用いた。これらの細胞株を線維芽細胞と共培養するか、または線維芽細胞馴化培地 (CM) で処理し、各種TKI (trametinib、AZD8330、crizotinib、dasatinib、afatinib、osimertinib) に対する感受性を、生細胞蛍光イメージングおよびCellTiter-Glo (CTG) アッセイで評価した。
CAFとNAF間の差異を特定するため、5種類の線維芽細胞株と3種類のNSCLC細胞株のグローバル遺伝子発現解析を実施した。RNAはQiagen RNeasy Mini Kitを用いて抽出し、Agilent TapeStationで品質評価を行った。Affymetrix Human Genome U133 Plus 2.0 Arraysを用いて遺伝子発現を解析し、CELファイルはIRON (iterative rank-order normalization) により正規化した。また、血清フリーCM (SFCM) を用いた液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析 (LC-MS/MS) によるセクレトーム解析を行い、分泌タンパク質のプロファイルを比較した。MaxQuantを用いてタンパク質強度を定量し、riBAQ値に基づいて相対的な存在量を評価した。
IGFBPの機能的役割を検証するため、組換えヒトIGFBP5、IGFBP6、IGFBP7 (各10 µg/mL) およびインスリン様成長因子 (IGF) 1/2 (各100 ng/mL) をPC9GR細胞に添加し、オシメルチニブ感受性への影響を評価した。さらに、siRNAを用いてCAF12細胞におけるIGFBP5およびIGFBP6の発現をノックダウンし、そのCMがPC9GR細胞の薬剤感受性に与える影響を調べた。siRNAはDharmacon ON-TARGETplus SMARTpoolを使用し、Lipofectamine RNAiMAX Transfection Reagentを用いてトランスフェクションを行った。
シグナル伝達経路の変化を解析するため、チロシンリン酸化RTKアレイ (phospho-RTK array) および網羅的チロシンリン酸化プロテオミクス (LC-MS/MS) を実施した。これにより、IGF1R、FAK、AKT、ERKなどの主要なシグナル分子のリン酸化状態を評価した。Phospho-RTKアレイはR&D Systems Proteome Profiler Human Phospho-RTK Array Kitを用いて行い、プロテオミクスデータはMaxQuantで定量した。
小分子阻害剤として、IGF1R TKIであるlinsitinib、FAK阻害剤であるdefactinib、およびALK/IGF1R/FAKを阻害するceritinibを用いた。これらの薬剤とオシメルチニブの併用効果をin vitroで評価し、特にPC9GR細胞における長期コロニー形成アッセイでその有効性を確認した。
in vivo検証として、PC9細胞を皮下移植したNOD-scid IL2Rg null (NSG) マウスモデルを用いた。各マウスには10^6個の腫瘍細胞を2箇所に注射した。オシメルチニブ単独 (2 mg/kg)、ceritinib単独 (25 mg/kg)、または両剤併用投与による腫瘍体積および重量の変化を評価した。動物は4週間の治療後、安楽死させた。統計解析には、GraphPad Prism 7を使用し、unpaired t検定、Holm-Sidakの多重比較検定、およびMann-Whitney検定を用いた。薬物併用効果はBliss法で評価した。