• 著者: Lovly CM, McDonald NT, Chen H, Ortiz-Cuaran S, Heukamp LC, Yan Y, Florin A, Ozretic L, Lim D, Wang L, Chen Z, Chen X, Lu P, Paik PK, Shen R, Jin H, Buettner R, Ansen S, Perner S, Brockmann M, Bos M, Wolf J, Gardizi M, Wright GM, Solomon B, Russell PA, Rogers TM, Suehara Y, Red-Brewer M, Tieu R, de Stanchina E, Wang Q, Zhao Z, Johnson DH, Horn L, Wong KK, Thomas RK, Ladanyi M, Pao W
  • Corresponding author: Christine M. Lovly (Vanderbilt University, Nashville, TN, USA)
  • 雑誌: Nature Medicine
  • 発行年: 2014
  • Epub日: 2014-08-31
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25173427

背景

クリゾチニブは、未分化リンパ腫キナーゼ (anaplastic lymphoma kinase:ALK) 融合遺伝子陽性の非小細胞肺癌 (NSCLC) 治療において、約60.8%の客観的奏効率 (objective response rate:ORR) および中央値9.7か月の無増悪生存期間 (progression-free survival:PFS) という極めて高い臨床的有効性を示すことが報告されている (Camidge et al. LancetOncol 2012)。しかしながら、ほぼすべての症例において、最終的には薬物に対する後天性耐性 (acquired resistance) が生じることが臨床上の大きな課題となっている。これまでの先行研究において、耐性獲得の機序としてALKキナーゼドメインの二次変異やALK遺伝子増幅、あるいはEGFRやKITなどのバイパスシグナル経路の活性化が同定されてきた (Katayama et al. SciTranslMed 2012Doebele et al. ClinCancerRes 2012)。また、ALK融合遺伝子陽性肺癌の臨床的特徴や治療成績についても報告が蓄積されてきた (Shaw et al. JClinOncol 2009)。しかし、これらの既知の機序は耐性症例の一部を説明するにすぎず、依然として多くの症例における詳細な耐性分子機序は未解明のままであった。特に、インスリン様成長因子1受容体 (insulin-like growth factor 1 receptor:IGF-1R) 経路は、他のドライバー遺伝子変異陽性肺癌における耐性バイパス経路として知られていたが、ALK陽性肺癌における具体的な役割やALKシグナルとの直接的な相互作用については十分に検証されておらず、治療標的としての妥当性を評価するための基礎的データが不足していた。このように、ALK陽性肺癌における初期治療感受性および獲得耐性の双方におけるIGF-1Rシグナル軸の役割については不明な点が多く、耐性を克服するための併用治療戦略を確立するための知見が決定的に不足しているという現状があった。

目的

本研究の目的は、臨床試験においてIGF-1R特異的モノクローナル抗体 (monoclonal antibody:mAb) に対して例外的奏効 (exceptional response) を示したALK陽性肺癌患者の臨床的観察を起点とし、ALKとIGF-1Rシグナル経路の間に存在する機能的および物理的なクロストークを分子レベルで同定することである。具体的には、以下の3つの課題を解明することを目的とした。第一に、ALK阻害薬感受性状態におけるALK、IGF-1R、および共通のアダプタータンパク質であるインスリン受容体基質1 (insulin receptor substrate 1:IRS-1) のシグナル連関の分子機序を明らかにすること。第二に、ALK阻害薬耐性状態におけるIGF-1R経路の活性化機序とその治療的意義を検証すること。第三に、第2世代ALK阻害薬であるセリチニブ (ceritinib、開発コード:LDK-378) が有するALKおよびIGF-1Rに対する二重阻害特性を評価し、実臨床における耐性克服戦略としての妥当性を実証することである。

結果

例外的奏効患者におけるALK陽性とIGF-1R阻害薬感受性の同定: エルロチニブ単独治療で1か月以内に病勢進行を示した50歳女性のALK陽性肺腺癌患者において、エルロチニブにIGF-1R特異的抗体であるMK-0646を追加したところ、17か月におよぶ長期の部分奏効 (PR) が観察された (Fig 1)。この患者は臨床試験 (NCT00654420) において最も長い治療継続期間を示した例外的奏効者であった。分子プロファイリングの結果、本症例の腫瘍はEGFR変異陰性かつALK融合遺伝子陽性であることが判明した。H3122細胞を用いたin vitro検証において、エルロチニブとIGF-1R阻害薬の併用には相乗的な増殖抑制効果は認められず、この例外的奏効はEGFR阻害ではなく、IGF-1R単独阻害がALK陽性腫瘍に対して直接的な抗腫瘍効果を発揮したためであると考えられた。

ALKとIGF-1Rの共通アダプターとしてのIRS-1の同定と相乗的阻害効果: H3122細胞を用いた共免疫沈降解析により、インスリン受容体基質1 (insulin receptor substrate 1:IRS-1) がALK融合タンパク質と物理的に結合しており、クリゾチニブ処理によってこの相互作用が著明に減弱することが示された (Fig 3)。この物理的結合は、EML4-ALKトランスジェニックマウス (n=2 mice) の肺腫瘍組織を用いたin vivo解析でも確認された。さらに、小分子干渉RNA (siRNA) を用いたIRS-1のノックダウンは、患者由来細胞株であるSTE-1細胞およびH2228細胞において、クリゾチニブ (500 nM) に対する感受性を有意に増強させ、下流のpAKT、pS6、pERKシグナルを抑制した。ALK阻害薬であるクリゾチニブとIGF-1R阻害薬 (OSI-906またはmAb391) の併用療法は、Mix-Low法において顕著な相乗効果を示し、アポトーシスを誘導した (Fig 2)。in vivoのH3122異種移植モデル (n=6 mice/group) においても、クリゾチニブ単独群と比較して、クリゾチニブとmAb391の併用群は腫瘍増殖を有意に抑制した (p=0.0159)。

ALK阻害薬耐性モデルにおけるIGF-1R-IRS-1経路の活性化機序: 長期の薬剤曝露により樹立したALK阻害薬であるX-376耐性株 (H3122 XR) は、ALK遺伝子増幅やキナーゼドメインの二次変異を伴わずに耐性を獲得していた。リン酸化受容体型チロシンキナーゼ (RTK) アレイ解析の結果、H3122 XR細胞ではpIGF-1RおよびpIRS-1のリン酸化レベルおよび総タンパク質発現量が著明に上昇していることが同定された (Fig 4)。この経路の活性化機序として、耐性細胞の培養上清中におけるIGF-1リガンドの分泌増加、およびIGF-1Rシグナルを負に制御するIGFBP3 (insulin-like growth factor-binding protein 3) の遺伝子発現低下が関与していることが明らかとなった。H3122 XR細胞に対して、X-376とIGF-1R阻害薬 (OSI-906またはmAb391) を併用したところ、耐性細胞の増殖が部分的に抑制され、下流のpAKTシグナルの再抑制とアポトーシスの誘導 (AEW-541併用時、n=3 replicates) が確認された。また、IRS-1のノックダウンは、H3122 XR細胞におけるX-376 (500 nM) への感受性を回復させた。

クリゾチニブ耐性患者検体におけるIGF-1R経路の亢進検証: 臨床的意義を検証するため、クリゾチニブ治療後に病勢進行を示した後天性耐性患者5例 (n=5 patients) の腫瘍生検検体を解析した。免疫組織化学 (IHC) 染色による病理学的評価の結果、5例中4例 (80%) の耐性腫瘍において、治療前と比較してpIGF-1Rの発現亢進が確認された (Fig 5)。このうち1例は、ALKキナーゼドメインの耐性変異であるG1202Rを同時に保有していた。また、ペア検体が得られた症例において、NanoString解析により、クリゾチニブ耐性後の腫瘍でIGF1RおよびIRS1 of mRNA発現量が有意に増加していることが示された (p=0.021およびp=0.022)。対照的に、EGFR変異陽性NSCLC患者11例のエルロチニブ治療前後ペア検体では、IRS1 mRNA発現に有意な変化は認められず、この現象がALK陽性肺癌に特異的であることが示唆された。

第2世代ALK阻害薬セリチニブ (LDK-378) のALK/IGF-1R二重阻害作用: セリチニブ (LDK-378) は、H3122、STE-1、およびH3122 XR細胞において、クリゾチニブよりも強力な増殖抑制効果 (IC50値の低下) およびアポトーシス誘導能を示した (Fig 6)。in vivoのH3122異種移植モデル (n=5 mice/group) において、同等用量 (50 mg/kg) のクリゾチニブ群と比較して、LDK-378投与群は極めて強力な腫瘍退縮効果を示した (p=0.0159)。生化学的解析により、LDK-378はALKの自己リン酸化を阻害するだけでなく、外因性IGF-1刺激によって誘導されるIGF-1Rのリン酸化をも直接的に抑制することが確認された。この二重阻害特性は、構造的近縁化合物であるTAE-684でも同様に観察され、セリチニブの優れた臨床効果 (既治療例での客観的奏効率であるORR 56%) を裏付ける分子機序として、ALKとIGF-1Rの同時阻害が寄与している可能性が示された。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、ALKキナーゼドメインの二次変異や遺伝子増幅といった受容体自身の変化に焦点を当てていたこれまでの耐性研究と異なり、ALK融合タンパク質が受容体型チロシンキナーゼであるIGF-1Rとシグナル伝達上の共通アダプターであるIRS-1を介して物理的かつ機能的に緊密なネットワークを形成しているという、全く新しいバイパス耐性概念を提示した。この発見は、単一のキナーゼ阻害のみでは不十分であり、シグナルネットワーク全体の統合的理解が必要であることを示している。

新規性: 本研究で初めて、ALK融合タンパク質がIRS-1と直接共免疫沈降すること、およびIRS-1がALKとIGF-1Rの双方の下流シグナル (特にPI3K-AKT経路) を媒介する共通のハブとして機能していることを新規に同定した。また、ALK阻害薬に対する獲得耐性機序として、IGF-1リガンドの分泌亢進やIGFBP3の低下を伴うIGF-1R経路の活性化を新規に同定した。さらに、第2世代ALK阻害薬であるセリチニブ (LDK-378) が、ALKのみならずIGF-1Rをも直接阻害する二重阻害特性を有することを初めて実証した。

臨床応用: 本知見の臨床的意義は極めて大きい。クリゾチニブ耐性を獲得した患者の生検検体において、高い頻度 (5例中4例) でpIGF-1Rの発現亢進が確認されたことは、このバイパス経路が前臨床モデルのみならず、実際の臨床現場における主要な耐性機序であることを強く支持している。したがって、ALK阻害薬とIGF-1R阻害薬の同時併用療法、あるいはセリチニブのような二重阻害特性を持つ単一薬剤の使用は、ALK陽性肺癌患者における初期治療の奏効期間延長および獲得耐性の克服に向けた有望な臨床応用戦略となる。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究における患者検体数が5例と限定的であったため、より大規模な臨床コホートにおける検証が必要である。また、IGF-1RやIRS-1の発現量を治療開始前のバイオマーカーとして活用し、併用療法の恩恵を受ける患者群を事前に選択するスクリーニング系の確立が求められる。さらに、第3世代ALK阻害薬 (ロルラチニブなど) に対する耐性獲得プロセスにおいても、このIGF-1R-IRS-1軸が同様の役割を果たしているか否かを解明することが、今後の重要な研究方向性である。本研究のlimitationとして、in vivoモデルにおける長期的な併用療法の毒性評価が不十分である点が挙げられ、実臨床へのトランスレーションに向けて安全性の確立が望まれる。

方法

臨床観察および分子プロファイリング: 臨床試験 (NCT00654420) において、エルロチニブとIGF-1R特異的抗体であるMK-0646の併用療法により17か月の部分奏効 (partial response:PR) を示したALK陽性肺腺癌の1症例を詳細に解析した。

細胞株実験: EML4-ALK融合遺伝子 (バリアント1) を有するH3122細胞、バリアント3を有するH2228細胞、およびクリゾチニブ未治療のALK陽性肺癌患者の胸水から新たに樹立したSTE-1細胞株(St. Vincent’s Hospital, Thoracic Oncology, Patient-1)を使用した。細胞増殖抑制効果はCell Titer Blueアッセイ (72時間曝露、n=6 replicates) により評価し、IC50値を算出した。アポトーシスはプロピジウムヨード (propidium iodide:PI) 染色を用いたフローサイトメトリーにより解析した。シグナル伝達経路の解析には、抗pALK、抗pIGF-1R、抗pAKT、抗pERK、抗pS6、抗IRS-1抗体を用いたウェスタンブロット法、および共免疫沈降 (co-immunoprecipitation:co-IP) 法を用いた。IRS-1のノックダウンには、2種類の独立したsiRNA (small interfering RNA) プールを使用した。ALK阻害薬耐性モデルとして、クリゾチニブ耐性株 (H3122 CR) およびX-376耐性株 (H3122 XR) を、段階的な薬剤濃度上昇法 (最終濃度1 µMおよび4 µM) により約6か月かけて樹立した。バイパス経路の網羅的解析には、リン酸化受容体型チロシンキナーゼ (receptor tyrosine kinase:RTK) プロテオームアレイを使用した。

動物実験 (in vivo): 8週齢の雌性ヌードマウス (nu/nu) の皮下にH3122細胞を5 × 10^6個移植し、腫瘍体積が約100 mm^3に達した時点でランダム化を行った。治療群 (n=6 mice/group) に対して、クリゾチニブ (50 mg/kg、経口投与、連日)、LDK-378 (50 mg/kg、経口投与、連日)、mAb391 (1 mg、腹腔内投与、3日ごと)、またはそれらの併用療法を投与し、腫瘍増殖抑制効果を比較した。

患者検体解析: クリゾチニブ治療前後のペア腫瘍生検検体 (n=5 patients) を用いて、pIGF-1RおよびIRS-1の免疫組織化学 (immunohistochemistry:IHC) 染色を行い、病理医によるブラインド評価を実施した。また、NanoString nCounter法を用いて、IGF1RおよびIRS1のmRNA発現量を定量した。

統計解析: 2群間の比較にはStudent’s t検定を使用し、in vivoでの腫瘍体積の比較にはWilcoxon符号付順位検定 (Wilcoxon rank-sum test) を用いた。薬剤の相乗効果はMix-Low法を用いて数学的に算出した。ゲノム配列アライメントにはBWAおよびSAMtoolsを用いた (Li et al. Bioinformatics 2009Li et al. Bioinformatics 2009)。