- 著者: E.L. Rosenthal, T.K. Chung, W.B. Parker, P.W. Allan, L. Clemons, D. Lowman, J. Hong, F.R. Hunt, J. Richman, R.M. Conry, K. Mannion, W.R. Carroll, L. Nabell, E.J. Sorscher
- Corresponding author: E.L. Rosenthal (Division of Otolaryngology, University of Alabama at Birmingham, Birmingham, AL, USA)
- 雑誌: Annals of Oncology
- 発行年: 2015
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 25899782
背景
従来の細胞傷害性化学療法は増殖中の細胞を主な標的とするため、増殖分画 (growth fraction) が低い固形腫瘍細胞や腫瘍幹細胞コンパートメントに対しては効果が限定的であり、多剤化学療法・放射線療法・外科的切除を経た後に再発した難治性固形腫瘍に対する有効な治療戦略が手薄な状態であった。大腸菌 (E. coli) 由来の purine nucleoside phosphorylase (PNP) はヒト PNP には存在しない酵素活性を有し、相対的に毒性の低いプリンヌクレオシドプロドラッグを強力な細胞毒性物質へ変換する独自の活性を持つ。1995 年に Hughes らはヒトチロシナーゼプロモーター駆動による E. coli PNP が黒色腫モデルで顕著なバイスタンダー殺腫瘍効果を示すことを初めて報告し (Hughes et al. Cancer Res 1995)、2004 年に Hong らはヒト神経膠腫異種移植モデルで E. coli PNP 発現腫瘍へのフルダラビン投与が優れた in vivo バイスタンダー活性を持つことを示した (Hong et al. Cancer Res 2004)。さらに Parker らは 2011 年に前臨床モデルでの E. coli PNP/フルダラビン共投与の安全性と抗腫瘍活性を確認し (Parker et al. Cancer Gene Ther 2011)、ヒトへの橋渡しに向けた科学的根拠が整いつつあった。しかしながら、当時ヒトでの安全性・有効性・血中フルオロアデニン暴露量・免疫原性に関するデータは一切なく、このフルダラビン活性化遺伝子治療戦略を臨床応用へ進める上での知識のギャップが残されたままであった。再発難治性固形腫瘍における局所制御の意義は Carnio et al. SeminOncol 2014 や Nwogu et al. AnnThoracSurg 2012 が示しており、悪性黒色腫を含む難治性固形腫瘍に対する個別化治療戦略の探索 (Hu et al. NatMed 2021) もこうした unmet need の認識と軌を一にしている。本研究はこの gap in knowledge を埋める first-in-human 試験として計画された。
目的
アデノウイルスベクター発現 E. coli PNP (Ad/PNP: adenoviral vector expressing E. coli purine nucleoside phosphorylase) の腫瘍内注射と静脈内フルダラビン投与の組み合わせ療法の安全性・忍容性・抗腫瘍活性を、標準治療を失敗または消尽した固形腫瘍患者においてfirst-in-human 試験として評価すること (ClinicalTrials.gov: NCT01310179、IND 14271)。
結果
患者背景と登録状況: 2011 年 2 月〜2014 年 4 月にかけて、アラバマ大学バーミンガム (n=11 例) とバンダービルト大学 (n=1 例) から合計 n=12 例が登録された (Table I)。平均年齢 61.5 歳 (範囲 53〜82 歳)。腫瘍種別は頭頸部扁平上皮癌 (HNSCC: head and neck squamous cell carcinoma) n=8 例、腺様嚢胞癌 n=2 例、悪性黒色腫 n=2 例であり、全例が手術・化学療法・放射線療法など多様な前治療を経た再発難治例であった。ターゲット病変は頸部 6 例、顔面 2 例、頭皮 1 例、口腔 1 例、中咽頭 1 例、下肢 1 例に分布し、ベースライン腫瘍面積は平均 5.9±5.4 cm² (中央値 4.7、範囲 1.5〜20.0 cm²) であった。7 例に非ターゲット病変が存在し、治療中に経時的な観察が可能であった。全 12 例が規定の治療サイクルを完遂し、脱落例は皆無であった。
安全性:用量制限毒性なし・忍容性良好: 全コホートを通じて DLT は 1 件も観察されなかった (Figure 2)。Grade 3 以上の治療関連有害事象は 2 件のみに限られ、1 件はフルダラビン関連と考えられるリンパ球減少 (自然回復)、もう 1 件は Ad/PNP 腫瘍内注射に伴う注射部位疼痛であった。Grade 1 の有害事象が治療関連全体の 82%、Grade 2 が 15% を占め、フルダラビンおよび Ad/PNP の用量を増加させても Grade 1〜2 毒性の頻度に用量依存的な増加は認められなかった。治療関連の主要な有害事象として、注射部位関連症状 (100%)、疲労感 (66%)、疼痛 (66%)、悪心・嘔吐・下痢 (50%)、インフルエンザ様症状・悪寒 (42%) が全体を通じて確認された。血液毒性としてリンパ球減少と貧血がそれぞれ 2 例 (16.6%) に認められたが、いずれも軽微であった。また ALT (alanine aminotransferase) の Grade 1 一過性上昇が 1 例で観察されたが臨床的有意性は乏しかった。重篤有害事象 (SAE: serious adverse event) は 5 例 (42%) に認められたが、治療帰属のものはゼロであり、がんの自然経過や合併症に起因するものであった。
全身薬剤暴露なし:腫瘍内局所産生の確認: 血清フルオロアデニン濃度は全例で検出限界未満 (1 ng/mL 以下) であり、腫瘍内で変換されたフルオロアデニンが全身循環に放出されないことが確認された。アデノウイルス中和抗体はコホート 1 の患者 3 とコホート 3 の患者 10 で Day 28 に検出されたが (抗体陽性 2/12 例、16.6%)、治療反応との相関は観察されなかった。この知見は、免疫原性が本治療法の有効性の障壁とならないことを示している。腫瘍生検による E. coli PNP 酵素活性の定量は組織からの可溶性抽出物調製の困難により多くの検体で評価不能であったが、コホート 3 の 1 サンプルで 208 nanomoles per mg-hr の PNP 酵素活性が確認され、腫瘍内での確実な発現が示された。
用量依存的な腫瘍縮小効果: コホート漸増に対応した線形の治療効果パターンが明確に観察された (Figure 3)。コホート 3・4 (フルダラビン 75 mg/m² 高用量群、n=6 例) では 5/6 例 (83%) に PR が達成されたのに対し、コホート 1・2 (フルダラビン 15〜45 mg/m² 低用量群、n=6 例) では 0/6 例 (0%) で奏効が得られなかった。コホート別の詳細は:コホート 1 (PD 2 例・SD 1 例・PR 0 例)、コホート 2 (SD 3 例・PR 0 例)、コホート 3 (PR 3 例)、コホート 4 (SD 1 例・PR 2 例)。コホート 4 では Ad/PNP 用量をコホート 3 から 10 倍に増量したにもかかわらず両コホートで同程度の抗腫瘍効果が得られており、E. coli PNP の発現量は 3×10¹¹ VP の時点ですでに飽和状態に達していることが示唆された。非ターゲット病変は安定または進行を示し、抗腫瘍効果が腫瘍内注射部位に限局することが確認され、フルダラビン単剤には固形腫瘍への既知の活性がないという薬理学的特性と一致する結果であった。コホート 3・4 (高用量群、n=6) とコホート 1・2 (低用量群、n=6) の奏効率 (5/6 vs 0/6) は Fisher’s exact test で有意に異なり (p=0.015)、フルダラビン用量と腫瘍体積変化率の間にも Spearman rank correlation で有意な正の相関が確認された (p<0.05)。
完全奏効と再増大の時系列観察: 2 例 (患者 8 および患者 11) で完全腫瘍消退 (CR) が達成され、Day 14〜21 までに対象病変の完全消失が確認された (Figure 4)。しかし CR 確認からおよそ 1 週間後に両例で再増大を認め、単回治療サイクルによる持続的腫瘍制御の限界が示された。著者らはこの再増大が繰り返し投与サイクルによって防止できる可能性があると考察している。奏効例では注射部位に潰瘍形成や非ターゲット組織の壊死を伴わない良好な治癒経過が観察され (Figure 5)、局所毒性の軽微さが確認された。
考察/結論
本研究は E. coli PNP/フルダラビン酵素プロドラッグ遺伝子治療のfirst-in-human 試験として、安全性と予備的有効性の双方をヒト固形腫瘍患者で初めて示した報告である。本研究で初めてヒト固形腫瘍患者における当該治療法の忍容性・用量依存的腫瘍縮小効果・完全奏効例が確認されたという点で、これまで報告されていない新規の重要な臨床データを提供している。
既存の自殺遺伝子治療戦略、すなわち HSV-TK (herpes simplex virus thymidine kinase)/ガンシクロビル系や CD (cytosine deaminase)/5-フルオロシトシン系とは異なり、E. coli PNP は増殖細胞のみならず非増殖細胞をも標的とし、増殖分画に依存しない細胞毒性を発揮する。さらに、これまでの研究では他のプロドラッグ活性化系は PNP のバイスタンダー殺腫瘍効果に匹敵せず、PNP 非発現近傍細胞の少なくとも 95% を殺傷できることは他に類がないとされている。フルオロアデニンは RNA 合成阻害を介して細胞毒性を発揮し、5-フルオロウラシルと比較してモル当たり約 1,000-fold 以上の細胞毒性を持つため、腫瘍局所での微量産生でも十分な周囲細胞への効果が期待できる。血清フルオロアデニンが検出限界 (<1 ng/mL) 以下であったことは全身毒性リスクの低さを裏付ける重要なエビデンスである。
臨床的意義として、本戦略は直接腫瘍内注射が可能な頭頸部癌・皮膚癌・乳癌・婦人科悪性腫瘍に対して広く適用が見込まれる。術前腫瘍縮小を目的とした neoadjuvant 療法や、切除困難な腫瘍を切除可能サイズまで縮小させる橋渡し (bridge-to-bedside) としての臨床応用も考えられる。腫瘍特異的遺伝子操作という概念を共有する細胞・遺伝子療法の潮流は拡大しており、CAR-T 細胞療法 (chimeric antigen receptor T-cell) (June et al. NEnglJMed 2018) や腫瘍浸潤リンパ球 (TIL: tumor-infiltrating lymphocyte) 療法 (Creelan et al. NatMed 2021) に代表されるように、難治性固形腫瘍に対する新たな治療選択肢として遺伝子・細胞レベルの標的戦略が注目されている。本試験の被験者の大半は手術・化学療法・放射線療法による多段階の前治療を経た患者であり、そのような症例では Nwogu et al. AnnThoracSurg 2012 らが示したように局所腫瘍制御が予後に直結する。
残された課題として、今後の検討では以下が優先的に検討される必要がある。第一に、本試験で観察された CR 後再増大が示す通り、腫瘍を完全かつ持続的に制御するためには複数治療サイクルの繰り返し投与が不可欠である。第二に、本試験で使用したフルダラビン最高用量 75 mg/m² は慢性白血病の標準週次投与量のわずか 60% にとどまっており、さらなる用量増量による有効性の改善余地が残されている。第三に、腫瘍内注射という投与方法の limitation から現時点では針でアクセス可能な病変に対象が限定されるが、複製欠損レトロウイルス・麻疹ウイルスベクター・ワクシニアウイルス・単純ヘルペスウイルスなど多様な送達系が開発されつつあり、将来的には適用範囲の拡大が期待される。本試験の結果は Phase II 試験への移行を支持するものであり、繰り返し投与と用量最適化を組み込んだ次相試験の設計が求められる。
方法
オープンラベル2施設 (アラバマ大学バーミンガム、バンダービルト大学) 参加の用量漸増 Phase I 試験 (NCT01310179)。対象は生検確認された固形腫瘍患者で、すべての標準または承認された治療法を失敗・消尽しており、直接腫瘍内注射可能な病変 (5mm×5mm 以上) を少なくとも1つ有する成人 (19 歳以上)。Karnofsky performance status (KPS) 60% 以上かつ生命予後 12 週以上を必須条件とした。除外基準は白血病の診断、遺伝子治療歴、アロプリノール投与中、4 週以内の放射線・化学療法、Grade 2 超の末梢神経障害などであった。
用量漸増デザイン: 3+3 用量漸増フォーマットを採用した。コホート 1〜3 では Ad/PNP を 3×10¹¹ VP (viral particles) に固定し、フルダラビン用量を 15 mg/m² (コホート 1)、45 mg/m² (コホート 2)、75 mg/m² (コホート 3) に段階的に増量した。コホート 4 では Ad/PNP を 2.73×10¹² VP に 10 倍増量し、フルダラビン 75 mg/m² を維持した。Ad/PNP は通常生理食塩水で希釈調製し、各患者に対して Day 1〜2 に 0.5 mL ×3 回の腫瘍内注射 (Day 1 に 4 時間間隔で 2 回、Day 2 に 1 回) を実施した後、Day 3〜5 にフルダラビン静脈内投与を行った (Figure 1)。
評価と統計: 安全性は NCI-CTCAE (Common Terminology Criteria for Adverse Events) v4.0 でグレーディングし、用量制限毒性 (DLT: dose-limiting toxicity) の有無を主要安全性評価とした。腫瘍サイズはキャリパーまたは定規で Day 56 まで評価し、完全奏効 (CR: complete response、病変消失)、部分奏効 (PR: partial response、30% 以上縮小)、安定 (SD: stable disease、-30%〜+20%)、進行 (PD: progressive disease、20% 以上増大) と定義した。血清フルオロアデニン濃度を各フルダラビン投与前後に測定し全身暴露の有無を確認した。統計解析は SPSS Statistics v22.0 および R v3.0.3 を用い、linear regression (線形回帰) によるコホート別腫瘍体積変化率の傾向解析および Fisher’s exact test による奏効率のコホート間比較を実施した。IRB (institutional review board) 承認を両施設で取得した。