- 著者: Cameron N. Fick, Neha Danthi, Maxwell Lam, Gaetano Rocco, William D. Travis, Prasad S. Adusumilli, David R. Jones
- Corresponding author: David R. Jones (Thoracic Surgery Service, Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY)
- 雑誌: Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery
- 発行年: 2025
- Epub日: 2024-06-29
- Article種別: Original Article
- PMID: 38950771
背景
肺腺がん(LUAD:lung adenocarcinoma)は、非小細胞肺がん(NSCLC:non-small cell lung cancer)の中で最も頻度の高い組織型であり、早期および局所進行期(Stage I-IIIA)における標準治療は外科的完全切除(R0切除)である。しかし、完全切除が施行された症例であっても、一定の割合で術後再発が生じ、これが患者の長期予後を規定する最大の要因となっている。従来の臨床的コンセンサスや多くの先行研究、例えば Taylor et al. AnnThoracSurg 2012 などの報告においては、肺がん切除後の再発は術後2年以内に集中する「早期イベント」として捉えられてきた。このため、多くのサーベイランスプロトコルは術後2年以内の集中的な画像フォローアップを前提に設計されており、術後5年を経過した時点での生存をもって「治癒」とみなす傾向が強かった。しかし、臨床現場においては術後2年以降、さらには5年以降に再発をきたす「晩期再発(late recurrence)」症例をしばしば経験し、これが患者および臨床医にとって重大な脅威となっている。
これまで、晩期再発に関する詳細な疫学データや、その臨床病理学的・ゲノム生物学的な特徴を系統的に解析した研究は極めて限定的であった。特に、近年提唱された世界肺癌学会(IASLC:International Association for the Study of Lung Cancer)による新しい組織学的グレード分類や、リンパ管侵襲(LVI:lymphovascular invasion)、臓器胸膜侵襲(VPI:visceral pleural invasion)といった高悪性度の病理学的特徴が、術後2年を無再発で経過した患者におけるその後の晩期再発リスクにどのように寄与しているかについては十分に解明されておらず、臨床上の大きな課題であった。また、Cancer et al. Nature 2014 に代表されるゲノムプロファイリングの進歩により、LUADのドライバー変異が初期治療や早期再発に与える影響は広く知られるようになったが、これらのゲノム変異が晩期再発の感受性や再発時期の遅延と関連しているかについては未確立の領域であった。このように、晩期再発を予測するための臨床病理学的およびゲノム生物学的な指標に関する知見は圧倒的に不足しており、どの患者に対して長期にわたる厳密なサーベイランスを継続すべきかという意思決定を支えるエビデンスには大きなgapが存在していた。
目的
本研究の目的は、Memorial Sloan Kettering Cancer Center(MSK)における大規模な単施設後ろ向きコホートを用いて、完全切除(R0)が施行されたpathologic stage I-IIIA期の肺腺がん(LUAD)患者における晩期再発(術後2年超)の発生頻度、再発パターン(局所領域 vs 遠隔転移)、および長期予後を明らかにすることである。さらに、晩期再発をきたした症例の臨床病理学的特徴(IASLC組織グレード、LVI、VPI、病期など)およびゲノム変異プロファイルを、非再発症例および早期再発(術後2年以内)症例と系統的に比較解析することにより、晩期再発に寄与する独立したリスク因子を同定し、長期生存者における個別化されたサーベイランス戦略の構築に資する臨床的エビデンスを提供することを目指す。
結果
再発の全体像と晩期再発の発生頻度: 本研究の対象基準を満たしたLUAD完全切除症例2349例(中央値追跡期間 71 か月)のうち、追跡期間中に537例(22.9%)に再発が確認された。再発症例537例のうち、術後2年以内の早期再発は297例(55%)であったのに対し、術後2年超の晩期再発は240例(45%)に達しており、再発全体の約半数が晩期再発であることが示された(Table 2)。さらに、晩期再発群240例のうち、25%にあたる59例は術後5年(60か月)を経過した後に再発をきたしていた(Figure 4)。年間再発率は術後2年目にピーク(100人年あたり約5イベント)を迎えた後、3年目以降も緩やかに減少するものの、長期にわたって一定の再発リスクが持続することが示された(Figure 1)。病期別の解析では、Stage IIおよびIIIA症例の再発率は術後早期に急峻なピークを示したのに対し、Stage I症例の再発率は術後を通じて一貫して低く平坦な推移を示し、長期にわたり再発が持続する傾向が確認された(Figure 2)。
早期再発と晩期再発における再発パターンの差異: 再発部位の分布において、早期再発群と晩期再発群の間で有意な差異が認められた。最初の再発部位が局所領域(locoregional)のみであった割合は、早期再発群の29%(86/297例)に対し、晩期再発群では37%(88/240例)と有意に高頻度であった(37% vs 29%, p=0.047、Table 2)。一方で、遠隔転移(distant)のみをきたした割合は、早期再発群が51%(150/297例)であったのに対し、晩期再発群では40%(96/240例)と低い傾向を示した(40% vs 51%)。晩期再発における具体的な遠隔転移部位としては、脳転移が13%(31/240例)、骨転移が7.9%(19/240例)、胸膜転移が5.0%(12/240例)などであった(Table 2)。この局所領域再発優位のパターンを反映して、晩期再発群においては、再発後の初回治療として手術や放射線治療などの局所療法のみが選択された割合が41%(99/240例)に上り、早期再発群の34%(102/297例)と比較して高い割合を占めていた(41% vs 34%、Table E4)。
晩期再発における臨床病理学的リスク因子の同定: 術後2年時点で無再発であった生存者を対象とし、その後の晩期再発リスク因子を同定するため、非再発群(n=1812)と晩期再発群(n=240)を比較する多変量Cox回帰分析を実施した(Table 3)。その結果、高病期が極めて強力な独立したリスク因子であることが示され、Stage Iに対するStage IIのハザード比は HR 1.99 (95% CI 1.40-2.83, p<0.001)、Stage IIIAのハザード比は HR 2.81 (95% CI 1.84-4.29, p<0.001) であった。さらに、病理学的特徴として、IASLC組織グレード(Grade 1に対するGrade 2: HR 4.67 (95% CI 1.89-11.5, p<0.001)、Grade 3: HR 4.41 (95% CI 1.75-11.1, p=0.002))、LVI陽性(HR 1.56 (95% CI 1.14-2.13, p=0.005))、およびVPI陽性(HR 1.61 (95% CI 1.17-2.20, p=0.003))のすべてが、病期調整後も晩期再発と独立して有意に関連していることが明らかになった。
早期再発群と晩期再発群の直接比較およびゲノム変異の関連性: 再発症例(n=537)において、どのような因子が再発時期の早期化(2年以下)または晩期化(2年超)を規定するかをロジスティック回帰分析にて検討した(Table E2)。多変量解析の結果、喫煙歴(ever smoker: OR 0.53 [95% CI 0.35-0.82, p=0.004])、原発腫瘍の高い最大標準化取り込み値(SUVmax:maximum standardized uptake value)(OR 0.94 [95% CI 0.90-0.97, p=0.001])、およびStage IIIA期(Stage Iに対するOR 0.44 [95% CI 0.26-0.71, p=0.001])が、早期再発と有意に関連していることが示された。一方で、IASLC組織グレード、LVI、VPIなどの病理学的因子については、早期再発群と晩期再発群の間で有意な分布の差は認められなかった。また、MSK-IMPACTによるゲノムプロファイリングが施行された780例(非再発群 n=571、晩期再発群 n=95、早期再発群 n=114)を対象に、主要な遺伝子変異と再発時期との関連を解析した。晩期再発群における頻出変異はTP53(43%)、EGFR(31%)、KRAS(26%)であったが(Figure E2)、多重検定補正(FDR)を用いた解析の結果、非再発群や早期再発群と比較して、晩期再発と有意に関連する特定のゲノム変異は同定されなかった。
晩期再発後の全体生存期間と予後規定因子: 晩期再発(n=240)と診断された後の全体生存期間(OS)をカプラン・マイヤー法により解析した。晩期再発診断後の生存期間中央値は 40 か月(95% CI 34-55か月)であり、再発後5年生存率は 38%(95% CI 30-48%)であった(Figure 3, A)。再発部位別にOSを層別化した解析では、最初の再発が局所領域再発のみであった群(n=88)の再発後5年生存率は 55%(95% CI 42-73%)と極めて良好であったのに対し、遠隔転移を有する群(n=152)の再発後5年生存率は 31%(95% CI 22-43%)と有意に不良であった(55% vs 31%, p=0.033、Figure 3, B)。
考察/結論
先行研究との違い: 従来の肺腺がん(LUAD)完全切除後の再発に関する知見の多くは、術後2年以内に生じる早期再発に焦点を当てたものであった。例えば、Taylor et al. AnnThoracSurg 2012 などの報告では、再発の大部分が早期に集中しているとされ、術後5年以降の追跡は手薄になる傾向があった。これら「これまでと」異なり、本研究は中央値 71 か月という長期の追跡期間を確保することで、術後2年超の晩期再発が全再発の 45% という極めて高い割合を占めることを実証した。この結果は、近年報告された Potter et al. AnnThoracSurg 2023 の知見とも整合し、従来の「再発は早期イベントである」という認識に一石を投じるものであり、長期サーベイランスの必要性を強く支持している。
新規性: 本研究は、完全切除されたpStage I-IIIA期LUADにおける晩期再発のリスク因子として、高病期のみならず、IASLC組織グレード(Grade 2/3)、LVI、およびVPIといった高悪性度の病理学的特徴が独立したリスク因子であることを「本研究で初めて」明らかにした。さらに、MSK-IMPACTを用いた包括的ゲノム解析により、主要なドライバー遺伝子変異(EGFR, KRAS, TP53など)の有無が晩期再発の時期やリスクと有意に関連しないことを「新規」に示した。これは、Lengel et al. CancerCell 2023 などで示された転移臓器特異性とゲノム変異の関連とは対照的に、晩期再発の駆動にはゲノム変異プロファイルよりも、腫瘍の解剖学的・組織学的な浸潤能や分化度といった表現型(病理学的特徴)がより重要であることを示唆している。
臨床応用: 本知見は、肺がん切除後の個別化サーベイランスプロトコルの設計という「臨床応用」に直結する。具体的には、術後2年を経過して無再発であっても、切除標本においてIASLC Grade 2/3、LVI陽性、またはVPI陽性といった高リスク病理学的特徴を有していた患者に対しては、術後5年目まで、あるいはそれ以降も半年に1回の胸部CT検査を継続するような強化サーベイランスを行う「臨床的意義」がある。晩期再発の37%が局所領域再発であり、再発後の5年生存率が55%と比較的良好で、手術や放射線治療などの局所療法の適応となりやすいことを考慮すると、サーベイランスによる早期発見は患者の長期生存に直接寄与すると考えられる。
残された課題: 本研究にはいくつかの「limitation」があり、これが「今後の課題」として残されている。第一に、単一施設(MSK)における後ろ向きコホート研究であるため、選択バイアスの可能性を排除できず、他施設共同研究による外部検証が必要である。第二に、本研究の対象期間(2010-2019年)は、EGFR陽性例に対するosimertinibなどの術後補助療法(ADAURA試験など)や、免疫チェックポイント阻害薬を用いた術後補助療法が標準化される前の時代を多く含んでいる。これらの新規治療介入が、今後の肺腺がん患者における晩期再発の発生頻度や再発パターンにどのような影響を与えるかについては、今後の重要な検討課題である。
方法
本研究は、MSKにおいて2010年1月から2019年12月までに完全切除(R0)が施行されたpathologic stage I-IIIA期(AJCC[American Joint Committee on Cancer:米国がん合同委員会]第8版)のLUAD患者を対象とした単施設後ろ向きコホート研究(retrospective cohort study)である。MSKの機関内倫理委員会(Institutional Review Board)の承認(承認番号:#18-391)を得て、前向きに維持されているデータベースから対象患者を抽出した。除外基準として、肺がんの既往歴がある症例、術前補助療法(化学療法、放射線療法、免疫療法など)の施行例、粘液性腺がん(mucinous adenocarcinoma)または上皮内腺がん(AIS:adenocarcinoma in situ)、微小浸潤性腺がん(MIA:minimally invasive adenocarcinoma)の組織型、および無再発での追跡期間が2年未満の症例を設定した。
主要評価項目(primary endpoint)は無再発生存期間(RFS:recurrence-free survival)および全体生存期間(OS:overall survival)とし、術後2年時点での無再発生存者を対象に解析を行った。追跡調査はNCCN(National Comprehensive Cancer Network)ガイドラインに準拠し、術後2〜3年間は6か月ごと、その後は年1回の胸部CT(computed tomography)検査を基本とした。再発の定義は、画像診断または組織生検による病理学的確認に基づき、局所領域再発(同側肺、領域リンパ節、同側縦隔)または遠隔転移(対側肺、胸膜播種、脳、骨、肝、副腎など)に分類した。再発時期に基づき、術後2年以内の再発を「早期再発」、術後2年超の再発を「晩期再発」と定義した。
病理学的因子として、2020年IASLC分類に基づく組織グレード(Grade 1: 高分化、Grade 2: 中分化、Grade 3: 低分化)、LVIの有無、およびVPIの有無を評価した。ゲノム変異解析には、ハイブリダイゼーションキャプチャー法に基づく次世代シーケンシング(NGS:next-generation sequencing)臨床アッセイである Cheng et al. JMolDiagn 2015(MSK-IMPACT)を用い、主要なドライバー遺伝子(EGFR, KRAS, ALK, ROS1, RET, MET, BRAF, HER2)およびTP53などの変異プロファイルを同定した。
統計解析では、非再発群と晩期再発群の比較において、早期再発群を除外した上で、病期で調整した単変量および多変量Cox比例ハザード回帰モデル(Cox proportional hazards regression model)を用いてハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を算出した。再発群内における早期再発と晩期再発の臨床病理学的因子の比較には、多変量ロジスティック回帰モデル(multivariable logistic regression model)を用いた。ゲノム変異の比較においては、多重検定による偽陽性を防ぐため、False Discovery Rate(FDR:偽発見率)を用いた補正を行った。生存解析にはKaplan-Meier法を用い、有意差検定にはログランク検定(log-rank test)およびカイ二乗検定(chi-square test)を用いた。すべての統計解析はR(バージョン4.3.1)を用いて実施された。