- 著者: Taylor MD, Nagji AS, Bhamidipati CM, Theodosakis N, Kozower BD, Lau CL, Jones DR
- Corresponding author: David R Jones (Division of Thoracic and Cardiovascular Surgery, University of Virginia, Charlottesville, VA)
- 雑誌: Annals of Thoracic Surgery
- 発行年: 2012
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 22542070
背景
非小細胞肺癌(NSCLC)に対する外科的完全切除(R0切除)は治癒を目指した標準治療であるが、術後の長期生存率は依然として低く、完全切除後であっても5年生存率は50%未満にとどまる。この術後死亡の大部分は腫瘍の再発(tumor recurrence)に起因している。先行研究において、完全切除後の生存率や予後に関連する臨床病理学的因子や分子生物学的マーカーは数多く報告されてきた。例えば、Nakagawa et al. AnnOncol 2005の報告では、病理学的病期(pathologic stage)I期の完全切除例における術後化学療法の意義が検証されているが、依然として一定の割合で再発が生じることが示されている。また、Arriagada et al. NEnglJMed 2004による大規模臨床試験(IALT)では、シスプラチンを基本とした術後補助化学療法が生存率を約4%改善することが示されたものの、再発リスクそのものを完全に制御するには至っていない。
このように、これまでの肺癌切除後の予後研究の多くは「死亡(mortality)」や「全生存期間(overall survival)」を主要評価項目としており、再発そのもののパターンや、局所再発と遠隔転移におけるリスク因子の違いを詳細に分析した研究は手薄であった。特に、術前のフッ化デオキシグルコース(FDG)集積値を示すSUVmax(maximum standardized uptake value)の具体的なカットオフ値、縮小手術(sublobar resection)が局所再発に与える影響、脈管侵襲(lymphovascular invasion; LVI)が遠隔転移に及ぼす影響、さらには術前照射(preoperative radiation)が再発に与える影響を、単一施設の大規模コホートで多変量解析を用いて同時に検証したエビデンスは未解明であった。すなわち、再発に焦点を絞った詳細な臨床病理学的因子の解析において、長期追跡データを持つ大規模な患者データベースが不足していたことがこれまでの課題であった。本研究は、この知識の不足を補い、術後再発予測モデルを構築することで、個別化された術後サーベイランスおよび補助療法の選択に寄与することを目指している。
目的
本研究の目的は、バージニア大学(University of Virginia)において1999年から2008年までにNSCLCに対してR0完全切除を施行された1,143例の患者データベース(UVA-GTSD [University of Virginia General Thoracic Surgery Database])を後方視的に解析し、以下の点を明らかにすることである。第一に、完全切除後の全再発(all recurrence)に関連する独立した術前・周術期・病理学的予測因子を多変量コックス比例ハザードモデル(Cox proportional hazards regression model)を用いて同定する。第二に、再発部位を局所再発(locoregional recurrence)と遠隔再発(distant recurrence)に分類し、それぞれの再発形式に特異的な独立したリスク因子を抽出する。第三に、得られた知見に基づいて、術後の最適な画像サーベイランススケジュールおよび術後補助療法の適応決定に資する臨床的推奨を提示することである。
結果
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コホートの基本特性と全再発率: 解析対象となった1,143例の背景は、男性601例、女性542例(比率 52:48)であった。術式は肺葉切除(lobectomy)が886例(77.5%)、一側肺全摘(pneumonectomy)が88例(7.7%)、区域切除(segmentectomy)が85例(7.5%)、楔状切除(wedge resection)が84例(7.3%)であり、縮小手術(sublobar resection)は計169例(14.8%)に施行されていた(Table 1)。病理病期は、ステージIAが467例(40.9%)、IBが220例(19.2%)、IIAが231例(20.2%)、IIBが91例(8.0%)、IIIAが98例(8.7%)、IIIBが13例(1.0%)、IV期が23例(2.0%)であった(Table 1)。追跡期間中、全体で378例(33.1%)に再発が確認され、そのうち86%(325例)で病理組織学的な再発の裏付けが得られた。全死亡は617例であり、そのうちがん死は268例、他死は332例、再発後に他死した症例は17例であった。
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再発部位の解剖学的分布: 再発が確認された378例のうち、局所再発は94例(8.2%)、遠隔再発は284例(24.8%)であり、遠隔転移が局所再発の約3倍の頻度で発生していた(Table 2)。具体的な再発部位の内訳は、複数部位(multiple sites)が94例(24.7%)で最も多く、次いで同側肺(ipsilateral lung)が85例(22.6%)、脳(brain)が62例(16.6%)、対側肺(contralateral lung)が56例(14.8%)、リンパ節・縦隔が30例(7.9%)、骨(bone)が25例(6.8%)、肝臓(liver)が7例(1.9%)、胸壁が7例(1.9%)、胸膜が5例(1.5%)、副腎が3例(0.8%)の順であった(Table 2)。脳転移が16.6%と高い割合を占めていることが示された。
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全再発における独立したリスク因子(多変量解析): 23個の臨床病理学的因子を用いた多変量コックス比例ハザード解析の結果、全再発リスクの上昇と独立して関連する因子として、術前腫瘍SUVmax >5(HR 1.81, 95% CI 1.136-2.895, p=0.01)、術前放射線治療歴(HR 1.98, 95% CI 1.011-3.962, p=0.05)、病理学的ステージII期(HR 2.53, 95% CI 1.1-6.494, p=0.05)、およびステージIII期(HR 6.49, 95% CI 1.693-24.897, p=0.006)が同定された(Table 4、Fig 1、Fig 2、Fig 3)。一方で、年齢、性別、喫煙歴、糖尿病、ステロイド使用、体重減少、腫瘍径(3 cmでの二分化)、動脈侵襲、胸膜侵襲などは多変量解析において有意な関連を示さなかった。
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局所再発における独立したリスク因子(サブグループ解析): 局所再発(94例)のみをエンドポイントとしたサブグループ多変量解析では、縮小手術(区域切除または楔状切除)が局所再発リスクを約4倍に上昇させる唯一の独立した予測因子として同定された。縮小手術群と肺葉/全摘切除群の比較において、局所再発リスクは有意に高値であった(HR 4.12, 95% CI 1.190-14.268, p=0.02)(Table 5、Fig 4)。また、病理学的ステージIII期も局所再発と有意に関連していた(HR 126.7, 95% CI 1.196-13425.8, p=0.04)(Table 5)。術前SUVmax >5は局所再発に対しては有意なリスク上昇を示さなかった(HR 2.52, 95% CI 0.952-6.697, p=0.06)。
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遠隔再発における独立したリスク因子(サブグループ解析): 遠隔再発(284例)のみをエンドポイントとしたサブグループ多変量解析では、脈管侵襲(LVI)の存在が遠隔再発リスクを約4倍に上昇させる極めて強力な独立した予測因子であることが示された。LVI陽性群はLVI陰性群と比較して遠隔再発リスクが著しく高かった(HR 4.21, 95% CI 1.427-12.392, p=0.009)(Table 6、Fig 5)。さらに、術前SUVmax >5(HR 2.15, 95% CI 1.117-4.117, p=0.02)および病理学的ステージIII期(HR 6.48, 95% CI 1.587-26.435, p=0.009)も遠隔再発の独立した予測因子として同定された(Table 6)。
考察/結論
先行研究との違い: 従来のNSCLC完全切除後の予後解析は、その多くが死亡(mortality)や全生存期間(OS)をエンドポイントとしており、再発(recurrence)そのもののパターンやリスク因子を詳細に検討した多変量解析は手薄であった。これに対し、本研究は1,143例という大規模な単一施設コホートにおいて、再発をプライマリエンドポイントに据えて23個の臨床病理学的因子を調整した多変量解析を行った点で先行研究と異なる。また、早期肺癌(T1N0)における肺葉切除と縮小手術を比較したGinsbergらのランダム化比較試験(LCSG試験)と対照的に、本研究はステージI期からIV期までの幅広い患者層を含んだ実臨床コホートにおいて、縮小手術が局所再発リスクを約4倍(HR 4.12)に高めることを再現し、その一般化可能性を強固なものとした。さらに、これまで小規模なコホート(n=100-300)で散発的に報告されていた脈管侵襲(LVI)と遠隔転移の関連について、1,000例を超える大規模コホートを用いて遠隔再発の独立した強力な予測因子(HR 4.21)であることを明確に実証した。
新規性: 本研究の新規性は、第一に、1,143例の完全切除例において術前SUVmax、術式、病理学的因子、術前治療歴を含む包括的な多変量コックス回帰分析を本研究で初めて実施した点にある。第二に、これまで報告されていない、ステージ横断的なコホートにおける縮小手術の局所再発ハザード比(HR 4.12)を定量化したことである。第三に、術前SUVmaxにおいて「5」という具体的なカットオフ値が、遠隔再発(HR 2.15)および全再発(HR 1.81)の独立した予測因子となる非線形なしきい値効果(threshold effect)を持つことを新規に提示した点である。第四に、術前放射線治療が局所や遠隔の個別解析では有意ではないものの、全再発リスクの上昇(HR 1.98)と独立して関連することを示し、これが高リスク腫瘍に対する選択バイアスを反映している可能性を示唆した点も新しい知見である。
臨床応用: 本研究の知見は、日常の臨床現場における意思決定に直接的な臨床応用が可能である。まず、術前SUVmax >5を示す症例や、病理組織学的に脈管侵襲(LVI)陽性である症例に対しては、たとえ病理学的ステージI期の早期癌であっても遠隔転移リスクが極めて高いため、術後補助化学療法の積極的な適応や、より頻回の画像サーベイランスを検討すべきである。また、縮小手術は局所再発リスクを約4倍に高めるため、呼吸機能低下などの合併症がない限りは、早期肺癌であっても標準術式である肺葉切除を第一選択とすべきである。さらに、再発部位として脳転移が16.6%と高頻度に見られたことから、高リスク群(SUVmax >5、LVI陽性、ステージII/III期)においては、術後の定期的な脳MRI検査をサーベイランスプロトコルに組み込むことの臨床的有用性が示唆される。
残された課題: 今後の検討課題および本研究のlimitationとして、第一に、単一施設における後方視的解析であるため、選択バイアスを完全に排除できず、他施設共同コホートによる外部妥当性の検証が今後の研究で必須である。第二に、追跡期間中央値が24ヶ月と比較的短いため、5年以降の晩期再発を十分に捉えきれていない可能性があり、より長期の追跡による検証が必要である。第三に、EGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子、PD-L1発現などの分子生物学的・免疫学的マーカーが解析に含まれておらず、これらの分子プロファイルと臨床病理学的因子を統合した高精度な再発予測モデルの構築が今後の方向性として挙げられる。第四に、SUVmax >5やLVI陽性のステージI期患者に対する術後補助化学療法の実際の生存ベネフィットについて、前向きランダム化比較試験(RCT)による検証が未解明の領域として残されている。
方法
対象患者および選択基準: バージニア大学一般胸部外科データベース(UVA-GTSD [University of Virginia General Thoracic Surgery Database])に登録された、1999年7月から2008年8月までにNSCLCに対してR0完全切除(顕微鏡的マージン陰性)を施行された連続1,143例を対象としたレトロスペクティブコホート研究(retrospective cohort study)である。除外基準は、カルチノイド腫瘍、重複肺癌(second primary lung cancer)、および術後30日以内の死亡(10例、0.8%)とした。病期分類には、2009年に採用されたAJCC/UICC TNM分類第7版を用いた。
術後サーベイランスと再発の定義: 術後追跡期間は最長で2011年9月30日までとし、追跡期間中央値は24ヶ月(範囲:3-134ヶ月)であった。主要評価項目(primary endpoint)は再発までの期間(time to recurrence)とした。術後サーベイランスは、術後5年間は3〜6ヶ月ごとに造影胸部CTを施行し、その後は年1回の胸部レントゲンまたは胸部CTで評価した。PET-CTや脳MRIは臨床的適応に応じて追加された。再発の診断は画像診断または病理組織学的生検によって確定された。局所再発(locoregional recurrence)は、縮小手術後の同側残存肺葉内での再発、または肺葉切除・一側肺全摘後の同側縦隔・肺門リンパ節再発と定義した。遠隔再発(distant recurrence)は、同側胸腔外への転移と定義し、局所再発と遠隔再発が同時に認められた場合は遠隔再発に分類した。
評価変数と統計解析: 解析対象とした臨床病理学的変数は、年齢、性別、術前照射の有無、術前化学療法の有無、ECOG PS(Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status)、喫煙歴、糖尿病の有無、ステロイド使用歴、体重減少、術前腫瘍SUVmax、病理学的T病期、腫瘍径、病理学的N病期、組織型、手術術式、脈管侵襲(LVI)、術前アルブミン値、動脈・リンパ管・胸膜侵襲など23項目である。SUVmaxは「2.5以下」「2.5超5.0以下」「5.0超」の3群に分類し、腫瘍径は3 cmをカットオフ値として2群に分けた。
統計学的解析にはSAS(version 9.1)およびSPSS(version 20)を用いた。カテゴリ変数にはPearsonのカイ二乗検定(Pearson’s chi-square test)またはFisherの直接確率検定(Fisher’s exact test)を用い、連続変数には一元配置分散分析(single-factor ANOVA)を用いた。多重比較バイアスを制御するため、偽発見率(false discovery rate; FDR)調整を行った。再発までの期間の評価にはKaplan-Meier法を用い、ログランク検定(log-rank test)で群間比較を行った。単変量解析で有意(p<0.05)であった変数を多変量コックス比例ハザードモデル(Cox proportional hazards regression model)に投入し、調整ハザード比(adjusted HR)および95%信頼区間(95% CI)を算出した。本研究は単施設の後方視的解析であり、特定の臨床試験登録番号(NCT番号など)は持たない。本研究はバージニア大学のヒト研究委員会(Human Investigations Committee)の承認を得て実施された。