- 著者: Baas P, Scherpereel A, Nowak AK, Fujimoto N, Peters S, Tsao AS, Mansfield AS, et al.
- Corresponding author: N/A
- 雑誌: Lancet
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-01-04
- Article種別: Original Article
- PMID: 33485464
背景
悪性胸膜中皮腫 (MPM) は予後不良な稀少悪性腫瘍であり、診断時の多くは切除不能である。緩和ケアのみの場合、生存期間中央値は約 7 ヶ月にとどまる。多科学的治療 (化学療法 + 手術 + 放射線) を組み合わせても、生存期間を 20 ヶ月以上延長することは困難である。2003 年に Vogelzang et al. J Clin Oncol 2003 による第 III 相試験でペメトレキセドとシスプラチンの併用療法が標準一次治療として確立されて以来、約 17 年間にわたって有意な生存延長を示す一次治療の選択肢が存在しなかった。このことは、MPM の治療において新たなブレークスルーが不足していることを示していた。
MPM の病理組織型は類上皮型 (約 75%) と非類上皮型 (肉腫型・二相型; 約 25%) に大別される。特に非類上皮型は化学療法に対する奏効率が著しく低く、生存期間中央値は 8〜10 ヶ月と極めて予後不良であり、このサブタイプに対する新規治療の必要性が特に高かった。従来の治療法では、この予後不良なサブグループに対する有効な選択肢が未確立であった。
免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) は、非小細胞肺癌 (NSCLC) や悪性黒色腫など、多くの固形腫瘍で全生存期間 (OS) の延長効果を証明している。MPM においても、腫瘍浸潤リンパ球の存在、PD-L1 発現、および免疫原性微小環境の特性から、ICI の有効性が期待されていた。先行研究として、再発・難治性 MPM を対象とした第 II 相試験である MAPS2 (multicentre, open-label, randomised, non-comparative IFCT-1501 MAPS2 trial) (ニボルマブ単剤またはニボルマブ + イピリムマブ) や INITIATE (Ipilimumab and Nivolumab in the Treatment of recurrent malignant pleural mesothelioma) などで、有望な抗腫瘍活性が報告されていた。例えば、Scherpereel et al. Lancet Oncol 2019 では、ニボルマブ単剤およびニボルマブ + イピリムマブ併用療法が、再発 MPM 患者において忍容性があり、有望な臨床活性を示すことが示された。また、Quispel-Janssen et al. J Thorac Oncol 2018 では、ニボルマブ単剤療法が再発 MPM 患者において一定の有効性を示すことが報告されている。しかし、一次治療における ICI の有効性・安全性については、大規模な無作為化第 III 相試験での検証が未解明であった。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目的とした。
目的
本研究の目的は、切除不能な悪性胸膜中皮腫 (MPM) 患者の一次治療として、抗 PD-1 抗体であるニボルマブと抗 CTLA-4 抗体であるイピリムマブ (ipilimumab, IPL) の併用療法が、標準化学療法 (プラチナ製剤 + ペメトレキセド) と比較して、全生存期間 (OS) を有意に延長するかどうかを評価する第 III 相無作為化非盲検比較試験 (CheckMate 743; ClinicalTrials.gov 識別子 NCT02899299) を実施することである。主要評価項目である OS の優越性を検証し、さらに副次評価項目として無増悪生存期間 (PFS)、客観的奏効率 (ORR)、奏効持続期間 (DoR)、および安全性プロファイルを評価する。特に、MPM の組織型 (類上皮型 vs 非類上皮型) 別および PD-L1 発現レベル別のサブグループ解析を通じて、治療効果の差異を探索することも目的とした。
結果
主要エンドポイント (OS) の達成: 本試験は主要エンドポイントである全生存期間 (OS) を達成した。中央値追跡期間 29.7 ヶ月 (IQR 26.7-32.9) の時点で、ニボルマブ + イピリムマブ群の OS 中央値は 18.1 ヶ月 (95% CI 16.8-21.4) であったのに対し、化学療法群では 14.1 ヶ月 (95% CI 12.4-16.2) であり、ニボルマブ + イピリムマブ群で統計学的に有意な OS 延長が示された (層別 HR 0.74, 96.6% CI 0.60-0.91, p=0.0020)。1 年 OS 率はニボルマブ + イピリムマブ群で 68% (95% CI 62.3-72.8) vs 化学療法群で 58% (95% CI 51.7-63.2) であり、2 年 OS 率はそれぞれ 41% (95% CI 35.1-46.5) vs 27% (95% CI 21.9-32.4) と、長期的な生存ベネフィットが確認された (絶対差 14%) (Figure 2A)。この結果は、事前規定の中間解析で優越性境界を越え、独立データモニタリング委員会の勧告により最終解析とみなされた。
組織型別サブグループ解析における効果の差異: 組織型別サブグループ解析では、特に非類上皮型 (肉腫型 + 二相型; n=149) において、ニボルマブ + イピリムマブ群のハザード比 (HR) が 0.46 (95% CI 0.31-0.68) と、化学療法に対して著しい優越性を示した (Figure 2C)。非類上皮型におけるニボルマブ + イピリムマブ群の OS 中央値は 18.1 ヶ月 (95% CI 12.2-22.8) であったのに対し、化学療法群ではわずか 8.8 ヶ月 (95% CI 7.4-10.2) であった。この結果は、ニボルマブ + イピリムマブの利益の大部分が、化学療法群の非類上皮型における劣悪な予後によってもたらされたことを示唆する。一方、類上皮型 (n=456) では HR 0.86 (95% CI 0.69-1.08) と統計学的有意差は認められなかったものの、ニボルマブ + イピリムマブ群の OS 中央値は 18.7 ヶ月 (95% CI 16.9-22.0) vs 化学療法群 16.5 ヶ月 (95% CI 14.9-20.5) であり、2 年 OS 率の絶対差 (42% vs 33%) から長期生存利益が示唆された (Figure 2B)。
奏効率、無増悪生存期間 (PFS)、および奏効持続期間 (DoR): 客観的奏効率 (ORR) はニボルマブ + イピリムマブ群で 40% (120/303、95% CI 34.1-45.4) vs 化学療法群で 43% (129/302、95% CI 37.1-48.5) と類似していた (Table 2)。完全奏効 (CR) はニボルマブ + イピリムマブ群でのみ 5 例 (2%) 認められた。無増悪生存期間 (PFS) 中央値はニボルマブ + イピリムマブ群で 6.8 ヶ月 (95% CI 5.6-7.4) vs 化学療法群で 7.2 ヶ月 (95% CI 6.9-8.0) と、両群間で差はなかった (HR 1.00, 95% CI 0.82-1.21)。しかし、PFS の Kaplan-Meier 曲線は 8 ヶ月頃に交差し、2 年 PFS 率はニボルマブ + イピリムマブ群で 16% (95% CI 11.7-21.5) vs 化学療法群で 7% (95% CI 4.0-11.7) と、長期的な病勢コントロールの持続性が免疫療法群で明確であった (Figure 4A)。奏効持続期間 (DoR) 中央値は、ニボルマブ + イピリムマブ群で 11.0 ヶ月 (95% CI 8.1-16.5) vs 化学療法群で 6.7 ヶ月 (95% CI 5.3-7.1) と、ニボルマブ + イピリムマブ群で有意に延長した。2 年 DoR 率はそれぞれ 32% (95% CI 23-41) vs 8% (95% CI 3-15) と顕著な差が認められた (Figure 4B)。
PD-L1 発現と治療効果の関連: PD-L1 発現レベル別の解析では、PD-L1 ≥1% の患者群において、ニボルマブ + イピリムマブ vs 化学療法の HR が 0.69 (95% CI 0.55-0.87) と、より高い治療利益が示された (Figure 3)。一方、PD-L1 <1% の患者群では HR 0.94 (95% CI 0.62-1.40) と、両群間の差は小さかった。ただし、PD-L1 発現は層別化因子として設計されておらず、PD-L1 <1% のサブグループは比較的小規模 (n=135) であったため、これらの探索的データは慎重に解釈する必要がある。興味深いことに、化学療法群では PD-L1 <1% の患者の OS 中央値 (16.5 ヶ月) が PD-L1 ≥1% の患者 (13.3 ヶ月) よりも優れており、PD-L1 陰性が化学療法に対する予後良好因子である可能性が探索的に観察された。
安全性プロファイル: 治療関連有害事象 (TRAE) の Grade 3-4 発現率は、ニボルマブ + イピリムマブ群で 30% (91/300) vs 化学療法群で 32% (91/284) と同等であった (Table 3)。しかし、任意の Grade の重篤な TRAE はニボルマブ + イピリムマブ群で 21% (64/300) vs 化学療法群で 8% (22/284) と免疫療法群で高く、Grade 3-4 の重篤な TRAE もそれぞれ 15% vs 6% であった。ニボルマブ + イピリムマブ群で最も頻繁に報告された任意の Grade の TRAE は下痢 (21%) であり、化学療法群では悪心 (37%) であった。免疫関連特定 TRAE (irAE) は皮膚 (36%) および消化管 (22%) が最多であった。治療関連死亡はニボルマブ + イピリムマブ群で 3 例 (肺炎、脳炎、心不全各 1 例)、化学療法群で 1 例 (骨髄抑制) 報告された。曝露調整後の TRAE 発生率は、ニボルマブ + イピリムマブ群で 502.1/100 人年であったのに対し、化学療法群では 1355.3/100 人年と大幅に高く、実質的な毒性負荷は免疫療法群で低いことが示唆された。
考察/結論
先行研究との違いと本試験の歴史的意義: CheckMate 743 は、悪性胸膜中皮腫 (MPM) の一次治療において、標準化学療法に対する全生存期間 (OS) の優越性を証明した初めての第 III 相試験である。この結果は、2003 年のペメトレキセド + シスプラチン併用療法の承認以来、約 17 年ぶりに MPM の標準治療を刷新する画期的な進歩である。特に、従来の化学療法では最も予後不良であった非類上皮型 MPM において、ニボルマブ + イピリムマブ併用療法が HR 0.46 (95% CI 0.31-0.68) という著しい効果量を示した点は、これまでの治療パラダイムと異なり、このサブグループに対する初の有効な一次治療選択肢を提供したという点で極めて重要な意義を持つ。この結果を受けて、2020 年 10 月に米国食品医薬品局 (FDA) はニボルマブ + イピリムマブを切除不能 MPM の一次治療として承認した。本研究は、Hellmann et al. NEnglJMed 2019 (NSCLC) や Motzer et al. (2019) (腎細胞癌) など、他の癌種でデュアル ICI の有効性が示されたエビデンスを MPM に拡張した点でも新規性がある。
臨床応用可能性と新規性: 本試験の結果は、ニボルマブ + イピリムマブ併用療法が、全組織型の切除不能 MPM 患者に対する化学療法の代替一次治療として推奨される強力な根拠を提供する。NCCN ガイドラインでは、肉腫型および二相型 MPM に対してカテゴリー 2A の推奨、類上皮型にも選択肢として位置付けられた。奏効の持続性 (2 年奏効持続率 32% vs 8%) は、免疫療法の長期生存利益を明確に反映しており、MPM においても免疫療法後の長期プラトー (IPL) が実現することを示唆する。これは、これまでの化学療法では達成困難であった新規の治療効果である。
残された課題と今後の方向性: 本試験の主要な残された課題は、デュアル ICI 療法の利益を予測する確立されたバイオマーカーが依然として存在しないことである。PD-L1 発現は一定の効果修飾因子として機能する可能性が示唆されたものの、層別化因子として設計されていないため、その解釈には限界がある。PD-L1 <1% のサブグループは小規模であり、既知または未知の予後因子の不均衡の可能性から、決定的な結論を導き出すことはできない。今後の検討課題として、TMB (腫瘍変異量) や、Blum et al. NatCommun 2019 で示唆されたような転写・エピゲノムプロファイリングに基づくサブタイプ分類を用いた、より精密な患者選択が重要となる。また、非類上皮型における化学療法群の OS 中央値が 8.8 ヶ月と極めて低い背景について、ニボルマブ + イピリムマブの「絶対的」有効性か、あるいは化学療法の「相対的」劣悪性によるものかをさらに検証する必要がある。加えて、化学療法感受性予測バイオマーカー (例: BAP1 変異) との組み合わせによる治療選択の最適化、およびニボルマブ + イピリムマブ後の二次治療の役割 (例: ベバシズマブ、ラムシルマブなど) の検討が、今後の研究方向性として重要である。
方法
本研究は、21 ヶ国 103 施設で実施された多施設共同、無作為化、非盲検、比較対照、第 III 相試験である (ClinicalTrials.gov 識別子 NCT02899299)。2016 年 11 月 29 日から 2018 年 4 月 28 日にかけて、合計 713 例の患者がスクリーニングされ、そのうち 605 例が適格と判断され、1:1 の割合で無作為に割り付けられた。ニボルマブ + イピリムマブ併用療法群には n=303 例、標準化学療法群には n=302 例が割り付けられた。
適格基準は、18 歳以上の患者、組織学的に確認された切除不能な悪性胸膜中皮腫、ECOG Performance Status (PS) 0-1、治癒的治療の適応なし、および modified RECIST (mRECIST) または RECIST version 1.1 に基づく測定可能病変の存在であった。無作為化は性別および組織型 (類上皮型 vs 非類上皮型) で層別化された。
投与レジメン:
- ニボルマブ + イピリムマブ群: ニボルマブ 3 mg/kg を 2 週間に 1 回静脈内投与、イピリムマブ 1 mg/kg を 6 週間に 1 回静脈内投与。最長 2 年間継続された。
- 化学療法群: シスプラチン 75 mg/m² またはカルボプラチン AUC5 とペメトレキセド 500 mg/m² を 3 週間ごとに最大 6 サイクル静脈内投与された。化学療法群では用量減量が許可されたが、ニボルマブ + イピリムマブ群では許可されなかった。
腫瘍評価: 治療開始後 6 週目から開始され、最初の 12 ヶ月間は 6 週ごと、その後は 12 週ごとに実施された。評価は mRECIST および RECIST 1.1 に基づく中央盲検独立画像判定 (BICR) によって行われた。
主要エンドポイント: 全生存期間 (OS) であり、無作為化からあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。OS の優越性を判断するための有意水準は、中間解析のアルファ補正を考慮し、96.6% 信頼区間 (CI) で p<0.0345 に設定された (Lan-DeMets 型 O’Brien-Fleming 境界)。
統計解析: OS の解析には層別 Cox 比例ハザードモデルが用いられ、ハザード比 (HR) と 96.6% CI が算出された。生存曲線は Kaplan-Meier 法を用いて推定された。サブグループ解析では非層別 Cox 比例ハザードモデルが使用された。安全性解析は、少なくとも 1 回の治験薬投与を受けた全患者を対象に実施された。曝露調整後の有害事象発生率も評価された。統計解析は SAS ソフトウェア (バージョン 9.2) を用いて実施された。独立データモニタリング委員会が定期的に有効性および安全性のデータをレビューした。