• 著者: Katsuya Y, Kitano S, Yamashita M, Ouchi M, Yagishita S, Hamada A, Nakamura H, Hosoda F, Shibata T, Motoi N, Nakayama T, Seto T, Umemura S, Hosomi Y, Satouchi M, Nishio M, Kozuki T, Hida T, Ohe Y, Horinouchi H
  • Corresponding author: Hidehito Horinouchi (National Cancer Center Hospital, Tokyo)
  • 雑誌: Frontiers in Oncology
  • 発行年: 2023
  • Epub日: 2023-01-09
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 36698400

背景

胸腺癌は稀な悪性腫瘍であり、その治療選択肢は依然として限られている。一部の胸腺癌細胞がPD-L1を発現することが報告されており、これは特定の癌種において抗PD-1抗体の治療効果予測バイオマーカーとして利用されている。この背景から、切除不能または再発胸腺癌に対する抗PD-1抗体ニボルマブの単施設多施設共同第II相試験であるPRIMER試験(UMIN000022007)が計画され、実施された Katsuya et al. EurJCancer 2019

先行するペムブロリズマブの第II相試験では、腫瘍細胞におけるPD-L1陽性発現が治療効果と相関することが示された Giaccone et al. LancetOncol 2018。しかし、腫瘍変異負荷(TMB)や腫瘍浸潤リンパ球(TILs)を含む既存のバイオマーカーは、胸腺癌における予測能が乏しいことが指摘されており、胸腺癌に特有の免疫学的プロファイルを解明する必要性が未解明であった McGrail et al. AnnOncol 2021。特に、TMBと免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の有効性との関連は癌種によって大きく異なり、胸腺癌におけるその役割は十分に確立されていなかった。この領域には依然として知識のギャップが残されている。

PRIMER試験では、ニボルマブ3 mg/kgを2週ごとに投与し、15例中3例に24週以上の安定病変(長期SD)が認められた。また、Grade 2以上の免疫関連有害事象(irAE)が4例(27%)に観察された。これらの結果は、ニボルマブが胸腺癌に対して一定の臨床的利益をもたらす可能性を示唆する一方で、治療効果やirAE発現を予測するためのバイオマーカーが不足していることを浮き彫りにした。胸腺癌の免疫学的特性は他の固形癌とは異なる可能性があり、より包括的なバイオマーカー解析を通じて、治療応答のメカニズムを理解し、個別化医療の実現に向けた新たな予測因子を同定することが喫緊の課題であった。特に、胸腺癌の免疫原性が低いという特性が、標準的なバイオマーカーの予測能を低下させている可能性があり、これを克服するための新たなアプローチが求められていた。

目的

本研究の目的は、切除不能または再発胸腺癌に対するニボルマブの第II相PRIMER試験において、事前に計画された包括的なバイオマーカー解析を実施し、治療効果(特に長期SD)および免疫関連有害事象(irAE)と関連する潜在的なバイオマーカーを同定することである。具体的には、腫瘍組織の免疫組織化学(IHC)および多重免疫蛍光染色(mFIHC)、末梢血単核球(PBMC)の免疫細胞サブセット解析、血清サイトカイン測定、ニボルマブの薬物動態(PK)解析、および免疫薬理ゲノミクス(PGx)解析を通じて、これらのバイオマーカーと臨床転帰との関連性を評価する。これにより、胸腺癌におけるニボルマブの作用機序をより深く理解し、将来的な治療戦略の最適化に貢献する知見を得ることを目指す。特に、低免疫原性である可能性のある胸腺癌において、治療応答を予測し、irAEのリスクを層別化するための新規バイオマーカーの発見を目指す。

結果

患者特性と検体収集: PRIMER試験には5施設から15例の患者が登録された。全例が日本人であり、男性12例、年齢中央値55歳(範囲34-70歳)、ECOG-PS 1が11例、扁平上皮癌が13例であった。15例中3例(#11, #13, #14)に長期SD(24週以上のSD)が認められ、4例(27%)(#4, #10, #13, #14)にGrade 2以上のirAEが発現した。irAEの内訳は、C1D8でのGrade 3 AST上昇(#4)、C3D6でのGrade 2甲状腺機能低下症(#4)、C3D10でのGrade 2下痢(#10)、C17D1でのGrade 2斑状丘疹性皮疹(#13)、C19D15でのGrade 2口腔白板症(#13)、C10D8でのGrade 2副腎機能不全(#14)、C33D8でのGrade 2扁平苔癬(#14)であった。腫瘍組織検体は14例から得られ(#8を除く)、#13は手術検体、他14例は生検検体であった。全血、血漿、血清は15例から収集されたが、PBMCは分離プロセスの制約により9例(#1,2,3,4,5,6,10,14,15)からのみ収集された(Table 1)。

ニボルマブの薬物動態(PK): 血清ニボルマブ濃度の中央値は68.6 µg/mL(範囲15.1–144.0 µg/mL)であった(Figure 1A)。長期SD (+) 群と長期SD (-) 群の間で、C3D1(p=0.294)、C5D1(p=0.063)、C9D1(p=0.400)、PD時(p=0.945)のいずれの時点においても血清ニボルマブ濃度に有意差は認められなかった(Figure 1B)。むしろ、長期SD (+) 群では全体的にニボルマブ血中濃度が低い傾向が示された(C5D1: 長期SD (+) 群 50.9 µg/mL vs 長期SD (-) 群 59.3 µg/mL)。この結果は、ニボルマブのPK指標が胸腺癌における有効性の予測に寄与しない可能性を示唆する。

腫瘍組織IHCおよび多重蛍光IHC(mFIHC): 14例の腫瘍組織検体のうち、長期SD (+) の3例中2例でPD-L1陰性、1例で40%陽性であった。一方、長期SD (-) の11例では、PD-L1発現が0%が5例、3%が1例、10%が2例、20%が2例、50%が1例であり、PD-L1高発現が良好な治療効果と相関しないことが示された。長期SD (+) 群では、腫瘍内CD8+ T細胞数が少ない傾向(中央値34 vs 61、p=0.368)が認められた(Figure 2A)。また、MHC class I発現(中央値40 vs 90、p=0.280)、FOXP3+腫瘍域(中央値5 vs 20、p=0.277)、FOXP3+間質(中央値56 vs 290、p=0.145)、CD204+間質(中央値748 vs 1049、p=0.481)も長期SD (+) 群で低値傾向を示した。多重蛍光IHC解析では、長期SD (+) 群の腫瘍域において、CD4+ T細胞(1.03E-08 vs 9.51E-07, p=0.0092)、CD8+ T細胞(1.69E-06 vs 1.12E-05, p=0.030)、CD204+マクロファージ(5.91E-06 vs 2.98E-05, p=0.015)、およびFOXP3+ Treg(1.04E-08 vs 4.31E-07, p=0.0095)のいずれも有意に少ないことが示された。これは、低免疫浸潤型の腫瘍が良好な効果と関連する可能性を示唆する。間質領域では、CD4+ T細胞(6.87E-07 vs 4.2E-06, p=0.013)で有意差が認められたが、CD8+ T細胞(8.4E-06 vs 9.58E-06, p=0.45)、CD204+マクロファージ(3.95E-05 vs 4.81E-05, p=0.39)、FoxP3+ Treg(6.24E-08 vs 7.41E-07, p=0.054)では有意差はなかった。

末梢血PBMC免疫サブセット解析: 治療前のPBMC数とPFSとの関係を評価した結果、治療前のCD4+およびCD8+メモリーT細胞数が多いほどPFSが延長する傾向が認められた(Figure 2B)。ニボルマブ投与後(C3D1/前治療比)において、CD80+、Ki67+ナイーブ/メモリーT細胞、CD80+、PD-L1+単球、骨髄由来抑制細胞(MDSC)の増加がPFS延長と正の相関を示した(Figure S1)。irAE (+) 群では、irAE (-) 群と比較して、治療前のCD4+およびCD8+エフェクターT細胞比が高い傾向があり(p<0.05)、治療前の免疫活性化状態がirAE発症を規定する可能性が示唆された(Figure 3C)。

irAEと有効性の関係: irAE (+) 群のmPFSは6.7ヶ月であったのに対し、irAE (-) 群では3.8ヶ月であったが、この差は統計的に有意ではなかった(HR 0.56, 95% CI 0.17–1.83, p=0.306)(Figure 3A)。irAE (+) 群ではニボルマブ血中濃度が低い傾向が認められた(Figure 3B)。サイトカイン解析では、大多数の患者で炎症性サイトカイン(IFN-γ、IL-2、IL-7、TNF-α、MIP1α、MIP1β)が低値であり、全体的な免疫反応が弱いことが示された(Figure S2)。しかし、irAE早期発症例(患者#4、#10)ではIL-10が特徴的に上昇しており、irAEと炎症性サイトカイン抑制の代償的メカニズムが示唆された。

免疫薬理ゲノミクス(PGx)SNV解析: 非同義SNVであるITGAX(CD11c遺伝子、rs2230429)のヘテロ変異群でPFSが延長する傾向が認められた(HR 0.27, 95% CI 0.069–1.12, p=0.067)。また、PDCD1(PD-1遺伝子、rs2227982)のホモ変異群でもPFSが延長する傾向が示された(HR 0.20, 95% CI 0.039–1.02, p=0.053)(Figure S3)。irAEとの関連では、IL7R(rs6897932: OR=8.98, 95% CI 1.25–88.1, p=0.029;rs1494555: OR=6.00, 95% CI 1.00–50.6, p=0.049)およびPDCD1(rs2227982: OR=6.00, 95% CI 1.00–50.6, p=0.049)のSNVが有意に関連した。HLA型は治療効果または有害事象のいずれの予測因子にもならなかった。これらの結果は、PD-1/PDCD1およびCD11c/ITGAXに関わる宿主遺伝子多型が、ニボルマブ治療効果とirAEリスクの個体差を部分的に規定する可能性を示唆する。

考察/結論

本研究は、PRIMER試験に基づき、胸腺癌に対するニボルマブ治療における初の包括的な免疫バイオマーカー解析を実施した。従来の免疫療法予測バイオマーカーであるPD-L1発現、TILs(腫瘍浸潤リンパ球)、TMBは胸腺癌においては有用な予測因子とはならず、長期SD (+) 症例では腫瘍内の免疫細胞浸潤が少ない(低免疫原性)傾向が認められた。これは、これまでの報告と異なる所見であり、胸腺癌の免疫学的特性が他の癌種とは異なる可能性を示唆する。

本研究で初めて、長期SD (+) 症例では治療前のナイーブ/メモリーT細胞数が豊富であり、ニボルマブ投与後の免疫プライミング誘導が良好な効果と関連することが示された。この新規の知見は、胸腺癌における免疫応答の理解を深める上で重要である。胸腺癌の低免疫原性は、乳癌や悪性胸膜中皮腫と類似しており、これらの癌種ではPD-L1抗体(アテゾリズマブ)の有効性や、ニボルマブとイピリムマブの併用療法(CheckMate 743試験)が有効であることが報告されている Baas et al. Lancet 2021。このことから、胸腺癌においても複合免疫チェックポイント阻害療法の臨床応用が期待される。現在、ニボルマブとイピリムマブの併用療法を評価するNIVOTHYM試験(NCT03134118)が進行中であり、ニボルマブ単剤コホートでは客観的奏効率(ORR)が12%と比較的低かったことから、併用療法による治療効果の向上が期待される。

免疫薬理ゲノミクス解析では、ITGAX(CD11c)遺伝子の非同義SNV(rs2230429)のヘテロ変異群でPFS延長傾向が認められた。ITGAXは樹状細胞のインテグリンαXをコードしており、rs2230429のホモ変異は抗原提示機能の低下を介して予後不良につながる可能性が考えられる。また、PDCD1(rs2227982)のホモ変異群でもPFS延長傾向が認められ、このSNVはPFS延長とirAEリスクの両方に関連することが示された。これは、PD-1経路における個体差が治療反応と有害事象の両方を規定する可能性を示唆する。さらに、IL7RのSNV(rs6897932, rs1494555)はirAEと有意に関連しており、IL-7シグナルの異常増強を介してT細胞の過剰増殖・生存を促し、irAEリスクを高めると推察される。これらの知見は、胸腺癌におけるニボルマブ治療の個別化に資するものであり、臨床的意義は大きい。

残された課題として、本研究の症例数が少ない(15例)というlimitationがある。特に、PBMC解析は9例のみで実施され、長期SD (+) の3例中1例しかPBMC解析が行えなかったため、長期SD (+) と (-) の明確な区別が困難であった。また、長期SDは臨床的利益とみなされるものの、部分奏効や完全奏効とは異なる免疫応答を示す可能性がある。本研究で患者分類に用いた長期SDやirAEは、PRIMER試験の主要評価項目ではなく、薬剤活性の既知のマーカーでもない点に留意する必要がある。今後の検討課題として、より大規模なコホートでの検証、および腫瘍細胞の遺伝子解析(全エクソームシーケンス、RNAシーケンス、メチル化アレイ、コピー数解析など)と免疫バイオマーカーの統合解析が挙げられる。過去の報告では、胸腺癌のゲノム解析が実施されており Saito et al. Carcinogenesis 2017、既知の頻繁な遺伝子異常がニボルマブの治療効果と関連しないことが示されている Radovich et al. CancerCell 2018。本研究のデータは他のICIには一般化できないが、胸腺癌の治療戦略には複合免疫チェックポイント阻害による免疫系の活性化が必要である可能性を示唆する。

方法

PRIMER試験に登録された15例(国内5施設、全例日本人、男性12例、年齢中央値55歳、扁平上皮癌13例)を対象とした。腫瘍組織の解析には、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織の5 µm厚切片を用いた。単染色IHCでは、PD-L1(クローン28-8)、CD8(4B11)、FOXP3(236A/E7)、CD204(SRA-06)、PD-1(NAT105)、VEGFR2(FLK-1)、MHC class I(EMR8-5)、MHC class II(CR3/43)、CD20(L26)に対する抗体を使用し、腫瘍領域および間質領域における陽性免疫細胞数を1 mm²あたりで視覚的に定量した。多重蛍光IHC(mFIHC)は、AKOYA Biosciences社のOpal Kitを用いて実施された。mFIHCでは、CD4、CD8、CD204、FoxP3に対する抗体を用いて、各免疫細胞サブセットの分布と密度を評価した。画像解析プログラムInform(AKOYA Biosciences)により、腫瘍組織を癌細胞領域と間質領域にセグメント化し、特定の表現型を持つ免疫細胞を同定した。

末梢血からは、ベースライン、C3D1(Cycle 3 Day 1)、C5D1、C9D1、および病勢進行(PD)時にPBMCを単離し(9例で可能)、フローサイトメトリーにより免疫細胞サブセット解析を実施した。これには、CD4+およびCD8+ T細胞、Tregのナイーブ、セントラルメモリー、エフェクターメモリー、エフェクター比率などが含まれる。血清ニボルマブ濃度は、LC-MS/MS法を用いて測定された。血清サイトカインは、IFN-γ、IL-1、IL-7、TNF-α、MIP-1α、MIP-1β、IL-6、IL-17A、IL-5、IL-10、IL-12p40、IL-1β、IL-8、IP-10、MCP-1の15種類をMultiplex Human Cytokine/Chemokine Panel(Millipore Corporation)で多重測定した。全血DNAからは、NCC_Immuno_PGx Panel(117遺伝子)を用いてゲルムライン一塩基多型(SNV)解析を実施した。

統計解析には、長期SD群と非長期SD群、およびirAE陽性群と陰性群間の因子比較にMann-Whitney検定を用いた。ImmunoPGx解析で得られたSNVおよびコピー数多型(CNV)候補と長期SD、irAEとの関連解析にはFisher正確検定を適用した。無増悪生存期間(PFS)の比較には、Kaplan-Meier法によるログランク検定を用いた。本研究は、ヘルシンキ宣言の倫理的ガイドラインに従い、国立がん研究センター中央病院(NCCH 2016-145)の承認を得て実施された(UMIN000022007)。