- 著者: Fujiwara M, Yotsukura M, Yoshida Y, Nakagawa K, Watanabe SI
- Corresponding author: M. Yotsukura (National Cancer Center Hospital, Tokyo, Japan)
- 雑誌: Annals of Surgical Oncology
- 発行年: 2024
- Epub日: 2024-05-29
- Article種別: Original Article
- PMID: 38811497
背景
肺SCLC (小細胞肺癌) とLCNEC (大細胞神経内分泌癌) は、いずれも高悪性度神経内分泌癌として分類されるが、両者には生物学的・分子学的差異が存在する。SCLCはTP53/RB1共変異を特徴とし、化学療法への感受性が高いことが知られている一方、LCNECは分子サブタイプ(SCLCライク型とNSCLCライク型)が存在し、化学療法感受性が異なることが報告されている。例えば、LCNECにおける化学療法の有効性は、RB1変異の有無によって異なることがDerks et al. ClinCancerRes 2018によって示唆されている。また、LCNECのゲノムサブタイプが治療アウトカムを予測する可能性もZhuo et al. ClinCancerRes 2020により報告されている。両者の臨床的・病理学的差異を長期フォローアップデータに基づき体系的に比較した研究は限られており、特に術後補助化学療法の意義についての比較検討が不足している。SCLCに対する補助化学療法は確立されているものの、LCNECに対する最適な補助療法は依然としてcontroversialな状況である。さらに、Derks et al. EurRespirJ 2016はLCNECの臨床的特徴を包括的に報告しているが、SCLCとの直接比較における長期的な治療効果の差異については未解明な点が多い。本研究では、これらの課題が残されている領域に対して、長期追跡データを用いてSCLCとLCNECの臨床的特徴と術後補助化学療法の有効性を比較検討することを目的とする。
目的
手術切除されたSCLCとLCNECの臨床病理学的特徴、術後再発パターン、生存転帰を比較し、両者の差異を明らかにすること。特に、長期追跡データに基づき、術後補助化学療法 (adjuvant chemotherapy) の有効性についても検討することを目的とする。
結果
患者背景と病理学的特徴: SCLC群とLCNEC群間で、年齢、性別、喫煙歴に大きな差は認められなかった。しかし、女性の割合はSCLC群で20.2%とLCNEC群の8.2%と比較して有意に高かった(p=0.02)。血清Pro-GRP (プロガストリン放出ペプチド) 値はSCLC群で平均88.8±116.5 pg/mLとLCNEC群の平均57.3±55.6 pg/mLと比較して有意に高値を示した(p=0.01)。平均腫瘍径はLCNEC群で3.5±2.1 cmとSCLC群の2.5±1.3 cmより有意に大きかった(p<0.01)。補助化学療法の施行割合はSCLC群で52.5%とLCNEC群の28.9%より有意に高かった(p<0.01)。リンパ管侵襲はLCNEC群で62.9%とSCLC群の46.5%より有意に多く認められた(p=0.02)。術前SCLCと診断されていたのはSCLC群99例中29例(29.3%)のみであった (Table 1)。
生存成績の比較: 全コホートにおける5年OSはSCLC群で53.7%、LCNEC群で62.7%であり、有意差は認められなかった(p=0.133)。しかし、5年RFSはSCLC群で41.7%、LCNEC群で53.9%であり、LCNEC群が有意に良好であった(p=0.046)。CSS (癌特異的生存期間) には両群間で有意差はなかった (Figure 1)。病理病期別にみると、SCLC群では病期によるOSに有意差はなかった(p=0.77)。一方、LCNEC群では病理病期Iの5年OSが74.0%と、病期II以上の53.2%と比較して有意に良好であった(p=0.03)(Figure 2)。
再発パターンと死因: 初回再発部位を比較すると、LCNEC群ではSCLC群と比較して遠隔転移が有意に多かった(p=0.03)。LCNEC群で遠隔転移は36例、SCLC群で29例であった。両群ともに、骨、脳、肝が主要な遠隔再発部位であった (Table 2)。SCLC群では局所再発の割合も高い傾向が認められた。死因の内訳では、SCLC群で原発性肺癌以外の死因がLCNEC群より多かった(p=0.01)。SCLC群では7例が別の悪性腫瘍で死亡し、そのうち3例は二次肺癌であった。LCNEC群では1例のみが別の悪性腫瘍(二次肺癌)で死亡した。また、SCLC群では7例が悪性腫瘍以外の疾患で死亡し、そのうち3例は呼吸器疾患であった (Table 3)。
補助化学療法の効果: SCLC群では、補助化学療法を施行した患者の5年OSが62.4%であり、非施行患者の43.6%と比較して有意に良好であった(p=0.03)。多変量解析においても、補助化学療法の非施行がOS不良の唯一の独立因子であった(HR 1.85, 95% CI 1.01-3.32, p=0.04)(Table 4)。一方、LCNEC群では補助化学療法の有無とOSの間に有意な関連は認められなかった(p=0.81)。補助化学療法施行群の5年OSは55.1%、非施行群は65.3%であった (Figure 3)。LCNEC群における単変量解析では、病理病期Iが良好なOSと関連する唯一の因子であった(p=0.01)。SCLC群では、Brinkman Indexが50 pack-year以上(p=0.03)、リンパ管侵襲あり(p=0.01)、補助化学療法なし(p=0.03)がOS不良と関連した。
考察/結論
本研究は、国立がん研究センター中央病院における完全切除後SCLC・LCNEC 196例を対象とした中規模コホート研究であり、両者の臨床的差異を長期追跡データに基づき明らかにした。全コホートの5年OSに有意差はなかったものの、5年RFSはSCLCよりLCNECで有意に良好であった。
先行研究との違い: これまでの研究ではSCLCとLCNECのOSが類似していると報告されてきたが、本研究ではLCNECの病理病期Iにおける5年OSが74.0%と極めて良好であり、他の病期やSCLCの病期Iと比較して有意に優れていることを示した点で、これまでの報告と異なり、LCNECの早期診断と手術の重要性を強調する。また、SCLCとLCNECの補助化学療法に対する感受性の差は、Kenmotsu et al. JClinOncol 2020のJCOG1205/1206試験のサブグループ解析結果と一致する。
新規性: 本研究で初めて、LCNECでは初回再発部位として遠隔転移がSCLCより有意に高率であるという新規の知見を提示した。これはLCNECの血行性転移傾向を示唆するものであり、今後の治療戦略を考える上で重要な情報である。また、SCLCにおいて術後補助化学療法がOSを改善する唯一の独立因子であることを長期追跡データで示した点も新規性がある。
臨床応用: 本知見は、SCLCとLCNECの術後管理における臨床応用上の重要な含意を持つ。SCLC患者では、病理病期にかかわらず術後補助化学療法がOSを改善する可能性が高く、積極的に考慮すべきである。一方、LCNEC患者、特に病理病期Iの患者では良好な予後が期待できるため、徹底した術前病期診断により早期LCNECを正確に特定することが臨床現場で重要となる。LCNECに対する現行のSCLCベースの補助化学療法レジメンの有効性が限定的である可能性が示唆され、分子サブタイプに基づく個別化アプローチの必要性が高まる。
残された課題: 本研究のlimitationとして、後方視的デザインによる選択バイアスの可能性が挙げられる。また、補助化学療法の適応基準が明確でなかった点も残された課題である。今後の検討課題として、LCNECのSCLCライク型とNSCLCライク型を区別した補助化学療法の効果検討、および新規治療薬(免疫チェックポイント阻害薬等)の術後補助療法への応用が重要である。より大規模な前向き研究が必要である。
方法
本研究は、国立がん研究センター中央病院(NCC)における後方視的コホート研究 (retrospective cohort study) である。2004年から2016年の間に原発性肺癌に対して肺切除術を受けた患者のうち、SCLCまたはLCNECと診断され、完全切除が施行された196例を対象とした。内訳はSCLC 99例、LCNEC 97例である。完全切除は、肉眼的腫瘍組織の全切除と、顕微鏡的検査で腫瘍細胞のない切除断端と定義された。術前病期診断には、全身の造影CT検査が用いられ、必要に応じて脳MRIやPET検査も実施された。リンパ節転移が疑われる場合には、気管支鏡検査または縦隔鏡検査によるリンパ節生検が行われた。切除標本はホルマリン固定後、5mm厚に連続切断され、肉眼的に検査された。その後、選択された組織ブロックから4µm厚の連続切片が作製され、ヘマトキシリン・エオシン染色、エラスチカ・ファンギーソン染色、および必要に応じて神経内分泌マーカーの免疫組織化学染色 (IHC) が行われた。組織病理学的分類はWHO分類第5版に基づき、肺癌病期はUICC第8版TNM分類に従って定義された。
追跡期間中央値はSCLC群で39か月(IQR 21-76)、LCNEC群で56か月(IQR 21-87)であった。生存解析にはKaplan-Meier法を用い、群間差の検定にはログランク検定を実施した。Cox比例ハザードモデル (Cox proportional hazards model) による多変量解析を用いて、術後予後因子を評価した。主要評価項目はOS (全生存期間) とRFS (無再発生存期間) であった。術後補助化学療法は、主にシスプラチン+エトポシドが使用された。初回再発部位(局所または遠隔)の比較も実施された。臨床的および病理学的特徴の比較には、カイ二乗検定、Fisherの正確検定、またはMann-Whitney U検定が用いられた。統計解析にはEZR(Saitama Medical Center, Jichi Medical University, Saitama, Japan)が用いられた。本研究は、国立がん研究センターの倫理委員会により承認された(IRB承認番号2022-274)。