- 著者: Minglei Zhuo, Yanfang Guan, Xue Yang, Lingzhi Hong, Yuqi Wang, Zhongwu Li, Runzhe Chen, Hussein A. Abbas, Lianpeng Chang, Yuhua Gong, Nan Wu, Jia Zhong, Wenting Chen, Hanxiao Chen, Zhi Dong, Xiang Zhu, Jianjie Li, Yuyan Wang, Tongtong An, Meina Wu, Ziping Wang, Jiayin Wang, Emily B. Roarty, Waree Rinsurongkawong, Jeff Lewis, Jack A. Roth, Stephen G. Swisher, J. Jack Lee, John V. Heymach, Ignacio I. Wistuba, Neda Kalhor, Ling Yang, Xin Yi, P. Andrew Futreal, Bonnie S. Glisson, Xuefeng Xia, Jianjun Zhang, Jun Zhao
- Corresponding author: Jianjun Zhang (MD Anderson Cancer Center); Bonnie S. Glisson (MD Anderson Cancer Center); Xuefeng Xia (Geneplus-Beijing Institution); Jun Zhao (Peking University Cancer Hospital & Institute)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2020
- Epub日: 2019-11-06
- Article種別: Original Article
- PMID: 31694833
背景
肺大細胞神経内分泌癌 (large-cell neuroendocrine carcinoma; LCNEC) は全肺癌の約1〜3%を占める高悪性度神経内分泌腫瘍であり、増殖速度が高く予後不良な疾患群を形成している。分子生物学的にはSCLC (small-cell lung cancer) およびNSCLC (non-small cell lung cancer) 双方と共通する特徴を持つことが知られており、Rekhtman らの先行研究 (ClinCancerRes 2016) ではNGS (next-generation sequencing) によってLCNECがRB1/TP53変異を持つSCLC-likeとSTK11/KEAP1変異主体のNSCLC-likeの2亜型に分類できることが示された。さらにDerks らの研究 (ClinCancerRes 2018) では、RB1野生型LCNECがgemcitabine/taxane+白金療法でより良好なPFS・OSを示すとの報告があり、ゲノムサブタイピングが化学療法選択の指針になりうることが示唆されていた。液体生検の基盤として、Bettegowda ら (Bettegowda et al. SciTranslMed 2014) が固形癌患者の75%超でcfDNA変異を検出できることを示し、組織採取困難例でのゲノム情報取得の可能性を拓いた。しかし、進行期LCNECでは生検組織が少量であることが多く、腫瘍組織DNAによるNGSが実施できない場合が多い点が依然として未解決の課題であった。また、ctDNA liquid biopsy を用いたLCNECのゲノムサブタイピングが腫瘍組織と同等の精度で実施可能かどうかは未検証であり、その臨床的予後予測・治療選択への有用性については系統的なエビデンスが存在しなかった。さらに、ゲノムサブタイプ別の一次化学療法への反応の違いを前向き・後向きコホートデータで直接示した研究も手薄な状態であった。これらの3点——(i) cfDNA由来ゲノムサブタイピングの精度的妥当性、(ii) サブタイプ別化学療法選択の直接的エビデンス、(iii) LCNECにおけるcfDNA応用の実現可能性——が、本研究の実施を必要とする知識の空白であった。
目的
本研究の目的は、(1) cfDNA (cell-free DNA) を用いたLCNECのゲノムプロファイリングが腫瘍組織DNA解析の代替となりうるかを検証すること、および (2) RB1 / TP53 変異を基準としたゲノムサブタイピングが一次化学療法レジメンへの反応と生存アウトカムを予測できるかを後向きに評価することであった。特にエトポシド+白金 (SCLC-PE) とNSCLC型レジメン (ペメトレキセド系・gemcitabine/taxane系) の有効性をサブタイプ別に比較することが主要目標として設定された。
結果
変異ランドスケープとcfDNA検出率: BJ-Cohort腫瘍DNA (n=28) の解析では全28例で体細胞変異が同定され、合計205バリアント (平均7.4件/例) が検出された (Fig. 1A)。最頻変異遺伝子はTP53 (n=21、75%)、RB1 (n=9、32.1%)、SMARCA4 (21.4%)、NOTCH1 (17.9%)、KEAP1 (17.9%) であり、平均非同義変異負荷は13.6 mutations/megabaseであった。cfDNA解析 (n=39) では39例中36例 (92.3%) で体細胞バリアントが検出され、TP53 66.7%・RB1 19.4%・NF1 19.4%・SMARCA4 16.7%と腫瘍DNAに類似したパターンを示した。ペアNGSが可能な23例の解析では、腫瘍DNA特異的変異の19%・cfDNA特異的変異の31%がクローナルであったのに対し、両者で共有される変異の56%がクローナルであり、LCNECのゲノム不均一性が明示された (Fig. 2)。
cfDNAによるゲノムサブタイピングの信頼性: ペア解析可能な20例においてcfDNAと腫瘍DNAのゲノムサブタイピング一致率は90% (18/20) であった。遺伝子別の一致率はRB1 90% (18/20)、TP53 85% (17/20)、PTEN 95% (19/20)、FGFR1 90% (18/20)、FGFR4 95% (19/20) であり、特に頻度の高い癌遺伝子での concordance が高かった。変異が検出されなかった3例 (A03、A09、A11) はいずれも化学療法後に採血されており全例がPRを達成していたことから、cfDNAの変異未検出が治療奏効による腫瘍量減少を反映していた可能性が示唆された。MDA-Cohortでは基準1によりSCLC-like 4例・NSCLC-like 15例と分類された。
SCLC-like LCNECにおける化学療法選択と生存アウトカム: 全63例を基準1で分類すると15例 (24%) がSCLC-like、48例 (76%) がNSCLC-likeであった。SCLC-like群はNSCLC-like群と比較してKi-67増殖指数が有意に高かった (P<0.05)。54例の進行期患者における奏効率はSCLC-like群46.7% (7/15) 対NSCLC-like群25.6% (10/39) とSCLC-like群が高率であったが、OS中央値はSCLC-like群9.8か月 vs NSCLC-like群14.4か月 (P=0.18) とSCLC-like群のほうが短い傾向にあり、高奏効率にもかかわらず予後は不良というSCLC類似のパラドックスが認められた (Fig. 4B)。治療レジメン別では、SCLC-like群においてSCLC-PE (n=15) はNSCLC-PEM (ペメトレキセド+白金、n=6) と比較してDCR 100% vs 20% (P=0.007)、RR 75% vs 0% (P=0.02) と圧倒的に優れ (Fig. 3A)、PFS中央値も8.3か月 vs 2.4か月 (P=0.002) と有意に長かった (Fig. 4A)。OS中央値は9.7か月 vs 4.1か月とSCLC-PE優位ながら統計的有意差には達しなかった (P=0.6)。NSCLC-like群では3レジメン間のDCR・RRに有意差はなかったが、SCLC-PE対NSCLC-GEM/TAXでPFS 5.5か月 vs 2.5か月 (P=0.045)、OS 19.6か月 vs 9.4か月 (P=0.07) とSCLC-PEが数値的に優位であった (Fig. 4C, 4D)。
拡張基準 (criterion 2) による解析と標的治療可能変異: RB1変異/欠失・PTEN欠失/変異・FGFR1/FGFR4変異/増幅・TP53欠失のいずれかを持つ拡張基準2では27例がSCLC-like、36例がNSCLC-likeに再分類された。SCLC-like群 (criterion 2) でもSCLC-PE対NSCLC-PEMの差異は顕著であり、DCR 92% vs 14% (P=0.002)、RR 67% vs 0% (P=0.01)、PFS 8.3か月 vs 2.3か月 (P=0.0002)、OS 10.3か月 vs 5か月 (P=0.07) であった (Fig. 4E, 4F)。さらにNSCLC-like群 (criterion 2) においてもSCLC-PEはNSCLC-GEM/TAXよりPFS 4.1か月 vs 1.9か月 (P=0.03)、OS 16か月 vs 7.3か月 (P=0.08) と有意または境界的に優れており、両基準を通じてSCLC-PEがLCNEC全体で最も有効なレジメンである可能性が支持された。BJ-CohortではEGFR L858R変異 (n=3)、EGFR T790M変異 (n=1)、EML4-ALK融合遺伝子 (n=1) の標的治療可能変異が計5例に検出され、全例がRB1野生型であった。EGFR L858R変異の3例はゲフィチニブまたはエルロチニブ投与で全例PRを達成した。MDA-Cohortでは標的治療可能変異は検出されず、STK11変異がMDA-Cohortで35%と高頻度 (BJ-Cohort 7%、P=0.04) であった (Table 1)。
考察/結論
本研究はLiquid biopsy paradigmの観点から、LCNECという稀少疾患においてcfDNAによるゲノムプロファイリングが腫瘍DNAと90%の高い一致率でゲノムサブタイピングを実現できることを本研究で初めて系統的に示した点で新規な意義を持つ。LCNECは進行期での組織採取が困難な場合が多く、cfDNAに基づく診断戦略は「リアルタイム」かつ低侵襲な代替手段として臨床的意義が高い。また、cfDNAはゲノム進化や治療反応のモニタリングにも活用できる可能性があり、治療中のVAF (variant allele frequency) 変動が画像による奏効判定に先行しうることも本研究で観察された。
既報のDerks ら (ClinCancerRes 2018) はRB1野生型LCNEC においてNSCLC-GEM/TAX療法がSCLC-PEより長い生存をもたらすとしており、本研究の知見と対照的な結論を示している。本研究でRB1状態のみに基づく再解析を行った場合もSCLC-PEがNSCLC-GEM/TAXを上回っており、この相違の原因は患者背景・民族差・放射線照射等の併用療法の違いにある可能性があるが、両研究ともサンプルサイズが小さく (Derks 研究: RB1野生型でGEM/TAX 15例・SCLC-PE 13例、本研究: 11例・17例) 、結論の解釈には極めて慎重を要する。
臨床応用の観点では、診断時のcfDNAパネル検査によるゲノムサブタイピングを一次化学療法選択に組み込む戦略が支持される。特にSCLC-like LCNECに対してはSCLC-PEを優先することが治療効果の観点から合理的であり、組織採取が困難な進行期患者においてcfDNAが有力な代替手段となりうる。一方でNSCLC-like LCNECにおいてもSCLC-PEが全体的に良好な傾向を示したことから、LCNECの大多数でSCLC-PEを基盤レジメンとする戦略も検討に値する。
残された課題として、本研究は後向き小規模コホート (n=63) であり前向きランダム化試験による検証が必要である。免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) はNSCLCおよびSCLCで治療変革をもたらしているが、LCNECにおけるICI有効性や予測バイオマーカー (PD-L1、TMB) の研究は極めて乏しく、今後の検討が不可欠である。また、RB1欠失の大染色体欠失はNGSで検出が困難であり、IHCとの組み合わせ評価の標準化、cfDNAサブタイピングのカットオフ設定と国際コンセンサス形成、アジア人とCaucasian でのゲノムプロファイル差異を踏まえた民族別エビデンスの蓄積も重要な課題として残されている。
方法
2007年1月〜2018年5月の期間に北京大学癌医院 (BJ-Cohort; Beijing cohort、n=44) およびMD Anderson Cancer Center (MDA-Cohort; MD Anderson cohort、n=19) においてLCNECと診断された計63例を対象とした後向き研究である。LCNECの病理診断はWHO 2015年肺腫瘍分類第4版 (Travis et al. JThoracOncol 2015) に基づき独立した肺病理医が確認し、神経内分泌マーカー (CD56、クロモグラニンA、シナプトフィジン) のいずれか1つ以上が腫瘍細胞の10%超で陽性であることを確認した。BJ-Cohortでは腫瘍組織 (FFPE) からDNeasy Blood & Tissue Kit (DNeasy: spin-column DNA isolation kit; Qiagen) でDNA抽出し、179遺伝子のカスタムキャプチャパネルを用いてIllumina HiSeq 3000で解析した (平均深度919×、range 103〜3,008×)。cfDNAはQIAamp Circulating Nucleic Acid Kitで0.5〜2.0 mL血漿から抽出し、同179遺伝子パネルで解析した (平均深度1,325×、range 447〜2,457×)。MDA-Cohortの腫瘍DNAはOncomine Cancer Panel (50〜146遺伝子、Thermo Fisher) またはFoundationOne (315遺伝子) で、cfDNAはGuardant360アッセイ (70遺伝子、平均カバレッジ8,000〜15,000×) で解析した。サブクローン解析にはPyCloneを用いた (20,000 iterations)。ゲノムサブタイピングは基準1: RB1+TP53両方の変異/欠失をSCLC-like、それ以外をNSCLC-likeと定義、および基準2: RB1変異/欠失・PTEN欠失/変異・FGFR1/FGFR4変異/増幅・TP53欠失のいずれかを持つ場合をSCLC-likeとする拡張基準の両方で分類した。治療反応はRECIST ver. 1.1 (Eisenhauer et al. EurJCancer 2009) で評価し、生存曲線はKaplan-Meier法で作成、群間比較はlog-rank検定を用いた。奏効率・疾患制御率の比較にはc2検定またはFisher exact検定、多変量解析にはSPSS v.23.0を使用した。統計的有意水準は両側P<0.05と定義した。生存解析はstage IIIBおよびIVで一次化学療法を受けた54例に限定した。