- 著者: Derks JL, Leblay N, Thunnissen E, van Suylen RJ, den Bakker M, Groen HJM, Smit EF, Damhuis R, van den Broek EC, Chabrier A, Foll M, McKay JD, Fernandez-Cuesta L, Speel EJM, Dingemans AMC
- Corresponding author: A.-M.C. Dingemans (Maastricht University Medical Centre, Maastricht, the Netherlands); L. Fernandez-Cuesta (IARC-WHO, Lyon, France)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2018
- Epub日: 2017-10-24
- Article種別: Original Article
- PMID: 29066508
背景
肺大細胞神経内分泌癌 (LCNEC) に対する最適な化学療法選択は長年にわたり議論が続いていた。ASCO (American Society of Clinical Oncology) および各国のガイドラインは、小細胞肺癌 (SCLC) 型化学療法であるプラチナ+エトポシド (SCLC-PE) を優先的に推奨する傾向にある。しかし、Derks et al. EurRespirJ 2016 らによるオランダのレジストリ研究では、非小細胞肺癌 (NSCLC) 型化学療法 (特にゲムシタビン/タキサン系薬剤を含むNSCLC-GEM/TAX) がSCLC-PEよりも良好な生存成績を示す可能性が示唆されていた。この治療成績の差異の背景にある分子メカニズムは未解明であった。
近年、次世代シーケンシング (NGS) 技術の進展により、LCNECが分子レベルで異なるサブタイプに分類される可能性が浮上した。例えば、Rekhtman et al. ClinCancerRes 2016 らは、LCNECにRB1変異型 (SCLC-like) とSTK11/KEAP1変異型 (NSCLC-like) の2つの主要な分子サブタイプが存在することを報告した。また、Miyoshi et al. ClinCancerRes 2017 も同様の分子プロファイルを報告している。しかし、これらの分子サブタイプが実際の化学療法に対する反応性や治療成績とどのように関連するのかについては、大規模なコホートを用いた検証が不足しており、分子サブタイピングの臨床的有用性を確立するためのエビデンスが求められていた。特に、RB1遺伝子変異やその産物であるRB1タンパク質 (pRb) の発現状態が、LCNEC患者の化学療法選択における予測バイオマーカーとして機能するかどうかは不明であった。
目的
本研究の目的は、肺大細胞神経内分泌癌 (LCNEC) 患者において、RB1遺伝子変異、RB1タンパク質発現 (pRb IHC)、およびP16タンパク質 (p16) 発現が、異なる化学療法レジメン (NSCLC-GEM/TAX、SCLC-PE、NSCLC-PEM) の治療成績を予測するバイオマーカーとして機能するかどうかを後方視的に検証することである。
結果
遺伝子変異プロファイルとIHC所見: NGS解析を実施したn=79例のLCNECにおいて、TP53変異が85% (n=67)、RB1変異が47% (n=37)、KEAP1変異が18% (n=14)、STK11変異が10% (n=8) に検出された (Figure 2)。RB1変異はTP53変異と92%の症例で共変異しており、STK11変異とは完全に相互排他的であった (p=0.006)。IHC解析では、n=109例中72% (n=78) でRB1タンパク質消失 (H-score <50) が認められ、これはRB1遺伝子変異率 (47%) を大幅に上回る結果であった。p16発現はRB1変異例で高値 (中央値H-score 300)、RB1野生型で低値 (中央値180) の逆相関を示した。RB1野生型でRB1タンパク質消失を認めたn=18例中、組織が利用可能なn=16例でFISH解析を行ったが、ホモ接合性欠失は検出されず、他の不活化メカニズムが示唆された。
RB1野生型LCNECにおける化学療法別OS: RB1野生型LCNEC患者 (n=42) において、NSCLC-GEM/TAX治療群の中央値OSは9.6ヶ月 (95%CI 7.7-11.6ヶ月) であり、SCLC-PE治療群の5.8ヶ月 (95%CI 5.5-6.1ヶ月) と比較して有意に長かった (p=0.026)。また、NSCLC-PEM治療群の6.7ヶ月 (95%CI 5.1-8.2ヶ月) よりも有意に良好な成績を示した (p=0.039) (Figure 3A)。Cox回帰分析では、NSCLC-GEM/TAX対SCLC-PEのハザード比 (HR) は2.37 (95%CI 1.09-5.19) であり、RB1野生型における有意差が確認された。一方、RB1変異型LCNEC患者 (n=37) では、化学療法レジメン間にOSの有意な差は認められなかった (Figure 3B)。
pRb IHC発現保持LCNECにおける化学療法別OS: pRb発現保持 (H-score ≥50、n=31) LCNEC患者群では、NSCLC-GEM/TAX治療群の中央値OSが9.6ヶ月 (95%CI 7.4-11.8ヶ月) であり、SCLC-PE治療群の1.9ヶ月 (95%CI 1.7-2.1ヶ月) と比較して著明に良好であった (p=0.001)。また、NSCLC-PEM治療群の4.8ヶ月 (95%CI 3.9-5.7ヶ月) よりも有意に優れた成績を示した (p=0.007) (Figure 3C)。Cox回帰分析における交互作用検定により、pRb発現保持はNSCLC-GEM/TAX vs SCLC-PEの予測バイオマーカーとして確立された (HR 4.96、95%CI 1.79-13.74、p_interaction=0.002) (Figure 4)。pRb消失例 (H-score <50) では、化学療法レジメン間の有意差は認められなかった (Figure 3D)。
PFS解析: RB1野生型LCNEC患者のNSCLC-GEM/TAX群のPFSは6.1ヶ月 (95%CI 4.2-8.0ヶ月) であり、SCLC-PE群の5.7ヶ月 (95%CI 3.9-7.6ヶ月) より有意に長かった (p=0.019)。同様に、pRb発現保持LCNEC患者においても、NSCLC-GEM/TAX群のPFS (5.5ヶ月、95%CI 1.9-9.0ヶ月) はSCLC-PE群の1.7ヶ月 (95%CI 0.0-4.8ヶ月) より有意に良好であった (p=0.023)。これらの結果は、OSと同様にRB1状態がPFSにも影響を与えることを示している。
p16 IHCの付加価値と予後的価値: P16タンパク質発現 (H-score <50) もNSCLC-GEM/TAX vs SCLC-PEのOSにおいて予測的価値を示したが (p=0.028)、PFSでは有意差は認められなかった。RB1とp16の組み合わせ評価は、単独のRB1評価に対する付加価値は認められなかった。また、TP53、RB1、STK11、KEAP1の遺伝子変異、ならびにRB1およびp16のH-scoreのいずれも、独立した予後因子としての有意性は認められなかった (p≥0.16) (Figure 5)。このことは、RB1の変異や発現状態が治療反応性を予測するバイオマーカーとしては有用であるものの、疾患の予後自体を予測する因子ではないことを示唆している。
考察/結論
本研究は、肺大細胞神経内分泌癌 (LCNEC) の分子サブタイプが化学療法に対する反応性を予測することを世界で初めて後方視的に実証した、臨床的に極めて重要な研究である。
先行研究との違い: これまでの研究ではLCNECの分子サブタイプが提唱されていたものの、実際の化学療法反応性との直接的な関連は不明であった。本研究は、Rekhtman et al. ClinCancerRes 2016 や Miyoshi et al. ClinCancerRes 2017 らが提唱した分子サブタイプが、NSCLC型化学療法とSCLC型化学療法の選択において明確な予測的価値を持つことを、大規模な患者コホートを用いて初めて示した点で、これまでの報告と対照的な知見を提供する。
新規性: 本研究で初めて、RB1野生型LCNEC (NSCLC-likeサブタイプ) に対しては、NSCLC型化学療法 (特にゲムシタビン/タキサン系薬剤を含む) がSCLC-PE型化学療法よりも有意に優れた生存成績を示すことを明らかにした。さらに、pRbタンパク質発現保持がその強力な予測バイオマーカーとなることを新規に確立した。特に重要な発見は、pRb IHCによるタンパク質消失率 (72%) が、RB1遺伝子変異率 (47%) を大幅に上回ることであり、IHCがNGSよりも感度の高いサブタイプ判定法として機能する可能性を示唆している。この知見は、高価なNGSが実施できない施設でも、比較的安価で簡便なpRb IHC検査によってLCNECの化学療法選択が可能となることを意味し、実臨床への即時応用性が高い。
臨床応用: 本研究の知見は、LCNECの治療戦略に直接的な臨床的意義を持つ。RB1野生型またはpRb発現保持のLCNEC患者に対しては、NSCLC-GEM/TAX療法を第一選択とすべきであるという強力なエビデンスを提供する。これは、従来のSCLC-PE療法を優先するガイドラインに対する重要な再考を促すものであり、個別化医療の推進に貢献する。一方、pRb消失型LCNEC (SCLC-likeサブタイプ) では、SCLC-PEとNSCLC-GEM/TAXの間で治療成績に有意差が認められなかった。このサブタイプに対する最適な化学療法レジメンの確立は、今後の臨床応用における残された課題である。また、本研究でペメトレキセド (NSCLC-PEM) がすべてのサブタイプで他レジメンより劣る傾向を示したことは、チミジル酸合成酵素 (TS) の過剰発現によるペメトレキセド抵抗性という既知の機序と一致しており、LCNECにおけるペメトレキセドの使用を再検討すべき臨床的含意を持つ。
残された課題: 本研究は後方視的デザインであり、症例数に制限がある点がlimitationとして挙げられる。これらの結果を確固たるものとするためには、RB1/pRb評価に基づく化学療法層別化を前向きに検証する大規模なランダム化比較臨床試験 (例: SYNERGY-NET試験) が今後の検討課題として必要である。また、LCNECとSCLCの鑑別診断が困難な場合があるため、生検検体におけるRB1/p16 IHCが、高悪性度神経内分泌癌の鑑別診断に役立つかどうかの検証も今後の研究方向性として重要である。
方法
本研究は、オランダ癌登録 (Netherlands Cancer Registry) およびオランダ病理学登録 (PALGA, the nationwide registry of pathology in the Netherlands) のデータを活用した後方視的集団ベース研究 (retrospective population-based study) として実施された。2003年から2012年の期間に診断されたStage IVのLCNEC患者を対象とした。まず、232例のLCNECまたはLCNEC疑い症例から、3名の専門病理医によるパネルコンセンサス診断により148例のLCNECが確定された (Figure 1)。
分子解析の対象として、NGS解析可能なn=79例とIHC解析可能なn=109例が選定された。NGS解析では、TP53、RB1、STK11、KEAP1の4遺伝子のコーディング領域をターゲットとしたシーケンスが実施された。シーケンスデータは、SAMtools (Li et al. Bioinformatics 2009) および ANNOVAR (Wang et al. NucleicAcidsRes 2010) を用いて解析された。IHC解析では、RB1タンパク質 (4H1および13A10抗体) およびP16タンパク質 (p16、JC8抗体) の発現が評価され、H-score (0-300) が算出された。RB1 IHCのH-score ≥50を発現保持、H-score <50を発現消失と定義した。
患者は、初回化学療法レジメンに基づいて以下の3群に分類された: NSCLC-GEM/TAX (ゲムシタビン、ドセタキセル、パクリタキセルを含むプラチナ併用療法)、SCLC-PE (エトポシドを含むプラチナ併用療法)、NSCLC-PEM (ペメトレキセドを含むプラチナ併用療法)。NSCLC-PEMは、神経内分泌癌における既報の抵抗性を考慮し、他のNSCLCレジメンとは別に分類された。主要評価項目である全生存期間 (OS) および無増悪生存期間 (PFS) は、Kaplan-Meier法を用いて推定され、ログランク検定により比較された。RB1変異状態およびRB1 IHC発現状態の化学療法反応性に対する予測的価値を評価するため、Cox回帰モデルにマーカーと化学療法治療の交互作用項を含めて解析した。P値 < 0.05を有意と判断した。本研究は後方視的コホート研究であり、特定のNCT試験IDは付与されていない。