• 著者: Derks JL, Hendriks LE, Buikhuisen WA, Groen HJM, Thunnissen E, van Suylen RJ, Houben R, Damhuis RA, Speel EJM, Dingemans AMC
  • Corresponding author: A.-M.C. Dingemans (Maastricht University Medical Centre, Maastricht, The Netherlands)
  • 雑誌: European Respiratory Journal
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2015-11-05
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 26541538

背景

肺大細胞神経内分泌癌 (LCNEC) は稀少疾患であり、その臨床的特徴に関するデータは限られている。LCNECは高悪性度癌であり、神経内分泌増殖パターンと免疫組織化学的神経内分泌分化を示す。2004年のWHO分類では、LCNECは肺大細胞癌 (LCC) のサブクラスターとして神経内分泌腫瘍 (NET) スペクトラムの一部と見なされていたが、2015年の第4版WHO分類では、LCNECはLCCの章からNETの章へと移動された。この分類変更により、LCNECの診断機会が増加することが予想された。

これまでの研究では、LCNECの発生率は外科的切除症例の3%と報告されており (Takei et al. J Thorac Cardiovasc Surg 2002)、米国癌登録 (SEER) やオランダ癌登録 (NCR) のデータからは、その発生率が上昇傾向にあることが示唆されていた (Varlotto et al. J Thorac Oncol 2011, Korse et al. Eur J Cancer 2013)。LCNECは神経内分泌的特徴を示すため、小細胞肺癌 (SCLC) と同様に治療すべきであるという意見がある (Sun et al. Lung Cancer 2012, Rossi et al. J Clin Oncol 2005)。しかし、LCNECの最適な治療法を調査したランダム化比較試験は実施されておらず、LCNECの臨床像が非小細胞肺癌 (NSCLC) とSCLCのどちらに類似するのかは不明であった。

先行研究では、切除されたStage I-IIIのLCNECとSCLCの予後が類似すると報告されている (Asamura et al. J Clin Oncol 2006, Rindi et al. Endocr Relat Cancer 2014)。しかし、SEER登録では、早期のLCNECの予後はLCCに類似し、SCLCよりも良好であると結論付けられている (Varlotto et al. J Thorac Oncol 2011)。進行LCNECに関する小規模な研究では、LCNECの全生存期間 (OS) がSCLCと同様であったと報告されている (Shimada et al. Lung Cancer 2012, Igawa et al. Lung Cancer 2010)。また、欧州の第II相試験では、進行LCNEC患者のOSは進行SCLCの試験結果と同様であったが (LeTreut et al. AnnOncol 2013)、日本の第II相試験では、LCNECの化学療法に対する奏効はSCLCよりも劣っていた (Niho et al. JThoracOncol 2013)。

このように、LCNECの臨床像がSCLCとNSCLCのどちらに類似するのか、また最適な治療法が何であるかは、既存のデータからは明確でなく、大規模集団ベースでのLCNECの臨床的特徴、転移パターン、生存成績、および治療実態に関するデータが不足していた。単施設の後方視的研究では症例数や代表性に制限があり、LCNECが実臨床でどのように認識・管理されているかは未解明であった。

目的

オランダ癌登録 (Netherlands Cancer Registry: NCR) のデータを用いて、集団ベースでのLCNECの臨床的特徴、転移パターン、全生存期間 (OS)、および初回治療の実態を、SCLC、扁平上皮癌 (SqCC)、腺癌 (AdC) と比較検討すること。これにより、LCNECの臨床的位置づけを明確化することを目的とする。

結果

LCNECの発生頻度と経時的変化: 2003年から2012年の間にNCRに登録されたLCNEC、SCLC、SqCC、AdCの患者総数は59283例であり、そのうちLCNECは999例 (1.7%) であった。研究対象となったLCNEC患者はn=952例であり、全肺癌に占めるLCNECの割合は0.9%であった。LCNECの年間発生数は、2003年の56例から2012年には143例へと255%増加した (Figure 2a, b)。Stage IVと診断されるLCNECの割合も経時的に有意に増加し、2003-2007年の45.0% (n=144) から2008年以降の58.5% (n=370) へと増加した (p<0.001) (Figure 2c)。

患者背景とNステージ分布: LCNEC患者n=952例のうち、男性は62.5% (595例)、平均年齢は65.5±10.5歳であった (Table 1)。TNM病期分布は、Stage IVが54.0% (514例)、Stage Iが17.0% (162例)、Stage IIが9.5% (90例)、Stage IIIが19.5% (186例) であった。N2-N3リンパ節転移の割合は、LCNECで52% (497例) であり、SCLCの79% (9300例) と比較して有意に低く (p<0.001)、SqCCの45% (8728例) およびAdCの49% (11993例) に近い傾向を示した。Stage IV患者に限定した場合でも、LCNECのN2-N3リンパ節転移は69%であり、SCLCの80%より有意に低かった (p<0.001)。

転移パターン (Stage IV): Stage IV LCNEC患者 (n=383) における転移部位の頻度は、肝臓47% (180例)、骨32% (122例)、脳23% (88例)、副腎19% (73例)、肺14% (54例)、胸膜7% (27例)、胸腔外リンパ節16% (61例) であった (Figure 3)。LCNECはSCLCと比較して肝転移が有意に少なく (p<0.05)、脳転移が少ない傾向にあった。SqCCおよびAdCと比較すると、LCNECは胸膜および肺転移が有意に少なく、肝転移および胸腔外リンパ節転移が有意に多かった。脳転移の頻度はSqCCより有意に高く (p<0.05)、AdCと同程度であった。全体として、LCNECの転移パターンはSCLCに近接していた。

生存成績 (OS中央値): 全病期におけるOS中央値 (95% CI) は、LCNECで8.7ヶ月 (7.9-9.6)、SCLCで7.1ヶ月 (6.9-7.3)、SqCCで13.1ヶ月 (12.7-13.4)、AdCで11.8ヶ月 (11.5-12.2) であった (Figure 4a)。Stage別のLCNECのOS中央値は、Stage I-IIで32.4ヶ月 (22.0-42.9)、Stage IIIで12.6ヶ月 (10.3-15.0)、Stage IVで4.0ヶ月 (3.5-4.6) であった (Figure 4b, c, d)。化学療法を受けたStage IV LCNEC患者のOS中央値は7.7ヶ月 (6.8-8.6) であった。多変量調整後OS解析では (Table 2)、Stage I-II LCNECはSCLCよりも有意に良好な予後を示したが (10ヶ月未満: HR 1.85 (95% CI 1.27-2.69); 10ヶ月以上: HR 1.56 (95% CI 1.21-2.00))、SqCCおよびAdCよりも有意に不良であった (10ヶ月以上: SqCCに対するHR 0.65 (95% CI 0.52-0.80); AdCに対するHR 0.64 (95% CI 0.52-0.80))。Stage IVでは、LCNECのOSはSCLCよりも不良であった (HR 0.87 (95% CI 0.79-0.95))。しかし、化学療法を受けた患者に限定した場合、LCNECとSCLCのOSに統計的に有意な差は認められなかった (HR 1.06 (95% CI 0.91-1.23))。

一次治療パターン: Stage I-II LCNEC患者の87.3% (220例) が外科的切除を受けており、これはAdC (82.8%) と同程度であったが、SCLC (19.2%) およびSqCC (69.9%) とは有意に異なった (Table 3)。術後補助化学療法はLCNEC患者の23.2% (51例) に施行され、SCLC (75.4%) より有意に低かったが、SqCC (15.3%) およびAdC (13.5%) よりは高かった。Stage IV LCNEC患者の45.7% (235例) は無治療であり、これはSCLC (27.3%) およびAdC (39.9%) より有意に高く、SqCC (45.0%) と同程度であった。化学療法はLCNEC患者の38.1% (196例) に施行され、SCLC (62.8%) より有意に低かった (p<0.001) が、SqCC (32.4%) より有意に高く (p<0.001)、AdC (39.1%) と同程度であった。

考察/結論

本研究は、オランダ癌登録を用いたLCNECの初の大規模集団ベース臨床研究であり、LCNECの疫学、転移パターン、予後、および治療実態を包括的に記述した。LCNECの発生率は10年間で2.5倍に増加しており、これは病理医の間でのLCNECという疾患概念に対する認識の向上、免疫組織化学的神経内分泌マーカーの使用増加、および生検検体からの分子検査のための十分な組織採取の増加に起因する可能性が考えられる。

先行研究との違い: 本研究は、LCNECがその臨床的特徴において二面性を持つことを明確に示した点で、これまでの単施設研究や小規模コホート研究と対照的である。転移パターンとStage IVの予後はSCLCに類似する一方、早期病期 (Stage I-II) の治療戦略 (手術率および補助化学療法率) はNSCLC (SqCCおよびAdC) に近いことが示された。この「早期はNSCLC型、進行期はSCLC型」という治療実態の乖離は、LCNECの治療ガイドラインが確立されていない時代の実臨床を反映していると考えられる。

新規性: 本研究で初めて、集団ベースのデータを用いてLCNECのN2-N3リンパ節転移の割合がSCLCよりも有意に低いことを示した。これは、LCNECがSCLCほど急速にリンパ節転移しない可能性を示唆する新規な知見であり、早期LCNECがより早期に診断される機会を増やす要因となるかもしれない。また、Stage IV全体での多変量調整後OSがSCLCより不良であるにもかかわらず、化学療法を受けた患者に限定した場合ではOSの差が消失したことは、Stage IV LCNEC患者が適切な化学療法を受けることで生存期間を改善できる可能性、ならびに約半数が無治療であることによる過小治療 (undertreatment) の問題を示唆し、これもこれまで報告されていない重要な所見である。

臨床応用: 本知見は、LCNECの治療戦略を策定する上で重要な臨床的含意を持つ。早期LCNECでは外科的切除が主要な治療法として広く適用されているが、その後の補助化学療法の最適な役割についてはさらなる検討が必要である。進行LCNECにおいては、SCLCと同様に化学療法が有効である可能性が示唆されており、適切な化学療法へのアクセスを改善することが臨床現場での予後改善に繋がる可能性がある。

残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationがある。組織学的に選択された症例のみを対象としたが、登録されたLCNECの一部が誤分類されている可能性は否定できない。また、診断画像モダリティの登録が義務付けられていなかったため、転移パターン解析の感度に影響を与えた可能性がある。喫煙状況や併存疾患、パフォーマンスステータス、体重減少などの予後を左右する可能性のある交絡因子については、NCRに十分なデータが登録されていなかったため調整できなかった。今後の課題として、Stage I-II LCNECにおける術後補助化学療法の意義を前向きに検証すること、およびStage IV疾患における最適化学療法レジメンを確立するための共同構造化された国際的な第III相試験が必要である。

方法

本研究は、NCRから2003年から2012年の間に診断された患者データを抽出した後方視的集団ベース研究である。対象患者は、組織学的に確認されたLCNEC (ICD-Oコード8013、グレードI-IIを除外)、SCLC (8041-8043)、SqCC (8050-8084)、またはAdC (8140-8230, 8250-8550, 8570-8574) の診断を受けた患者とした。AdCのうち神経内分泌分化を示す症例 (ICD-O-3コード8574) は、神経内分泌形態を持たない腫瘍のLCNECコホートへの混入を防ぐため、AdCに分類した。LCC (not otherwise specified) は、免疫組織化学的および分子プロファイリングによる再分類で最大80%がSqCCまたはAdCに分類されるという最近の証拠に基づき、除外した。その他の除外基準は、TNM分類の記録がない、異時性肺癌、または生存データが不完全な症例であった。

臨床的特徴、転移パターン、初回治療、およびOSを評価するため、全病期、Stage I-II、Stage III、Stage IVのサブコホートを構成した。転移部位の解析は、2006年以降に診断され、転移部位の記録が体系的に行われた症例 (97%以上) を対象とした。OS解析はKaplan-Meier法を用いて行い、ログランク検定で比較した。組織型が生存に及ぼす影響を検討するため、年齢、性別、組織型、TNM分類版 (7版対6版)、Nステージ、Tステージを共変量として含む多変量Cox回帰分析モデルを構築した。Stage I-IIでは比例ハザード性の仮定が満たされなかったため、10ヶ月以下と10ヶ月超の期間でハザード比 (HR) を層別化して報告した。初回治療は、Stage I-II、Stage III、Stage IVに分けて各組織型間で比較した。統計解析にはSPSS (バージョン22) を使用し、p値<0.05を統計的に有意と判断した。