- 著者: Hermans BCM, Sanduleanu S, Derks JL, Woodruff H, Hillen LM, Casale R, Mohamed Hoesein F, de Jong E, ten Berge DMHJ, Speel EJM, Lambin P, Gietema HA, Dingemans AMC
- Corresponding author: A.-M.C. Dingemans (Department of Pulmonology, Erasmus Medical Centre, Rotterdam, the Netherlands)
- 雑誌: Lung Cancer
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-09-16
- Article種別: Original Article
- PMID: 32858338
背景
肺大細胞神経内分泌癌 (LCNEC) は、肺癌全体の1〜3%を占める稀な腫瘍タイプであり、その組織学的診断は複雑であるとされている Derks et al. EurRespirJ 2016。近年、LCNECは2つの主要な分子サブタイプに分類されることが確立された。一つはSCLC様 (pathological SCLC-like, pSCLC-like) であり、これはRB1とTP53の共変異および免疫組織化学的 (IHC) pRb発現の喪失を特徴とする。もう一つはNSCLC様 (pNSCLC-like) であり、TP53とSTK11/KEAP1/KRAS遺伝子の共変異およびpRb発現の保持を特徴とする Rekhtman et al. ClinCancerRes 2016、George et al. NatCommun 2018。これらの分子サブタイプは、化学療法に対する反応性を予測する可能性が示唆されており Derks et al. ClinCancerRes 2018、Zhuo et al. ClinCancerRes 2020。
しかし、分子サブタイピングには組織生検または次世代シーケンシング (NGS) やIHCが必要であり、進行LCNEC患者では生検が困難な場合も多い。CT画像がSCLCとNSCLCの区別に寄与することは知られており、SCLCは一般的に主要な縦隔リンパ節浸潤を伴う大きな中心性腫瘤として記述され、NSCLCはしばしば肺の末梢に位置し、リンパ節浸潤が少ないとされる。もしCT画像からLCNECの分子サブタイプを予測できれば、NGS未施行例でも治療選択の補助手段として有用である可能性があった。先行研究では、SCLCとNSCLCの識別において、セマンティック特徴や放射線ゲノミクス (radiomics) シグネチャーが有効であることが報告されている。特にradiomicsは、標準的な医療画像から抽出される定量的な画像特徴を組み合わせた「シグネチャー」を構築することで、SCLCとNSCLCの識別において高い精度を示すことが報告されている (AUC 0.74以上)。しかし、LCNECの分子サブタイプ識別にradiomicsを適用した研究はこれまで報告されておらず、この領域には知識ギャップが残されている。LCNECの分子サブタイプを非侵襲的に識別する手段は未確立であり、臨床現場での治療選択において不足している情報であった。本研究は、この未解明な領域に焦点を当て、CT画像特徴がLCNECの分子サブタイプを識別できるか否かを多角的に評価することを目的とした。
目的
本研究の目的は、Stage IV LCNEC患者のCT画像特徴が、SCLC様 (pRb発現喪失) とNSCLC様 (pRb発現保持) の分子サブタイプを識別できるかを評価することである。この目的を達成するために、以下の3つの独立したアプローチを用いた。
- 肺腫瘍専門医および胸部放射線科医による主観的画像解釈の評価: 経験豊富な専門医がLCNECのCT画像をSCLC様またはNSCLC様と主観的に判定できるか否かを調査する。対照としてSCLCおよびNSCLCのCT画像を混在させ、専門医の識別能力を比較する。
- セマンティック特徴 (定性的CT所見) の系統的評価: LCNECのCT画像から抽出される腫瘍位置、腫瘍径、辺縁特性、壊死、含気気管支徴候などの詳細なセマンティック特徴が、分子サブタイプ間で有意な差を示すか否かを分析する。また、これらの特徴がSCLCやNSCLCの既知の放射線学的特徴とどのように異なるか、あるいは類似するかを検討する。
- 定量的放射線ゲノミクス (radiomics) シグネチャー解析の適用: SCLCとNSCLCを識別するために訓練されたradiomicsシグネチャーが、LCNECのSCLC様とNSCLC様の分子サブタイプを識別できるか否かを評価する。このアプローチでは、多施設データにおけるCT画像プロトコルの異質性を補正するためのComBat統計的調和法を適用し、シグネチャーの頑健性を確保する。
これらのアプローチを通じて、LCNECの分子サブタイプを非侵襲的に予測する可能性を包括的に評価し、臨床的意義を導き出すことを目指した。
結果
主観的判定によるLCNEC分子サブタイプの識別不能: 23名の肺腫瘍専門医と3名の胸部放射線科医による主観的判定の結果、LCNECの分子サブタイプ識別は困難であることが示された (Figure 1)。対照グループでは、専門医はSCLC 2例全例をiSCLC-likeと正確に分類し (PPV 100%)、iNSCLC-likeとした8例中7例がNSCLCであった (PPV 88%)。これはSCLCとNSCLCの主観的識別が概ね正確であることを示唆する。しかし、LCNECグループ (n=44) では、44例中わずか1例のみがiSCLC-likeと判定され、この1例はpSCLC-likeと一致した (PPV 100%)。一方、19例がiNSCLC-likeと判定されたが、そのうちpNSCLC-likeは4例のみであった (PPV 21%)。すなわち、iNSCLC-likeと判定されたLCNECの79%は実際にはpSCLC-like LCNECであった。放射線科医においても同様の傾向が認められ、iNSCLC-likeとした9例中pNSCLC-likeは1例のみであった (PPV 13%)。LCNECの大多数が専門家によってNSCLC-likeと判定される傾向が明らかとなり、主観的判定ではLCNECの分子サブタイプを識別できないことが強く示唆された。
セマンティック特徴によるサブタイプ間の有意差なし: Stage IV LCNEC 50例のセマンティック特徴の評価では、pSCLC-likeとpNSCLC-like LCNEC間で有意差を示す特徴は認められなかった (p>0.05 for all)。LCNECのセマンティック特徴の概要として、末梢型が20例 (40%)、中心型が9例 (18%) であった。腫瘍径は3-7 cmが20例 (40%)、>7 cmが13例 (26%) を占めた。N分類ではN2が17例 (34%)、N3が24例 (48%) とリンパ節転移の頻度が高かった。肝転移は14例 (28%) で認められた。腫瘍辺縁は分葉状が23例 (46%)、鋸歯状が26例 (52%) であった。壊死は10例 (20%)、含気気管支徴候は10例 (20%)、気腫は24例 (48%)、衛星病変は18例 (36%) で観察された (Table 1)。対照的に、対照グループではSCLCがNSCLCより中央型が多い傾向 (3/10 vs 0/10, p=0.040) が確認され、SCLC-NSCLC間の既知の放射線学的差異は再現された。しかし、この差異はLCNECの分子サブタイプには投影されず、多くのLCNECのセマンティック特徴はSCLCとNSCLCの中間値を示し、LCNECが両者の放射線学的特徴を混在して持つ独自の疾患実体であるという所見と一致した (Figure 2)。
RadiomicsシグネチャーによるLCNECサブタイプ識別の限界: SCLCとNSCLCを識別するために訓練されたradiomicsシグネチャーは、訓練セットでAUC 0.84 (95% CI 0.76-0.92) を示し、外部検証セット1 (SCLC vs NSCLC) でもAUC 0.84 (95% CI 0.77-0.92) と高い識別性能を示した (Supplemental figures F-H)。しかし、このシグネチャーをLCNECデータセット (pSCLC-like 28例、pNSCLC-like 8例) に適用したところ、pSCLC-likeとpNSCLC-likeの識別AUCは0.58 (95% CI 0.29-0.86) と、偶然レベル (0.50) とほぼ差がない結果であった。モデルによると、36例のLCNECのうち7例のみがSCLCカテゴリーに分類され、29例 (80%) がNSCLCカテゴリーに分類された。具体的には、pSCLC-like 28例中4例 (14%) がSCLC分類を受け、pNSCLC-like 8例中5例 (63%) がNSCLC分類を受けた。SCLC分類判定のpSCLC-like LCNECへの陽性予測値 (PPV) は57%であり、NSCLC分類判定のpNSCLC-like LCNECへのPPVはわずか17%と低値であった。この結果は、SCLCとNSCLCを高精度で識別するradiomicsシグネチャーがLCNECの分子サブタイプ識別には機能しないことを示しており、pSCLC-like LCNECとSCLC、およびpNSCLC-like LCNECとNSCLCの定量的CT画像特徴が実際には異なることを示唆する重要な知見である (Figure 2)。
3つのアプローチによるLCNEC分子サブタイプ予測の不可能性: 主観的判定、セマンティック特徴、radiomicsシグネチャーという3つの独立したアプローチは、CT画像によるLCNECの分子サブタイプ (SCLC-like vs NSCLC-like) の予測が不可能であるという一致した結論をもたらした。特に、LCNECの大多数 (36例中29例、80%) がradiomicsシグネチャーによってNSCLC分類のスコアを受け、かつ主観的にもNSCLC-likeに見えるにもかかわらず、実際にはpSCLC-like (分子的にSCLC類似) である症例が相当数含まれるという事実は、外見的放射線学的特徴と分子的アイデンティティの乖離というLCNEC固有の複雑性を示している。これらのアプローチを組み合わせても、識別能の改善は得られなかった。
考察/結論
本研究は、LCNECの分子サブタイプがCT画像特徴によっては予測不可能であることを、主観的判定、セマンティック特徴、radiomicsという3つの独立したアプローチで実証した。専門医23名による主観的判定におけるiNSCLC-likeのPPVが21%と低値であったこと、セマンティック特徴の全項目で分子サブタイプ間に有意差が認められなかったこと (p>0.05)、およびradiomicsシグネチャーのAUCが0.58 (95% CI 0.29-0.86) と偶然レベルであったという三様の否定的結果は、この結論の頑健性を支持する。
先行研究との違い: これまでの研究ではSCLCとNSCLCの画像による識別が可能であることが示されてきたが、本研究はLCNECの分子サブタイプ間ではその識別が困難であることを明確に示した点で対照的である。特に、SCLCとNSCLCを高い精度 (AUC 0.84, 95% CI 0.77-0.92) で識別できるradiomicsシグネチャーがLCNECの分子サブタイプ識別には機能しなかったことは、pSCLC-like LCNECとSCLC、およびpNSCLC-like LCNECとNSCLCが定量的画像特徴において異なることを示唆しており、LCNECが組織学的分類とは異なる「ゲノム的に独自の」特性を持つ疾患実体であることを改めて示した。
新規性: 本研究で初めて、LCNECの分子サブタイプを非侵襲的なCT画像のみで識別する試みを包括的に評価し、その限界を明らかにした。特に、専門医の主観的評価、系統的なセマンティック特徴解析、および先進的なradiomics解析という複数の独立したアプローチを統合してLCNECの分子サブタイプ識別能を評価した点は新規である。LCNECの大多数が臨床医やradiomicsによってNSCLC-likeと分類されるにもかかわらず、分子的にはSCLC-likeである症例が相当数含まれるという事実は、これまで報告されていないLCNECの複雑な病態生理学的側面を浮き彫りにした。
臨床応用: 本研究の臨床的含意として最も重要な点は、LCNECの治療において化学療法サブタイプ選択 (NSCLC-GEM/TAX vs SCLC-PE) のために分子サブタイピングが不可欠であり、「CT画像による簡便なサブタイプ推定」という近道は存在しないことが実証されたことである。したがって、組織生検または液体生検によるNGSやpRb IHC評価が、LCNEC患者の適切な治療戦略を決定するために必須であるという実践的指針が本研究から導かれる。この知見は、臨床現場におけるLCNECの診断と治療計画に直接的な影響を与えるものである。
残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在する。第一に、Stage IV LCNECの希少性により、本研究で解析できた症例数は50例と限られており、特にpNSCLC-like LCNECが8例のみであったため、radiomics解析における統計的検出力が低い可能性がある。第二に、2003年から2018年という長期間にわたる多施設データを用いたため、CT撮影プロトコルの違いが大きく、ComBat補正を用いたものの、画像特徴にバイアスが残存する可能性は否定できない。第三に、後方視的デザインであることも限界点である。今後の展望として、cfDNA液体生検によるNGSがLCNEC分子サブタイピングの侵襲的代替手段として有望であり、より多くの症例蓄積とラジオゲノミクスとの統合が今後の課題である。これらの残された課題を克服することで、LCNECの非侵襲的サブタイピングの可能性がさらに探求されるであろう。
方法
本研究は、オランダ国内の後方視的多施設研究として実施された。分子サブタイプが免疫組織化学的 (IHC) pRb染色によりpSCLC-likeまたはpNSCLC-likeに確定されたStage IV LCNEC患者の診断時CT画像を収集した。本研究は、マーストリヒト大学医療センター+の医療倫理委員会 (METC azM/UM 14-4-043) の承認を受け、後方視的かつ匿名での研究であるため、患者のインフォームドコンセントは免除された。
(1) 主観的判定 (Imaging interpretation): IHC pRb情報が利用可能な44例のLCNEC CT画像を用いてデジタルアンケートを作成した。このアンケートは、5年以上の経験を持つオランダ全土の肺腫瘍専門医23名および専任の胸部放射線科医3名に配布された。対照として、SCLC 10例とNSCLC 10例のCT画像をランダムに混在させた。各症例について、参加者は「small cell-like」「non-small cell-like」「判定不能」の3択で判定を求められ、各スキャンのcombination scoreが算出された。分子サブタイプとアンケート結果の関連はFisher’s exact testを用いて検定され、p<0.05を有意とした。
(2) セマンティック特徴評価: IHC pRb状態が利用可能な38例を含むLCNEC 50例のCT画像を、3名の経験豊富な専任胸部放射線科医 (RC, FMH (Mohamed Hoesein), HG) が評価した。評価項目には、腫瘍位置 (中心性/末梢性)、腫瘍径 (<3cm, 3-7cm, >7cm)、T分類、N分類、肝転移の有無、腫瘍辺縁 (平滑、分葉状、鋸歯状)、石灰化、壊死、含気気管支徴候、空洞形成、胸膜浸潤、すりガラス陰影、気腫、衛星病変などが含まれた。各特徴についてcombination scoreが構築され、既知のIHC pRb状態を持つLCNEC 38例において、セマンティック特徴と分子サブタイプとの関連がFisher’s exact testで検定された。対照群 (SCLC 10例、NSCLC 10例) のセマンティック特徴も同様に評価され、LCNECの分子サブタイプとの比較が行われた。
(3) Radiomicsシグネチャー解析: SCLC 48例とNSCLC 76例のCT画像を用いてrandom forestモデルを訓練し、SCLCとNSCLCを識別するradiomicsシグネチャーを構築した。このシグネチャーは、SCLC 58例とNSCLC 40例からなる外部検証セット1で検証された (AUC 0.84, 95% CI 0.77-0.92)。その後、この検証済みシグネチャーをLCNECデータセット (pSCLC-like 28例、pNSCLC-like 8例) に適用し、分子サブタイプ識別のAUCを算出した。CT画像の前処理には、多施設・多期間 (2003-2018年) にわたる撮影プロトコルの違いを補正するため、ComBat統計的調和法が適用された。腫瘍の一次総体積 (GTV) は2名の研究者 (SS, BH) がHGの監督のもとで輪郭を描出し、特徴抽出を行った。非診断的CTスキャンや技術的問題により特徴抽出が困難なスキャンは除外された。