• 著者: Dudnik E, Kareff S, Moskovitz M, Kim C, Liu SV, Lobachov A, Gottfried T, Urban D, Zer A, Rotem O, Onn A, Wollner M, Bar J
  • Corresponding author: Elizabeth Dudnik (Davidoff Cancer Center, Rabin Medical Center, Petah Tikva, Israel)
  • 雑誌: Journal for ImmunoTherapy of Cancer
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-03-01
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33597218

背景

大細胞神経内分泌癌 (large-cell neuroendocrine carcinoma, LCNEC) は肺原発腫瘍の 3% 未満を占める希少かつ高悪性度の腫瘍であり、その侵攻的な挙動と高い再発率が特徴である。2015 年の WHO 分類では、LCNEC は大型細胞による神経内分泌分化(典型的な形態とクロモグラニン、シナプトフィジン、CD56 などの免疫組織化学マーカー陽性)および高有糸分裂率(通常 60 個以上/2 mm²)を特徴とする高グレード神経内分泌腫瘍として、小細胞肺癌 (SCLC) と並んで分類されている Travis et al. JThoracOncol 2015。LCNEC の分子的特性は不均一であり、TP53/RB1 共変異・欠失を有する SCLC-like サブタイプと、TP53 変異のみで RB1 が保存され STK11、KRAS、KEAP1 などの非小細胞肺癌 (NSCLC) 類似変異を有する NSCLC-like サブタイプが同定されている。これらの分子サブタイプは、全身療法に対する反応性に影響を与える可能性が示唆されている。

進行 LCNEC に対する標準治療は歴史的に白金製剤ベースの化学療法であり、奏効率 (ORR) は 12〜52%、無増悪生存期間 (PFS) 中央値は 4.6〜6.1 か月、全生存期間 (OS) 中央値は 10.2〜11.1 か月と報告されている。しかし、これらの治療成績は依然として不十分であり、より効果的な治療法の開発が喫緊の課題である。NSCLC および SCLC においては、PD-1/PD-L1 阻害薬 (immune checkpoint inhibitor, ICI) が複数の第 III 相試験で OS 改善を実証し、標準治療に組み込まれている。例えば、Reck et al. NEnglJMed 2016Gandhi et al. NEnglJMed 2018 など、多くの研究が ICI の有効性を示している。LCNEC も高腫瘍変異負荷 (TMB)、PD-L1 発現、腫瘍浸潤リンパ球を有する症例が一定割合存在するものの、その希少性ゆえに ICI の効果を体系的に評価した前向き試験はこれまで不足していた。

これまでの小規模な報告では、LCNEC に対する ICI としてニボルマブ、ペンブロリズマブ、アテゾリズマブなどを用いた症例報告や小規模コホートでの奏効例が報告されていたが、ICI 投与群と非投与群を比較して OS への影響を評価した研究は存在しなかった。特に、実臨床における大規模なデータを用いた ICI の有効性評価は未解明な点が多かった。LCNEC の分子サブタイプが治療反応性に影響を与える可能性が示唆されているにもかかわらず、ICI の効果と分子サブタイプとの関連性についても十分な検討がなされていなかった。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目的とし、実臨床データを用いて ICI の OS に対する効果を系統的に評価するとともに、分子サブタイプ別の ICI 効果も探索的に検討する必要があった。

目的

本研究の主要目的は、イスラエル 3 施設および米国 1 施設の実臨床コホートを用いて、進行 LCNEC 患者における免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 投与が診断時からの全生存期間 (OS DX) に与える影響を評価することである。副次目的として、ICI 開始時からの OS (OS ICI) および PD-L1 TPS との関係を分析し、さらに分子サブタイプ別の ICI 効果を探索的に検討することを目指した。具体的には、ICI 投与群と非投与群の間で OS DX を比較し、年齢や ECOG PS などの交絡因子を調整した傾向スコアマッチング (PSM) 解析によって、ICI の独立した生存改善効果を検証する。また、利用可能な分子プロファイリングデータに基づき、SCLC-like サブタイプと NSCLC-like サブタイプにおける ICI の効果の違いを明らかにすることも目的とした。これらの解析を通じて、進行 LCNEC 患者に対する ICI の実臨床における有効性に関するエビデンスを確立し、将来の治療戦略の指針を提供することを目指す。

結果

患者背景と群間比較: 対象となった進行 LCNEC 患者 125 例のうち、ICI 投与群 (Group A) は 41 例、非投与群 (Group B) は 84 例であった。全コホートでは、喫煙歴のある患者が 84%、男性が 62% を占め、Ki-67 中央値は 70% であった。ステージ IV が大多数を占め、脳転移は 32%、肝転移は 34% の患者に認められた。Group A は Group B と比較して、年齢中央値が有意に若く (63歳 vs 67.5歳、p=0.003)、ECOG PS 0/1 の割合が有意に高かった (75% vs 44%、p=0.02)。これらのベースライン特性の差異が ICI 選択における選択バイアスを示唆したため、傾向スコアマッチング (PSM) 解析が実施された。ICI の種類はニボルマブ (46%)、ペンブロリズマブ (10%)、アテゾリズマブ (15%)、デュルバルマブ (7%)、ニボルマブ/イピリムマブ併用 (10%)、化学療法+ICI 併用 (12%) であり、大多数 (87.8%) が 2 次治療以降での使用であった (Table 1)。

OS DX 全コホート解析: 中央値追跡期間は Group A で 11.8 か月 (IQR 7.5-17.9)、Group B で 6.0 か月 (IQR 3.1-10.9) であった (p<0.001)。OS DX 中央値は Group A で 12.4 か月 (95% CI 10.7-23.4) であったのに対し、Group B では 6.0 か月 (95% CI 4.7-9.4) であり、Group A が有意に良好な生存期間を示した (log-rank p=0.02)。1 年生存率は Group A で 55%、Group B で 32% であり、2 年生存率はそれぞれ 25% と 18% であった (Figure 1A)。ICI 投与の OS DX に対する非調整ハザード比 (HR) は 0.59 (95% CI 0.38-0.93, p=0.02) であった。

OS DX 傾向スコアマッチング後解析: 年齢と ECOG PS でマッチングされたコホート (n=74、各群 37 例) においても、Group A の OS DX 中央値は 12.5 か月 (95% CI 10.6-25.2) であったのに対し、Group B では 8.4 か月 (95% CI 5.4-16.9) と有意差が維持された (log-rank p=0.046)。マッチング後の 1 年生存率は Group A で 57%、Group B で 33% であり、2 年生存率はそれぞれ 27% と 19% であった (Figure 1B)。この結果は、年齢および ECOG PS による選択バイアスを補正した後も、ICI の生存改善効果が維持されることを強く示唆している。

多変量解析による独立予後因子: 多変量 Cox 比例ハザードモデル解析の結果、ICI 投与 (HR 0.58, 95% CI 0.34-0.98, p=0.04) が OS DX の独立した改善因子として同定された。また、化学療法施行 (HR 0.41, 95% CI 0.23-0.73, p=0.002) も独立した改善因子であった。一方、ECOG PS 2-4 (HR 2.3, 95% CI 1.37-3.84, p=0.002) および肝転移あり (HR 1.70, 95% CI 1.06-2.74, p=0.03) は有意な予後不良因子であった (Table 2)。

ICI 開始からの OS (OS ICI、Group A n=36)**: 化学療法との併用を除いた ICI 単剤または ICI 組合せ投与群 (Group A) における ICI 開始からの OS (OS ICI) 中央値は 11.0 か月 (95% CI 6.1-19.4) であった。1 年生存率は 44%、2 年生存率は 22% であった (Figure 3)。NSCLC-like サブタイプ (n=9) と SCLC-like + 分子分類不明例 (n=27) における OS ICI は、それぞれ 9.3 か月 (95% CI 6.1-NR) と 11.0 か月 (95% CI 3.7-NR) であり、有意差は認められなかった (p=0.65)。

分子サブタイプ別 OS DX の探索的解析: 分子プロファイリングが利用可能であった患者のサブグループ解析では、NSCLC-like サブタイプ (全体で 15 例、ICI 投与群 10 例、非投与群 5 例) において、ICI 投与群の OS DX は数値的に低い傾向が見られた (11.6 か月 vs 18.6 か月、p=0.63)。これに対し、SCLC-like サブタイプまたは分子分類不明の患者群では、ICI 投与群の OS DX が有意に良好であった (12.5 か月 vs 6.0 か月、p=0.02) (Figure 2D)。この結果は、SCLC-like サブタイプにおける ICI の有用性を示唆するものの、NSCLC-like 例数が極めて少なく (n=15)、確定的な結論を導くには至らなかった。

PD-L1 TPS との関係: PD-L1 TPS (Tumor Proportion Score) のデータが利用可能であったのはわずか 28 例 (22%) であり、TPS ≥ 50% の患者は 3 例のみであった。PD-L1 TPS と OS ICI の間に有意な相関は認められなかった。このデータの限界から、PD-L1 が LCNEC における ICI 効果の予測バイオマーカーとして有用であるかどうかは現時点では不明であり、大規模な前向きデータによる検証が不可欠である。

考察/結論

本研究は、進行 LCNEC に対する ICI の OS 改善効果を、選択バイアスを傾向スコアマッチング (PSM) で補正した上で示した、現時点での最大規模の実臨床データとして位置付けられる。ICI 投与群の OS 中央値 12.4 か月は、非投与群の 6.0 か月と比較して約 2 倍であり、PSM 後においても 12.5 か月 vs 8.4 か月 (p=0.046) と統計的有意差が維持された。この OS の差は、LCNEC が希少腫瘍であるために前向き試験が乏しい現状において、ICI を治療選択肢として考慮することを支持する重要な実臨床エビデンスである。

本研究の独自の貢献として、LCNEC における最初の「ICI vs 非 ICI」生存比較(非ランダム化ではあるが PSM 補正付き)を提示した点が挙げられる。以前の報告 (Sabari et al. 2019) では、SCLC-like LCNEC での ICI の客観的奏効率 (ORR) が 43% であったのに対し、NSCLC-like LCNEC では 13% と、分子サブタイプによる差異が示唆されていた。本研究の OS 分析でも、SCLC-like サブタイプで ICI の恩恵が見られる一方、NSCLC-like サブタイプでは不明確という傾向は概ね整合的である。この知見は、治療選択において LCNEC の分子サブタイピング(特に RB1 状態の評価)が重要であることを示唆する新規性のある発見である。

ICI 開始からの OS (OS ICI) 中央値 11.0 か月という結果の解釈には慎重さが要る。本研究における ICI の使用は、大多数が 2 次治療以降であり、1 次治療でのデータは限定的である。また、化学療法との組み合わせ(例: 白金製剤+エトポシド+アテゾリズマブ)が一部含まれており、ICI 単独の効果を分離することは難しい。しかし、この結果は、進行 LCNEC 患者における ICI の臨床的有用性を示唆するものであり、臨床応用への期待が高まる。

本研究の主要な限界として、後ろ向きデザインであること、4 施設での少数例(特に分子サブタイプ分析では n 数が極めて小さい)であること、中央病理診断の欠如(施設間で診断基準に差異がある可能性)が挙げられる。また、分子プロファイリングが Group A と Group B で大きく異なる割合(39% vs 7%)で実施されており、解析バイアスの可能性が残された課題である。さらに、ICI レジメンが多様であり、単一薬剤としての評価ができない点も限界である。

今後の課題として、LCNEC に対する ICI の前向き試験(例: NCT03352934 でのアテゾリズマブ+カルボプラチン+エトポシドの第 II 相試験)の結果が待たれる。また、TMB、PD-L1、分子サブタイプを統合したバイオマーカー選択戦略、および 1 次治療での ICI 組み合わせ(例: 化学療法+ICI)の有効性評価が重要な研究課題である。高悪性度神経内分泌腫瘍の中でも LCNEC が SCLC と異なる治療反応性を持つ可能性を踏まえ、LCNEC に特化したバイオマーカー主導型試験の実施が求められる。

方法

研究デザインと対象患者: 本研究は、4 施設(イスラエル 3 施設、米国 1 施設)の電子データベースを後ろ向きに検索し、2009 年から 2019 年の間に組織学的に確認された肺 LCNEC 患者を同定した多施設コホート研究である。混合型 LCNEC や、LCNEC 成分が優勢な混合型 NSCLC も対象に含めた。進行病期(ステージ IV、または根治的治療が不可能なステージ III、あるいは根治的治療が不可能な再発腫瘍)の患者のみを選択し、Ki-67 < 30% の患者は除外した。これは、小生検において Ki-67 のカットオフ値が、高グレード LCNEC と SCLC を低グレード神経内分泌腫瘍(定型・非定型カルチノイド)から区別するために広く用いられているためである。最終的に、進行 LCNEC 患者 125 例が解析対象となった。

群の定義: 患者は、ICI を受けた患者を Group A (n=41)、ICI を全く受けなかった患者を Group B (n=84) とした。ICI の使用は、化学療法との併用か単剤かを問わず、全ての治療ラインを含んだ。感度解析として、化学療法との併用を除いた ICI 単剤または ICI 組合せ(ニボルマブ+イピリムマブ)のみの患者を Group A* (n=36) と定義した。

エンドポイントとデータ収集: 主要エンドポイントは、進行病診断時からの全生存期間 (OS DX) とした。副次エンドポイントとして、ICI 開始からの OS (OS ICI)、PD-L1 TPS との関係、および分子サブタイプ別の OS 分析を評価した。患者のベースラインデータ(年齢、性別、喫煙歴、ECOG PS、転移部位、Ki-67、分子プロファイリング結果、ICI の種類と投与歴、化学療法歴)は、電子カルテおよび病院の電子医療記録から遡及的に収集された。データ収集のカットオフ日は 2020 年 1 月 13 日であった。

分子サブタイプ分類: 利用可能な次世代シーケンシング (NGS) パネルまたは免疫組織化学 (IHC) データ(RB1 蛋白発現)に基づき、TP53/RB1 共変異・欠失を有する症例を SCLC-like サブタイプ、TP53 変異のみで RB1 が保存されている症例を NSCLC-like サブタイプに分類した。分子プロファイリングは Group A の 39% (n=16)、Group B の 7% (n=6) でのみ実施されており、サブタイプ分析は利用可能例に限定された。

統計解析: OS の推定には Kaplan-Meier 法を用い、群間比較には log-rank 検定を実施した。選択バイアスを調整するため、年齢と ECOG PS を共変量とした最近傍法傾向スコアマッチング (PSM) を実施し、マッチング後のコホート(各群 37 例、計 74 例)での OS DX を評価した。PSM はキャリパー 0.5、1:1 マッチングで行われ、AUC (area under the curve) は 0.67 であった。Cox 比例ハザードモデルによる多変量解析では、年齢、ECOG PS (0-1 vs 2-4)、化学療法施行の有無、肝転移の有無を共変量として組み入れた。単変量解析で統計的に有意な相関を示した因子が多変量モデルに選択された。p 値が 0.05 未満を統計的に有意と判断した。多重比較の補正は行われなかった。