• 著者: B.C.M. Hermans, J.L. Derks, E. Thunnissen, R.J. van Suylen, M.A. den Bakker, H.J.M. Groen, E.F. Smit, R.A. Damhuis, E.C. van den Broek, C.M. Stallinga, G.M. Roemen, E.J.M. Speel, A.-M.C. Dingemans; PALGA-group
  • Corresponding author: A.-M.C. Dingemans (Department of Pulmonary Diseases, Maastricht University Medical Centre, Netherlands)
  • 雑誌: Lung Cancer
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-02-25
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30885341

背景

肺大細胞神経内分泌癌 (LCNEC) は、全肺癌の1〜3%を占める稀少な腫瘍であり、その予後は小細胞肺癌 (SCLC) と同様に不良であると報告されている (Derks et al. 2016)。LCNECは非小細胞肺癌 (NSCLC) の特徴も示すが、神経内分泌形態が必須であり、WHO 2015分類では免疫組織化学 (IHC) による神経内分泌分化の確認が必要とされている。近年、次世代シーケンシング (NGS) 研究により、LCNECにはTP53とRB1の共変異を持つSCLC様のサブタイプと、TP53とSTK11/KEAP1の変異を持つNSCLC様のサブタイプの2つの排他的な分子サブタイプが存在することが同定された (Rekhtman et al. 2016, George et al. 2018)。これらのサブタイプは、予後や治療反応性に関連する可能性が示唆されている。

進行期 (Stage IV) LCNECの治療は緩和的化学療法が選択されるが、その稀少性から大規模なランダム化比較試験は実施されておらず、SCLC型とNSCLC型の両方の化学療法レジメンが適切とされている。先行研究では、RB1野生型 (NSCLC様) のLCNEC患者がNSCLC型レジメン (プラチナ製剤とゲムシタビン、ドセタキセル、またはパクリタキセル) で治療された場合に、SCLC型レジメン (プラチナ製剤とエトポシド) やペメトレキセドを含むNSCLC型レジメンと比較して全生存期間 (OS) が延長することが示された (Derks et al. 2018)。しかし、RB1変異型 (SCLC様) のLCNECでは治療レジメンによるOSの差は認められなかった。

PD-L1発現は、NSCLCにおいて最大60%の腫瘍で報告されており、PD-1/PD-L1標的療法はEGFRまたはALK変異を持たない患者の標準治療となっている (Mu et al. 2011, Chan et al. 2018, Cooper et al. 2015, Gandhi et al. NEnglJMed 2018)。SCLCでは約30%の腫瘍がPD-L1陽性であるが、PD-1/PD-L1標的療法は、現時点では併用療法としてのみ推奨されている (Antonia et al. 2016, Ott et al. 2017, Gadgeel et al. 2018)。LCNECにおけるPD-L1発現に関するデータは乏しく、その発現頻度は9〜32%と報告されているが、予後との関連については相反する結果が示されている (Kasajima et al. 2018, Tsuruoka et al. 2017, Kim et al. 2018, Eichhorn et al. 2018, Takada et al. 2017, Inamura et al. 2017, Wang et al. 2018)。特に、これまでのLCNEC研究の多くは切除された非転移性病変を対象としており、転移性 (Stage IV) LCNECにおけるPD-L1発現に関するデータは不足していた。LCNECは高い腫瘍変異負荷 (最大11変異/Mb) を持つことが報告されており (Rekhtman et al. 2016, George et al. 2018, Derks et al. 2018)、これは免疫療法への反応性に関連する可能性があるため、PD-L1発現の評価は重要である。しかし、転移性LCNECにおけるPD-L1発現の頻度、分子サブタイプとの関連、および予後的意義については未解明な点が多かった。この知識ギャップを埋めることが本研究の重要な課題である。

目的

本研究の目的は、分子プロファイリングされた進行期 (Stage IV) LCNECの大規模コホートにおいて、以下の点を明らかにすることである。(1) PD-L1およびCD8発現の頻度を評価すること。(2) PD-L1およびCD8発現と分子サブタイプ (TP53、RB1、STK11、KEAP1変異) との関連を調査すること。(3) PD-L1およびCD8発現の予後的意義を明らかにすること。特に、転移性LCNECにおけるPD-L1発現の臨床的意義を解明し、将来の免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 治療の可能性を探ることを目指した。本研究は、転移性LCNECにおけるPD-L1発現の包括的な解析を通じて、この稀少がんの治療戦略開発に貢献することを目的としている。

結果

患者特性とPD-L1発現の頻度: PD-L1評価が可能なLCNEC患者は98例であり、そのうち93例でCD8評価も可能であった (Table 1)。患者の年齢中央値は64歳 (範囲34-82歳) であり、61%が男性であった。化学療法レジメンの内訳は、SCLC型が35%、NSCLC型が44%、プラチナ-ペメトレキセドが12%、不明が9%であった。PD-L1の膜染色 (TPS ≥1%) は、98例中16例 (16%) で陽性であった。内訳は、高PD-L1発現 (TPS ≥50%) が5例 (5%)、低PD-L1発現 (TPS 1-49%) が11例 (11%) であった (Table 1, Fig. 1)。PD-L1発現は年齢 (p=0.837) および性別 (p=0.909) との関連は認められなかった。PD-L1評価可能例のうち85例、CD8評価可能例のうち80例が厳格なWHO診断基準を満たしており、これらのサブグループ解析結果も全コホートの結果と類似していた。

分子サブタイプ別のPD-L1発現: RB1変異型 (SCLC様) LCNECとRB1野生型 (NSCLC様) LCNECの間でPD-L1陽性率に有意差は認められなかった (それぞれ17% (6/36例) vs 15% (6/40例)、p=0.842)。興味深いことに、STK11変異を持つ7例の腫瘍は全てPD-L1陰性であった (p=0.229)。TP53野生型腫瘍では、TP53変異型腫瘍と比較してPD-L1陽性率が有意に高かった (36% (5/11例) vs 12% (8/65例)、p=0.043) (Fig. 2)。RB1タンパク質発現の有無によるPD-L1陽性率にも差はなかった。これらの結果は、特定の分子サブタイプにおけるPD-L1発現の差異を示唆している。

CD8発現とPD-L1発現との関連: 腫瘍内CD8染色は何らかの形で41/93例 (44%) で観察され、CD8 >1%の染色が15/93例 (16%) で認められた (Fig. 1)。CD8 >1%の症例におけるCD8陽性細胞の平均密度は142 cells/mm² (最小15、最大376) であった。間質組織におけるCD8染色は83/93例 (89%) で陽性であり、内訳は弱陽性57例 (61%)、中等度陽性7例 (8%)、強陽性19例 (20%) であった。腫瘍内CD8発現と腫瘍隣接間質におけるCD8発現は強く関連しており、腫瘍内で陽性であった40例中98% (n=40) が間質でも陽性であった (p=0.039)。PD-L1発現は腫瘍内CD8の存在と有意に関連していた (p=0.013) (Fig. 2)。CD8発現はRB1変異型と野生型LCNECの間で差はなかった (42% vs 56%、p=0.238)。STK11変異を持つ7例の腫瘍は全て腫瘍内CD8 ≤1%であった (p=0.332)。

PD-L1およびCD8発現と全生存期間 (OS) の関連: PD-L1陽性腫瘍の患者では、PD-L1陰性腫瘍の患者と比較してOSが有意に延長した。PD-L1陽性群のOS中央値は8.9ヶ月 (95% CI 4.1-13.6ヶ月) であったのに対し、PD-L1陰性群では6.6ヶ月 (95% CI 5.6-7.6ヶ月) であった (HR 0.55, 95% CI 0.31-0.96, p=0.038) (Fig. 3a)。PD-L1高発現 (≥50%) と低発現 (1-49%) の間でOSに差は認められなかった (Fig. 3b)。腫瘍内CD8陽性 (>1%) の患者では、陰性患者と比較してOSが改善した (OS中央値 7.9ヶ月 vs 5.8ヶ月、HR 0.62, 95% CI 0.40-0.94, p=0.026)。同様に、間質CD8陽性の患者でもOSが延長した (OS中央値 6.9ヶ月 vs 4.0ヶ月、HR 0.49, 95% CI 0.25-0.96, p=0.037)。間質CD8密度が高いほどOSが改善する傾向も認められた。分子サブタイプとOSに関しては、RB1、TP53、STK11、KEAP1の変異状態によるOSの有意差は認められなかった。

多変量解析による予後因子の評価: PD-L1発現、間質CD8、年齢、性別を投入した多変量Cox回帰分析では、PD-L1発現のOSに対する独立した予測因子としての有意性は示されなかった (HR 0.64, 95% CI 0.36-1.16, p=0.141)。腫瘍内CD8は生存曲線が交差したため、Cox回帰分析からは除外された。この結果は、PD-L1発現が単独で独立した予後因子となるには、さらなる大規模な検証が必要であることを示唆している。

考察/結論

本研究は、転移性 (Stage IV) LCNEC患者の大規模コホートにおいて、PD-L1およびCD8発現を同時に評価し、分子サブタイプとの関連を検討した初の報告である。主要な知見として、(1) Stage IV LCNECの16%でPD-L1陽性 (うち5%がTPS ≥50%) であったこと、(2) PD-L1発現はRB1変異の有無とは独立していたが、STK11変異腫瘍では全例PD-L1陰性であったこと、(3) PD-L1陽性LCNEC患者でOSが有意に延長したこと (HR 0.55, 95% CI 0.31-0.96, p=0.038)、(4) 腫瘍内および間質CD8陽性も同様にOS改善と関連していたこと (それぞれHR 0.62, 95% CI 0.40-0.94, p=0.026およびHR 0.49, 95% CI 0.25-0.96, p=0.037) が示された。

先行研究との違い: 転移性LCNECにおけるPD-L1発現の報告はこれまでなく、本研究は先行研究の多くが切除例を対象としていた点と異なり、進行期LCNECに焦点を当てた点で新規性がある。LCNECにおけるPD-L1発現率 (16%) は、SCLC (約30%) より低く、NSCLC (最大60%) より低いが、既報の早期LCNEC手術例におけるPD-L1発現率 (9-22%) とは概ね一致している (Kasajima et al. 2018, Tsuruoka et al. 2017, Kim et al. 2018, Eichhorn et al. 2018)。本研究では、検証済みのDAKO 28-8 IHC抗体を用いてLCNECにおけるPD-L1染色を報告した初めての研究であり、これは22C3やSP263抗体を用いた研究結果と少なくとも比較可能であると考えられる。

新規性: 本研究で初めて、PD-L1発現がRB1変異の有無とは独立している一方で、STK11変異腫瘍では全例PD-L1陰性であったことが示された。これは、STK11変異型LCNECが「cold」な免疫微小環境を持つ可能性を示唆しており、NSCLCにおけるSTK11変異とICI治療抵抗性の関連 (Skoulidis et al. CancerDiscov 2018, Rizvi et al. JClinOncol 2018)と整合する。また、PD-L1発現が腫瘍内CD8発現と有意に関連していたことは、腫瘍に対する適応免疫応答の存在と、PD-1/PD-L1軸が抗腫瘍T細胞の抑制に関与している可能性を示す新規の知見である。

臨床応用: PD-L1陽性およびCD8陽性LCNEC患者でOSが延長したという本研究の結果は、LCNECにおける免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 治療の可能性を示唆する臨床的意義を持つ。特に、PD-L1発現が低いSTK11変異型LCNECでは、免疫療法の効果が限定的である可能性があり、将来の臨床試験ではこのサブタイプを考慮する必要がある。PD-L1発現が16%と比較的低いこと、およびCD8発現が低い「免疫排除型」腫瘍が多いことから、単剤でのPD-(L)1阻害よりも、化学療法や他の免疫療法との併用戦略がより適切である可能性が考えられる。これは、SCLCの初回治療において化学療法とアテゾリズマブの併用が有意な生存利益を示したこと (Horn et al. NEnglJMed 2018) や、ニボルマブとイピリムマブの併用がSCLC患者の奏効率を改善したこと (Hellmann et al. CancerCell 2018)によっても裏付けられる。

残された課題: 多変量解析でPD-L1のOSに対する独立した予測性が有意水準に達しなかった点 (p=0.141) は、サンプルサイズの制約や化学療法レジメンの影響によるものと考えられる。今後の検討課題として、ICI治療を受けたLCNEC患者を対象とした前向き試験を実施し、PD-L1、CD8、および腫瘍変異負荷の予測的価値をさらに検証する必要がある。本研究の限界としては、後ろ向き研究であること、ICI治療が導入される前の2003-2012年のコホートを対象としているためICI治療実績がないこと、および一部の検体でIHCデータが欠損していることが挙げられる。また、PD-L1発現は腫瘍細胞のみで評価され、間質細胞では評価されていないが、CD8発現が免疫活動の合理的な代替指標として考慮された。

方法

本研究は、後ろ向き母集団ベース研究 (retrospective cohort study) として実施された。オランダ癌登録 (NCR) およびオランダ病理登録 (PALGA (Netherlands Pathology Registry)) から、2003年から2012年の間に診断されたStage IV LCNEC患者232例が抽出された。これらの患者の術前腫瘍検体に対し、3名の病理医 (ET、MdB、RvS) によるコンセンサス病理再評価が行われ、WHO基準を満たすLCNECと確定された148例が最終的な研究対象となった。

免疫組織化学 (IHC) 解析では、PD-L1発現はモノクローナルウサギ抗PD-L1クローン28-8 (DAKO PD-L1 IHC 28-8 pharmDx kit) を用いて評価された。腫瘍細胞の部分的または完全な膜染色の割合 (TPS) が算出され、TPS ≥1%を陽性とした。さらに、PD-L1高発現 (≥50%) と低発現 (1-49%) に分類された。CD8発現はDAKO C8/144B抗体を用いてT細胞を染色し、腫瘍内T細胞 (陰性、≤1%、>1%の3段階) と間質細胞 (陰性、弱陽性、中等度陽性、強陽性の4段階) で評価された。腫瘍内CD8が>1%の症例では、3つの代表的な腫瘍部位でCD8陽性細胞がカウントされ、mm²あたりの平均密度が算出された。

分子解析は、既報のDerks et al. (2018) コホートと同一のデータが使用された。TP53、RB1、STK11、KEAP1遺伝子については、77例でターゲット次世代シーケンシング (NGS) が実施された。また、97例でRB1タンパク質発現のIHC染色が行われた。患者の年齢、性別、OS、化学療法レジメンに関するデータは2015年まで更新された。化学療法レジメンは、SCLC型 (プラチナ製剤とエトポシド、35%)、NSCLC型 (プラチナ製剤とゲムシタビン、ドセタキセル、またはパクリタキセル、44%)、プラチナ-ペメトレキセド (12%)、その他 (9%) に分類された。

統計解析にはSPSS (version 25) が使用された。PD-L1発現と年齢、性別、変異状態 (TP53、RB1、STK11、KEAP1)、RB1 IHC、CD8発現との関連はカイ二乗検定を用いて評価された。OSはカプラン・マイヤー曲線により評価され、群間の生存差はログランク検定で比較された (p<0.05を有意とした)。多変量Cox回帰分析には、単変量解析で有意な影響を示した因子 (PD-L1、間質CD8) に加え、既知の予後因子である年齢と性別が投入された。結果はハザード比 (HR) と95%信頼区間 (CI) で示された。本研究はマーストリヒト大学医療センターの倫理委員会により承認され、オランダの「Federa, Human Tissue and Medical Research: Code of conduct for responsible use (2011)」規制に従い、患者のインフォームドコンセントは不要とされた。この研究デザインは、Stage IV LCNEC患者のPD-L1およびCD8発現の予後因子としての役割を評価するための堅牢な枠組みを提供した。