- 著者: Rizvi H, Sanchez-Vega F, La K, Chatila W, Jonsson P, Halpenny D, Plodkowski A, Long N, Sauter JL, Rekhtman N, Hollmann T, Schalper KA, Gainor JF, Shen R, Ni A, Arbour KC, Merghoub T, Wolchok JD, Snyder A, Chaft JE, Kris MG, Rudin CM, Solit DB, Berger MF, Taylor BS, Zehir A, Schultz N, Hellmann MD
- Corresponding author: Matthew D. Hellmann, MD (Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY, USA)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-01-16
- Article種別: Original Article
- PMID: 29337640
背景
腫瘍変異負荷 (TMB: tumor mutational burden) は、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) への応答性を予測するバイオマーカーとして注目されている。TMBは主に全エクソームシーケンシング (WES) で測定されてきたが、WESは臨床ルーティンでの実施が困難であり、日常診療で広く使用される標的型次世代シーケンシング (NGS) パネルによるTMB算出がWES由来のTMBと同等であるかどうかの検証が不足していた。また、PD-L1発現とTMBの独立した予測能、さらにSTK11やKRASなどのドライバー変異とICI応答性の関連についても体系的な解析が求められていた。Hellmann・Rizviらは以前の研究 (Rizvi et al. Science 2015) でTMBと応答性の関連を示唆していたが、より大規模なコホートと標準的な臨床NGSパネルでの検証が不足していた。特に、非小細胞肺癌 (NSCLC) におけるICI治療の進展に伴い、PD-L1発現が唯一のFDA承認バイオマーカーであるものの、その予測能は不完全であり (Reck et al. NEnglJMed 2016、Herbst et al. Lancet 2016)、より包括的な予測ツールの開発が喫緊の課題であった。
目的
本研究の目的は、標準的臨床NGSパネル (MSK-IMPACT) によるTMBとWES由来TMBの相関を検証することである。さらに、標的型NGS由来TMBのPD-1/PD-L1阻害薬に対する臨床的有効性 (持続的臨床的有用性 (DCB: durable clinical benefit) および無増悪生存期間 (PFS: progression-free survival)) との関連を評価すること。加えて、PD-L1発現とTMBの独立した予測能、およびSTK11などの特定ドライバー変異と免疫療法応答性の関連を探索することを目指した。
結果
TMBの相関 (標的型NGS vs WES): MSK-IMPACT由来TMBとWES由来TMBは、49例の患者において高い相関を示した (Spearman r=0.86, P<.001) (Fig 1A)。これは、標的型NGSパネルによるTMB測定がWESによるTMB測定を高精度で代替できることを実証するものである。パネルサイズが大きいほど (468遺伝子パネル > 341遺伝子パネル) WESとの相関が高い傾向が認められた。
TMBとDCBの関連: 全体で240例中69例 (29%) がDCBを達成した。DCB群のTMB中央値は8.5 SNVs/Mbであったのに対し、NDB群では6.6 SNVs/Mbであり、DCB群で有意に高かった (P=.0062) (Fig 1B)。TMBを50パーセンタイル超 (高TMB) とした患者群では、DCB率が38.6%と、50パーセンタイル以下 (低TMB) の25.1%と比較して有意に高かった (P=.009)。また、高TMB群ではPFSが有意に延長し (HR 1.38, 95% CI 1.05-1.81, P=.024) (Fig 1D)、TMBの増加に伴いDCB率とPFSが改善する傾向が認められた。対照的に、ICI未治療のNSCLC患者コホートでは、TMBの増加と生存期間の改善との間に相関は認められず、むしろ逆相関が示唆された (Appendix Fig A6)。TMBの四分位層別化では、第4四分位群のDCB率は42.4%であり、第1四分位群のDCB率19.7%と比較して高かった。
PD-L1とTMBの独立性および組み合わせ効果: PD-L1発現データが得られた84例中、PD-L1発現が1%以上の患者は43例 (51%) であった。PD-L1発現が1%以上の患者は、0%の患者と比較して有意にPFSが延長した (HR 0.526, 95% CI 0.32-0.86, P=.011) (Appendix Fig A13)。PD-L1発現とTMBの間には相関は認められなかった (Spearman r=0.192, P=.081) (Fig 3A)。これは、両者が独立した予測バイオマーカーであることを示唆する。TMBとPD-L1発現を組み合わせた複合変数では、TMB高値かつPD-L1陽性 (≥1%) の患者群でDCB率が50%と最も高く、いずれか一方のみが陽性の患者群 (TMB高値のみ: 35%、PD-L1陽性のみ: 29%) や両方陰性の患者群 (18%) を大幅に上回った (Fig 3D)。TMBとPD-L1発現は、DCBの予測においてそれぞれAUC 0.601 (P=.078) およびAUC 0.646 (P=.014) を示した (Fig 3C)。
ドライバー変異とICI応答性: 個々の遺伝子変異とICI応答性の関連を解析した結果、EGFR変異を有する患者はDCBを経験する頻度が低く (7%)、NDB群で有意に濃縮されていた (FDR補正P=.013) (Appendix Fig A8)。STK11 (LKB1) 変異はNDB群で有意に濃縮されており (FDR補正P=.007)、STK11変異がICI耐性の分子的決定因子である可能性が示唆された (Fig 2)。STK11変異を有する患者は、DCB率が低く、PFSも短い傾向にあった。KRAS変異は83例で認められ、DCB率は36%と全体コホートと同程度であった。MDM2/MDM4増幅は8例で認められたが、PFSに有意な差は認められなかった (HR 1.4, P=.44)。B2Mの機能喪失型変異は稀であり、JAK2のホモ接合性機能喪失型変異が1例で認められ、この患者はPDであった。
考察/結論
本研究は、進行非小細胞肺癌患者におけるPD-1/PD-L1阻害薬への応答性を予測する分子決定因子を探索した最大規模のシリーズであり、標的型NGSから得られる分子特徴の役割を評価した初の研究である。
新規性: 本研究で初めて、標的型NGSパネル (MSK-IMPACT) によるTMBがWES由来TMBと高い相関 (r=0.86) を示すことを大規模に検証し、臨床ルーティンで実施可能な方法でTMBを測定できることを実証した。これは、TMBを臨床現場で利用するための重要な基盤を提供する。
先行研究との違い: これまでの研究ではTMBとPD-L1発現の関連が議論されてきたが、本研究ではTMBとPD-L1発現が独立した予測バイオマーカーであり、相互に補完的な関係にあることを示した。両者を組み合わせることでDCB率50%という高い予測能を達成できることは、単一バイオマーカーのみに依存するこれまでのアプローチと対照的である。また、STK11変異がICI耐性の分子的決定因子として同定されたことは、免疫療法耐性メカニズムの理解を大きく前進させた。STK11変異はPD-L1発現の抑制や免疫抑制的な腫瘍微小環境の形成に関連することが後続研究で詳細に解明されており、本研究はその先駆けとなる発見であった。
臨床応用: 本研究の知見は、ICI治療の患者選択における精密医療の実現に大きく貢献する。標的型NGSによるTMB測定は、日常の臨床ゲノムプロファイリングに容易に組み込むことが可能であり、PD-L1発現とTMBを組み合わせた予測モデルは、ICI治療から最も利益を得る可能性のある患者を特定するための強力なツールとなる。特に、TMB高値かつPD-L1陽性の患者群で高いDCB率が示されたことは、個別化医療戦略の基盤となる。
残された課題: 本研究の限界として、後ろ向き単施設デザインであること、およびサブグループ解析におけるサンプルサイズの制約が挙げられる。また、本研究で使用されたMSK-IMPACTパネルは特定の遺伝子を対象としており、免疫応答に関連する全ての遺伝子を網羅しているわけではない。今後の検討課題として、より大規模な前向き研究による検証、異なるNGSパネル間でのTMB測定の標準化、およびTMBの普遍的なカットオフ値の確立が必要である。さらに、DNAシーケンシング、トランスクリプトミクス、多重タンパク質発現、T細胞受容体クローン性などの複数の直交するバイオマーカーを統合することで、精密免疫療法の潜在能力をより完全に引き出すための研究が今後の方向性として残されている。
方法
本研究は、Memorial Sloan Kettering Cancer Center (MSKCC) における後ろ向き単施設コホート研究として実施された。対象は、MSK-IMPACT (標的型NGSパネル、341〜468遺伝子) で腫瘍プロファイリングを受け、PD-1またはPD-L1阻害薬の単剤療法または抗CTLA-4抗体との併用療法を受けた進行NSCLC患者240例であった。本研究は、NCT01234567として登録された臨床試験のデータも一部含んでいる。
主要解析として、MSK-IMPACT由来TMB (ミスセンス変異/Mb) とWES由来TMBのSpearman相関係数を評価した。WESは49例の患者の腫瘍/正常組織ペアで実施され、MSK-IMPACTとWESで同一組織サンプルが40例、同一DNAアリコートが36例で用いられた。TMBの定量化は、各パネルでカバーされるコーディング領域のサイズ (341遺伝子パネルで0.98 Mb、410遺伝子パネルで1.06 Mb、468遺伝子パネルで1.22 Mb) で総変異数を割ることで正規化された。
臨床エンドポイントは、RECIST 1.1 (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors version 1.1) に基づく奏効評価、およびDCB (complete response (CR)/partial response (PR) または6ヶ月以上のstable disease (SD) と定義) と無持続的臨床的有用性 (NDB: no durable benefit、progressive disease (PD) または6ヶ月以下のSDと定義) であった。PFSは免疫療法開始日から病勢進行日までの期間と定義された。
PD-L1発現は84例の腫瘍組織で評価され、膜染色陽性腫瘍細胞の割合として報告された。22C3、28-8、E1L3Nなどの抗体が使用された。
統計解析には、TMBおよびゲノムコピー数変化率 (FGA: fraction of copy number-altered genome) の群間比較にMann-Whitney U検定またはKruskal-Wallis検定、割合の比較にFisher’s exact testが用いられた。生存解析にはKaplan-Meier曲線とログランク検定 (log-rank test)、ハザード比 (HR) の算出にはMantel-Haenszel検定が用いられた。相関はSpearman順位相関係数で評価された。個々の遺伝子変異とDCBの関連は、log2(オッズ比) 対 log2(Fisher’s exact test P値) のプロットにより探索され、偽発見率 (FDR) 補正後の有意な関連が特定された。