• 著者: Gouji Toyokawa, Takashi Seto, Mitsuhiro Takenoyama, Yukito Ichinose
  • Corresponding author: Gouji Toyokawa (Department of Thoracic Oncology, National Kyushu Cancer Center, Fukuoka, Japan)
  • 雑誌: Cancer and Metastasis Reviews
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-09-05
  • Article種別: Review
  • PMID: 26342831

背景

ALK (anaplastic lymphoma kinase) 遺伝子再構成は、非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者の約5%に認められる強力なドライバー遺伝子異常であり、その治療標的としてcrizotinib、alectinib、ceritinibなどのALK阻害薬 (ALK-TKI) が開発され、化学療法を凌駕する優れた臨床効果を示している。初代ALK-TKIであるcrizotinibは、進行ALK陽性NSCLCの1次治療および2次治療において、それぞれ74%および65%の奏効率 (RR) と、10.9ヶ月および7.7ヶ月の無増悪生存期間 (PFS) を達成し、標準化学療法と比較して有意な優位性を示したことがPROFILE 1014およびPROFILE 1007試験で報告されている Shaw et al. NEnglJMed 2013 Solomon et al. NEnglJMed 2014。また、次世代ALK-TKIであるalectinibの第II相試験 (AF-001JP) では、93.5%という高いRRと27.7ヶ月という驚異的なPFSが報告されており、その有効性が注目されている。

しかし、進行NSCLC患者の約10〜20%が初回治療前から中枢神経系 (CNS) 転移を有し、ALK陽性NSCLC患者では初診時に25〜30%、ALK-TKI治療既往例では45〜70%と高頻度にCNS転移が発生することが知られている。CNS転移はしばしば治療失敗の主要な部位となり、患者の予後を大きく左右する要因となる。脳は、血液脳関門 (BBB) の存在により、多くの抗癌剤が十分に到達できない「聖域 (sanctuary site)」と従来考えられてきた。このため、従来の化学療法では脳転移に対する奏効が20〜40%にとどまることが報告されており、BBB透過性の高いALK-TKIの開発が臨床的に不可欠であった。

ALK陽性NSCLC患者における脳転移の発生頻度は高く、特にcrizotinib治療後にCNSが主要な病勢進行部位となることが多くの研究で示されている。これはcrizotinibの低いBBB透過性に起因すると考えられており、この問題の克服がALK陽性NSCLC治療における重要な課題として残されていた。近年、alectinibやceritinibなどの次世代ALK-TKIが、高いBBB透過性を持つことで脳転移に対しても優れた効果を示すことが報告され始めている。これらの薬剤の登場により、「脳は聖域である」という従来の概念が覆されつつあるか否か、その実態を包括的に評価する必要がある。これまでの研究では、各ALK-TKIの脳転移に対する有効性が個別に報告されてきたが、それらを統合的に評価し、治療アルゴリズムにおける各薬剤の位置付けを明確にすることが不足していた。本レビューは、この「聖域としての脳」という概念が次世代ALK-TKIによって克服されつつあるかを検討し、脳転移に対する最適な治療戦略を考察することを目的とする。

目的

本レビューの目的は、ALK陽性NSCLC患者における脳転移 (BM) の疫学的特徴と累積リスクを詳細に分析することである。さらに、初代ALK-TKIであるcrizotinib、および次世代ALK-TKIであるalectinib、ceritinib、AP26113 (brigatinib)、PF-06463922 (lorlatinib) など、主要なALK-TKIの頭蓋内 (IC) 有効性を包括的に評価する。具体的には、各薬剤のIC客観的奏効率 (ORR)、IC疾患制御率 (DCR)、奏効期間 (DOR)、および脳脊髄液 (CSF) 移行性に関する臨床試験データを統合的にレビューする。加えて、crizotinib治療後の病勢進行 (PD) に対する「ALK阻害薬継続 (ALKi beyond PD)」戦略、特に局所療法 (放射線治療など) との併用療法の位置付けと有効性を論じる。最終的に、これらのエビデンスに基づき、ALK陽性NSCLC患者の脳転移に対する最適な治療戦略を提示し、脳がもはや「聖域」ではないことを示唆する次世代ALK-TKIの役割を明確にすることを目指す。

結果

脳転移の疫学的特徴と累積リスク: ALK-TKI未治療のALK陽性NSCLC患者における脳転移 (BM) のベースライン頻度は、臨床試験によって異なり、PROFILE 1014試験 (1次治療) ではcrizotinib群と化学療法群でそれぞれ26%および27%と報告された。PROFILE 1007試験 (2次治療) では、両群で約35%と1次治療試験よりも高頻度であった。AF-001JP試験 (alectinib、2次以降) では33%、ASCEND-3試験 (ceritinib、ALKi naive) では40.3% (n=50/124) とさらに高頻度でBMが認められた。PROFILE 1005/1007の統合解析 (n=888) では、275例 (31%) が無症候性BMを有していた。

Rangachari et al. (2015) の後ろ向き研究では、ALK陽性NSCLC患者の累積BM発生率が診断から1年で23.8%、2年で45.5%、3年で58.4%と経時的に増加することが示され、ALK陽性例では長期的に高率のCNS転移リスクが持続することが明確になった。ALKi既治療例でのBM頻度はさらに高く、各試験での範囲は40〜71.4%に達しており、AF-002JGで45%、NP28673で61%、NP28761で60%、ASCEND-1で50.4%、ASCEND-2で71.4%、AP26113で66%、PF-06463922で66%であった (Table 1)。これは、crizotinib治療失敗のパターンの多くがCNSであることを示唆している。PROFILE 1005/1007統合解析では、crizotinibによる病勢進行 (PD) 症例のうち、ベースラインBMありの患者では71%、BMなしの患者では25%でCNSが主要な再発部位であり、crizotinib後のCNS優位再発が明確に示された。

Crizotinibの頭蓋内有効性: Crizotinibは初代ALK-TKIとして全身的な優れた有効性を示す一方、CNSへのBBB透過性に課題がある。PROFILE 1014試験 (1次治療) では、24週時点でのIC DCRがcrizotinib群で56%に対し、化学療法群で25%と有意差を示した。PROFILE 1005/1007統合解析 (n=888、うち275例がBM) では、未治療BMに対するIC DCRは56% (95% CI 46-66%)、IC ORRは18% (95% CI 5-40%) であった。放射線治療既往BMではIC DCR 62% (95% CI 54-70%)、IC ORR 33% (95% CI 13-59%) であった。IC DORは未治療BMで26.4ヶ月 (95% CI 6.1-59.3)、既治療BMでは未到達 (95% CI 6.0-59.9) であった。一定のIC有効性が示されたものの、crizotinibのCSF/血漿濃度比はきわめて低く (0.0006〜0.0026;Costa et al. JClinOncol 2011、Metro et al. 2015)、BBBが高濃度のcrizotinibをブロックしている可能性が示唆された。しかし、低いCSF濃度でも奏効する症例が報告されており (Metro et al.では2例中1例がCNS完全奏効)、CSF/plasma比のみが奏効を規定するわけではないことも明らかにされた。

Alectinibの頭蓋内有効性: AlectinibはALKに対する高選択性阻害薬であり、P-glycoprotein (P-gp) の基質とならないことがBBB高透過性の主たるメカニズムと考えられている (Figure 1)。マウスの頭蓋内転移モデルでは、alectinibがcrizotinibと比較して顕著なIC腫瘍退縮と生存延長をもたらすことが前臨床データで実証されている (Kodama et al. 2014、Nanjo et al. 2015)。臨床的には、AF-002JG試験 (crizotinib耐性患者、alectinib) では、47例中21例 (45%) がBMを有し、そのうち9例が測定可能BMを持っていた。測定可能BM症例のIC ORRは55.6%、IC DCRは77.8%であり、6例中1例 (16.7%) がCR、3例がPRを達成した。注目すべき知見として、IC PDを来した2例のうち1例は全身奏効しながらICのみ進行し、定位放射線治療 (SRT) 後の病変増大が手術切除で壊死 (necrotic) と判明し、偽進行 (pseudo-progression; PsP) の可能性が示唆された。

NP28673試験 (crizotinib耐性、alectinib 600 mg×2、n=138、BM 61%) では、測定可能BM 35例のIC ORR 57.1% (95% CI 39.4-73.7%)、IC DCR 85.7% (95% CI 69.7-95.2%)、CR 20% (7例) であった。CNS DORは10.3ヶ月 (95% CI 7.6-11.2) と長期にわたった。NP28761試験 (米国/カナダ、crizotinib耐性、alectinib 600 mg×2、n=87、BM 60%) では、測定可能BM 16例のIC ORR 68.8%、IC DCR 100%と極めて高い頭蓋内制御率を示した。JP28927試験 (日本、crizotinib前治療を含む、n=35、BM 65.7%) では、測定可能BM 2例のIC ORR/DCRともに100%であった。再発パターンの観察では、BM有症例のうちalectinib治療中のPDの9例中8例 (89%) が脳以外の部位での再発であり、alectinibが脳内病変を長期にコントロールしている可能性を示した。また、alectinibによる軟膜転移 (leptomeningeal carcinomatosis) の制御についても複数の症例報告が示されており (Gainor et al. 2015)、脳実質外CNS病変へのalectinibの浸透も示唆される。

Ceritinibの頭蓋内有効性: Ceritinibはcrizotinib比20倍のALK阻害活性を持つ第2世代ALK-TKIである。ラットモデルでのBBB透過率は約15%と報告されている。ASCEND-1試験 (混合ALKi治療歴、n=246、BM 50.4%) の測定可能BM 29例で、IC ORR 34.5% (95% CI 17.9-54.3%)、IC DCR 58.6% (95% CI 38.9-76.5%) であった。ALKi前治療あり vs なし別のIC ORRは29.2% vs 60.0%であり、ALKi naive群でより高い奏効率が示された。IC median PFSはALKi naive例で未到達、ALKi既治療例で8.3ヶ月、全体で7.0ヶ月であった。ASCEND-2試験 (crizotinib既治療のみ、n=140、BM 71.4%) の測定可能BM 33例で、IC ORR 39.4% (95% CI 22.9-57.9%)、IC DCR 84.8% (95% CI 68.1-94.9%) であった。ASCEND-3試験 (ALKi naive、化学療法1-3ライン後、n=124、BM 40.3%) の測定可能BM 17例で、IC ORR 58.9% (95% CI 32.9-81.6%)、IC DCR 82.4% (95% CI 56.6-96.2%) であった。これらの結果は、ALKi naive群のIC ORR (約58.9%) がALKi既治療群 (約39.4%) より高く、既ALKi治療がCNS病変のceritinib反応性を低下させる可能性を示唆している。

その他の次世代ALK阻害薬: AP26113 (brigatinib) の第I/II相試験 (n=79 ALK+ NSCLC、BM 66%) では、測定可能BM 15例のIC ORR 53%、IC DCR 87%であった。前臨床データでもBBB透過性が示されている。PF-06463922 (lorlatinib) の第I相試験では、全体 (ALK+/ROS1+ 44例) のIC ORR 36%、IC DCR 72%であった。Lorlatinibはcrizotinib/alectinib/ceritinibに耐性を獲得したALK点突然変異 (G1202R等) にも活性を有することが示されており、3次以降のシーケンシャル使用での有望性が示唆された。前臨床頭蓋内転移モデルでも顕著なIC有効性が確認された (Zou et al. 2015)。

ALKi beyond PD (CBPD) 戦略: Crizotinibによるオリゴ進行 (特にCNSのみの進行) に対して、crizotinib継続と局所療法 (全脳照射 (WBI) またはSRT) を組み合わせる戦略が後ろ向き研究で評価された。Takeda et al. (2013) の研究では、crizotinib PDとなったALK陽性NSCLC 7例で、CNS isolated PDに対して局所アブレーション治療 (LAT; SRT 3例、WBI 4例) 後にcrizotinibを継続し、全7例がLAT後少なくとも4ヶ月追加のcrizotinib治療を受けた。Crizotinib初回開始からの中央値PFSは5.5ヶ月であり、LATにより7ヶ月以上のPFS延長が得られたことが示された。Weickhardt et al. (2012) の研究では、erlotinibまたはcrizotinib PD後のLATにより、CNSへのLATがさらに7ヶ月超のPFS延長をもたらした。

PROFILE 1001/1005統合解析 (大規模後ろ向き) では、CBPD群でのPD後OSが16.4ヶ月に対し、非CBPD群では2.9ヶ月 (HR 0.27, 95% CI 0.17-0.42, p<0.0001) と著明な生存差が示された。crizotinib初回投与からの全生存期間もCBPD群で29.6ヶ月に対し、非CBPD群で10.8ヶ月 (HR 0.30, 95% CI 0.19-0.46, p<0.0001) と有意な差が認められた。CBPD群でのPD部位の51%が脳であり、CNS進行患者がCBPDの特定の恩恵を受けたことが示唆される。

考察/結論

本レビューは、ALK陽性NSCLC患者における脳転移が、もはや絶対的な「聖域」ではなく、特に次世代ALK-TKIの登場によって制御可能な病変となりつつあることを包括的に示した。

先行研究との違い: 従来の化学療法や初代ALK-TKIであるcrizotinibは、その低いCNS移行性のため、脳転移に対する効果が限定的であった。crizotinibのCSF/血漿濃度比は0.0006〜0.0026と極めて低く、未治療BMに対するIC ORRは18%にとどまることが示された。この結果は、EGFR変異NSCLCにおけるerlotinibとgefitinibの比較で、CSF透過性の差が臨床的に重要であることが示された先行研究 (Togashi et al. 2012) と同様の構造活性相関がALK-TKI間でも重要であることを裏付けている。これに対し、alectinibやceritinibといった次世代ALK-TKIは、高いBBB透過性により、crizotinibとは対照的に脳転移に対して顕著な有効性を示した。

新規性: 本研究で初めて、alectinibがP-gp非基質であることによる高いBBB透過性が、IC ORR 55.6〜68.8%およびIC DCR 77.8〜100%という際立った有効性をもたらすことを明確に示した。また、alectinib治療中に放射線治療後の病変で偽進行 (PsP) が生じる可能性が初めて報告され、真の進行との鑑別の重要性が新規の課題として浮上した。CeritinibもALKi naive例においてIC ORR 58.9%と高い効果を発揮することが示され、AP26113 (brigatinib) やPF-06463922 (lorlatinib) もIC効果が確認されたことは、これまでの報告にない包括的な知見である。

臨床応用: これらの知見は、ALK陽性NSCLC患者の治療戦略に大きな臨床的含意を持つ。crizotinib治療後のCNS進行に対しては、かつてはcrizotinib継続と局所療法 (CBPD) が生存延長 (HR 0.27, 95% CI 0.17-0.42, p<0.0001) に寄与する有効な戦略と考えられていた。しかし、alectinibのような高BBB透過性を持つ次世代ALK-TKIが利用可能となった現在では、CNS PD後のcrizotinib継続よりも、これらの次世代薬への切り替えがより合理的かつ効果的な治療選択肢となる。これにより、脳転移の制御が飛躍的に向上し、患者の予後改善に直結する可能性が示唆される。

残された課題: 今後の検討課題として、以下の点が残されている。(1) 全てのALK-TKI使用後のCNS救済戦略の確立、(2) 放射線治療後偽進行の非侵襲的鑑別法 (例: MRS (magnetic resonance spectroscopy) など) の開発、(3) ロラチニブなどの第3世代ALK-TKIのCNS適応の確立と最適な使用順序の検討、(4) CNS予防的治療 (予防的全脳照射の役割など) の必要性とリスク・ベネフィットの評価、(5) 軟膜転移に対する最適なアプローチの確立、が挙げられる。これらの課題を解決するためのさらなる研究が、ALK陽性NSCLC患者の脳転移治療の最適化に向けて不可欠である。

方法

本レビューでは、ALK陽性NSCLC患者における脳転移の発生頻度とALK阻害薬の頭蓋内有効性に関する主要な臨床試験データを包括的に収集し、分析した。データ収集は、主要な国際学会 (ASCOなど) で発表された抄録および査読付き論文に基づいて実施された。検索データベースとしてPubMed、Embase、Cochrane Libraryを使用し、2015年までの関連文献を対象とした。

対象とした臨床試験は、crizotinibに関するPROFILE 1005、PROFILE 1007、PROFILE 1014試験、alectinibに関するAF-001JP、AF-002JG、NP28673、NP28761、JP28927試験、ceritinibに関するASCEND-1、ASCEND-2、ASCEND-3試験、およびその他の次世代ALK阻害薬であるAP26113 (brigatinib) の第I/II相試験、PF-06463922 (lorlatinib) の第I相試験などである。これらの試験から、以下の主要な評価項目に関するデータを抽出した。

  1. 脳転移のベースライン頻度および累積発生率: ALK-TKI未治療患者および既治療患者における脳転移の診断時および治療経過中の発生頻度を評価した。
  2. 頭蓋内有効性: 各ALK-TKIの頭蓋内病変に対する客観的奏効率 (IC ORR)、疾患制御率 (IC DCR)、および奏効期間 (IC DOR) を評価した。特に、測定可能病変を有する患者群におけるデータに焦点を当てた。
  3. 脳脊髄液 (CSF) 移行性: crizotinibおよびalectinibにおけるCSF中薬物濃度と血漿中薬物濃度との比 (CSF/plasma ratio) に関する報告を収集し、BBB透過性との関連を考察した。
  4. ALK阻害薬継続 (ALKi beyond PD) 戦略: crizotinib治療中にCNSのみが進行した患者に対するcrizotinib継続と局所療法 (全脳照射 (WBI) または定位放射線治療 (SRT)) の併用戦略に関する後ろ向き研究データを統合し、その生存利益を評価した。

統計解析手法については、各臨床試験で用いられたKaplan-Meier法による生存曲線解析やCox比例ハザードモデルによるハザード比 (HR) の算出、Fisher’s exact testによる群間比較などが参照された。本レビュー自体はメタ解析ではなく、既存の臨床試験結果を統合的に解釈するレビュー形式である。